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101 怒りと懇願




 ドムズが若い男に向かって詰め寄っていく。

 奴はそのまま胸倉をつかみ、男を宙に持ち上げる。


「何をするんだ!? 君たちは人を殺したんだ。罪人だろう! だから罰を受けなければいけないのに、なんで無罪の僕にこんなこと……」

「……お前が無罪だと。投石をした口でよく言う」


 ドムズの顔は赤く、睨む目は鋭い。

 だが静かな声で奴は応える。激怒しているが、かろうじて抑えが効いているといった状態なんだろう。

 男の言動でドムズの取る行動が決まりそうだ。

 もし最悪方向に行くのなら止めなければならない。


「僕に罪があるとでも言うのか? あるはずがないないだろ! 僕は勤勉に魔王様の言葉に従って罪人を殺し、排除してきたていうのに……。善行を積んでいるとしても間違っても罪がある訳がない!」


 男は繰り言のようにそういう。

 ドムズは怒りから一転無表情になり、男を壁に向け掲げた。

 ドムズの周囲のマナに意識を向ける。


「手遅れだ。もうこいつは……」


 底冷えような声でそうつぶやいた。

 男は何をされるか察したようで、歯をガチガチ言わせ始めた。

 振り被りかけているところをマナを使って拘束したが、それをものともせずドムズは腕を振るう。

 

 更にマナを俺のできる限界までドムズの周りに集めるが、腕の動きの妨げしかできない。

 練気を纏った人間をマナで拘束する時は膨大なマナを必要とすることを、こんな時になって気づいた。

 練気を解除するべきだったのだ……。今更気づいてそっちに移行させることは出来ない。

 何とか振るのを遅らせている状態なのに、解除するためにマナをどけたら抵抗がなくなって完全に振り被ってしまう。


「やめてくれ! それをしたらおれたちは何のために戦ったのかわからなくなる!」


 こちらが内心で焦っていると、レッドがドムズに向けて懇願した。

 ドムズは歯ぎしりを一度すると、男を離した。

 その様を見てドムズの周りのマナをどけ、安堵する。


「神父とこの国の兵士に救われたな……」


 男はドムズの言葉を聞いたか聞かないかの間に、立ち上がって逃げていた。


 ドムズは仏頂面でこちらに戻って来た。


「すまない。よく抑えてくれた」

「こちらこそ、すまん。早ってお前らの醜聞を立てかねないようなことをした」


 ドムズは少し情けない顔をした。確かにドムズは早まったことをしたが、その気持ちはわからなくもない。

 国民たちのために仲間を犠牲にし、魔王も退けたというのに国民からの返礼は投石だ。

 激怒して、憎しみのままに行動してもなんらおかしくもない。

 しかもドムズたちは魔王への復讐のために、俺たちと行動を共にしているのだ。

 どうしてもそちらに行ってしまうのは避けられないような気がする。

 奪還が完了するまでは周りの人間の動向にも気を配らなければならないだろう。


 餓鬼族の連中を見ると少し殺気だっているに見える。先ほどの国民の行為は奴らのタブーに触れたかもしれない。

 マナで練気を帯びた奴らを抑え込むのは難しいというのに、これでなにか起こったときはどう対処すればいいのか。


 そんな事を思案して、餓鬼族の方に視線を飛ばしているとこちらに飛んでくるものに気づいた。

 一つや二つではない。

 『ウォーター・ロック』で兵士たちの周りに水の膜を展開する。

 水膜の中にはいくつも石が入っていた。


 投げた下手人を確認するために周りを見ると、村人の服装をした老若男女が俺らを囲んでいた。

 まずい。


「罪人は排除せねばならん。皆持てるものを持って処刑しろ」


 こちらの思いなど知らず、村人たちは鎌や鍬をもってこちらに近づいてくる。

 兵士たちの様子をみると餓鬼族は眉間にしわを寄せ、一部のリザードマンは国民たちを睨むつけている。

 一触即発。

 その状況はそう呼ぶしかない。


「国民よ聞け! 即刻虐殺をやめ、兵士に危害を加えるのやめろ!」


 体が緊張に襲われていると、聞き覚えのある声が聞えた。

 その声を聞いた国民たちは、手に持った凶器を離した。

 奴らが見ている方向を見ると、ボルフレディが城の見晴らし台に立っていた。


「ここに立っているのは罪人ではなく、国民である!」


 国民たちは兵士たちを困惑した顔で見る。

 ボルフレディはその様子を知ってか、知らずか言葉を続ける。


「ここには罪あるものは一人としていない。理想の国が誕生したのだ!」


 国民たちは困惑しているようだが、魔王が言ったことであるためか見晴らし台に跪き、


「さすがは魔王様だ。理想の国を建国してくださった……」


 と賞賛の言葉を贈る。

 国民たちの様子はボルフレディをまるで信仰しているように見える。


「ここから我が国は始まる! 皆で手を取り共に歩み始めよう!」

「おお! 我が王よ!」


 国民たちはその言葉を聞くと沸き立ち、腕を掲げる者もいた。

 レッドを見つめると、厳しい顔つきでその様を見ている。他のリザードマンたちは安堵したような顔をするもの、眉間にしわを寄せて憎々し気な顔をするものと反応が二つに分かれた。

 ドムズたちは不機嫌極まりないといった顔をした。


「国の奪還は成功したようだな……。これで終わりだ」


 周りの人間の反応を見ていると、後ろからホットがやって来た。


「奪還は成功したが、終わりではない。これから正すことを正さなければならない。

国民を憎く思うお前らの気持ち、ボルフレディが植え付けた考え……。

全てを正し、分裂をなくさなければならない」


 レッドは英雄に振り向かずにそういうと、憎々し気な態度をとっていたリザードマンたちはレッドの背中を見つめた。


 国を奪還できたがやはり元の形とはいかず、やることは山積みのようだ。





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