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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
48/122

46.予選1日目:ウザさ炸裂★



 本来の罠の復活を早々に諦めて、代替案としてタライ舟をセッティングした魔族の妨害班の方々は良い仕事をしたと思います。

 

 タライ舟には四分の三の確率でハズレ……というか、欠陥品が紛れ込ませてあったようです。

 

 もしかしたら単に、用意する時間が足りなくて粗悪品が多く集まってしまった、というだけかもしれませんが。

 ですが巧妙です。

 巧妙に、すぐ様に転覆や浸水するのではなく……時間をかけてじわじわ沈む仕様のご様子。

 だから、欠陥タライに乗り込んだ人も、うっかり手遅れ一歩前になるまで気付かない。ん? なんか沈んでるなぁ……? そう思った時にはもう手遅れです。

 そうして気付いてから岸に向かうには……圧倒的に時間といい物理的な距離といい……足りない、という。

 そして眼下に広がる温泉地獄。

 もう棄権しか道はないですね。

 ちなみに棄権したら速攻で運営委員に回収してもらえるそうな。


「いっやぁぁぁあああああっぁん★ 勇者の兄さんたっけてー!」

 

 そんな状況に今、サルファが追いやられている訳ですが。

「待て……! 俺の舟に乗り移ろうとするのならともかく、何故そこで俺とお前の舟を連結させようとするんだ!?」


 道連れで勇者様まで危なそうです。


「え、ほらアレじゃん? 予想外に死ぬ時って道連れ欲しいじゃん。だったらどうせだからこんな幼子(笑)に舟とか一人で乗れって突き放してくれたお兄さんを地獄まで諸共引きずり込もうかと」

「真顔で言うな、初めて見たぞ!? お前のそんな顔! それからサルファ、お前の実年齢は俺より上だろうが!」

「今は五歳(推定)じゃん! 手足とかちっちゃくて短いじゃん!! この短い手足に自力で安全確保させようとか……鬼!!」

「その短い手足で鎖鎌を自在に使いこなしておいて何を言う!」

「それはそれ、これはこれ☆」

「俺は知っている……お前、一人で舟に乗ると見せつつ俺の舟に鎖を引っ掛けて牽引させようとしていただろう」

「その計画は勇者の兄さんが妨害してパー☆になったし!」

「俺が駄目だと見るや、即座に別の相手に照準を合わせていたよな?」

「やだ☆ 勇者の兄さ……おにいたん☆ってば目ぇ悪いんじゃない!? ヘンな疑い掛けられてサル子ショックー……網タイツもびりびりに破けちゃうぞ☆」

「こいつ腹立つ!!」

 苛々する状況下では中々良い味出しますね、サルファ……。

 こういう時に限って当りを引き当てる勇者様の幸運(女神の加護)もちょっとどうかと思いますが、でも結果的に良い物を引いても週に巻き込まれたり巻き添えにされたりして台無しになる。

 それが何とも勇者様らしくて切ないですね。

 人当たりの良い勇者様が、サルファを腹立たしく思う気持ちもわかります。

 あとサルファ、勇者様はとっても目が良いんですよ?

 二百m離れた位置から私が手に持ったまち針の色を当ててきましたからね!


