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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
試合開始のゴングが鳴った
65/122

63.予選(魔法なし)の部:私のペットを紹介します

ただいま絶賛迷走中。



 活力を取り戻した、騎士B。

 余程さっきの朗読会が精神的に堪えたのか、自衛もままならない程に非力で無力な村娘(私)に対して怒りも顕わに剣を振り翳しておいでです。

「やぁん、一介の村娘相手に武力行使ですか? わあ、騎士に……いいえ、紳士(おとこ)にあるまじき行為! 勇者様とは大違いですね!」

「いちいち挑発してくる意味はなんだ!? アルディーク嬢、君は間違っても一介の村娘というには図太過ぎる!! ただの村娘が大型の高位魔獣を平然と乗り回すか!?」

「いやですね、村娘は村娘ですよ? ただし魔境基準に準じる」

「一般常識にはちっとも準じていない!」

「人間さん達の常識と魔境の常識を一緒にしないで下さい! 私ただの人間ですけど!」

 これ、ブチ切れって奴でしょうか。

 騎士Bの燃え盛る闘志を感じます。

 うん、鎮火して差し上げましょう。

「カリカちゃん、GO!」

「がうっ」

 一声鳴いて、地を駆けるカリカちゃん。

 目指す先、騎士Bは剣を抜いて迎撃の構え……ですが。


 圧倒的質量を前に吹っ飛ばされました。


 え? 差し出された剣?

 カリカちゃんの爪付き猫パンチでぱっきり折れましたよ。

 綺麗に真っ二つでした。

 あっはは、弁償するのはやぶさかでもありません。 

 ちゃんと騎士Bに似合いの『呪われた長剣』を探し出してきて差し上げます。こう……鞘から抜くと、服を脱ぎたくなる系の呪いが掛かった剣を!

 是非その時には、大勢の村人の前でお披露目会をしていただきたいものです。


「……くそっ 大型の魔獣相手では不利か!」


 騎士Bはまだ粘ります。

 吹っ飛ばされながらも懐から取り出したのは……あれ、棍棒?

 騎士の癖にサブウェポンおかしくないですか。

 予想外に野蛮な打撃武器に、ちょっと目を見張りました。

 両手に握って構えた棍棒は、どうやってサーコートの下に収納していたのかと不思議になる大きさです。

 もしかして魔境で入手した魔法の武器でしょうか。

 魔族さんが悪乗りして作った武器なら、収縮可能等の機能が付いていてもおかしくはありません。

「まずは、へし折る……!」

 物騒なことを言い出しました。

 というか、露骨にカリカちゃんの前足を狙っています。

 正確に言うと……爪の付け根、指先の部分を。

 根元から叩き折るつもりですか!?

 カリカちゃんの頑丈さなら大丈夫だとは思いますけど……小指の爪を打ちつけた時の痛みは、私にだってわかります。

 あの痛みをカリカちゃんに味あわせるだなんて!

 これはマズイと、焦りが私を急かします。

 腰につけたポーチから、取り出したるは……


 私は思いっきり、騎士Bの顔面めがけて薬瓶を投げつけました。


 そう、ついとっさに。

 咄嗟に、ですよ?

 ついつい思わず焦りに呑まれ、丁度良く手が触れた瓶を投げつけちゃった訳ですが。

 投擲した瓶の色は、赤。

 ……あ、護身用の薬液瓶だった。


「!!っ……ぐ、ぎゃぁあああああっ」

「……ふぅ。また一人、犠牲者を出してしまいましたね」

 しっかり濃い目だけど希釈済み。

 だって原液はマジでやばいから。

 流石に人ひとりの身体を物理的に損ねさせたいとは思いません。

 奴のやったことを思えば、社会的に抹殺することも止むを得ませんが。でもやっぱり薬師として、過剰に害するのは……ねえ?

「ぐぅ……目が、目が……っ」

「原材料は魔境産キャロライナ・リーバーとドラゴンスレイヤー……私お手製の防犯用☆唐辛子スプレー液を被っちゃったようですね」

「防犯用の域、越え……っぐは!」

 足下にきたのか両手で顔面を押さえながら、ふらつく騎士B。

 そんな彼に再びカリカちゃんの猫パンチ!

