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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
ピクニックに逝こう!
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73.勇者様にやる気を出させるマジカル☆アイテム

勇者様が平和にのんびりしていられるのも今回までです。

デート???編、最後の猶予をお楽しみ下さい。



 夕方だけど、おはようございます!

 しゃっきり目覚めた私の横には、何故か目を見開いている勇者様。

 普段ならここまで接近しないよね、という至近距離。

 目を覚ました瞬間からそうだったのか、勇者様は私の顔面をガン見したまま硬直しておりました。

 勇者様、どうしたんですか!?


 目を覚ました勇者様は、一体いつから硬直されていたのか。

 再起動してもらうことには成功しましたが、どこか気怠げで。

 なんだか随分と打ちひしがれたご様子でした。

 いったい何があったんでしょう?

「勇者様、元気を出して下さい……ほら、夕日があんなに綺麗」

「リアンカ、君が原因なんだけどな……?」

「え、私なにかしましたか?」

 きょとん、と。

 思わず首を傾げてしまいます。

 そんな私を見て、勇者様は溜息をついてしまわれました。

 項垂れたお姿が、とても様になっています。

「……本気で言っているんだもんなぁ」

 本当に、何のことでしょうか。

 どれのことを指して原因なんて言っているんでしょうか。

 心当たりが有り過ぎて、特定できません。

 もしくは心当たり全部をひっくるめて……?

 いや、でも勇者様が全部を把握しているとは思えないし。

 余計なことを言って墓穴を掘るのもアレなので、私はにっこりと微笑んで勇者様の頭を撫でました。

「その内……ええ、きっとその内、何か良いことがありますよ。勇者様!」

「気休めめいた励ましなら結構だ」

「いや、本気で……良いことありますよ?」

「何故だろう……リアンカが何かを画策しているようにしか見えないのは。俺の心が曇っているんだろうか」

 何故か勇者様が葛藤し始めてしまいました。

 思い悩んだり、落ち込んだり。

 勇者様の心の働きは、今日もなんだかとってもお忙しそうでした。

 心を亡くすと書いて、忙しい。

 勇者様、もっと余裕を持った方が良いですよ!


 今日は、満月。

 太陽が沈めば、(まばゆ)い月がお目見えです。

 魔境の満月は魔力による作用か、大気が歪んでいるのか、それとも魔性の仕業によるものか……人間の国々で見たよりも、大きく見えました。

 比較して1.7倍くらい。

 結構な大きさです。

 というか普段より確実に大きいです。

 あと、(たま)にお月さまが増えたりしますしね。

 何が原因かは知りませんが、魔境特有の怪奇現象として有名です。

 最初にそれを見た時の勇者様……取り乱していて、楽しい時間でした。

「ほら、勇者様! お花が咲きますよー」

 そうして、今この場。

 私達がいる、古の女王の薔薇園は。

 一年でこの月夜に限り、満開に咲き誇る。

 薔薇園内には入園資格を持つ方々が、ちらほらと。

 見事な花の盛りを見る為に、徐々に人が増えていきます。

 増えるといっても、例年通りなら魔族さん15人くらいですけど。

「この花は不気味に笑ったりしないだろうな……?」

「大丈夫、月光を浴びている内はただのお花です。月光を浴びている内は」

「なんで念を押すんだ。つまり日光を浴びたらおかしくなると言いたいのか」

「それは明日のお楽しみです☆」

「時間が止まれば良いのに……」

 切々と、勇者様は哀愁漂う呟きを洩らして月を見上げます。

 それはなんとも絵になる光景でした。

 うん、こんな場面を魅了耐性のないお姉さんが見たら……野獣と化しそうで危険です。

 幸い、今は危険な獣になりそうな人はいませんけど。

 勇者様もこれ以上ストーカーを量産したくないのなら、もうちょっと気をつけた方が良いと思います。

 本人は意識していない、何気ない行動にまで気を配らなきゃならないとか……大変そうですね、勇者様。

 今日は……時間を忘れて、薔薇を楽しんでもらいましょう。

「うわ……」

 勇者様の、驚きの声。

 その気持ちもわかります。

 私も、何度見たって見事だと思いますから。


 私達の目の前で。

 月光を最初に浴びたところから波打つように。

 一輪一輪の花が、一瞬で満開の薔薇に変わる。

 一斉に、花開く世界。

 瞬く間に、私達の目の前は大輪の花を咲かせる青薔薇で埋め尽くされました。

「これは……本物の青薔薇?」

「勇者様によくお似合いですよ?」

「いや、その返しはおかしい。絶対におかしい。男相手に言う言葉じゃないからな?」

「私は『男』なんて不特定多数じゃなく、『勇者様』個人に言っているつもりですよ。勇者様には、青い薔薇が似合いそうだなって思ってたんです。ずっと」

 特に、女装姿の時。

 ……言ったら怒りそうだから言いませんけど!


