119 偽名
「幻滅したぞ……。シェイム。あれはどういうことなんだ?」
机の向かいで目を伏せているこのことの下手人にそう尋ねる。
「おい、リード……。事情も聴かずにキレるなよ。こいつは危ない橋を渡って来たんだぞ。その言い草はあんまりだろ」
先ほどまで薪製造機と化していたホットがシェイムの弁明をする。
「「リード?」」
ショットが発した言葉にシェイムと師匠が反応する。
しまった……。
ホットと二人の間でリードという名前に認識の齟齬が起きていることを、先ほどの衝撃のせいで忘れていた。
「この人間がリード?」
「僕たちの知ってるリード――リーデンベルグは、リザードマンのはずだし。君、リーヅて名乗らなかったかい?」
「リザードマン? リーヅ?」
2人が疑いの言葉をこちらに投げかけると、ホットまでも疑いの眼差しをこちらに向けた?
シェイムにこちらが疑念を掛けていたのが一転、こちらが疑われる側に回ってしまった。
さて、どうしたものか?
『素直に言えばいいじゃないですか』
スリートが呆れ声でそう言ってくる。
素直にしゃべっても信じてもらえないだろう。
『そうですかね。二人とも一番大変な時分にあなたと行動を共にしていましたし、言えば信じてくれるんじゃないかと思いますけど』
そう言われれば二人についてはそんな気もしないことはないが、ホットは余計に混乱しそうだけどな。
『彼には後から二人とあなたで説明すればいいでしょう。それにあなた嘘つくの下手くそですから、嘘ついても話がさらにややこしくなるだけですし』
嘘を吐くのが下手くそというのは不本意だが、まあ確かにそれが一番いいような気がする。
無理に嘘を吐くのも精神的に応えるしな。
「すまん。リーヅはお前らに信じてもらえないと思ってついた偽名だ。おまえらと離れたあと、身体が使い物にならなくなったりして。今は人間みたいな体になってるんだ。信じられないかもしれないが本当のことだ。信じてくれないか?」
「偽名を使うというのは確かにリードらしいが、リザードマンから人になるというのはさすがに信じられない」
師匠は地味に俺のことをディスって、信じられるまでは行かないという意を伝えてきた。
信じられないと言ってきたが、心なしか師匠の眼差しは柔らかくなっているような気がする。
偽名を使うのが俺らしいというのは少しあれだが、まあ少しは疑念が消えたし良しとしよう。
「僕はリザードマンが人になるというのはいろいろな魔道具、姿を変える権能を持った魔王がいることから否定は出来ないな」
シェイムは意見がちがうことを師匠に向けて言う。
姿が変わったのはスリートと存在を重ねたゆえなので、奴の言ってることは当たってはいないが、姿が変わるのを確からしいと言ってくれるのは助かる。
「魔道具、魔王か……」
シェイムの言葉で師匠は考えるような仕草を取る。
もしかしてこれは信じてもらえるんじゃないかと思うと、シェイムは口を開いた。
「だけど、それは君がリードだということにならない。僕は君に質問することでリードだと確かめさせてもらうよ。君がリードでないならこの質問には答えられないはずだ」
シェイムはそうこちらに言い渡す。
「今のところ否定材料はないからそれしかないか……」
師匠はシェイムの言葉を聞くと同意するようにそうつぶやいた。
これから質問されるようだ。質問内容について俺が忘れていたら一発でアウト。
少し緊張する。
「じゃあ、質問指せてもらうよ。僕たち二人が好きなものはなにかわかる?」
「お前はずた袋、師匠は精霊だろ」
シェイムの質問が意外に簡単なものだったので即答する。
そうするとシェイムは頬を緩め、師匠は頷いた。
「姿は変わってるが確かに君はリードらしい」
「私が精霊好きとしているのは弟子だけで、弟子はリードしかいない。必然的に君はリードということになる」
2人とも信じてもらえたらしい。なんだか付き物が落ちたようにすっきりした。




