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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
試合開始のゴングが鳴った
52/122

50.予選(団体戦):鼻を突き抜けるみかん☆

レッツ 蹂躙☆




 さあ、いよいよ私達も武闘大会に参戦です!

 ここまできたら、もう退路はなし。

 目の前の対戦相手を打倒して前へ前へと突き進むのみですよ!

 例えそれが身内だったとしても!

「あ、レイちゃんですの~!」

「最初の相手は、レイヴィスか……獣人の身体能力と、五感の鋭さは要注意、かな」

「そんなの、この瓶一つで無意味になるけれどね」

 中々に不穏で頼もしい雰囲気を放つ、仲間達。

 色違いのガスマスクで顔を隠しているので、一瞬誰が誰やらわからなくなりそうですが。

 でも対戦相手にも顔は見えないし、手数を隠せると思えば……


「り、リアンカ! 何なんだその格好は!?」

 

 ……初見でもろバレしました。

 獣人が相手だと姿を誤魔化すだけじゃ足りなかった、かな。

「やっぱり獣人の鼻は誤魔化せないか……よく私だと見破ったね、レイちゃん!」

「いや、ガスマスクって時点でお前らに確定してるような……外見からして、もうそんな感じだから!」

「……? 解せぬ。私達が日常的にガスマスクを被っているかのような物言いは聞き捨てならないよ」

「いや、顔を隠すにしてもそのチョイスが……」

「顔を隠すだけでなく、実用面を鑑みた結果ですから!」

「って、やっぱり毒薬でも散布するつもりなのか!?」

 やっぱりってなんですか、やっぱりって。

 まだ試合も始まっていないのに、ずざざざざっと後退さるレイちゃん。

 ちょっと失礼ですよ?

 そんな如何にも私達が毒でもばらまくかのように……

 私達は毒使いじゃなくって、薬師なんですけれど。


「はいはーい。積もる話はあるかもしんないけど、そろそろ試合開始しちゃって良いですかー」

「あ、はい」

「ちょ、待っ……」

「それじゃあ……GO FIGHT!!」


 ベテルギウスさんの緩くも問答無用な開始の合図を受けて、私達は未だ戸惑うレイちゃんやその仲間達を取り囲むように散開しました。

 肉弾戦にも対応可能な(パープル)ガスマスクと、(ピンク)ガスマスクが俊敏に駆け抜けます。

 そんな彼らの動きを陽動に、すかさず風上へと移動したのは(イエロー)ガスマスク。

 獣人達の意識が逸れているのを良いことに、黄ガスマスクはすかさず取り出した瓶を地面に投げつけました。

 割れ砕ける、硝子瓶。

 ふわりと立ち上る特徴的な芳香。

 (グリーン)ガスマスクがひらりと右手を閃かせると、手指の動きに合わせて風が動きました。

 硝子瓶の中に入っていた、液体。

 揮発するそれの香りを、試合場全体に蔓延させるように――


「ぶひぇっ!?」


 瞬間、即座にレイちゃんが自身の鼻を強く抑えました。

 わあ……しかもよく見れば涙目になっています。

 レイちゃんだけでなく、他の嗅覚鋭い獣人の子達もダメージを受けているっぽい感じです。

 特にきつそうなのはピューマ獣人のレイちゃんとクルペオ獣人のペリエ君。

 おー……これは、黄ガスマスクの予想は当たりでしょうか。

 これは推測通りに事が運んだ、かな?


 嫌そうに顔を振っても、空気中に溶け込んだ成分は纏わりついて離れない。

 この症状に覚えがあったのでしょう。

 レイちゃんが心底嫌そうに、硝子瓶の中身が何だったのか見当をつけました。

「この鼻に突き抜ける痛み……柑橘の香水か!!」

「大当たり! ピタリ賞ね、レイ坊や」

 犬猫の大っ嫌いなニオイです。

 しかも希釈していないので、人間でも素でキツイ。

 私達はガスマスクのお陰で、ノーダメージですけどね!!