 暫し、勇者様と二人。

 満開を迎えた薔薇園の中を散策します。

 人間の国々では奇跡だの不可能だのと言われる薔薇も、今ここに置いては荷車に積んで二束三文で叩き売ってもまだ余りそうな程です。圧巻です。

 それというのも此処がかつては、青薔薇を愛した古代の女魔王様の秘密の花園だったからです。

 今となっては、秘密も何もあったものじゃありませんけど。

 当の魔王様が遺した仕掛けで、常日頃は静謐空間の此処ですが。

 

 薔薇園への立ち入り可能な人員にも限りがあるので、薔薇園の中はゆったりのんびり出来る環境が保たれています。

 他にも見物客はいるはずですが、なんだか勇者様と私しかこの薔薇園にはいない気がしてきます。

 錯覚だってわかっていますけど。

 一種独特な、何となく閉鎖的な。

 なんとも言い難い不思議な空間です。

 美しい景観であることだけは間違いないので、時間を忘れて景色に浸ってしまいそうですね。

 まあ、時間を忘れたら大変なことになるんですけど。

「なあ、リアンカ……」

「なんですか、勇者様」

「……いや、なんでもない」

「???」

 勇者様も時折、なんだか様子がおかしいのは場の雰囲気に呑まれているんでしょうか。

 なんでそわそわしてるんですか、勇者様。

「あ、そうだ」

「うん? どうしたんだ」

「実は、勇者様に少し手伝っていただきたいことが……この薔薇を摘んで帰りたいので、勇者様にもお願いできませんか?」

「ああ、構わない。……やっぱり、素材の採取だったのか」

「ええ? 素材は二の次……とは言いませんけど、この薔薇園に入れるのは一年で今日だけなんですよ? 貴重な素材を確保しておきたいって思うのは当然じゃないですか」

「リアンカは、いやハテノ村の薬師はそう言うと思った」

「それに、勇者様にとっても利のある話だと思いますよ?」

「え? どういう意味だ……?」

 首を傾げる、勇者様。

 それはまあ、いきなり利点がどうのと言われても意味不明ですよね。

 そこは私が丁寧に説明して差し上げることにしました。


 この薔薇園の元々の主。

 古代の女魔王は、とても凛々しい魔王だったそうです。

 具体的に言うと、その辺の野郎なんて目じゃないと女性陣に思わせるほどに。

 なんか、素で美青年と見紛う存在だったそうですよ?

 本人が嫌がったので、現在では肖像画一つ残っていませんけど!

 ですので真偽の程は不明ですが、そこらの男よりも『女性にとって魅力的な男性像』を投影したような女王(・・)様だったと……

 難儀な存在です、間違いなく。

 その不憫さは、度合い的にもしかしたら勇者様に迫るかもしれない。

 実際のところを知らないと、正確な比較はできませんが。

 

 言うまでもないことですが、某女魔王様は女性に大変おモテになった。

 それはそれは、本人にとって『大変』としか言えないくらい、モテた。

 そして結果として婚期が遅れた。

 二百年ばかり、独身で過ごされたそうです。

 女性達からの果敢なアタック(爆)は女魔王様の心身を疲弊させ、あわやノイローゼか、というところまで追い詰めた。

 更には男達も、そんな女魔王様のことを遠巻きにするのみ。

 自分よりも凛々しく女性に人気な女魔王に引いていた男共と、女魔王の周囲に強引に侍っていた女性達に駆逐され、追い払われて近寄れない男共。

 当時の魔王城は、絢爛豪華な百花咲き乱れるハーレムと化していたらしい。

 ただし、主は女 (ノーマル)。

 彼女が同性愛の気がなかったことが、いいえ……男に生まれなかったことが、当時にいくつの悲劇を生みだしたことでしょう。


「……と、そんな武勇的逸話の残る女魔王様なのですが。ほら、勇者様、目を逸らさずに見つめてみましょう? なんとなく勇者様に通じるモノがありますよねー……?」

「他人事とは思えない、思えなくって震えが止まらないんだが……俺は、どうしたらっ」

「落ち着いた方が良いと思いますよ。はい、生姜湯」

「何故ここで生姜湯……有難く、飲むが」

「身体が温まりますよ?」


 多分、古の女魔王様は正しく『女版勇者様』って感じだったんだと思います。

 性別が変わっただけで、魅了する対象が変わらないという……。

 勇者様の姿を当て嵌めて考えると、とっても涙が誘われます。

 たま~にまぁちゃんが勇者様を生(ぬる)くも(あたた)かい眼差しで見ているのは、御先祖の姿を投影している部分もあるのかもしれません。

 まぁちゃんの御先祖、記録が多すぎて把握しきれませんけど!

 まぁちゃんも別に御先祖様を思い出している訳じゃないかもしれませんけど!

