53.闇の業を背負いし男
部門ごとに、勇者様には別の仮装を。
更に言うなら違うテーマを。
そうと決めて、衣装も日数が経つ程に進化させていく予定です。
今日も明日の試合の為に、勇者様の衣装合わせ。
明日は【頭脳戦の部】……戦術の巧妙さを競う大会予選。
……とはいっても、ある程度の頭の良さを前提としていますからね。
ちょっとした筆記試験とクイズ大会と、心理ゲーム的なものを交えたタイムトライアルで【頭脳戦の部】の予選はちゃちゃっと終了します。
全体で【頭脳戦の部】の予選って、二日しかないんですよ。
だから予選期間の内に【頭脳戦の部】の為に仕上げた衣装を公開する日数も少なくて……余計、気合いが入りました。
ほんのわずかしか目に触れない。
だからこそ、より技量を尽くして目を奪う出来にしてやろう……と。
という訳で、今現在。
勇者様にはその気合いの入った衣装を試着してもらっています。
後は細かい微調整で完成です☆
その衣装の概要は……
黒を基調とした衣装とのコントラストをより印象的にメリハリつける為、まぁちゃんのお祖父ちゃんの毛を刈って生まれたという白銀ロン毛のカツラを被り!
襟の開かれた深紅のシャツからチラリとのぞく、黒い革のチョーカーには真っ赤な紅玉が際立つ逆さ十字のチャームを揺らし!
体の線に沿う細身のボトム。切り替えしに白と濃紺の模様を配したニーハイブーツには、銀の鎖と革ベルトで固定された投げナイフ!
異界の知識を参考に仕立てた『軍服風』の黒い上着は、サーコートとはまた別の趣があります。
ただ単純に真っ黒いだけでは面白みがありませんので、光を照り返して紫の光沢が現れる特殊な生地を贅沢に使いました。
面倒だったのはジャケットそのものじゃなくって、そこに配した装飾の数々でしょうか。銀の飾りボタンや腕章はまだまだ序の口で、金の徽章だの背中に刺繍した紋章だの、肩のよくわからない飾りだの……まあ、口伝てに教えてもらった知識だけで作ったにしては頑張った方だと思います。
そもそも衣装の参考にされたのだろう元ネタの方を知らないので、完璧に模倣出来ているかどうかは自信がありませんが……
見栄え的に違和感や不足はないですし、これはこのままで十分な出来栄えじゃないでしょうか。
揃いの袖付き外套も、着用した際のバランスを考えて随分と頭を悩ませたものです。
後は勇者様に小道具を装着させましょう!
黒革手袋だのピアスだの黒地に銀糸で上着と揃いの刺繍を施した眼帯だのをつけていただいて、それから眼帯をつけていない方の目にまぁちゃんに幻術で細工(色を紫にした上、真っ赤な五芒星を浮かべる)をしてもらって……ちょいと化粧を致しましたら、はい完成!
見事に痛い人に仕上がりました。
ちなみに今回の仮装……テーマカラーは、『 黒 』。
そして衣装のモチーフは何を隠そう、『 黒 歴 史 』です。
参考資料の提供と、作成の相談に乗ってくれたのは悪魔のヤマダさん。
テーマを黒歴史にするか……と決めたところで、じゃあ『黒歴史』とは?と首を捻っていたところ、シャイターンさんが助言してくれたことが相談を持ちかけた切欠になります。
シャイターンさん曰く、「チュウニ病とは即ち、黒歴史の宝庫である」とのことで。
だったら、とヤマダさんに長距離回線を繋いでもらいました。
そうしてヤマダさんが考える「黒くて格好良い衣装」についてご教授願った次第です。
一緒に水晶玉越しにお話を聞いた画伯がいくつかデザインを起こし、更に過剰装飾を施したあたりでヤマダさんからGOサインをいただきました。
黒い歴史を沢山お持ちだという悪魔さん曰く、この上更に勇者様が黒い翼を生やしたら完璧(カンちゃん融合ver.)だそうです。
ヤマダさんの故郷である異界では、こんなに装飾過剰な軍人さんが標準なのでしょうか。ちょっと戦々恐々としました。
動き難いだろうし、戦うにもこんなに装飾って必要なの?と。
こんなゴテゴテしたので本当に良いんだろうかと、画伯と二人で不安に思ったモノでしたが……
実際に作り、着せてみればわかります。
私達の不安は案じるだけ杞憂に終わったのだと。
流石、人類最高峰の超絶美青年。
勇者様……半端なく似合うね。
何を着せても着こなし、似合う。
どんな衣装だろうと彼が着れば格好良くなる。
そんな奇跡の人材が、目の前にいました。
着せ替え人形にするにはうってつけの人材です。
勇者様をモデルに着せ替え人形を作ったら、大人気になるかもしれませんね?