 今度は上から押しつけるように叩きつけ、騎士Bは吹っ飛ばされずに抑え込まれました。

「取り敢えず、薬師の情けです。このまま放置して失明でもされたら目覚めが悪いので洗浄タイムを設けましょう」

「ぐ、うう……」

 目が痛いのか、涙だらだらな騎士B。

 きっと、今は目も見えていないことでしょう。

 すぐに楽にしてあげますからね?


 私はそ……っと、両手にジョウロを掲げました。


 たぷんと揺れる、若干粘性の高い透明な水薬。

 処方の仕方は簡単、かけるだけ。

 中身は炎症・かぶれ・ニキビ・薬物反応・アナフィラキシーショック……その他諸々によく聞く即効性の万能薬です。

 ただしよく効く代償に寄生植物が芽吹きます。


 綺麗に咲けよ……。


 私はジョウロを傾け、騎士Bの頭にとくとくと注ぎました。

 ええ、全くの遠慮もなしに盛大に。

 薬効のある寄生植物の種が、この薬には漬けられているのですが。

 加熱したら薬効が死んじゃうし、そのままだと寄生植物の生命力が強すぎて死なないし。

 この薬に頼る者は寄生植物の宿主にされるところまでが既定路線。

 体の表層にかけるだけなら、表皮の上に浅く根を張って成長するだけ。身体の内奥深くまでは浸食されずに済みますから。

 成長しきって実が成った頃合いになれば、根っこまで簡単に引っこ抜けますし、痕跡も長くは残りません。

 うっかり服用して直接体内に取りこんじゃったら、命の保証は出来かねますが。

 呑みこんで腹の奥から内臓ぶちまけて急激成長……なんて展開にならないだけマシだと思って諦めて下さい。


 ……別に他にも安全な薬はあったんですけどね!


 そして。

 騎士Bの頭には。

 それはそれは綺麗な大輪の花が一輪、咲き誇りました。

 こう、軽い感じのポンっという音を立てて開いた花。

 花の形状はどことなくダリアに似ています。

 ただし色は土留め色と紫のマーブル模様。

 一度咲いた花は、ざっと三ヶ月くらい咲き誇ります。

 枯れるのはまだまだ先ですねー……。

 更に伸びて蔓延る花の根が、みるみる内に騎士Bの身体を拘束していきました。

 わあ、全自動拘束具ですね☆

 都合が良いので、このまま追い込みましょう。


 私は先程、使用を決意したアイテムに改めて手を伸ばします。

 騎士Bをおちょくるのが楽しくて、先延ばしにしていましたが……やはりここは使ってしまいましょう。

 ペンダントトップとして、私の胸元で揺れる銀の笛。

 小さいながらも音量はばっちり☆

 私は躊躇うことなく、高らかに響き渡れと笛を吹き鳴らしちゃいました。


 この笛の音で、何が呼び出されるのか。

 きっちりその効果をわかった上で。


 そうして、時を置かずして。

 

 私の予想通り。

 予想というよりも、経験で知っている通り。

 『彼女(・・)』が、降臨しました。


「ロックな巨鳥、マリエッタちゃん――!!」

「ちょっと待てぇぇえええええええっ!!」


 おや?

 観客席の方から聞き覚えのある声で何か聞こえましたか?

 うーんと……まあ気のせいでしょう!

 それより今は、マリエッタちゃんです。


 雛の頃から私とまぁちゃんと、せっちゃんと。

 三人でせっせと育てたロック鳥(主食は象)が、空に君臨☆とばかりに現れたのです。

 ……ふふ? これで魔物じゃなくって、ただの『鳥』なんですよ。

 生物として何かがおかしい上に、魔境っていう環境に順応していますけどね!

 そういう(・・・・)生態の大きな鳥さん。

 元々は我が家の開祖が飼っていた鳥さんのご子孫鳥。

 彼女のはばたく風圧で、騎士Bの動けないまま吹っ飛びました。

 そこをマリエッタちゃんが、すかさずお口でキャッチ!

