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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
試合開始のゴングが鳴った
58/122

56.予選(魔法なし)の部:客観的に見てもかなり酷い

今回は、サルファの姿説明を書いていたら勝手に指が走り出したというか止まらなくなりまして……

酷い事に、サルファの姿説明に終始した回となりました。

サルファの格好になんて興味ないよ!という方は読み飛ばしても問題ありません。


 さてさて、とうとう何やら始まってしまいました。

 サルファとその許婚ちゃん、宿命の対決です。

 何となく面白そうなので、当然の如く私はまぁちゃん達と一緒にサルファの試合を観戦に来ています。

 え? 勇者様の試合はどうしたのかって?

 皆様、冷静に考えてみましょう。

 野郎共に本物の女性だと信じ込まれた上で熱狂的な声援を受ける女装勇者様(お嬢様風)の試合と、結婚を賭けた許婚ちゃんとの勝負にまさかの女装(場末の水商売風)で挑むサルファの試合ですよ?

 

 どう考えても、サルファの試合の方が面白そうじゃないですか。

 

 勇者様の女装は確かに目の保養なんですけれど。

 言ってみれば、その主な楽しみ方は勇者様の女装によって削れるメンタルと翻弄される試合相手や観衆の滑稽さにあります。

 でもサルファの試合は、試合相手が親の決めた許婚なんですよ?

 サルファの実家が良い家だと今更思い出しましたが。

 ……まさかの女装姿で立ち合いに臨むサルファと、その相手をしなければならない許婚ちゃん。

 サルファのことですから、女装にもきっと手を抜くことはないでしょう。

 普通に綺麗系、なんて面白みも何もない無難な方向に走るとは思えません。

 十中八九、芸人魂を発揮してイロモノに走るはず。

 かつてまぁちゃんによる『ナターシャ姐さん』を手がけた奴のことです……生半可なモノに落ち着くことはあるまい。

 ええ、やっぱりサルファの試合の方が面白そうです。

 悲喜交々という言葉が似合いそうな試合ですよね。

 ちなみに試合の行方はサルファの敗北に賭けました。


 ……が。


 試合会場に入場してきたサルファの姿を見て、私達は再起不能一歩手前に追いやられています。

 主に、腹筋の危機です。

「ぶはっ」

「さ、さ、サルファ……っ」

 

 私、ちょっと奴の本気を舐めてました。


 呼吸困難に陥りそうなほどの笑いの衝動。

 まぁちゃんなんか我慢もせず、しゃがみこんで衝動のままにがんがん観衆席の鉄柵殴ってますよ。へこむへこむ、いや吹っ飛ぶって!

  ……鉄柵が完膚なきまでに破壊されないところを見るに、笑いに苦しみ悶えながらもまぁちゃんてば力加減は完璧☆

 うん、まぁちゃんも流石です。

 遠慮会釈なく爆笑する、ヨシュアンさん。

 爆笑しながらも手元はスケッチの為にガリガリ筆を動かしている辺り、後々で何かのネタにしようというプロ根性。

 いや、あれ? 画伯の本職は軍人さんだから、アマチュアなのかな?

 どっちにしろ、私は見る機会なんてありませんがいつか近い将来、画伯の新刊にはリアルなお化粧モンスターが登場しそうですね。

 どんな役回りが振られるかは謎だけど。

 一方全然堪える素振りすら見せない魔王陛下とエリート軍人さんとは打って変わって。

 一応デリカシーを装備しているらしい子竜……ああ、もう子竜とは呼べませんかね?

 若竜二人は一所懸命に笑いを堪えるという無駄な努力に走っていますね。大変苦しそうです。

 リリフ、顔が真っ赤ですよ。

 そんなに苦しいなら素直に笑っちゃえば良いのに。

 涙目になってまで堪える必要が何処にあるのでしょうか。

 ロロイ、貴方がそんなに笑うところ、初めて見たよ……。

 普段からクールぶっているところのある子です。

 素直ではあるんだけど、露骨な感情を顔に出すまいと頑張っちゃう子なので、満面の笑みとか爆笑とか笑い涙とか早々滅多に見られるものじゃありません。

 いま、私は物凄くレアな光景を見ている気がする。

 まさか少年時代じゃなく、更に格好つけたいだろう青年期になってからそんな姿を見ることになろうとは思いもよりませんでした。

 体が大きくなっちゃったから、今までよりも更に表情筋を抑え込もうとするだろうなーって思っていたんですけどね。

 そんな私の予想を裏切らせたサルファは、ちょっと凄いと思いました。

 そしてせっちゃんはいつもとあまり変わりのない様子で、にこにこと通常運転の笑顔を浮かべていました。

 あれ? サルファの笑いの影響は?

