表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
49/122

47.予選1日目:金色に光るたま

 書いている内に、何故かサルファの強化イベントと化しました。

 ついでに『許される全裸』から『許されない全裸』に進化しました。

 こいつは一体どこへ行くのか……



 

 前回のハイライト。

 →あんまりにも鬱陶しかったので、サルファの肩に鉄球ズガン☆

 投げつけられた鉄の塊ダイレクトな球体は勇者様のタライ舟の底に転がっていたけれど……?


 その転がりまくっている球体がただの球体ではないなんて、誰が予想したんでしょうね?


 事件は温泉の波に煽られて転がった砲丸が、勇者様の脛へと直撃した時に起こりました。

「~~~~~~~っ!!?」

 あ、勇者様……痛そう。

 地味に大ダメージだったのか、なんだか某呪われ武器マニアに飛び蹴り喰らった時よりも痛そうです。

 頭を押さえて屈みこみ、呻きたいのでしょうに。

 両手で支えるタライを落とす訳にはいかない為、そうやって痛さを紛らわすこともできず。

 勇者様の目に、ちょっと涙が滲みました。

 しかしタライ舟の中の不幸はそれでは収まらない。

 勇者様の脛に当たった砲丸が、更に跳ねて弾んでサルファのお尻に命中……ありゃ痛い。

 蹲りたいのに蹲れず、悶える男達。

 うん、二人とも下手に蹲ったり手を離したりしてタライ(楯)とか櫂を落としたら立ちいかなくなるからね。致命的です。

 しかし予想外に被害を拡大させる砲丸です。

「無機物の癖に良い仕事すんな、あれ」

「うん、とっても予想外」

 いま攻撃したら、流石に……と情けをかけて見守る私達。

 そんな私達に構っている余裕もないのか、涙目の勇者様がお尻を押さえて悶絶しているサルファに切羽詰まった声をかけました。

「サルファ、その鉄球をタライ舟から放り出すんだ」

「が……合点、承知☆」

 勇者様は大きなタライを天に掲げて支えているので、しゃがみ込むという動作に制限がかかります。

 だからサルファに捨てさせようというつもりでしょう。

 ですが、サルファが砲丸を拾い上げた時に異変が生じました。


 ぴっかぁぁあああああああ……


「!?」

「おお!」

「ふぇっ?」

「なますてっ!?」


 なんと、鉄の塊の癖に砲丸が光り出したんです。

 眩いばかりの、金色に。

 まるで水底に沈めた金塊に、昼日中の太陽光が照射されたかのよう。

 眩しくって、眩しくって、でもギラギラはしていない。

 謎の光です。

 鉄塊じゃなかったんですかね、あれ。

「こ、これってもしかして……!」

 球を両手で捧げ持つ形になってしまい、思いっきり全身に金色の光を浴びながら、サルファが緊迫感に塗れた声を出しました。

 いつになく、真剣な声に聞こえます。

 それに勇者様が引っ掛かって、声をかけてしまいました。

「サルファ、お前その球のことを何か知っているのか!?」

「勇者の兄さん、これってもしかして金t……」


 べしゃ


 …………言いかけたところで、サルファが勇者様に頭から踏み倒されました。

 五歳児(推定)の全身を踏めるくらい、タライを両手で支えていようと勇者様には造作もないことなのでしょう。

 顔面からタライに沈んだサルファが、勇者様の足の下で藻掻いていますが、対する勇者様は無言。

 ただ眼差しだけが、永久凍土の様に冷たい。

 ……わぁー……勇者様のあんな冷たい眼差し、初めて見た。

 犯罪者や悪人を前にした時の、冷たく怜悧な視線ともまた違った冷たさです。こう「こいつは絶対許さない!」とか「倒す……!」みたいな戦意とか怒気とか、冷たさの根底に隠れて燃え盛る熱がありません。