「な、なんてえげつない真似をしやがるんだ……っ」

 どうやら予想以上の効果があったようで、私と黄ガスマスクは二人でハイタッチを交わしました。

 鼻の痛みに、悶える獣人さん。

 なまじ鋭い五感を持っているだけに、そこを攻撃されては怯まずにいられないようで。

 うん。戦闘能力の低い私だったら、無理だけど。

 戦闘職の人から見たら、経験が浅い上に悶えるレイちゃん達は隙だらけだと思う。

 彼らが体勢を立て直す前に。

 桃ガスマスクが駆け抜けました。

 手に握った、少し短めの真っ直ぐな刀剣。

 NINJA刀っていうんだっけ? あれ、忍刀だったかな。

 どっちでも良いよね。

 攻撃力は変わらないんですから。

「はぁ……っ」

「くっ!?」

 どうやら切羽詰っても片手は鼻から離せない様子で、それでも咄嗟に反応できる辺りは本当に獣人の反射神経凄いなって思います。

 鞘走った刀は冴えた一撃を繰り出そうとしたのですが、レイちゃんは即座に反応して見せました。

 自分に向かってきた一撃を、桃ガスマスクの手首を掴んで食い止める。

 ぎりぎりと、両者の間で拮抗した力比べの様相を呈します。

 ですが心なしか、レイちゃんの顔が引きつっていますね。

「……こ・れ・は、なんだよ!」

「何のことだか」

「このっ刀身!! 何か塗っているように見えるんだが!?」

 レイちゃんが言った通り、桃ガスマスクの手にある刀は……うん、とろりとぬめり感のある液体が塗ってあるっぽいですね!

 色は紫かな?

 そもそも刀身が黒く塗られているので、刀の色と調和してよくわかりませんが。

「何の薬だ、これ!」

「……素直に言うとでも?」

「く……っ」

「何、ただの痺れ薬だ」

「……って、この流れで言うのか!」

 敵は、四人。

 レイちゃんの相手はどうやら桃ガスマスクに任せておいて良さそうです。

 一先ずは、ですけど。

 その間に他の三名を……少なくとも一名は無力化したいところ。


「ははは……! さあ、逃げ惑いなよ。大丈夫だ、良~い火傷薬がある。新薬で、まだ臨床試験はしていないけれど」


 ……と、視線を他の面子に向けたら緑ガスマスクが良い空気を吸っているようでした。

「ふふ……丁度、多種多様な種族を被検体に、と考えているところだったんだ。何しろ霊薬は魔力的な要素を含む分、使用相手の種族差によって効能に差が出る場合があるから」

 ああ、うん、そういえば最近、そんなレポート書いてたね。

 そういう意味でも、実験の機会を探していたのかな?

 獣人さんで薬の効能を試したいって、言ってたっけ。

 緑ガスマスクは、心底楽しそうでした。

 心底楽しそうに、掌から火の玉を生み出しては、どひゅんどひゅんと……。

 今現在、主な標的となっているのはクルペオのペリエ君。

 次々と飛来する火の玉を細かく避けながら、緑ガスマスクの隙を窺っているようですが……何分、矢継ぎ早と言うよりも尚、間のない連続攻撃を喰らっているような状況です。

 反撃の目を探すにしても、緑ガスマスクは火魔法特化。

 遠距離攻撃の手段がないペリエ君には、ちょっと分が悪いかな。

 ちなみにペリエ君の武器は、どうやら短剣のようです。

 うん、強く生きろ。


 ここも暫くは放っておいて良いな、と。

 様子を見ていてそう思いました。


 さて、残りの二人は……と。

 後残すはフクロモモンガのジル君と、ジャワマメジカのラス君。

 小型動物コンビは果たして……ああ、うん。

 どうやら此方は此方で、黄ガスマスクに酷い目に遭わされているようです。

 黄ガスマスクも私と同じく、戦闘能力は皆無に近いのですが……

 今回は、獣人にとって装備の相性が悪かったとしか言いようがありません。


 ジル君とラス君は、臭害攻撃を受けている真っ最中でした。


 忘れちゃいけない、私達のガスマスク。

 嗅覚は完全に外気から遮断されていて、どんなに臭い物が相手でも、今の私達は無敵状態。

 そして黄ガスマスクさんは、今回は三十種類の香水瓶を持ち込んでおいでです。

 しかも全部、匂いのどぎつい原液。

 わあ、ガスマスクは絶対に脱ぎたくない。

「それじゃあ、次は……薔薇の香水ね」

 何の躊躇いもなく、惜しみもせずに次々と香水瓶を叩き割っていく黄ガスマスク。

「や、やめてくだっさぁぁああああい!!」

「鼻が……っ鼻が、死んじゃう!」

 そんな黄ガスマスクの行動を阻止しようとするけれど、鼻が余程辛いのか、一定以上の距離に近寄ることも出来ずに涙を流す獣人さん達。鼻を押さえている姿は、既に安定感すら感じます。

