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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
武闘大会本選・団体戦の部
88/122

86.魔境名物温泉血煙り慕情 ~被害者は勇者様~

勇者様が全力で弄ばれております(いつものこと)。




 様々な惨劇(ドラマ)を生み出しつつ、魔境の伝統行事『武闘大会』……その団体戦の部が閉幕しました。

 個人的に一番面白かった試合は、勇者様vs.アスパラ軍団を率いたアディオンさん、でしょうか。

 やっぱり勇者様の周辺は面白すぎます。

 仕方のないこととは言え、勇者様の他の試合を見逃したことが残念でなりません。

 まだ武闘大会の一部門が終わったに過ぎませんが……何とも濃密な時間だったような気もします。

 渦中にいる時は、そんな気微塵もしませんでしたけどね!

 そして過ぎ去ってしまえば、あっという間のことでした。


 私が参加しているのは団体戦のみなので、これにて試合終了と相成ります。

 ……まあ、誰かの試合に乱入する、巻きこまれる等の騒動(ハプニング)が起きなければ、ですが。

 何が起こるかわからない、そして『もしも』がないとは誰にも言えない。

 そんな場所に住んでいるんですから、私自身にそのつもりがなくっても、巻きこまれる気構えだけは必要かもしれません。

 まあ、その場のノリとフィーリングで生きている魔境住民の魂を私だってバッチリ保有していますから!

 何か万一が起きた際には、率先して飛び込みつつ、全力で楽しんでしまう可能性が無きにしも非ず、です。

 もしも乱入なんて事態になったら、出来るだけ面白い試合に突撃したいものですね。


 まあ、今考えるべきことでもないでしょう。

 そんな先の話は置いておいて。

 現在私達は、私達の……チーム【おうまい】の優勝祝い及び慰労の為!

 みんなで、温泉に来ておりますー!!

 そして宴会でーっす!

「んじゃ、今日はリアンカとせっちゃん、その他数名の戦勝を祝して……」

「他数名って、陛下。お身内と他の方とで扱いに差が……」

「気にすんな。俺なんざ所詮そんなもんだ」

「あからさまな身内贔屓ですよ」

「とにかく! 優勝! おめでとう!! 可愛い妹達を持って、俺も兄貴(分)として鼻が高くなるってもんだぜ?」

「あはは☆ 陛下ってば☆ それ以上鼻が高くなったら顔のバランス崩れますよ。陛下の顔、今で絶妙なバランスの上に成り立ってんですから」

「ヨシュアンさんが真顔になった……!?」

「陛下の顔は一種の芸術品だし。御両親はマジ良い仕事してますね☆」

「お前が言うと、なんか卑猥な意味に聞こえる……」

「やっだ陛下ってば、勘繰り過ぎぃ☆」

「おい、リーヴィル。なんか鈍器持ってこい」

「モーニングスターで構いませんか?」

「ちょっ俺撲殺の危機☆!?」

 温泉行きたいね、という話は(試合中に)していましたが。

 なんとまぁちゃんが場を用意してくれました!

 準備も、場所の提供も魔王様のプロデュースです。

 ちなみに場所は魔境の名物温泉地の一つにある、魔王家専用の湯殿……まぁちゃんの家、湯治の為だけに建てられた離宮がいくつもあるんですよ?

 別荘やら離宮やら、多すぎて管理が大変だって前に宰相さん(りっちゃん父)が言ってました! 