 そんな訳でぎゃいぎゃいと、ええぎゃいぎゃいと騒ぎたてるお二人さん。

 彼らを生温く見守りながら、私はそっとまぁちゃんが温泉に降ろしてくれたボートの上で……ボウガンを構えました。

「まぁちゃん……そろそろ、大丈夫そうじゃないかな」

「それじゃ、行くか」

 いきなりタライ舟とか逃走条件ががらっと変わりますからね。

 一応、勇者様やその他の犠牲者さん達の近辺が落ち着くまで待っていた訳ですが。

 僅かな猶予の中で口喧嘩を始めるような勇者様の余裕ぶりですから……ええ、きっと手加減は要らない筈です。

 まぁちゃんが手加減しなかったら勇者様は死んじゃうでしょうが、私が手加減してもしなくても彼らにとって大きな差異とはならないでしょう。

 あんまり変わらないんなら、手加減しなくたって問題はありません。

 私は状態異常の弓矢の中……ランダムで、持参した薬剤を鏃に塗りたくっていきました。

 わあ、お薬の紫/緑な渾然一体とした色が鈍く輝く金属に映えますね。

 という、訳で。

「り、リアンカ? それ……」

 いつの間にか私を二人揃って注視していた勇者様とサルファが、雁首揃えてタライ舟の上から仲良く私の行動を見守っていました。

 あれ、喧嘩はもう良いの?

 首を傾げながらも、勇者様が気になさっているだろう弓矢に視線を向けます。

 ああ、勇者様は何か知りたいんですかね?

 なんとなく、当たり障りのない情報を開示しました。

「五本に四本ハテノ村の薬師伝来、毒矢付き」

「ちょ……っ確率高すぎだろう!?」

 慌てる勇者様。

 ちなみに毒は四種類。

 一時的にイチゴの味しか感じなくなる毒と、流した涙が紫色の麻酔薬になる毒と、平衡感覚が触覚を切られた蟻レベルになる毒と、目に見えるものが全てカニに見えるようになる毒の四種類。

 うん、とっても碌でもないですね☆

 偉大なる先人達が、何の為にそんな毒を開発したのかは謎です。

 誰かへの嫌がらせで開発されたのかもしれません。

 ついでに言うとこれらの毒は、ハテノ村の薬師房でいつでも水飴と同じお値段でお買い上げいただくことができます。

 解毒剤とセットじゃないのは、どの毒も三週間で効果を失うから。

 大体三~四ヶ月に一回は売れるんですけど、一体何の用途で消えていくんでしょうね?


 しかし確率論的な幸運要素には結構勇者様って強いと思うんですよねー……所詮は『そんな気がする』レベルの幸運ですが。

 まあ元々の矢が既に『状態異常付き☆』なので焼け石に水程度の効果です。

 ただ勇者様の焦りは増長される、っていう。

「いきます……!」

「くるな――っ!!」

 遠慮無用に一斉放射、そぉーれっ!


 まるで雨のように降り注ぎました。


 まぁちゃんが船頭するボートの上で、私は次々にマジカル☆なアローを発射させていきます。引き金を引くだけの簡単なお仕事です。

 降り注ぐ雨を見て、サルファは諦めた顔になったのですが……

 勇者様は、流石に判断が早かった。


「来い……っ」


 寸前までわやわや揉めていたサルファの身体をぐいっと引きよせ、その体を楯にするのかと思いきや。

 ……流石に、そこまで致命的な犠牲にする程の外道じゃありませんものね。勇者様。

 楯にされたのはサルファではありませんでした。

「勇者の兄さん、無茶だって!」

「な、成せば……多分何とか、なる!」

 

 勇者様は自分のタライ舟の中、足下にサルファをぼとっと落とすと、今し方までサルファの命を温泉に沈めんと沈没しかけていたタライ舟を……サルファのタライ舟です、アレを両腕で持ち上げたのです。

 勇者様が手を離したことで水没しかけた櫂を、慌ててサルファが引っ掴んで止めました。

 勇者様はタライを天に掲げて歯を食いしばっています。

 ……何だか、箱から出てきた!みたいなポーズですね?

