再び言うが、俺にはこの後の展開が、目に見えるようだね!
予告された来週の月曜日、俺達はドレスアップしてディナーショーへ向かった。
……とはいえ、俺はただ単に上にサマージャケット着ただけの、かなり手抜きだが。
マリアとイヴは、またしてもゴシックドレスみたいなのを着込んでやんの。
二人ともコルセットまで装備した本格的なドレスで、お陰でスタイルの良さが際立つ。イヴは純白に青い蝶がたくさん舞うデザインで、マリアは真紅の大胆胸空きドレスである。
こいつの身長と胸の谷間の深さみたら、誰も「実はこいつ、中坊」だとは思わんわなあ。
イヴも身長165センチを越えるし、胸だって決して小さい方ではない。むしろ標準以上なのに、外人さんの血が混じるマリアには及ばない。
「……お兄さまが、マリアの胸に見とれて、わたしを捨てようとしています。胸の大きさを理由に捨てるのは、あんまりじゃないですか?」
不意に右横から暗い声がして、俺はぎょっとした。
見れば、駅を降りた途端、早速俺と腕を組んだイヴが、膨れっ面で見ていた。おまえ、超能力者かっと言いかけ、俺は辛うじて堪えた。
「いや、そういうわけじゃない。相変わらず二人とも派手なドレスで、俺だけ浮いてるなと」
「ふふん? とか言って、ホントはあたしの胸をガン見してたんじゃ?」
左隣で同じく腕を組むマリアが、ドヤ顔の碧眼で俺を見る。
「いいのよ、にーちゃん。触りたかったら、いつでも触ってくれても。あたしとにーちゃんの仲だもんね。その代わり、その場で婚約だけど」
あぁー、駄目だ。
こいつはしゃべり出したら中坊がバレる。
あと、どさくさ紛れに無茶言うな。
というか、俺より先にイヴが怒っていた。
「なにが婚約ですかっ。わたし達の年齢で、そんなこと――」
「あら、結婚の約束という名の婚約は、別に今だってできるもーん」
「それだったら、わたしだって婚約中ですっ。約束しましたしっ」
「こういうのは、やっぱ正式にするのが」
「ほらほら、そこまでにしろっ」
俺は声が大きくなりつつある二人を、慌てて止めた。
こいつら、自分達がいかに目立つ美貌か、あまりわかってないからな……世間の男は俺みたいに忍耐力ないんだから、目を付けられるぞ。
「ほら、駅前のホテルについたぞー。なぜか坂道を上がらせるのが、めんどくさいが」
「まあいいじゃない。ここのビュッフェは豪華らしいよ」
「わたしも、楽しみにしてますっ」
さっきの喧嘩など、忘れたように笑顔が戻るマリアとイヴである。
それはいつものことだが、こいつら実は食欲も旺盛なのだ……多分、食べた分は、みんな胸にいくんだろうな。
「ああああああああっ」
「なんてことでしょう!」
「え、どうした? もしかして、ドラキュラガールが来られなくなったか?」
適当に尋ねると、イヴが俺の横腹をつねりやがった。
「いてえっ。なんだよ!」
「予定は、ヴァンパイアガールズですっ、なんですかドラキュラガールって! だいたいお兄さま、もしかしてこのことを知っていましたか!?」
「は?」
俺が首を傾げると、マリアが手で俺の顎を動かし、ホテル正面を無理に見せる。
そこには大きな看板があり、こう書いてあった。
『昨日ご連絡したように、ヴァンパイアガールズがツアーからの帰宅中に事故に遭い、やむなく今回は急遽予定変更となりました。……ということで、今宵は霧島英美里さんをお迎えしております!』
「うわあ」
俺は呆れて首を振った。
せやから言うたやろ? となぜか関西弁で言いそうになったが、辛うじて堪えた。
そういや、「死の運命からは決して逃げられない」って映画がシリーズであった。まさにアレだよ、アレ。
「結局、当初俺が皮肉った通りになったじゃないかー」
「とか言って、にーちゃんが霧島さんに連絡して、割り込ませたんじゃないのおっ」
「むちゃくちゃ言うな、馬鹿! 俺がそんなことするわけなかろうっ。だいたい、変更の連絡入れたって、看板に書いてあるじゃないか? おまえらのトコには、こなかったのか?」
「来てないわようっ。よし、フロントに怒鳴り込むっ」
「本当に無視されていたのなら、徹底抗議ですわね! どうしてくれましょうっ」
アイドル二人は、ファンが見たらドン引きしそうな怒りの表情で、ずんずんとフロント目指して歩いて言った。
俺はおいてきぼりである。
ああ……再び言うが、俺にはこの後の展開が、目に見えるようだね!
ガンガン抗議する途中で、問題は自分達の凡ミスにあったと……そういう事実が判明するわけさ。そして、なぜか全然関係ない俺にとばっちりが来るんだぜ?
「いやぁ、マジで目に見えるわー」
俺は呟き、夜空を仰いだ。
……こそっと帰ろうかな?




