幕間⑦ 子供は煽り合うのがデフォルト
戦線に送られるので兄貴のセフト、恋人のドリスと別れの済ませていた。
「ショット、生きて帰って来いよ」
真面目腐った顔で兄貴が縁起の悪いことを言う。
「心配しなくても俺はこの国一の剣士だから死ぬわけねえよ」
「自称だろうが……。戦場は何が起きるかわかんねえんだよ。剣の腕があるだけじゃ生き残れねえよ」
「兄貴、それ本の知識だろ。実際戦場に出向いてないのによく言えるぜ」
いつもは憎まれ口しか吐かないくせに、こんな時に限ってこちらの心配をする兄貴に難癖をつける。
奴からそんなことを言われた日には死ぬことが確定したようなものだ。
まだ「帰ってくんじゃねえ」と言われた方が帰還できそうな気がする。
「うるせえ! シャバゾウが! 俺みたいに頭がいい奴はな! 経験しなくても本からでも十分わかるんだよ! お前とはここが違うんだよ! ここが! まったく同じ双子とは思えねえぜ!」
俺の憎まれ口をきくと、兄貴は鼻息を荒くして頭を何度も指さしながらそう煽って来た。
やっといつも通りだ。
辛気臭いのは勘弁だからこれでいいんだよ。
「へ、まったくだな。兄貴はおれとちがっ――。ぐお!」
兄貴に言い返そうとすると体が持ち上げられた。
「ショット。あんた兄貴にケンカふかけてんじゃないよ! 戦場に行く前くらい普通に別れなさいよ
!」
俺を眼前まで持ち上げて、姉御肌のドリスが吠える。
兄貴はそれを見て、「ざまあないぜ!」とこちらを指さして爆笑する。
「ああ、わかったよ。普通に別れやあいいんだろ……」
ドリスにはかなわんので、ちゃんと挨拶して別れることにする。
「じゃあな。お前ら。俺が英雄として帰ったら、パーティ―くらいには呼んでやるよ」
「は、パーティ―だと、俺がその日に国王に就任してぶっ潰してやるぜ!」
そこまで言うと兄貴はドリスに吊るされる。
「ちゃんとしな……」
「お、おう。今のは冗談だ。お、弟よ、また会えることを望んでいるぞ」
ドリスのドスの利いた声に震えながら兄貴がそういう。
それを聞くとドリスが頷いて、犬歯の目立つ口を開いた。
「戦場で勝てないと思ったらたったと戻って来な。あたしの家ならあんた一人くらい誤魔化すなんて朝飯前だからね」
「敵前逃亡なんかしねえよ。俺は腰抜けじゃねえからな」
ドリスが腑抜けたことを言うので、即座に否定を入れる。
ドリスとつるんでるのはそんなことのためと思われるのは嫌だし、一生後ろ指をさされるのはごめんだ。
「手柄取って帰って来る。その時にはこのショット様の横にいることが、嬉しすぎてむせび泣くなよ」
「あんたが帰って来たときに『騎士の栄光』の時みたいに、咽び泣いてなきゃ。泣いてあげるよ」
「うるせえ! 昔のことをほりだすんじゃねえ!」
俺はドリスの憎まれ口に文句を言うと故郷から旅立った。
俺が16の時、今から35年前のことだ。




