56 勝利宣言
魔法が暴れる。『フォース』でレジストしているはずだが、奴の魔法は俺の体を削っていき。
そして、俺の魔法も着実に奴の体を削っていく。
このまま、俺の体がなくなる前にあいつを殺す。
「トカゲ、冷静になったらどうです?今拮抗しているのは魔王が冷静でないからで、冷静に戻ったらあなたに勝ち目はありませんよ」
スリートが横で何やら言っているが無視する。目の前の奴をこの世から早く葬り去らなけばならない。
「スリート、そんな事より俺の援護をしてくれ。そうすれば、奴を早く確実に始末できる」
「……あなた、頭に完全に血が上っていますね。魔王に恨みを晴らすことしか頭にない。前よりひどいですね。私はもう寝ます」
白状な精霊はこちらの援助要請を無下にし、姿を消した。
本当に自分の感情ばかりのやつだ。いざというときに頼りにならない。
「何をグチャグチャと空気にしゃべりかけている! 君はどこまで僕を愚弄するんだ!」
魔王の怒号と共に地面が揺れた。そして土の中から土槍が何本も出現し、俺に殺到してくる。
槍が俺の肌を削っていくが気にせず奴に乱雑に作った『メテオ』を5発連続で打ち込む。
五発のうち、三発は一級水魔法『ウォーターロック』の水壁に阻まれ、レジストされる。
だが、レジストされた三発は、水壁をほころばせ、崩壊に導く役割を果たした。
そのおかげで崩壊しかけの水壁を残り二発で貫き、奴の肩と腿をそぐことに成功する。
こちらが優勢だ。手数の多い奴は、一つ一つ小さい傷を作り、手数の少ないこちらは大きな傷を作る。
俺の方が負傷の数は多いが、先に倒れるのはあちらだろう。
奴から流れるおびただしい血の量がそれを証明している。
「やっとあいつらが報われる。情にほだされてくだらないことをやっていた俺が馬鹿だった」
再度、青色吐息となっている奴に照準を合わせる。槍が俺の体を削っていくが無視する。
「ここで、死ぬわけには、行かないんだよ。みんなを犠牲にして僕だけ楽になるわけにはいかないんだ。どれだけ辛くても僕が彼らを守らなくちゃ……。君達のような狂った人間と争うのは怖い。だけど、みんながひどい目にあうことの方がもっと怖いんだから」
魔王の目が俺を捉える。先ほどのように狂気をぶつける矛先としてではない。
奴の目を見ることで分かった。それは先ほどのように熱を帯びておらず、冷えていた。
研究者が実験動物を見るような眼だ。体に怖気が走る。
迷わずに俺は『メテオ』を打ち込んだ。だが標準がずれていたのか逸れて奴のそばを通り過ぎていた。
俺が外したのを皮切りにしたように、魔王の間の中で炎が踊り始めた。その動きはまるで奴を祝福しているようだ。
急に周りが熱くなり初め、俺の体に炎の舌がまとわりつくようになり始めた。
直観が危険だと警鐘を鳴らしている。
すぐに『テンペスト』を奴の周りに生じさせようとするが作成途中で消えた。
おそらく奴が消したのだ。奴の動きが先ほどとはまるで違う。
むやみやたらに槍を乱発などせず、この炎の領域を展開し、魔法を的確にレジストしている。
完全に奴が冷静になったことを理解した。
“冷静になったらあなたに勝ち目はありませんよ”
精霊が言った言葉が頭によぎる。戯言だ。
拮抗から優勢に持ち込んだ。意識一つで展開が変わるわけはない。
事実奴は現在も血を失い続け、青い顔で立っているのがやっとだ。
気をてらったのがまずかったんだ。正攻法で『メテオ』を打てばいいだけだ。
もう一度、『メテオ』を作成にかかろうとするが作成途中で崩壊した。
どうしてだ。焦っているわけでもないのに!
なぜかだんだんと目がかすんでいき、足元の感覚がなくなっていた。
汗がだらだらと流れていることにその時気づいた。
この症状はよく知っていた。元の世界で不注意で何度か陥ったもの。
脱水症状だ。
魔法ばかりに注目してそれが及ぼす影響を考えてなかった。
炎が充満した空間だ。人が耐えられる気温で維持されているわけがない。
そう理解すると同時に足が役に立たなくなって、地面に這いつくばった。
「……僕の勝ちだ。リーデンベルグ」
ひどく生気のない勝利宣言が聞えた。




