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幕間⑪ 一人で何かするのはつらい




 命令を下されるとすぐに俺はシュライク魔法学園に転送された。

 最初はどうでもよく、シュライク魔法学園など行く気もなかったが。

 戦闘に巻き込まれ、襲い掛かって来る兵士を切り捨てていくと、奴らを墜とすのも悪くないような気がした。

 それ以外どうせやることも無ければ、帰る場所もないのだから。


 それからシュライク魔法学園に侵攻を始めると、最初の方は上手くいったが、途中から上手くいかなくなった。

 深淵に入り始めてから魔道具とリーデンベルグというリザードマンの邪魔が入り始めたのだ。

 あの狡猾なリザードマンが居ることもあるがやはり魔道具との相性が死ぬほど悪いということが侵攻の上手くいかない原因にあった。


 だがそれも今回で終わりだろう。魔道具にもかなり耐性がついてきており、昨日はリーデンベルグを越えれば、最奥の一歩手前というところまでこれた。

 これまでの戦場での経験が確実に行けると言っている。


 朝日に照らされ、シュライク魔法学園まで歩を進めていると空からこちらに何かが近づいていることに感づいた。

 着地点に目星をつけて切りかかる。

 戦場で着地までわざわざ待つどおりがない。


 剣はそのままそいつを両断すると思っていたが途中で止まった。


「いきなり我に切りかかるとはずいぶん、不調法な猫よ」

「ぐっ!!」


 そいつがなにか言うかと思うと、腹に蹴りを入れられ、後方にやられる。

 蹴られたときに痛みが走った。蹴った奴は俺の纏っている練気よりも上の練気を纏っていることになる。

 格上だ。構えを取り、相手をしっかりと視界に収める。


 視界には赤い剣を持った豪奢なドレスを着た女と赤髪のメイド服を着た少女が見える。


「もう戦争終わりました。ショット、引いてください」


 赤髪の少女はそうこちらに声をかけてくる。

 なれなれしいガキだ。


「ガキが。気安く人の名前を呼び捨てにしてんじゃねえ。テメエに何ぞ会った覚えはねえぞ」

「ああ、そういえばこの姿で会うのは初めてでしたね」


 こちらの言葉を聞くと少女はみづからの体に目を向けてそういった。


「私はラルフです。今は契約によって姿が変わっていますけどね」


 ふざけたことを言う奴だと思ったが心眼を使用する。

 兄貴を手にかけて以来、疑いの余地があればこいつを使わずにいられなくなっている。

 嘘だと俺は断じていたが、あの魔王のことだから可能性を否定できなかった。

 可視化された心の声を見る。


「本当かよ……。ずいぶんガキになったもんだな。だがな、テメエがラルフだろうが引く道理がねえ。きっちりやることはやらせてもらう」

「引く道理は在りますよ。あなたのすることは終ったんですから。学園を墜とせと命令は出しましたがあれはあなたが手を抜かないように強めに言っただけです。私の目的はシェイムを追い詰めることでしたからあなたは十分に目的を果たしました」


