ガ○トの出前で、やけくそディナー
正直、「どの面下げて帰るのか」と思うが、まさかこのまま旅に出るわけにもいかない。
結局俺は、しおしおとマンションへ戻った。
せめてものお詫びの印に、あいつらが帰る頃に合わせて、ガス○の出前を大量に頼んでおいたが、こんなので埋め合わせになるとは思えん。
そして、こんな日に限って早めに帰ってくる二人である!
丁度、届いた出前をテーブルに並べたところで、タイミングは悪くないんだが……どかどか入ってくるなり、声揃えて叫びやがるしな。
「にーちゃん、首尾の方はっ」
「お兄様、上手くいきましたかっ」
「……うっ」
俺の気遣いである、出前料理は無視かよ? と思ったが、そりゃ二人にとっては、そっちの方が先だわな。
観念した俺は、その場で頭を下げた。
「すまん! 話にもならなかったっ」
引き延ばしても気が進まないのは同じなので、俺は真っ正直にあのじーさんと会見した顛末を話したさ。
報告自体は五分も掛からなかったが……意外にも、二人は俺を責めなかった。
いや、むっとした顔を並べてたから、さぞかし怒るのだろうと思いきや、こいつらが腹を立てていたのは、あの相談役っぽい元社長のじーさんに対してだったらしい。
「思ってたより、嫌なじーちゃんだったね、あの人」
マリアが固い声で言う。
いつもの陽気な笑顔ではなく、久しぶりに怒った顔付きだった。
「道理の通じない人は嫌いです」
「い、イヴもか」
同じく、ひときわ冷たい表情のイヴである。
こういう顔をする時は、内心でめちゃくちゃ怒っている時であり、俺はむしろ、自分の怒りの方が醒めてきた。
「いや……まあ、今から思えば、無職は本当だしな。そこまで連呼される謂われはないけど」
「もう忘れてくださいな、お兄様」
わざわざ呆然と座す俺に寄り添い、イヴがそっと抱きついてきた。
すると、マリアも負けじと抱きついてくれるわけで……大の大人としては、ちょっと面映ゆい気分である。
「ありがとうね、あたし達のために」
「いや……成果を出せなくて、悪かったよ。なんなら、ちょっと時間を置いて、また行っても」
「いえ、もうそれには及びません」
「そう! あたしら、決心がついたから」
仲良く宣言する二人に、俺は思わず身構える。
「決心――と言うと?」
「二人で、こうなった時の対応を決めていましたの」
「だから、そんなに責任を感じなくてもいいからね?」
ああああ、心が弱った無職の俺には、こいつらの優しい言葉が染みるっ。
逆に、益々悪いことした気になるなっ。
「もったいぶらずに教えろよ? どうするんだ?」
「それはまあ、食べてからにしようよっ」
いつもの陽気さを取り戻し、金髪のマリアが明るく言う。
イヴもニコニコしつつテーブルに着き、なぜかこの話は済んだことになってしまった。
「たとえ○ストの出前でも、こんなに一杯あると、豪華ディナーに見えるよねぇ~」
「わたしの好きな、690円のマヨコーンピザもありますわ~」
「これ、丸々一つ分なのに、安いよね~」
ピザ好きのせいか、二人で頷き合ったりしてな。
「ね、値段を言うな、値段をっ」
なぜかメニューに詳しいイヴに言い返したが、なんか本当にもう、いつもに戻って元気に食べているという。
「ほら、にーちゃんも食べようよ? あたしらに任せてると、あらかた全部、平らげちゃうよ」
「わかった……じゃあ、話はメシの後だな」
二人がそう言うので、俺もモソモソと出前のあれこれをつつき始めたけど。
食事の後で、二人が次にどんな爆弾発言をするのか、気が気ではない。
正直、砂を噛んだような味だったね!