……ああ、いや、うん。
『邪悪な目的で買い漁る勇者様の狂信者さん達と、その奇行に悩まされて寝室に引き籠る勇者様の図』が簡単に想像について、可哀想になりました。
「勇者様、強く生きてね……」
「そう思うのなら、こういうイロモノの服を着せようとするのは止めてくれないか……?」
今日の衣装を見て、殊更げんなりしていた勇者様。
それでも素直に着てくれるあたり、勇者様の「たとえ一方的なものでもきちんと約束は守る」姿勢は素晴らしいと思います。
衣装を見る度にご尊顔、引き攣ってますけどね!
今回の衣装は特にイロm……面白そうなので、仕上げ担当のサルファも衣装原案のヨシュアンさんや騎士Cも呼んで内輪のお披露目会です。
皆で、闇の歴史に染まった勇者様を囲んでやんやの喝采を送ります。
勇者様は目が死んでましたけどね!
そしてちょっと落ち着いてから、改めて論評タイムに突入です。
「確かに衣装のインパクトが大きくて、細かい部分が気にならなくなりそうだけど……流石に顔が眼帯だけだと、やっぱもろバレなんじゃない? そこからどう巻き返すのか、想像するのも楽しいけど」
「そうですよねぇ、流石に片目を隠したくらいで、勇者様の類まれな美貌☆を誤魔化しきれる筈も……サルファ?」
こういう時、最も役に立つのがヘアメイク担当なのですが……あれ?
話の水を向けたのに、声が返って来ません。
あれ?
私達はいつものサルファの鬱陶しさを予想していた分、拍子抜けしたような心地でサルファに視線をやりました。
いったい、何をしているのかと。
視線を向けた先では、サルファが頭を抱えて……まるで怪しげな宗教の礼拝でもしているかのような姿勢で床に蹲っていました。
「まずい。まずいまずいまずいまずいまずい……何が一番まずいって、俺の社会的信用性の失墜に伴う痛々しい視線が…………」
……一心不乱に何事か呟いていますね。
まるで周囲の雑音など、耳にも入らぬとばかりに。
とりあえずサルファ、あんたに社会的信用性とか少しでもあったんですか?
明らかに何事かあった様子の、サルファ。
ですが今は、目の前に常よりも面しr……痛々しい姿を曝した麗しき勇者様がおいでなんですよ?
その存在をガン無視して、自分の世界に没頭するなんて失礼です。
せめてそこは、何か一言なりと感想を述べてから追い詰められるべきでしょう。
「……次からサルファは呼ばないことにしよっか」
「って、ちょいちょいリアンカちゃん!? そこはどうしたのかって聞いてよ! スルーするとか酷っ」
「サルファの分際で気休めの優しさをもらえるとでも?」
「気休めの優しさすら、俺にはもらえないの!?」
「まあ良いでしょう。別に聞いてもいませんが、サルファが何か語りたいことがあるそうですよ、みんなー?」
「おし、つまらない話だったら半畳投げつけてやろうぜ」
「スベったら蓑踊りの刑ね」
「ファイヤー!」
「蓑踊りってそっち!? 何て古式ゆかしく古めかしい拷問方法……☆ みんなで俺を責め立てないで!」
「うわ。なんかすっげぇ、苛っときたわ」
「……俺が言えたことではないけれど、皆酷いな。サルファが相手じゃ、態度が雑になるのもわかるが……」
「それがわかる時点で、勇者様も同類ですよ☆」
「同類……同類…………なんて胸に突き刺さる言葉なんだ。俺はリアンカやまぁ殿の同類なのか……?」
あれ、勇者様ったら本格的にメンタル削れてる?
いつもだったら威勢良く否定しそうなものですが……
落ち込んでいるのか、疲れているのか。
なんだか今日はいつもより影……じゃないや、幸が薄そうな空気を醸し出しておいでです。
自分の胸を押さえて、寂しげな様子の勇者様。
お姿が滑k……独特なので、そんな真面目な様子を見せられると吹きd……見ている方がお腹が痛くなりそうですが。
切なげなお顔で、勇者様は物憂げに溜息を吐かれました。
なんだかお疲れです。
うん、後でいたわって差し上げようかな。
丁度この間、めぇちゃんに新しいブレンドの茶葉をもらったから、それを淹れてあげましょう。お茶菓子も付けますよ。
新ブレンドのお茶は新種の美容茶らしいですけど、味はめぇちゃんが太鼓判で保証してくれました。
……検証が終わっていないので色々と効果は不確かだけど、勇者様は薬物耐性高いし大丈夫ですよね!