 空虚なまでに、完璧な冷たい視線です。

 まるで雪原でブリザードに遭遇したような、白い目とも言えます。

「勇者の兄さん、なにすんの! 俺はただ、金ta……」

「みなまで言わせるか」

 ああ、此処からでも分かります。

 勇者様が、ごぉりごりとサルファの頭を踏み躙っているんですが。

 サルファが本来の姿だったら何ら問題もない行動ですが、今は見た目が五歳児なので大変外聞が悪いですね。

 あいつ、アレで二十歳超えてるんですけどねー……。

 人格の方も、頭踏みつけにして何も問題に感じない人格なのですが。

 善人という言葉をそのまま当て嵌めた様な勇者様がああいうことをやると、見た目にとっても違和感があります。

 実態を知っているので、私達は不思議に思いませんけれど。

 でも絵面だけ切り取ってみたら、勇者様のことを知る人は目を疑うんでしょうね。

「勇者の兄さん、超ひどーい☆」

 それに、やられてる側のサルファにもまだ余裕がありますし。

 なんだかんだ、本当にサルファって頑丈ですよね。

 あの程度の責め苦は問題なさそう。


 このまま時間の許す限り、踏み潰すのかな?

 ちょっとだけそう思ったのですが、そうはなりませんでした。

 勇者様がごりごりとサルファの頭を踏んでいたら。

 サルファがまだ抱えたままだった球が、急激に光を増しました。

 その眩しさはさながら、小太陽。

 ……あの球のこと、すっかり忘れてた。

「サルファ、何をしたんだ!?」

「ちょっ俺のせいにされても! 知らない、俺なんにも知らないから!!」

「何もやってないのか!?」

「何もやってない、やってないって!」

 いきなり手の中で光りを増した球に、珍しく狼狽するサルファ。

 そりゃあ、得体が知れないですもんね。

 しかもサルファ以外に接触していた人もいないので、誰かが何かをしたら必然的に最有力容疑者はサルファです。

 突然光り出しただけでも不気味なことこの上ありません。

 だからといって投げ出してどうなるのかという話なんですが。

 普通だったら怖いと思うんですけどね?


 その点、サルファは躊躇いがなかった。


「うわもう、気味悪っ」

「な、投げたー!?」

 それはそれは見事な、砲丸投げの投球フォームでしたとも。

 そして遙かなる雄大な源泉(タナカさんのスライディング痕ともいう)に、あっさり池ポチャ。

 浮かぶはずもなく、怪しく輝く球は沈んでいく……。

 勇者様が信じられないものを見る目で、ぎょっとしています。

 確かに気味が悪いことは確かですが、サルファは思いきりの良いことをやりました。

「あ、あんな得体の知れないモノをその辺に投げ捨てるなんて正気か!?」

「ノンノン、勇者の兄さん☆ そこら辺と違うネ! 温泉アルヨ」

「少しは真面目に答える気がないのか!?」

 ですが、変異は更に彼らを襲う。

 具体的に言うと、鉄球が沈んだあたりからぶわぁっと光が差しました。

 しかも真っ直ぐに、勇者様達のいるタライ舟に向かって。

「「!?」」

 サーチライトでも向けられたかのような、的確な焦点。

 がっちりとロックオンされていることを悟り、勇者様とサルファが仰け反ります。

 一連の展開が面白すぎて、目が離せません。

 襲撃する段階ではないと、私とまぁちゃんは手を休めて傍観に徹していました。

 おやつに持って来ていた、焼きトウモロコシを片手に。

「リアンカ、バター取ってくれ」

「トウモロコシに?」

「いや? ジャガイモ持って来てるから、塗って焼く」

 まぁちゃんが片手をひらひらさせると、掌の上に白い炎が燃え立ちます。

 うん、ちょっと温度が高過ぎないかな。

「まぁちゃん、私ったらこんなものを持ってるんだけど」

「お、リンゴか……それも焼いてやって良いけど?」

「焼きりんご♪ 焼きりんご♪ バターの他に蜂蜜もあるよ!」

 気がついたら本格的なおやつタイムが始まっていました。

 私達が悠長にトウモロコシを貪りながら眺める先で、湖に沈んだ鉄球の発する光は更に高まっていたんですけれど。

 光は、段々水面近くまで昇って来ているようでした。

 そうして、姿を現したのは……


「アンタが落としたのは! 金色に光る球か、それともゴールデンな輝きを放つ球か!?」


 なんだかどっかで見たようなシチュエーションが展開され……っ

 いえ、違いますね。

 女神じゃなくって、野郎です。

「それどっちも同じ意味……って、君は誰だ!!」

 勇者様が台詞のツッコミどころに惑わされかけました。

 惑わされながらも、そもそも存在自体に対するツッコミを思い出したようで即座にツッコミの軌道修正をしていましたけど。

 源泉の中から、泉の女神じゃなくって半裸の野郎が現れました。

 ……なんで、上半身裸の上にファー付きコート?