 鳥さんの嘴に襟を咥えられ、騎士B宙ぶらりん状態。


 頭に花を咲かせ、体中を根っこに拘束されて。

 ぷらんと垂れ下がるお姿は、照るてる坊主にどっか似ています。


 先程以上に手も足も出ない様子。

 さあて、どう料理してやりましょう。


 決めました。


 私はにっこり笑って、朗らかにGOサインを下すだけ。

 誰にって?

 もちろん、我が愛しのペットちゃん達に☆


「マリエッタちゃーん、カリカちゃん……やっちゃえ!」


 さあ、彼らの初めての共同作業です。

 私のペット歴で先輩に当たるマリエッタちゃんには後進育成の意味でもカリカちゃんに丁寧な指導をお願いしたいところです。

 私の意図を汲んで、盛大にやっちゃって下さい。


 マリエッタちゃんが長い首を、ぶんと揺らす。

 咥えられていた騎士Bは反動をつけて宙に放られ……

 地面に落下する前に、カリカちゃんがお口でキャッチ!

 そのまま地面に突っ込むようにして、騎士Bの肉体を叩きつけました。

 ……あれ、骨とか内臓とか大丈夫でしょうか。

 カリカちゃんの体重が少なからず負担をもたらしていそうな……いえ、深くは考えるまい。

 後で治せば良いんです、後で。うん、後で。

 今はまだ大丈夫そうだと思います。

 カリカちゃんが、上機嫌でびったんびったん前足パンチを繰り出していますから。

 そこにマリエッタちゃんが加わり……身体を屈め、首を下げ……


 ――かかかかかかかかか……っ


 巨体に似合わぬ素早さで、連続して騎士Bがいる辺りを(つつ)き始めました。

 マリエッタちゃん……貴女はいつからキツツキに転向したの?

 本当に、キツツキの仲間かと見紛うばかりの見事な突っつき様です。

 カリカちゃんが重厚な前足にくきゅうでぺったんぺったん騎士Bを地面に叩きつけ。

 マリエッタちゃんが穴よ開けとばかりに突き倒し。

 現場はにわかに袋叩きの情景を描きつつあります。

 二対一なのに、袋叩き。

 というか私刑(リンチ)

 うん、この例えは間違っていないと思います。

 生物として大きめな一羽と一頭に地面に縫い付けるような攻撃を喰らい、騎士Bは息をつく間もないのか、反撃も出来ないのか。

 手も足も出ないと、一方的にやられまくっているようです。

 …………生きてますか? 生きてますよね?

 

 なんだか心配になって来ました。

 私の主目的は騎士Bをうんと懲らしめた上で、ラーラお姉ちゃんに心からの謝罪をさせること。

 死なせてしまうことは本意ではありません。

 私がやらせておいて何ですが、私のペット達は手加減というモノをしらないような気がします……。

 ここはちょっと、生存確認をしてみましょう。


 迂遠かもしれませんが、攻撃をやめさせて確認……は万が一騎士Bにまだ余力があった場合、戦う手段のない私の方がむしろ危険にさらされるので止めておきます。


 Q.ではどうしましょう。


 A.騎士Bが反応せざるを得ないようなことをしてみます。


 具体的に言うと?

 読みましょう。

 今度こそ、アレを。


「――『魔境に来てから、ほんの数日で俺は自分の役立たずぶりを痛感した。いや、役立たずなことだけじゃないな……俺は自分をもう少しまともな人間だと思っていた。だが、どうだろう。

胸が痛む。女性を泣かせてしまった――』」


 騎士Bの、日記を。


「!!?」

 ……あ、カリカちゃんの肉球の下から息を呑む声が聞こえました?

 私の耳の錯覚でしょうか?