「せ、せっちゃん……っ」

「はいですのー?」

「せっちゃんせっちゃんせっちゃん」

「どうしましたの? リャン姉様」

「……あの気色悪い女装見て、なん、なんとも思わないのっ?」

 言っている傍から、私の腹筋はまだダメージを蓄積中なのですが……

 せっちゃんよ、何故に貴女はそんなに平然としているの?

 まぁちゃんも口元をによによと笑いの影響に歪めながら、せっちゃんに問いかけました。

「よし、せっちゃん! ちょいとあの気色悪い変態の感想言ってみ?」

 まぁちゃんの言うことは確かにその通りなんですが、結構ズバッと直球で言っているので傍から聞くととんでもないない様に聞こえますね。

 よし、後でサルファ本人に私も言ってみましょう。真顔で。

「感想、ですの~?」

 問いかけられたせっちゃんはこてっと首を傾げ、じっと素直で無垢な瞳をサルファに向けました。


 今のサルファの格好ですが。

 説明するまでもなく酷いことになっているのですけれど、一応説明してみるとしましょう。

 身に纏ったドレスの説明は、要りませんよね?

 以前、勇者様のご実家で開かれた舞踏会の際、『ナターシャ雄姐様』に扮したまぁちゃんが纏ったモノ、それそのままです。

 そこそこ細くとも貧弱とは言えない野郎体型に合わせたドレスなんていう奇特な物体は、流石に数日で作れませんからね。

 以前のモノの再利用となるのも致し方ないでしょう。

 あれは名付け親妖精フェアリーゴッドマザーを虚ろな眼差しに追いやりつつも、細かく注文付けて出してもらったドレスですからね。

 魔法の産物ということで、一応は貴重品扱いでそれなりに大事に保管しておいて良かったですね?

 まさか再利用する時が来るとは七割くらい思っていませんでしたが。

 それでも再び日の目を見る時が来たのかと、微妙に感動します。

 相変わらず黒いレースに施された白い蝶の刺繍が、蜘蛛の巣に引っ掛かった紋白蝶にしか見えませんでした。

 さて、此処までは以前にも目にしたモノですから。

 着用者が変わったところで、そこまで笑いの衝動がある訳じゃありません。いえ、そこそこは笑えますけど。

 酷いのは、此処からです。

 

 サルファの青い様な黒い様な髪はカツラや付け毛で誤魔化すことなく、そのままの長さなのですが。

 自前で結えるほど髪の長いまぁちゃんと違って、サルファの髪は精々襟足を超えるほどの長さしかありません。

 なので髪型を弄る余地はあまりないかと思われたのですが……

 ヤツは頭に大きなリボンを巻いていました。

 幅広の、ラメがきっつい紫のリボンです。

 それにスパンコールの散らされた黒い網目状のレースが組み合わされた、ギラギラと目に痛いリボン。

 まるで頭に大きな毒々しい花か蛾がくっついているように見えます。

 更にリボンと頭の間に差し込まれているのでしょうか。

 なんだかフラミンゴの立ち姿を連想する、カラフルに着色された鳥の大きい羽根が飾り立てられております。

 ちょ、ちょっと頭飾りには大きすぎるんじゃないかな、そのサイズ(笑)

 サルファが動く度にひょいひょいと揺れる頭の羽根が、なんだか凄くマヌケです。

 サルファの顔は奴自身が得意とする化粧術のある種奇跡が顕現しておりました。

 どうやったらそんな顔になるの?

 普通に不思議です。

 ナターシャ姐さんも凄まじくケバケバしかったけれど。

 サルファ、凄い遊び心ですね。

 眉毛は 麿(まろ) で、睫毛は異常なほど盛られ。

 良く見たら睫毛にラインストーン的な小さい石が飾られています。

 うん、どうやってそんな所に、そんな装飾を……

 お陰で奴の目の周りがすっごいキラキラしていて、とんでもない目力へと換算されております。

 睫毛は異常ですが、それ以外の目元にはこの前、サルファが勇者様の顔を弄りながら鼻歌交じりに説明していた「愛されなんとか」というメイクの手法が読み取れます。

 顔にはたかれた白粉は、真珠の粉を配合したという人間さんの貴族達が愛用する最高品質のモノでしょう。日光を照り返して、不思議な光沢を生み出しています。うん、顔面全体が。

 そこに薔薇色チークがいい感じに温かみのある印象をつけている訳ですが。

 例によって例の如く、敢えて滅茶苦茶化粧が濃く施されているので、ほっぺに丸く赤い色が浮かんでいるよ……むしろ浮いているよ。

 奴のおふざけ心は、更に頬に渦巻き模様までセットで付けてしまったようです。

 渦巻き、赤系薔薇色の上にコーラルピンクで書かれているので、自然に溶け込み分かり辛くなっているけれど。

 でも使用されているチークと渦巻き模様の化粧品としての品質の差なのか、何かの拍子にハッとするほど渦巻き模様が目に焼き付きます。焼きついて、渦巻きが目に残る。サルファ、それアンタわざとだろ……。


 そして、口元。

 まさかのおちょぼ口メイクでした。


 サルファ……眉毛と頬と口元だけならとても合うけどね?

