58 二度目のバンジージャンプ
月が嫌に大きく見えた。
いつもより高いところだからだろう。
急降下で落ちていく。体が風にもまれて、遠心力で四肢が吹っ飛びそうだ。
だがこのまま風に翻弄されたままでいるわけにはいかない。地面に落ちる前に師匠を見つけて、風魔法で衝撃を減らさなければならない。
「リーデンベルグ!」
そう思っていると背後から聞きたくもない声がした。声から逃れようと体をよじらせたが、脇から手を回され羽交い絞めにされた。
「君を無事に着地させるわけにはいかない。せめて、道連れにさせてもらう」
もがくが拘束は外れない。くそ、練気を纏っている。
魔王をはがすのは不可能だ。
「ふざけるな! 道連れなんて不毛なだけだ! 俺は学園の人間に危害を加えたりはしない!」
奴に身の潔白を訴えるが拘束は外れない。
「信じるわけないだろ! 君は僕を二度裏切っている!」
俺の訴えに魔王は怒号で応えた。俺だって裏切りたくて、裏切ったわけではない。
だがこいつがそれを知るわけもない。これ以上何か言っても平行線をたどるだけだ。
無理やりにでもはがさせてもらう。
『ボム』を背中に向けて使用するが魔法は発動しなかった。落下していることで集中が途切れて、マナの配合が上手くできなかった。
どうすればいい?
魔王ははがせない上、魔法も使えない。
「スリート、どうにかできないのか?」
そう呼びかけると、スリートは姿を現した。
「さっき、あなたの魔法を発動させる時、補助しましたからもう魔力がありません。何もできませんよ。魔法使いはあなたの後ろにもいるんですからその人に頼んだらどうです?」
頼めないからお前に頼んでいるのだろう。この期に及んで何を言うのかこの精霊は。
グズグズやり取りをしている間にも地面との距離は迫っているのが眼で見て取れた。
もう手段は選んでいられない。
「シェイム考えなおせ、このまま共に死んでも何にもならない。ショットはまだ生きているんだろう? おれを殺したとしてもあいつがまだいる。俺を殺すよりも俺と休戦協定を結んだ方がいいに決まっているだろ?」
「結ぶ保障なんてどこにある?」
「結ぶ保障? そんなの俺がお前を魔法で撃ち落としてないことで十分だろ」
結ぶ保障を提示できるものなどあるわけない。くだらない嘘を吐いたがそれくらいしかもうできない。
お願いだ、おれのことを信じてくれ。
「約束は絶対に守る。お前が使った風魔法なら師匠も俺もお前自身も救えるだろ。頼む、使ってくれ」
「君を信じるにしても信じないにしても、僕にはもう魔力が残ってない無理だ」
魔力がない。くそ。
どうしてこんなところで。
魔力の供給方法なんてしらない。
どうすればいい?迫る地面を見て脳みそが冷えるような感覚に襲われる。
すると何故だが、記憶が鮮明に思い出されてきた。
走馬燈という奴だろう。師匠が俺の腹に手をやって、魔力を体に通せるようにした情景が見えた。
自分の魔力を体に通して、相手の魔力の道を開くものだ。単純に魔力を供給にも使えるんじゃないだろうか。
確信も何もないが俺は拘束され、動きにくい腕を魔王の腹まで伸ばす。
そこから魔力を通した。
本当に魔力は通るのか? 魔力を取り戻したあと魔王は俺と師匠を助けるのか?
迷いと不安は後から浮かんできた。