 一歩的な物言いに腹が立ち、切りつけようかと思案する。そんなこちらの気も知らずにラルフは言葉を続けた。


「それにあなたひどい顔をしてますよ。これ以上何かしろとあなたに命令してもできるような気がしませんが」

「くだらねえことほざいてんじぇねえ……」


 腹立たしいことを言ってくるガキだ。

 学園を墜としに行けば、又耳障りな言葉をこいつに吐かれることになるのだろう。

 そんな目に会うのなら引いた方がいい。



「ああ、わかった。わかった。ひきゃあいいんだろ。要求は呑んでやるからテメエらもささっと消えろよ」


 学園とは逆の方向に歩を進める。


「待ってください。あなたはしっかりと仕事を果たしましたから報酬を渡させてもらいます。私たちとついてきてください」

「いらねえよ。そんなもん。帰る家もねえのに。報酬なんざもらっても荷物になるだけだろうが」

「受け取ってもらえないとこちらが困るんですがね。あちらも今のあなたみたいな状態ですかね。厭だというならエスカに力づくでも連れていてもらいますが」


 そういうとエスカと呼ばれた女は俺の前に進み出てきた。

 こんなことで格上とやり合うのは面倒だ。

 どうせこいつらも報酬を受け取ればもう関わってこないだろう。


「メンドクセエな。ささっとつれて行けよ……」

「じゃあそうさせてもらいましょう。エスカお願いします」


 ラルフがそういうと、エスカは俺とラルフに触れた。

 すると突風が後方から吹き、身体が持ち上がる。

 そのまま体は風に流されて飛ばされていく。






―|―|―




 しばらくするとエスカ帝国の中の民家の前に到着した。

 どうやらこの民家にあるものが俺に対する報酬らしい。

 わざわざこんなところにおいてラルフもずいぶんと大仰なことをする。


 さして期待せずにドアを開く。

 必要最低限の家具があり、椅子に痩せた大女が座っていた。


 そいつはドリスだった。


「ラルフ、テメエ!」

「やめんか!」


 ラルフに手を伸ばそうとするとエスカが俺の腕を掴んだ。

 奴の静止を振り切ろうと体を前に乗り出す。


「どういうことだ!? どうして黙ってた!」


 こちらと顔と顔が肉薄しているにも関わらず、奴は無表情な顔のまま口を開いた。


「ただあなたを学園まで転送したあと帰ろうとすると彼女を発見したから保護しただけですよ。そんなこと言う訳ないでしょ。あなた、言ったら絶対に私の言うことを聞かないんですから」


 こいつ、人のことを何だと思ってやがる……。

 これに怒りをぶつけるだけ時間の無駄だとその言葉で理解した。

 それよりもやつれたドリスを気遣ってやるべきだろう。

 おそらく弱っているのは俺に原因があるのだから。


 ラルフに向けて乗り出した体の体勢をもとに戻し、ドリスの元に歩を進める。

 歩を進め、奴の前に来たが何も言葉が出ってこない。


「……あんた、ショットなのかい?」


俺が黙っているとドリスはそう尋ねてきた。

浮浪者のような姿だから俺だとわからないのだろう。


「ああ」


 返事を返す。

 おそらくドリスはこれから俺のことを責め、罵るだろう。

 こいつの家族も友も手にかけ、国までも滅ぼしたのだ。

 それは避けられない。


「ごめんね、ショット」


 身構えていると、こちらの予想とは正反対の言葉をドリスは口から漏らした。

 俺に謝る理由などないのに、なんでこいつは謝っているんだ。

 その言葉に虚を突かれていると、ドリスは言葉をつづけた。


「あの時、あんたが一番つらかったのに突き放すことを言って。あんたも事情があるのにね」


 奴はつらそうな顔で出ない声を絞りだすようにそういう。

 その姿を見ていると胸が痛んだ。


「なのにあたし一方的にあんただけ悪いことにして。あんたがそんなになるまで追い詰めて……ごめんね」


 俺がこんななりになっているのは自業自得だ。

 ドリスのせいなわけがない。

 そう言おうと口を動かそうとしたが動かなかった。


「あたしも悪いのにあんただけにそんな重いもの持たせるわけにはいかない。だからまた一緒に居させてよ。あたしあんたが居ないとダメだから」


 俺の犠牲者であるおまえが罪なんて背負う必要はない。

 この申し出を受け入れてはいけない。ドリスは俺の最低の人生に付き合わせるなどあってはならない。


「ありがとう、ドリス。ずっとつらかったんだ……」


 そう思っていたのに、俺はそんな言葉を吐いていた。

 何とか動かない口を動かして否定しようとするとドリスに抱擁された。

 するとなぜだか涙が頬を伝い、何も言えなくなった。


 しばらくして口が軽くなったと思うと言葉が漏れた。


「ごめん。今度は絶対に疑わない。俺はお前を信じる」





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