70 キャラバンの事情は複雑
「休んでいるところ悪い、少し聞きたいことがあるんだけど」
荷馬車の幌をめくり、中にいる人間たちに言葉を投げかける。
そこにいる人々は全員筋骨隆々で、なんというか商人というか戦士といった感じの方がしっくりくる。
その中のひとりである黒の長髪を垂らした男が、立ち上がってこちらに歩み寄って来た。
「……なんだ?」
寡黙そうなその男は、こちらに問い返してくる。応じてくれるようだ。
キャラバンに尋ねることなど初めてなので少し緊張していたが、少し安心した。
「蘇生のアイテムと英雄コールドの行方について知りたいんだけど、何か知ってる?」
「蘇生のアイテムと英雄コールドの行方か……」
尋ねると男は少し考えるような顔をして、腕を組む。
「お前ら何か知っているか?」
やがて男は煮詰まったのか、後ろにいる仲間たちに尋ねると仲間たちは首を横に振った。
「すまん、力になれそうにない」
申し訳なさそうに男は唸るようにそういう。
「あんた、近くのテントに客人たちもいるからそいつらにも聞くといいよ」
男の後ろから仲間だろう女が声をかけてくれた。
俺は見知らぬ人間だというのに、親切な連中だな。
「ああ、わかった。ありがとう。テントの人たちにも聞かせてもらうよ」
礼を言って、幌から離れる。テントは近くにあったのでそちらに向かう。
テントの幌を開けると、よく見覚えのある顔がそこにあった。
青い肌、爬虫類を思わせるような三白眼に平ぺったい鼻。
俺の前の顔であったリザードマンの顔面だ。
どうしてリザードマンがここにいるのだろうか?
こいつらは故郷のロース村からは有事の際以外は出ないというのに。
「リザードマンがなんでこんなところにいるんだ?」
同郷の者ということで気が抜けたのか、思わず口から疑問が漏れてしまった。するとテントにいたリザードマンたちは少しむっとした顔をした。
『トカゲ、さすがに言いぐさがひどいですよ……。まるでここにリザードマンがいちゃいけないみたいな言い方じゃないですか』
スリートからも批判が飛んできた。
リザードマンたちの表情とスリートの言から、とても申しわけのないようなことをしたような気がしてきた。
「すまん。失言だった。許してくれ」
リザードマンたちに頭を下げる。リザードマンたちはそこまで頭の固い奴はいないので許してくれるとは思う。
だが、おれは見知らぬ人間だし、拒絶される可能性もあるかもしれない。
「頭を上げてくれ、あんたがそう思うのもしょうがないだろう。俺たちは……」
「バルザック。よせ、よその人間に言うことじゃない……」
バルザックと呼ばれたリザードマンの言で杞憂から解放された。奴の言葉に従って、頭を起こすと目の前にいる二人は意気消沈していた。
会話からはここのリザードマンはどうやら憂き目にあっているのが、容易に想像できる。
だがそれにしても表情が暗すぎるような気がする。
胸騒ぎがする。ロース村から滅多に出ないリザードマンが憂き目にあっているということは、ロース村でなにか悪いことが起きた確率が高い。
「すまない。言えない事情があるかもしれないが、俺はあんたらの事情についてとても知りたい。話してくれないか」
2人に向けて言うと、困ったような顔をした。
言うべきか、言わざるべきか迷っているようだ。
さっきの会話を聞くと隠したいことのようだし、ダメ押しで言葉を添えないといってくれるかわからないな。
「俺はリザードマンとはなじみが深いんだ。何か困っているなら是非とも協力したい」
そういうとバルザックを宥めていたリザードマンが、眉間を揉みながら口を開いた。
「俺たちでは判断できない。隊長に確認を取らせてもらいたい」
そういうと、奴らはテントから出ようとする。俺はその後をついていかせてもらうことにする。
隊長からダメと言われましたと言われて、はいそうですかで済ませられることではない。
俺の両親が危険にさらされているかもしれないのだから。それではあまりに白状だし、俺のために犠牲になったトリシュに顔向けができない。
お前を蘇生させるのに執心して両親を見捨てたと言えば、正義感の強いアイツなら許してくれないのは目に見えている。
隊長にダメだと言われても、事情だけは聴かなければならない。
2人組はついてくる俺を見て迷惑そうな顔をしたが、バルザックは隊長がいるだろうテントまで案内してくれた。
共に中に入ると、俺の胸騒ぎは的中した。
隊長のテントの中には、包帯に血をにじませた痛々しい姿の俺の父親が横になっていた。




