29 先輩から後輩へのエール
アルテマイヤが深淵のレクチャーを受けられないということで、今回の深淵見学はまた今度。
次はクラス分けされ、講義を受けるときとなった。
食堂で食事を終え、今現在俺は案内された男子寮にいた。
体に小休止を入れ、部屋のベッドに転がっている。
それにしても、今日はせわしない一日だった。
馬車に揺られる―学園入学―深淵見学―魔王遭遇―迷宮の製造方法暴露―マイヤ覚醒
なんでも初日はやることが多いと決まっているが、さすがに六個というのは多すぎるんじゃないだろうか。
工場の工程であれば、製造終了だ。
それほど多かったのだが、ここがどういう場所なのかいまいち把握できていない。
兄妹経営で学園を回しているとはいえ、兄のシェイムが深淵をここに設置する意義はわからないし、この学園で教えられる魔法や魔道具の技術もよくわかっていない。
明日にはわかるかもしれないが、初回でわからないことがあるのはなんだかすっきりしない。
もやもやしてきたので、この部屋を開拓して代替することにする。
開拓すると言っても、調べるものなど数えられほどしかないのだが。
まずは、ここから手の届く位置にあるクローゼット。
何か怪しい雰囲気を放っている。開けてみる。
・
・・
・・・
中には何もなかった。
あるものといえば埃だけだ。
わくわくで幽霊屋敷に入って、ただの廃墟だったときのような虚脱感に襲われる。
気を取り直していこう。
続いて、クローゼットから対角線上にある学習机に向かう。
何故対角線上に移動したかというとそれ以外家具がないからだ。
気を取りなおしたというのに、あっけなく終わりそうだ。
「寮にかけるお金ケチりすぎだろ……」
一人ごちりながら、机の右と左に備え付けられた引き出しを右から順に開けていく。
右。
カビだらけのパン発見。
パン嫌いの小〇生かよ……。窓を開けて、外にポシュートする。
左。
色あせた手紙発見。
未開封だ。なんで開けずにこんなところにほっとかれたままなんだろうか?
めちゃくちゃ怪しいなこれ。
罠かなにかか? でもなぁ、ここは迷宮でもないし、罠なんかしかける必要性もないしな。
ただ書いて送るのを忘れただけかもしれない。
個人情報とか罠とか不安があったが、俺は好奇心のままに手紙の封蝋をとった。
中からは、便せんが出てきた。
どうやら罠でなく、ふつうの手紙らしい。
こういう場合は内容を確認せずに差出人と宛名を確認して、届けてやるのが筋だったか?
俺は便せんを広げて、差出人と宛名を確認しようとしたが、それは書いていなかった。
文面も三行ほどで紙面のほとんどが茶色じみた白紙だった。
個人情報が云々という生前のマナーを思い出したが、文面を読んでしまった。
・神聖術を習得しろ
・深淵と契約を結ぶな
・魔王と戦うな
先輩の後輩への金言みたいなものが並んでいる。ここの前の主が俺に向けて綴った手紙のようなものだろうか。
三行目の文言を見ると、遺書に見えないこともない。
手紙自体は飛んでもなくうさん臭いが、内容はわからない部分は在りながらも至極真っ当だ。
一行目の神聖術は憶えれば回復できるし、二行目の契約は意味自体はわからないが、深淵というだけで 絶対にしちゃいかんことがわかる。
三行目はいわずもがなだ。
この手紙の言葉を取り入れて、この学園では行動するのは悪くないのかもしれない。
魔術と魔道具の技術のレクチャーを受けるあいまに神聖術について、独学で学んでみるか。
とりあえずのここでの俺の方針が決定した。