 それでも勇者様の雄姿に、胸がつまることは結構あります。

 特に人間の国々で見た光景のアレコレは強烈でした……

 異性ならまだしも、同性相手にあんな目に遭遇するなんて、どんな拷問でしょうか?

 結婚出来て良かったね、蒼焔の女魔王様……二百年かかったけど!

「そして魔王城から少し離れたこの薔薇園は、女性に纏わりつかれて辟易し、心身ともに疲れ果てた魔王様がリフレッシュする為に度々足を運んだ安息の地だったそうです。魂の保養地ですね!」

「なんだろう……本当に他人事の気がしない」

「人が相手だと煩わしい思いに振り回されてばっかりなので、物言わぬ花々に癒しを求めたそうですよ。特にここの青薔薇達は女魔王様が直々に手を加えて改良した、思い入れ深い薔薇だそうです」

「気持はわかる。わかりすぎて、辛い……! だが、ストーカーというのは、気を抜けば何処にでも生えてくるだろう? 出入りの制限をかけていても、人気がなければ逆に強引にでも思いを遂げようと襲ってくる輩が何十人か出てきてもおかしくないと思うんだが」

「その実体験に基づくと思われる予測が何とも言えず涙を誘いますね……一人の空間を邪魔されたくなかったのか、その辺の対応策は女魔王様も練られたらしく、それ故にこの薔薇園は入れる人が少ないんです」

「? だが、俺は特に制限があったようには思えないんだが……」

「この薔薇園、一回でも同性に見惚れたことのある人は入れないよう、厳重に呪いが掛けられてるんですよ。流石に火急の用件で呼びに来る使者がいるかもしれないので、全ヒト型生命体を対象に出入り禁止にはしなかったそうですけど」

「どうしたものか……未だかつてなく親しみを感じる魔王の存在に、どうしようもない哀愁を感じるんだ」

「それ、たぶん勇者様が自分に対して潜在的に感じているヤツですよ」

 あと、基本的に女性は入れなくされているそうです。

 私とせっちゃんは、まぁちゃんの実力行使でちょちょいと呪いの設定を弄ってもらって入れるようにしてもらいましたけどね!

 ……古代の魔王様による渾身の呪いだっただろうに、まぁちゃん凄い。

「そんな女魔王の執念が染みついた薔薇が、今もこうして咲き誇っている……と」

「そう言われると一気にこの薔薇園が怨念めいたものに感じる」

「でもこの薔薇、きっと勇者様も気に入りますよ?」

「え?」

「女魔王様が殊の外愛を注いだのは他でもありません、この薔薇が彼女の研究の集大成だったからです」

「……教えてくれ、リアンカ。この薔薇に何があるんだ!」

「実はこの薔薇、精製すると女性忌避剤ともいえる香水が作れるんです! 世に(あまね)く女という女が嫌がるニオイを発して、半径百m以内に近寄れもしません!」

「な、なんだってー……!!?」

「ニオイといっても魔力を変質させたモノなので、男性には何のニオイも感じないそうですが……女性が相手であれば、その効果は圧倒的! 勇者様、ここでせっせと手伝って下されば、特別に勇者様用の香水を作って差し上げても良いんですけど……?」

「リアンカ、俺はいま……凄まじいやる気の向上に、自分で驚いているんだ。こんなに頑張ろうと思えたことは他にない!」

「断言しちゃいましたよ、この人。ただ、香水の効き目は半日程度でずっと続く訳じゃありませんからね? 一年分の材料を今日一日で取るんですから、勇者様の為に大した量も作れません。なので、最終奥義的奥の手として普段は温存して下さいよ」

「ああ、勿論だ! 切羽詰って心身に危機が迫った窮地にしか使わないと誓おう! だから、一瓶でも良い……俺にも、それを分けてくれないか」

 本当はこの青薔薇、繁殖期や子育て期間の危険な猛獣・魔獣の類除けや、それに準じた用途が主目的の薬剤精製の為に必要なんですけど……安全性が確かなので、ハテノ村でも人気の獣除けなんです。

 でも勇者様お一人の分くらい、融通しても構いませんよね?

 本人もこうして、やる気を出してお手伝いしてくれていますし。

 ただ、これだけは言わないといけませんよね。


「ああ、それと勇者様」

「ん、なんだ?」

「勇者様がその香水を使った場合……向こう半日は我が家に入れませんから」

「っ!?」


 ええ、効果が続く限りは絶対に家に入れたりしませんからね?

 私も母さんも、その香水の匂いは大っ嫌いです。

 勇者様がソレを使って、夜にでもなっちゃった場合は……勇者様ハウス(某緑の館)にでも叩きこみますから、そのおつもりで。


 



 勇者様は最終兵器の入手権利を手に入れた!

 だが、その最終兵器は諸刃の剣だった……。


 このデート???編の本領は次回以降発揮されます。

 勇者様の危機と不憫と心労をお楽しみに!

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