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100 投石




 水魔法で作った水玉をクッションにして、地面に着地する。

 水をクッションにしたがそれでもかなりの衝撃で、全身に痛みが走った。


「リード来てくれ、まだバルザックの息がある!」


 水玉から這い出すとレッドが、そう叫ぶ。

 痛む体に鞭打って奴の元に向かい槍を引き抜き、神聖術をかける。


 奴の体が回復し、閉じられた瞼が開けられた。


『リード神聖術をかけて一命はとりとめたようですが、魂が食われてもうほとんどありません。この人はもう助かりません。あと幾何かで寿命を迎えます』


 その姿を見ていくらか安心すると、スリートが残酷な言葉を吐いた。

 その言葉に瞬時に反発しそうになったが、諦めの悪いスリートがそう言うのだから本当にどうしようもないのだと理性が理解した。

 「何か手はないのか?」と彼女に尋ねそうになる心を抑える。

 こちらに告げたスリートもつらかっただろうに、それではあまりにも酷だ。


「神聖術は掛けたが、バルザックは助からない……」


 告げたくない事実をそのまま、俺は口から吐き出した。

 レッドはこちらを振りむく。だが俺の顔を見ると、歯を食いしばってバルザックの方に向き直った。


「すいません。レッド隊長こんな馬鹿なことして……。本当に馬鹿野郎ですよ」


 バルザックが死ぬ前のものとは思えない生気のある顔でそうつぶやく。


「本気で馬鹿だと思って、言った訳じゃない……」


 レッドはバルザックの顔を見つめてつっかえながらもそういう。


「隊長がそう言ってくれても俺は馬鹿ですよ。ミーシャが失ってかけがえのないものを失ったと思ったのに。隊長たちを槍で貫いてから、隊長たちがかけがえのないものだて気づいたんですから」


 バルザックは申し訳なさそうな顔をして、レッド達の顔を見るとつづけた。


「ミーシャを死んだと知ったとき、これ以上ないほど悲しいと思ったのに。隊長たちを貫いたとき、もっと悲しくなったんです。貫く前にわからないんですから、俺は馬鹿ですよ」


 自嘲するように乾いた笑いを漏らすと、バルザックの目の光が薄くなっていく。


「ミーシャを殺した国民のことは許せないですけど、隊長たちにとってあいつらはかけがえのない奴らですから。復讐したら俺がミーシャ失った時の悲しみを隊長たちが味わうんですからできるわけないですよ……」


 そういうと、バルザックの目から完全に光が消えた。

 その言葉でこいつがわざと負けたのだと悟った。


「レッド隊長、おまえら、俺に家族同然みたいに接してくれてありがとう……」


 バルザックはそういうと、目を開けたまま力が抜けたようにぐったりとした。

 レッドはバルザックの瞼を下ろしてやると一筋涙を流して、我慢するように震えた。

 これまでどれだけひどい目にあっても泣かなかった父が初めて涙を流した。

 その涙でレッドにとってそれだけ大切な存在がなくなったとわかった。


 リザードマンたちも地面を睨みつけて何かを抑えるもの、涙を流すもの。

 一人足りとも無感情な奴はいなかった。

 この人間たちにとって、バルザックはそれだけ大きな存在だったのだろう。


 その光景に目を奪われていると、何かを手で掴む音が聞えた。

 そちらに目を向けると、ドムズは顔を真っ赤にして石を握りつぶしていた。

 その様子を見て、誰かがこちらに投石したということを理解した。

 ドムズの視線を追うとそこには若い男が立っていた。


 こちらに投石したのは国民だった。





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