 わっさわっさとド派手な質量を誇る真っ白なファーが、水滴を弾きながらも柔らかそうな質感を保っています。

 下半身を覆う革製のぴったりズボンも、特殊な処理がされているのかツヤツヤしています。

 全身、手入れに手間のかかりそうな恰好ですね。

 煮え立った源泉から出てきて平然としている辺り、人間じゃなさそうですが……彼は一体、何者なのでしょう。

「君は一体何モノだ!?」

「俺は子守のギャンブラー! ちびっ子の相手をしながら誰でもすぐに実践できる素敵なイカサマを伝授するナイスガイ☆だ!!」

「な……なんて教育に悪そうな奴なんだ! こんな人を子守にするなんて、雇った人は正気か!?」

「おいおい、言ってやるなよ兄弟。あいつ等も切羽詰ってたんだって!」

「いや知らないよ! 知らない……けど、なんでそのギャンブラーがこんなところから現れるんだ! 普通に死ねるぞ!?」

 ごぼごぼと煮え立つ温泉からこんにちは!

 うん、人間の所業じゃありませんね。

「あれか? 子守か? 子守だから子供(偽)のサルファに反応して現れたとでも言うのか!」

「いや、言わないけど」

「じゃあ何しに現れたんだ!」

「ふ……っ 久しぶりのシャバを満喫しに、かな」

「何もこんな特殊な環境で満喫しなくっても良いだろう!?」

 ……なんだかどこかで見たようなノリの方ですね。

 勇者様が物凄く混乱しています。

 いきなり目の前に現れるにしても、本当に何の為に現れたんでしょう。

「ねえ、まぁちゃん?」

「いや、俺は知らねぇな」

「あのひとって魔族さん?」

「……違ぇな。見たとこ、何かの魔法道具(マジックアイテム)っぽい」

「そこ! 大当た~り~!」

「……っうわ、こっちの会話に割り込んできた」

 まぁちゃん曰く、何かのアイテム(?)という怪しい素情のお兄さん。

 彼は煌びやかなポーズをノリ良く決めて、居合わせた全員に強く宣言しました。


「俺は600年前……勇者一行から離脱する際、とある男が私財を投じて特注した子守用玩具! アドニス坊ちゃんが寂しい思いをしないことが俺の存在意義!!」


 今、聞き捨てるには面白すぎる単語が混じっていたような。

 これまでの経緯から考えて、多分このお兄さんって、さっきのあの鉄球から発生したんですよね?

 つまりあの鉄球が、子守用の玩具だったと。

 ……玩具にするにしても、こんな人格にする意義があったのかは不明ですが。

「まぁ殿、こんな怪しいもの一体どこから持って来たんだ!? 色々と理解を超える存在なんだが!」

「いや、城の罠設置班が使ってる物置から拾ってきたんだけどよ……なんなんだろうな、これ」

 本当に何なんでしょうね、アレ。

 主張を信じるのなら、600年前の勇者が関わっているそうですが。

「じぃー……」

「り、リアンカ? その目は何なんだ……」

「勇者関連の物なら、勇者様絡みでしょうか」

「それは……っ それを言うなら、魔王城から持って来たんだろう!? だったら俺よりもまぁ殿に!」

「おいおい、俺に責任押し付けようとすんなや。確かに持ち出したのは俺だが、どうせお前に反応して現れたんじゃねーの?」

「違うな!」

 あ、本人(アイテム)から否定が入った。

 くるりとターンを決めて、お兄さんはずびしぃっとサルファを指さしました。

「俺が現れたのは、彼の為だ!」

「なんでそこで全然更々無関係の俺ぇ!?」

 驚愕を露にする、サルファ。

 一方、変なアイテムの出現責任を負わずに済むと知った勇者様と、持ち出した張本人であるまぁちゃんが胸を撫で下ろしていました。

 心の声が聞こえるようです。

 責任押し付けれんのがサルファなら、まぁ良いか!と。

 難しいことも細かいこともひっ包め、「どうでも良い」と思考放棄した瞬間でした。人はそれを、丸投げという。

「俺の人格は実在の人物から転写されたもの。オリジナルの血縁がいるのであれば、無用となった力も今こそ返す時だろう! 今を逃すと次の機会がいつになるか全くわからないしな」