 今回は緑ガスマスクの援護がないので、凄まじい香水の香り(強引ブレンド)は試合場全体に広がりはしないのでしょうが……

 それでも、空気中に拡散していくのは止められず。

 ちょっと様子を拝見してみると、レイちゃんもペリエ君も先程よりずっと辛そうなことになっています。

「うーん……私が介入する余地なんて、どこにもなさそうだけど」

 さて、どうしようかなぁ。

 戦闘職の桃ガスマスクは置いておいても、黄ガスマスクも緑ガスマスクも流石に根っからの魔境住民なだけあります。

 戦闘職じゃないけれど、それでも引けは取らない特技の強さ。

 特に魔法を使える緑ガスマスクは獣人相手だと圧倒的ですね。

 その点、嗅覚の方向から責めている黄ガスマスクは、相手を近寄らせないからこそ効果がある……逆にいえば、接近戦に持ち込まれるとちょっと危ないかもしれません。

 ……うん、加勢するなら黄ガスマスクの方かな。

「見て下さいですの、リャン姉様!」

「あれ? そういえばせっちゃんは何をしているの?」

 私と同じく戦闘から一歩離れた所に、紫ガスマスク(せっちゃん)の姿。

 でもせっちゃんは戦闘から離れた……というより。

「実は、これを準備していましたの!」

「お、おおう……これは」

「じゃーん、ですのー!」

 そう言って、せっちゃんが私の目の前に掲げて見せたもの。

 それは。


「【魔滅の縛鎖】ですのー」


 それは、せっちゃんの魔力で編まれた……紫黒の、鎖。

 実体を持たないからこそ、魔力の主であるせっちゃんにしか扱えないモノ。

「うふふー? せっちゃん、一所懸命あみあみしてましたの!」

「わあ……がんばったね。うん。えーと……全長、八mくらいかな」

 この短時間で、こんなに長く編み編みしてたんですかー……

 魔力で編まれた、紫黒の鎖。

 そんな風に言うとちょっと格好良く聞こえますが……


 実際の見た目(すがた)は、お誕生会の折り紙細工に見えました。


 でもこれ、見た目はちゃっちい割に……威力は凄いんだよね。

 せっちゃんは愛らしくって可憐で可愛いけど、どんなに可憐でもやっぱり魔王(まぁちゃん)の実妹。

 その能力によって作り上げられた魔力の塊は、どれだけ見た目が単純で脆そうに見えても、込められた力だけは疑いようもなく。

 ……そもそもせっちゃんって、力加減とか細かいことをあまり気にしないから、結構力任せなところがあります。

 力技上等、そんな風に笑って褒めていたのはまぁちゃんです。

 彼の薫陶が、せっちゃんの問答無用な成長を促しました。

 ……補縛特化の、魔力の鎖。

 この技からは、りっちゃんや画伯も逃げられません。

 魔力の扱いに長けた、魔族のエリートさん達でもそうなんです。

 というかこの鎖、魔力の産物なので解除には高度な魔力操作能力が求められるのに、拘束している相手の魔力を吸収するという……見た目の微笑ましさに反したえげつなさ。

 以前、まぁちゃんは逆に魔滅の縛鎖を丸ごと魔力吸収して無効化していたけれど。


 さーて……獣人さん達はこれに抵抗できるでしょーか?






『おうまい』の面子

 さあ、みんなの予想は当たったかな☆


紫ガスマスク/せっちゃん

桃ガスマスク/モモさん

黄ガスマスク/めぇちゃん

緑ガスマスク/むぅちゃん

ただのガスマスク/リアンカちゃん

 

魔滅の縛鎖のつくり方

 せっちゃんの魔力をリボン状に可視化。

 (中空で指をくるぅ~りと回すと、その軌跡がリボン状魔力になる)

 →リボン状魔力を沢山つくって、あとはひたすら繋いでいく。

 (接着も勿論、せっちゃんが一つひとつ魔力を込めて)

 ……という、これだけのお手軽レシピ☆


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