 管理も大変らしいけど、(たま)には使わないと維持費が勿体ないってことらしいです。

「ねえねえ、まぁちゃん」

「ん、どーした?」

 乾杯の音頭も済んで、苺牛乳一気して。

 その流れのまま、私はまぁちゃんの肩を叩きました。

 丁度、りっちゃんから棘付き鉄球を受け取っているところのまぁちゃんを。

「折角の温泉なのに、血で赤く染まっちゃったら台無しだよ?」

「あ、悪ぃ」


 ちなみに、私達は。

 温泉で(・・・)、宴会をしています。


 ここは魔王の湯治専用離宮。

 その、湯殿。

 言わばご家庭専用の温泉……家族風呂。

 商業目的の施設ではありませんからね。


 当然の如く、混浴です。


「なんで君達、平然と温泉に入って宴会していられるんだぁぁああああああっ!!」

 勇者様が、今にも発狂しそうな声で叫びました。

 お顔はトマトみたいに真っ赤(Not腐)。

 居た堪れないのか縮こまり、お顔には自主目隠し。

 強固に結ばれた手拭の結び目が、勇者様のさらさら金髪に食い込んでいます。

 お湯の中に手拭を入れるのはマナー違反な気もしますが、これが最後の砦とばかりに濁り湯の中まで腰に巻いた手拭を死守する勇者様。

 丸めた背中は、惜し気もなく神々の加護(証)を曝しています。

「なんでといわれても、此処は混浴ですし。宴会するなら一緒に纏めてやっちゃった方が効率良いって、まぁちゃんが」

「まぁどのぉぉおおおおおおっ!?」

「あ゛ぁ゛? んだよ、うっせぇなー……」

「いつもいつもリアンカに貞節さが足りないことを嘆いていただろうに! なんでそれで、この場面で混浴風呂なんて暴挙に走るんだ!」

「あ? お前、なんか思い違いしてねぇ? っつぅか、こんな場でそれこそテメェ、やっすい肌のさらし方してんじゃねーよ。どこぞのお嬢サマか? おい?」

「だ、誰がお嬢様だ! 言っておくが、今確実に頭のおかしい行動を取っているのはまぁ殿の方だからな!?」

「そうだよー、まぁちゃん! 勇者様だったらお嬢様じゃなくってお姫様の間違いだよ☆」

「リアンカ、援護射撃と見せかけて実は敵側なのか、そうなのか。今更だったな……!」

「おーい、勇者さん? 熱くなってるようだけど、ヒートアップするだけ損しているんじゃないか」

「抗議するだけ遊ばれるだけだって、そろそろ学習したら?」

「なんで君らは平然としているんだ、ロロイ、ムー……! 君達こそ冷め過ぎやしないか思春期!」

「いや、だってな……な」

「うーん、これは……ねえ?」

 うぅん、これは。

 薄々そうじゃないかとは思いましたけど。

「まぁちゃん、勇者様に教えてあげなかったんですね」

「ん? だってその方が面白ぇし」

「否定はしません」

「……何だか知らないが、よくわからないところで小馬鹿にされている気がする……!」

 勇者様、恐らくその予測は大当たりです。

 だって今この場で、みんな勇者様のことを見ています。

 滑稽なものを見る、半生温かい眼差しで。

 ここはもう率直に、ずばぁっと真実を突き付けてあげるべきかな!


 そう思ったので、私はまぁちゃんにひたっと目で訴えました。

 眼差しで通じ合う、互いの意見。

 こっくりと私が頷くのに合わせて、まぁちゃんが素早く動きます。

 温泉の適温ばっちりなお湯は、まぁちゃんが動いても全く波立たず。

 静かな、地味に技術力の高い接近動作。

 大きく波立っていれば、きっと勇者様もまぁちゃんの接近に気付けたのでしょうけれど。

 まるで人食い鮫のように、回って背後からまぁちゃん急接近☆

 そのまま、がばっと勇者様を羽交い絞めにしました。

「う、うわっ? わあっなんなんだ!?」

 視界が封じられているところを急に抑え込まれ、動揺著しい勇者様。

 ニヤニヤと、麗しの尊顔を悪の色に染めて嗤うまぁちゃん。

 そして、勇者様の眼前に。

 隠しもせずにご機嫌口調で近寄る私。

「さあ♪ 勇者様♪」

「な、何をするつもりだ……!」

 この反応は、何かご期待いただいているものと解釈してOK?

 私は動揺に揺れる勇者様の頭を、ガッと両手で鷲掴みました。

 両手の指を、勇者様の目隠し布に引っかけて。

 見えていないでしょうが、微笑みかけます。


「そろそろ、ご開眼の時間と参りましょーか♪」


 瞬間。

 勇者様のお身体が、確かに硬直するのが分かりました。

 私の手指に伝わって来る震動は、勇者様の身震いでしょーか?


「ぴ、」

「……ぴ?」


 勇者様の口から、何かが聞こえて。

 愛らしい響きに、私が首を傾げた次の間に。


「ぴぃやぁぁあああああああああああああっ」


 勇者様が鳴きました。

 

 怯えたように小刻みに震える、身長百八十cm超の小動物(ゆうしゃさま)

 勇者様は否定していましたが、その反応は悪漢に囲まれた御令嬢の様だと思ってしまいました。

 もしくは猟犬に捕まった小鳥ちゃん。

「やめ、やめ……っ」

「ここはひと思いに、一気に行きましょう。一気で」

「や、やめろぉぉおおおおっ」

 魂の引き裂けそうな、血の吹き出しそうな叫びに、ちょっと心が痛むけど。

 うん、ここは教えてあげなかったまぁちゃんが悪いってことで!

 私は悪くありません。何も悪くありませんとも。

 むしろ、これは親切です!

 親切な心のまま、善行を成すのです!