 ケーキ箱から人が出てきた、みたいな。

 櫂を完全に捨ててタライの上にタライを被せたら密閉空間……とはいかないまでもシェルターにはなりそうです。

 でもそれをしたら、タライ舟が流されるまま前には進めなくなる。

 よってシェルターにはできない。

 つまりはずっと、勇者様がタライを掲げて矢を防がねばならない、と。

 勇者様の舟の行く末は、サルファの櫂捌きに任されました。

「サルファ……待て、おい、どこに向かってる!?」

「勇者の兄さ~ん、俺の短くって非力な繊細な腕じゃ満足に舟を操ることなんて出来ない☆」

「さっき、舟が沈みかけた頃にそれは見事な櫂捌きを披露していなかったか!?」

「あれは……うん、ほら、あれだよ。火事場のなんたらってやつ。俺、馬鹿だからわかんにゃい☆」

「絞めるか……」

「兄さん!? 勇者の兄さん、帰って来て! そんな超物騒な思考、勇者の兄さんじゃないって!」

「俺は前からお前限定でぞんざいな扱いをしてきた自覚はあるが?」

「え……それって俺は兄さんにとって特別ってこと……☆ ごめん、兄さん。気持ちはありがたいけど、俺は女の子が好きなんだ」

「そのわざとらしい勘違いも含めて、全てが存在丸ごと腹立たしいという意味では確かに特別だよ……!! お前以外に、こんなに俺の苛立ちを煽る存在は他にいないからな!?」

「やったね、うぇーい★ 俺ってばオンリーワン♪」

「く……っ絞め落としたい!」

 あんなに勇者様の腹を立てさせる奴も他にはいません。

 大概の人には紳士的で誠実な、優しい勇者様が……

 サルファだけです、本当に。

 あれも一種の才能なのでしょうか。

「とりあえず、勇者様の腹立たしいって感想には同感です」

「んじゃ、感ずるままに行動すりゃ良いんじゃね? 俺は止めない」

「それじゃー、一発いってみましょうか」

 まぁちゃんに感情的な行動をお勧めされたので、とりあえず衝動的な欲求に従ってみました。

「まぁちゃん、寄せて寄せて!」

「ん?」

「勇者様達のタライ舟に、距離詰めて!」

「よしきた、任せろ」

 すぃー……と。

 滑らかながらも隙なく詰め寄る動きで、まぁちゃんがボートを勇者様達のタライ舟に近づけます。

 彼我の距離が、舟同士がぶつかりそうなほど近づいたところで……私は、丁度手に握り込めたモノを持ちあげました。

 片手で無造作に振りかぶって、どん!


 ズドンッ…………ゴトフ……


 納得の手応えと音が響いてきます。

 ごん、ごろごろ、と。

 とりあえずその辺の手近にあったので投げつけてみた。

 投げられた球は重々しい音を立て、タライの床を転がっているようです。

「さ、サルファ……! 死んだのか!?」

「………………い、生きてる……辛うじて☆」

 何故にこんなものが私達のボートに転がっていたのかは知りませんが。

 私の投げた直径七cmの砲丸(・・)に見える鉄球は、サルファの肩に横合いから見事に命中しました。

 まあ、私の様な非力な村娘が適当に投げただけなので、そこまで威力はありませんけれど。

 いきなり砲丸を当てられたショックはあるのか、サルファが倒れながらにタライから転落しかけ、咄嗟にタライの淵にしがみ付いて倒れ伏す姿が見えました。

 大げさな動作ですが、今のサルファは体が幼いので……もしかしたらそれなりに痛かったのかもしれません。

 だけどサルファなら大丈夫。

 私は奴のしぶとさと要領の良さと頑丈さを知っているので、そう思いました。生命力高くないと魔境では生きていけないよね!

「まぁちゃん、なんで私達ってば砲丸なんてボートに積んでたんだろうね?」

「そこにあったからだろ」

「ああ、そっか……」

「それで納得すんのか」

 しかしどこから砲丸なんて拾ってきたのか、覚えがないんですが。

 一体何処から拾ってきたんでしたっけ、これ……?


 



 どかんと一発、ウザさ()炸裂☆


 リアンカちゃんは忘れているようですが……

 過去に、というかサルファとの初対面の時に普通の娘さんには結構……こう、難易度の高いサイズの岩を衝動的に持ち上げた実績を忘れてはいけない。



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