 ちょっとまだ確証が持てません。

 もう少し、読み進めましょう。

「『自分の動揺を抑えきれないから、俺は未熟者なんだろうか。意識を失うくらいの一撃でも、俺の惰弱な精神は矯正できないらしい。情けない。本当に情けない』」


「~~××☆●×△×ッ!!」


 あ、今度こそ間違いなく騎士Bの反応ですよねアレ。

 生きてます生きてます、ちゃんと生きてましたねー。

 ではもっと読み進めましょう。

「『だがもっと情けないのは、俺の認識力なんだろうか。相手をどう扱うかの基準に、種族が大きくかかわっていることを否定はしない。相手は魔族……そして魔族は、憎むべき敵。そのはずなんだ。なのに、どうしてだろう? 彼女の泣き顔が、胸をえぐってこじ開ける……』」

「ま、待て……っ 人のプライベートになんてことを!」

「……あれ? まだ余力がありますね。カリカちゃーん、やっちゃえ!」

「がう!」

「ぎゃぁぁあああああああっ!!」

 プライベートの侵害?

 今更です。

 そして性犯罪者にはそのくらいしても良いと思います。

 私の独断と偏見ですけれど、ね。

 私はカリカちゃんに頭をがじがじやられている騎士Bに生温い眼差しを注ぎ……ぴんと延びたカリカちゃんの尻尾に腰掛けて続きを読みます。

 ゆったりゆらゆら、ブランコみたい。

「『お、おれの右手が……っ この右手が悪いのか!! 何て罪深い。だが、なんて、なんて、なんて……ああ、駄目だ。書きながらも筆が乱れる。文字が震える。この動揺を何とする。悪辣なこの手の、あの悪行……だが感触が、柔らかくてふっくら、ぷにょっと……俺の馬鹿野郎! でも甘美な感触が手に残って離れない!! 俺は馬鹿か、馬鹿なのか!? 破廉恥野郎か、俺は、俺は……俺の痴漢野郎!!』……なんだか自責の念にかられてるっぽいことを言いながらも、何となく自己肯定してません? このへん」

「や、やめ、や、め、ろぉぉおおおおおおおおっ!」

「こんな文章、日記に書き残している時点で「やめろ」は貴方に言って差し上げたい。というか、この後も数行ほど詳細な感触の感想が書いてあるんですけど……気分が悪いので、そこは割愛して飛ばしちゃいますね! というか日記の日付と記述を照らし合わせるに、魔王城の医療棟で入院生活のスタート切ってから約一月の間に、事故だ偶発的接触だのと言い訳付きで25回くらい一方的で過剰なお触りの回数が記録されてるんですけど!」

「お、俺が悪い訳じゃない……なんというか、そう、時の巡りが悪かったんだ!!」

「往生際が悪いですよ!! 己の悪行は潔く認めなさい!」

 自分誠実です、みたいな顔しておいて一日平均何回触る気なんですか!?

 最早故意か偶然かはどうでも良い段階だと思うんですよね。

 ラーラお姉ちゃんが性格的に強く出られないのをボディタッチしまくっているようにしか思えませんよ?

 まあ、態度で強くは出られない代わりに反射的な反撃を食らうことも多数、だったようですけれど。

 でもそれで入院が伸びて、接触の機会が長くなっていることを思うと……本当は狙ってやったんじゃないかと勘繰りたくなるのは仕方ないですよね?

「か弱く……はありませんが引っ込み思案な女性にこんなことをするなんて、相手をなんだと思っているんですか。最低!!」

 からっと薄っぺらな笑顔で断罪しましょう。

 観客席の皆々様に向けて「どー思いますかー!」と問いかけたら、ノリの良い観客さん達がせーので声かけ合わせて「ギルティ!!」と叫び返してくれました。下に向けられた親指が素敵です。

 ちゃんと反応してくれる彼らの心の温かさが身に沁みます。

 そして間を置いて、騎士Bに対する一斉ブーイング……。

 断罪されろ、騎士B。

 可憐で内気なお姉さんに対する一方的なお触りは、この世のどんな悪行にも勝る罪悪です。私の主観では、ですけどね!

 



リアンカ・アルディーク

 武器:カリカちゃん(魔獣:サーベルタイガー)

     騎士Bの日記帳

     拡声器

     騎士Aの愛読書

     マリエッタちゃん(ただの鳥:ロック鳥)

     ???


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