「ぶふ……っ」

「おいこらリアンカ、いま噴き出したろ……っ」

「そういうまぁちゃんは隠す気もなく笑っているでしょ!」

「く……っいっそ殺せ! こんな辱め……!」

「ぶっは……(爆笑)!!」

「ま、まぁちゃんったら……笑い過ぎは勇者、様、に、悪いです……よ!」

「リアンカ、お前もな!」

 確かに、辱めるといえば辱めているかもしれません(笑)

 だって勇者様だけ、腰手拭(タオル)ですから。

「さて、猶予を与えて焦らすのもここまでです。ここはいっそのこと潔くいきましょう!」

「リアンカさん時には逡巡して回り道を模索することも重要じゃないだろうか!!」

「時としてそれも良いでしょうが、今じゃないですよね。

……というわ~けぇで!  て い☆ 」

「き、きゃぁぁあああああああああああっ!?」

 勇者様の、本日一番の悲鳴が上がりました。

 安定の絹を裂く声、引き裂きまくりです☆


「…………って、勇者様ったら」

「俺は何も見ない、応えない……!」

「目を閉じていたら意味がありませんよー?」


 多分、まぁちゃんが拘束していなかったら、両手でお顔を隠していたことでしょう。

 勇者様は、自分の二つの青い目をしっかりと閉じて。

 現実を直視することを、ひたすらに拒んでおります。

 それでも目を開けたら、と考えてしまうのでしょうか。

 勇者様のほっぺたは、見る見る赤く染まっていきます。

 わあ、人間ってどこまで赤くなれるんでしょうね?

 私は未だ、その限界を見たことがないような気がします。

 いつか、勇者様が見せて下さるような気はするんですけどね!

「まぁちゃん、どうしよっか」

「よし。こじ開けろ」

「まぁ殿ぉぉお!?」

「リアンカ、濃硫酸と目生え薬(改悪版)があるけど、どっちが良いかしら?」

「混じったら折角の温泉が台無しじゃないか。被害が拡散するものより、ピンポイントで狙えるモノの方が良いと思う。そこで僕は筋弛緩剤を塗布してから表情の筋肉を死なせて、瞼に力が入れられない様にすることをお薦めするよ」

「「「「………………」」」」

 ノリノリで助力を訴えてくれる、めぇちゃんとむぅちゃん。

 二人の知的探求心旺盛な薄笑いに、りっちゃんとヨシュアンさんが引きつった笑いで一歩後退しました。

 ついでにロロイとリリフが、そっと目を逸らします。

「…………」

 勇者様も、強張ったお顔で黙りこんでしまいましたけど。

「勇者様……素直に目を開けておいた方が身の為だと思いますけど、どうでしょう?」

 勇者様はここらへんで一つ素直に従った方が良いと思います。

 じゃないと勇者様、暫く目が閉じられなく(物理的に)なりますよ?


 頑なに目を閉じ続けていた、勇者様。

 だけど彼も観念する時が来た、と思ったんですが。

 いっそ自分の目が溶けても、という覚悟を示してしまわれたので。


 仕方ありませんが、先にネタばれすることにしました。

 本当に、残念ですけど。


「仕方ねぇ奴だな。別に他の奴らが裸って訳でもねぇってのに」

「えっ?」

「そうですよね、この場で真っ裸なのは――勇者様だけ、ですから」

「え゛」


 ええ、そういう訳なんです。


 流石に、年頃の男女で裸の付き合いは厳しすぎますでしょ。

 混浴風呂には混浴風呂の、混浴用のマナーとルールが存在しますとも。

 裸の付き合い=日常の親子兄弟夫婦関係の方は、裸でも構わないでしょうけれど。

 不特定多数の面子が集う混浴で、真っ裸なんて勇者は早々いません。

 今この場では、文字通り『勇者様』のみですね☆

 まあ、それもまぁちゃんが半ば騙したようなものですが。

「な、な、な……っ ま、まぁ殿ぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおっ!!」

 担がれたことに気付いて、勇者様が真っ赤な顔でお口をぱくぱくさせて。

 私にも今の今まで黙っているなんて底意地が悪いと、心なし拗ねた顔を見せる。

 恥ずかしそうに身体を縮めてしまった、勇者様。

 そのお姿、全裸に手拭装備の頼りなさ。


 比べて、その他の面子は。

 しっかりとりっちゃんが抜かりなく用意してくれた浴衣――入浴時に着る用の、薄い癖に透けないお風呂用の衣をちゃんと着こんでいて。

 勇者様がお一人、羞恥に自爆しました。



「――……面白かったし、これで金タワシは勘弁してやっか」

「え?」

 あと、まぁちゃんが何か意味不明なことを言っていましたが。

 タワシが一体どうしたって言うんでしょうね?

 



実はスタンバってた金タワシ。

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