120 奇襲
「ホット、これはだな――」
俺がこの誤解が生まれた経緯を言おうとすると、黙ってホットは手で制した。
「言わなくてもいい。なんとなくお前らの会話を聞いていればわかった。それよりも話を本題に戻すぞ」
ホットは首あたりをかくと、話を戻す意を伝えてきた。
「俺たちがなんであんなことをしていたか。それは始神の信仰を集めることが、奴に何かしら不都合があるとシェイムが突き止めたからだ」
「コールドとラルフの契約と『始神の伝道書』から大昔から彼が始神の徒を虐殺していることが分かって。彼が始神の徒を毛嫌いしているというレベルを超えるくらい執拗に排除していることが理解できた。だから彼は始神が信仰されるとかなりまずい状態になるんじゃないかと思ったんだ」
ホットが言い終えると、その内容を補足するようにシェイムが言葉をつづけた。
なるほど、たしかに戦争を行うほどのことをやるには単純に毛嫌いしているだけでは説明がつかない。
スリート記憶と照らし合わせる見ても、信仰されたくないというラルフの意思は神が死ぬと決められてていたことと何か関係がありそうだしな。
やっとシェイムたちがどれだけ危険なことをやっていることが理解できた。こいつらはラルフが嫌がることをやっているのだ。
奴相手にそんなことを行うのがどれだけやばいことなのかは身をもって知っている俺からしたら、正気の沙汰ではない。
こいつらも戦争でラルフが暴れるところを見聞きしているはずなのによくやる。
ばれたら奴の逆鱗に触れることなどすぐにわかるというのに。
「お前ら、よくもまあ。そんな危険なことをやっていたな……」
「ラルフが起こす戦争は、僕はもう嫌だからね。魔王によってまた大切なものが踏みにじられそうになるのはもう耐えられないし、妹に子供ができたのもある。あの子には戦争で苦しい思いはして欲しくないからね」
俺がそういうとシェイムは眉間にしわを寄せてそう応える。
シェイムの言葉には使命感のようなものを感じる。
奴は俺と会わない間に、かなり変わったようだ。
三十年近い月日はシェイムにとって大きかったのだろう。
「別にリード、君がほめることでもない。戦争中、私たちは何をしようと危険が伴うのだから。さしてそこらの人間とやっていることは変わらないよ」
師匠はシェイムとは対照的に冷めた口調でそう言った。
師匠は、口調は変わったが中身は昔からあまり変わっていないようだ。
昔と違って、直情的にそのまま言葉に出すことはないようだが。
相変らず、なんだかんだで良いひとらしい。
「気にするな。俺は危険な橋わたることでデカいリターンが来るからな」
ホットはあけすけにそう言う。
悪い奴ではないと思うがいまいち何を考えているわからんな。
何だかこいつらの動機を聞いていると師匠とシェイムが共にいるのはまあわかるが、なんでホットが共にいるのかがよくわからん。
2人の使命感とホットの打算ではかなり相性が悪いような気がするが。
というよりも、こいつは組んでいたドムズたちをどこにやったんだ?
姿が見当たらんが……。
「というかなんでお前ら組んでるんだ?俺からすると二人とコールドはあまりつながりがないような気がするんだが」
「そりゃシェイムとプラムが俺に協力したいて申し出てきたからな」
こちらが質問すると、ホットがそっけなく返す。
そういえば始神の墓は協力者の情報とか言ってたな。
その協力者がシェイムたちだったというわけか。
別に行動するのに同じ考えである必要もないか……。
「なるほど。お前がシェイム達といる理由は分かった。だけどドムズたちがお前といないことがよくわからん。あいつらはどこにいたんだ?」
「下で岩を削って、エスカ帝国までのルートを開通させようとしてる」
ホットは床を指さすとそういった。
「なんでエスカ帝国まで開通させようとしてるんだ? 確かに魔王が集まってきな臭いのはわかるが」
「始神の墓があの中にあるからだ」
始神の墓?
一瞬、思考が固まってそれから、紐解かれていく。
シェーンに近付くなと言われていたもの。
それが、俺が蘇生薬を探しに行こうとしてきた国にあるとホットは言っているのだ。
そこまで行って、やっとこれがどういうことか理解した。
エスカ帝国に入るということは始神の墓にはいることは避けられないということを。
シェーンと矛を交えることは避けられないということを。
―|―|―
あのあとのことはホットが
「地下でルート開通を邪魔してる岩石をお前の魔術で破壊してくれ」
といったことしか記憶にない。
おれにとって、シェーンとまた戦わなければいけないということは自分が想像した以上にショックだったようだ。
まさか話に集中できないようになるなど。
しかもそれはまだ尾を引いている。
魔術師の館に用意された寝床についているが、眠れないのだ。
眠ろうと思っても眠れないので仕方なく、そとの風にあたって風に涼むことにする。
魔術師の館の裏に出て庭に立つ。
夜風に当たると少し気持ちが落ち着いたような気がした。
まだしこりのように戸惑いが残っているが、それについては完全に拭えるものではないのでしょうがない。
寝床に着こうと魔術師の館に戻ろうとすると、目の前に火を纏ったトカゲと空に浮かぶイタチのよなものがいた。
「師匠の精霊たちも俺に襲い掛かって来るのか……」
目の前に精霊を確認すると、回りに炎の壁が広がり始めた。
想像していなかった精霊の奇襲に頭が痛くなってくる。