「うえぇ!? 何か今、俺ってば変な濡れ衣着せられてない!?」

「サルファ……お前、先祖まで変態だったんだな」

「やめて、勇者の兄さん! 言っとくけどうちの家系、俺以外は全員根っからの暑苦しい騎士野郎だからね!?」

「だけど遠い先祖は……変態だったんだなぁ」

 しみじみと呟く、勇者様。

 ですがアイテムの言葉の裏に、サルファの先祖が過去の勇者一行に参加していたという主張が潜んでいるんですけれど。

 それを信じる信じない以前に、胡散臭過ぎるアイテムがぶわっと更に強い光を放ちました。

「俺の力は強い幸運と金の匂いを嗅ぎ分ける嗅覚!オリジナルから分けられたそれを、今こそオリジナルの子孫に……!!」

「有難いけどノーサンキュー!!」

 えっと、なんでこんな展開になったんでしょーか。

 良くわからない押し売りと、押し問答。

 その果てに、アイテムのお兄さんはサルファに突進して……


 世界がまた、ぴかっと明るく金色に光りました。

 リアルに目が潰れそう。


 やがて光が収まった時、そこにいたのは……

 なんということでしょう!

 そこには、元の姿(22歳)に戻ったサルファがいました。


 ―― 全 裸 で。


「ℓ△◀☠☓♒☀♄☱☢☄~~~~っ!?」

「ってめぇ! リアンカの前でなんてもの曝してやがる!!」


 私が何かを叫ぶ前に、混乱が極致に達した勇者様と激高したまぁちゃんのダブルキックが同時に炸裂しました。

 防具ゼロで防御力に何の補正もかかっていない、サルファの腹と背中に。

 タライ舟の中に崩れ落ちるサルファの身体は、ちっとも運が良さそうには見えませんでした。




 その後。

 本来一人乗りのタライ舟に成人男性二人という状況は、当然ながら使用に耐える筈もなく。

 船が転覆しかけて勇者様達は慌てる羽目となりました。

 私とまぁちゃんの二人で優しく微笑み、手を差し伸べてもみましたが。

 何故か勇者様もサルファも、全力拒否の姿勢を示します。

 どういう意味でしょうね、失礼な。

 

 最終的に勇者様が壷からナシェレットさんを呼び出し、温泉に突き落として足場にしました。

 ナシェレットさんなら真竜だけあって、人間なら一瞬で茹で上がっちゃう(読んで字の如く)湯温でも、平然と浸かっていられますからね。残念なことに。

 ナシェレットさんが摂氏何度まで耐えられるのか、機会があったら耐久実験してみたいという意味合いのことを、まぁちゃんがぽつりと呟いていましたが。

 本当に残念なことに、温泉程度ではナシェレットさんはびくともしません。無駄に頑丈です。

 勇者様に逆らって暴れるナシェレットさん。

 格闘の末に何故かまぁちゃんがナシェレットさんを殴りとばし、駄竜は気絶して伸びてしまいました。

 抵抗しない安全な足場の完成です。

 うん、多分まぁちゃんが殴った理由は「衝動的にやった」とかでしょう。


 さあ、こうして無駄に広くて頑丈な足場を勇者様達は確保しました。

 なんだかんだでゴールも目前。

 勇者様達を半ば生贄に、結構な数の参加者達もとうにゴール済みです。

 そろそろ、この障害レースも最終局面と参りましょうか。





 サルファの裏設定が、これで大体開示された気がします。

 サルファの家系

 母方 → 人間、しかしマルエル婆の養女の孫

 父方 → 騎士、しかし遠い先祖は勇者と同道していたギャンブラー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