うん、と一つ頷いて心に決める私。
勇者様は何かを感じ取ったのか、肩をびくっと揺らして私の方を見てきました。
「はい? なんですか、勇者様」
「い、いや……えーと、それでサルファ。様子が変だが、どうしたんだ」
「勇者の兄さん……☆ 兄さんだけだって、俺のことマジでわかってくれんの!」
「悪いがサルファ、それはきっと何か考え違いをしている。それで、何があったんだ」
「兄さんってばツレなーい☆ ま、良いや。ちょっと聞いくーれーよー……」
そうして、サルファの話すことには。
何でもサルファを連れ戻す為、フィーお兄さんがリベンジに来た……というか、新たな刺客を連れてきた?とか???
「え、許婚…………十二歳?」
「サルファ……流石に、歳の差を考えろ」
「ちょっ さも俺が幼児性愛者か犯罪者かのような目で見るのは止めて!? 俺の本意じゃないってー! 家の決めたことなんだってー!」
「この馬鹿も年貢の納め時か。なんか感慨深ぇな、おい」
「まぁの旦那!? 納めない……俺はまだ、年貢は納めないよ!!」
「結婚祝いに、嫁以外が目に入らなくなる呪いでも掛けてやるか? その許婚だっつうガキの為に」
「や、やめてぇぇええええええっ!? 大体、そもそもっ! 俺の好きなタイプは『強い女の子』なんだってば! それに十二歳児は完璧に守備範囲外だっての!!」
「サルファの癖に女の好みを語るとは……生意気だぞ☆」
「そもそも選り好み出来る立場か、お前は」
「本気でみんな、俺の扱い酷くね!?」
そもそも、そこは考えてみましょう。
この面子で、一体誰がサルファの肩を持つというのやら。
それ以前に相手の年齢が十二歳だと聞き、魔族さん達は完全に許婚ちゃんの方を擁護する気持ちになっております。
ほら、何せ魔族さんって子供愛護の精神が強いから!
自分より弱くて頼りない生き物……それも大人の庇護がないと生きられないようなヒト型種族のお子さんを見ると、保護しなくっちゃと本能レベルで心配になるのが魔族さん達共通の習性ですから!
十二歳は色々と自意識やら考え方もしっかりしてくる頃合いだけど、やっぱりまだ魔族の目から見ると頼りないことでしょう。
正直、十二歳は魔族さん達が保護本能を刺激されるかどうか、結構ギリギリの瀬戸際だと思うけれど。
今回は『サルファの許婚』という立場にどうやら同情票が入ったらしく、保護する必要がなくっても後ろ盾の助けぐらいには……と親切心が湧き起っているっぽい。
勇者様も微妙なお顔をしてはいますが、『サルファの許婚』という立場には思うところがあるのでしょう。
そっとサルファから視線を逸らし、さり気無くまぁちゃんやせっちゃん、画伯、りっちゃん……魔族さん側近くに無言で歩み寄りました。
どうする、サルファ。
この場に味方はいませんよ?
「私としては、その子の将来を考えると……サルファと結婚させるのは可哀想な気もするんだけれど」
「リアンカちゃん……っ! もうこの際、俺への同情じゃなくっても良いよ! 味方になってくれるなら!」
「誰がサルファの味方になると言いました? まあ、個人の幸せなんて当人次第……本人がどう思うかですから、ね」
「期待させて落とすとか! リアンカちゃん酷い!」
ぶっちゃけ、相手が子供ならまぁちゃんも色々と大目に見て……うん、もしも試合するなんてことになった時には、思い出づくりの一環として顔を一発殴られるくらいは甘んじてくれそうな気がします。
あくまでも相手が、『子供である場合』に限りますけれど!
子供には甘い、魔族さん達。
そんな魔族の王様である魔王陛下もご多分に漏れず、当然のように子供が相手となると色々容赦をしてくれることを私は知っています。
というか、ハテノ村の住民全員が知っていますけどね!
こんな状況下で、本気で誰かサルファの味方をしてくれると思ったのでしょうか?
中二病的な発想による黒い衣装って、こんな感じで良いのかな?と。
少々首を傾げつつ、こんな感じになりました。
もしも勇者様(中二病ver.)のソウルネームを是非つけたいという方がいらしたら、感想欄にてご意見をうかがいます。
→『黒』勇者様のリングネーム募集中。




