44 セーフなのかアウトなのかの判定は難しい
「精霊は物知りだから何でも知ってるんだよ。それよりあんたはこんなところで何をしてたんだ?」
「……わたしはシュライク魔法学園に向けて歩を進めていただけです」
師匠は訝し気な顔をしながらもこちらの質問に答える。
さすがに俺の誤魔化し方は無理があったようだ。
まずいな。完全に怪しまれている。
「俺は怪しいものじゃないって、俺も魔法学園に向かっている人間だし」
俺は何か挽回する言葉を探したが、苦し紛れの言葉しか出なかった。
「なるほど。あなたも教会から派遣されたのですね。一般人が神聖術を使えるのでおかしいと思っていたんです。教会の人間なら納得です。ばらばらに入ってもしょうがないので、共に門の中に入りましょう」
師匠はよくわからないが何だか納得したようで、共に入るよう誘ってきた。
俺は教会から派遣された人間じゃないが否定してまた疑われてもしょうがないので、そういうことにしておこう。
神聖術は一応使えるし、ばれることはないだろう。
「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。名前はなんていうんですか?」
「ああ、俺の名前はリード……」
あ、しまった。……名前を名乗ってしまった。
過去の世界で名前を名乗ったらダメだろうに。確実に俺が名前を名乗ることで未来の師匠の行動に影響がでる。
例えば、俺を弟子にするときに、「あ……。あの時のリザードマンと一緒の名前だな、やっぱやめるか」みたいな感じで。
そんな事になれば、タイムパラドックス不可避だ。まあ、33年前のことをそんなに鮮明に覚えていることもないような気がするが。
名前を名乗ったことがセーフか確認するために、スリートを見つめる。
だが奴はまだ怒っているらしく、そっぽを向いて無視された。
契約する前からなんだか、地雷ぽいと思っていたが、地雷だった。本来の役割よりも感情を優先し過ぎだ。
精霊というのはみんなこうなのだろうか。
取り合えずセーフか不明なので、念には念を入れて名前を名乗る事はなしの方向性で行こう。
なにか適当な偽名と、師匠が俺の名前を忘れるように策を講じなければならない。
そんな事を考えていると師匠が学園の門をたたいた。
すると門から、金髪と青い瞳の男が出って来た。そいつは未来で学園を崩壊させた魔王シェイムだった。
いきなりの邂逅で目が釘付けになる。
「あなたたちは、どなたですか?」
シェイムはにこやかに俺たちに尋ねてきた。
「私たちは教会から来たものです。私の名前はプラム」
「……」
俺は奴らの受け答えを、衝撃の余り確かに聞こえていたが聞き流してしまった。
「リードさん、どうしたんですか。自己紹介をしてください」
師匠が催促することで我に返った。
魔王に思うところはあったが、今はそれどころではない。
師匠が俺の名前をしゃべってしまったのだ……。まずい。
「ああ、あなたはリードさんというんですね」
恐れていた通り、魔王は俺の名前を認識してしまう。
早く、誤魔化すための偽名を言わなければまずい。
何か、何かないか?
そう考えると、直前にリードと聞いたせいか、学園でヘイトを集めたリーデンベルクの事を思い出した。
俺が今求めているのはお前ではないのだ。リーデンベルクを頭の片隅に追いやろうとすると妙案が浮かんだ。
「いや、俺の名前はリーデンベルクです」
俺はそう名乗ることでそれを早速実行することにした。




