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幕間⑩ 偉い人が何か言うとなぜか勘違いが起こる




 その声に違和を感じた。ドリスはセフトを俺だと思ってたんじゃないのか?

 なんでこいつはすぐにセフトを見抜けた。

 

 セフトだと承知していたのか。だまされいたんじゃないということか。

 そこまで思考を進めると、ある可能性が浮上してきた。

 ドリスとセフトが共謀していた可能性だ。


 ことの真相を確かめるために心眼でドリスの心を見ようとするとドリスが口を開いた。


「なんでこんなことをしたの?」


 こちらを責めるような口調で奴はそんな事を聞いてきた。

 ふざけるなよ!


「当たりめえだろうが! そいつは俺からすべてを奪ったんだぞ!」


 俺の言葉を聞くと、ドリスは涙を目にためて首を横に振り始めた。

 ドリスを責めようとしたが、今まで見たことのないドリスの涙を見て、口が動かなくなる。


「違う! セフトはあたしとあんたのために頑張ってくれてたんだ!」


 嘘だ! そんなわけがない!

 その言葉を否定するために心眼を使って心を覗いた。

 だが可視化された心の声がそれを真実だと言っていた。


「父さんがフリジの貴族と無理やり縁談して、結婚させようとしてきた時、セフトは退却中にそれを聞きつけて、ボロボロになって駆けつけてくれたんだ」


 ドリスはこちらに吠えるようにそう言葉をぶつけてくる。

 その言葉を聞いていると背筋が冷えるような感覚に襲われていく。

 固まっているとドリスが肩を掴んできた。


「何とかしようとしてくれたんだ! 自分ではどうにもならないて言って、不器用なくせしてあんたの振りまでして!」


 体中から血の気が引いていく。

 床であおむけになっている兄の死体を見て、自分が何をしでかしたのかに気づいた。


「セフトはあんたのことをずっと思っててくれたのに! どうしてあんたはセフトを信じてくれなかったんだ!」


 ドリスは涙を瞳から落とすと俺の肩を握る力が弱くなり、その手は肩からずり落ちていた。

 俺は大切な何かを失ったと確信した。


「あんたなんか、あたしの知ってるショットじゃない!」


 ドリスはそう言い残して、家から出ていた。

 俺には止めることができた。だが足が動かなかった。


 ただ兄貴の死体を見つめる。

 その横には先ほどはなかった剣が置いてあった。

 兄貴が帯剣するのを忘れてドリスが届けにきったてところだろう。

 2人がどれだけがんばっていたのかがわかり、胸に鋭い痛みが走る。


 どうしてこうなった?

 目の前の事実から逃げるように思考はそちらの方に流れた。

 そうするとラルフに騙されたことに気づいた。

 奴の言葉とは違い、だれも危機には陥ってなどなかった。


 どうしてあんな魔王の言うことなど信じて、なんで兄貴を信じなかったんだ……。

 ラルフは嘘を吐いた。だが結局は俺にすべての責任がある。

 自分に対する怒りでどうしようもなくなりそうになる。

 だが何もできずに怒りを内に秘めたまま立っていることしかできない。


「ショット、ドリスが泣いて出っていたのを見たぞ……。新婚早々何をやって――」


 そうしているとエルビスが家の中に上がって来た。

 床に倒れた兄貴をみるとエルビスは顔を真っ赤にする。


「セフト、貴様! それでも兄か! 新婚早々の弟を殺すなど!」


 奴はそのまま兄に対する暴言を吐き始めた。

 愚図な俺のせいで兄貴がこき下ろされていく。

 胸糞の悪さに怒りと絶望が蓄積されていく。

 そうすると体から黒と白が混じったようなオーラが出始めた。

 それと同時に体が勝手に動き始め、剣の柄を握りしめた。





―|―|―




 気付くとどこか薄暗い場所に座っていた。

 強い鉄のにおいを鼻腔が感じ取る。


 どういう状況なのかはわからない。だが血の匂いが、何が起きたかを物語っていた。

 外の状況が確認したい。

 そう思うと肉の床が割れて、階段が出現した。

 それを降りていくと光が見えた。出口だ。


 外に出ると、全壊した家屋の群れと人の残骸が見えた。

 血で染まった体が、俺がすべてやったと証明していた。


 何もかも自分が壊してしまった。

 家族も、恋人も、友も、国さえも。


「帰宅途中、深淵が出たので魔王が覚醒したと思ったらあなたでしたか。この様子だとよほど破壊の方向性と相性が良かったようですね」


 故郷の残骸を見つめていると赤髪の魔王――ラルフが上空から降りてきた。

 意図せずに奴の胸倉をつかんでいた。


「どうして騙した!?」


 気付くと俺は陰気な声で怒鳴っていた。


「騙す? どうして私があなたを騙すんですか?」

「ふざけるな! 誰も危機になど陥ってなかっただろうが!」

「そんなことは言ってません。私は早く帰ったほうが言っただけです。あなたの恋人が縁談を持ち掛けられていることを知っていましたからね。親切心でやったんですが、どうやら裏目に出たようですね」


 ラルフは冷めた口調でそういうと溜息をついた。

 奴から手を離した。

 こいつは騙してなどいなかった。すべて俺の勘違いだった……。

 勘違いの果てにこのよくわからない建物と、魔王という称号を手に入れた代わりに、すべてを失った。


 心の中で大事なものが壊れた。

 もうすべてがどうでもよくなった。


「これからどうするつもりですか?」


 ラルフは無表情な顔でそう尋ねてきた。

 

「何もしねえよ」


 そう返事を返す。もう何もしたくない。

 ささっと消えてほしい。


「そうですか。では私の手足となって動くのはどうですか? 動けばその気分から解放されるかもしれませんよ」

「ああ、それでいい。ほっといてくれ」


 適当な返事をすると、魔王をむすとした顔をして


「じゃあ早速ですが、シュライク魔法学園を墜としてきてください」


 そう命令を下した。





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