 目元が大真面目だから、ものすっごいアンバランス感が……!

 化粧一つで目の大きさまで印象操作する奴のこと、やり過ぎたらえらいことになるという悪い見本が完成していました。

 でも何よりも凄いのは、このおふざけ感満載のメイクがそれでも不思議な調和と統一感を保っていること。

 個性的としか言い様のない、顔なんですが。

 何故か不思議と自然な風格が漂っていました。


 それだけではなく。

 ドレスは先程言った通りですが。

 サルファなりのアレンジなのでしょうか……

 ドレスの寸法はまぁちゃんぴったりに作られていました。

 つまり、偽胸を仕込む布地的な余裕がありません。

 だから野郎の固い胸板ダイレクトだったはずなのですが。

 

 ちらりと白いレースが覗いてるよ……


 奴はどうやら、ドレスの下に大真面目に何か追及してはいけないモノを仕込んでいるようです。女性下着的なナニかを。

 それもわざわざ、ドレスから大幅にレースが覗くようにドレスにタイプの合っていない型のモノを。

 人間さん達のお国を行脚して知りましたが、あっちには女性下着に多種多様なタイプがあるみたいなんですよね。

 その中から、わざわざ。

 うん、わざわざ取り寄せたのか作ったのか、それとも元から持っていたのか……出所は謎ですが、明らかに着用しておる。

 ……よくサルファが着こめるサイズのモノが見つかりましたね?

 更にドレスのスカート部分、左側を大幅にたくしあげ、強引にスリット的なチラ見え隙間を形成させています。

 そこから覗く、ガーターベルトと網タイツ……。

 そして、真っ赤なハイヒィィル……。

 あまりに酷い。


 サルファ、何が貴方にそこまでさせるというのでしょう。


 今の奴は、どこからどう見ても悪目立ちの見本です。

 品性という要素(モノ)が欠片もありません。

 しかもあの姿を観衆の前にお披露目となった時、奴は試合相手となる許婚ちゃんを目前にこんな決め?台詞を叫びました。


「 俺 の () っ ぱ い で お や す み ☆ 」


 最悪です。

 あまりの最悪具合に、腹が捩れそう。

 おまけに声が、声が……!

 誰のものかは知りませんけれど、なんだか上品で優美な女声だったんです。

 姿とのギャップで、尚更気持ち悪い。

 その気持ち悪さもサルファの持つ薄っぺらくて軽~い空気のお陰で、爆笑を誘うお間抜けなものとなり果ててますけれど。

 凄いですね、サルファ。

 よくぞまあ、そこまで捨て身になれますね。

 芸人として考えると凄いけど、アンタ軽業師じゃなかったっけ?

 体を張るにしても、専門外の方向に頑張り過ぎじゃないでしょうか。

 ほら、見てみましょうよ。

 十二歳の繊細な乙女心を大切に育ててきただろう、許婚ちゃんが涙目ですよ。

 いやいや、これはもう本当に酷い。

 

 事情を知る誰がどう見ても明らかに。

 サルファの所業☆は酷いとしか言えません(笑)

 衆人環視の前で宣戦布告されたってサルファが言っていましたし、結構事情通の観客も大勢いたみたいで。

 許婚ちゃんには可哀想ですが、そこまでやるかと笑い転げている人はたくさんいました。うん、本当にたくさん。

 事情を知らなくっても笑える姿ですが、事情を知っていたら尚更呼吸困難の危機に追いやられます。

 でも笑えるけど本当に酷いから。


 会場の空気は、一気に許婚ちゃんへの応援ムードになりました。


 いや、私だったらあんなのと結婚とか、サルファに殺人の嫌疑をかけて牢にぶち込んででも御免ですが。

 この試合、許婚ちゃんが勝ったらサルファとの結婚になるんだよ?

 本当に応援して良いの?と。

 そういう声もちらほら聞こえ始めて。

 いっそここはサルファが勝った方が許婚ちゃんも踏ん切りがつくんじゃないかと。

 その意見には確かに一理あると頷くおっさん達もいて。


 一度は観客席も許婚ちゃんへの応援という機運が高まりはしたのですが。

 サルファの酷い姿に見慣れてきて、ちょっと落ち着いて。

 それで冷静になってきた頭では、どっちに勝てとも言い難い。

 そんな微妙な空気に、観客席は包まれつつありました。

 



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