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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
45/122

43.予選1日目:よーい、どん



「さ、て。考えるまでもなく俺らが鬼な訳だが」

「捕まった人には漏れなく、洒落にならない悪戯しまーす」

 宣言したら、声の届く範囲に居た人が全員ずざっと後退さりしました。

 勇者様も、サルファも、遠くのロロイも。

 それだけじゃなくって、魔境出身者で丁度近くに来ていた挑戦者達も。

 皆さん、反応がすっごく良いですね!

 何やら期待されているようですが……ご期待には、添えるべきですよね?



 鬼ごっこと聞いて、勇者様が頭を抱えています。

 うふふ……鬼ごっこは何歳になっても楽しいですよね。

 勇者様にも存分に楽しんでいただきたい所存です。

「それもただの鬼ごっこじゃないんですよ、勇者様!」

「まだ何かあるのか!?」

 表情の抜け落ちた勇者様。

 真っ白な彼に、私はボートの上からにこにこと楽しいルール説明を行います。

「このボート……実は私とまぁちゃんとで用意した楽しいアイテムがわんさと積まれておりまして」

「た、楽しい……? それは、リアンカとまぁ殿の主観で、ということだよな?」

「話が早いですね、勇者様! 実はそのアイテム、ほとんどがこんな形状をしているんです」

 

 そう言って私が掲げたのは。

 紛れもなく 矢 でした。

 鋭利な刃が、キラーン☆

 これを、クロスボウに仕込んで使います。

 ちなみに照準を合わせた相手を追跡してくれる魔法効果の付いた、魔族さんの自信作です。

 そして勿論、この矢の一本一本はただの矢なんかではない訳で。


 全部、状態異常の特殊効果尽きです。


 ちなみに何が当たるかは完全ランダム。


「さあ、勇者様は一体いくつの状態異常に耐えられるかな☆」

「ちょっと待てぇぇえええええええっ!!」

「中には治療法のない効果もあるので大変ですねー?」

「何が当たるっていうんだ、何が……!?」

「ちなみにお薦めの効果はこちらです!」

 私はボートの中に積まれた大量の矢をざっかざか漁りながら、目星をつけた一本を拾い上げます。

 それは先端の鏃が❤の形をした桃色の矢でした。

 あまりの怪しさに、勇者様の顔からざばっと血の気が引きます。

 わあ、真っ青。

「さてこの矢、どんな効果かと申しますと!」

 掲げた矢に記載された効果名が見えるよう、勇者様の方に見える面を調整します。

 勇者様はとっても目が良いので、こういう時に近付かなくっても良くって楽ですね。

 果たして、勇者様には効果名が見えたでしょうか?


 【ピンク☆ハートの矢】

  効果:直撃した相手が【状態異常:変態】になる。

  ※有効なのは1度まで(ただし一生元には戻らない)。


 勇者様の顔色が、みるみる土気色になっていきました。

「う、うわぁぁあああああああああっ おま、え、うわなんて危険物を持ち出してんだうわぁぁああああああああああああああっ!!」

「大はしゃぎだな、勇者。活きの良い状態に戻って良かったな?」

「他人事だからって空々しいことを言うのは止めてくれ、まぁ殿!! アレに狙撃される状況で本当にはしゃいでいると思うのか!?」

「勇者、世の中には特殊嗜好ってもんがあってだな? ヨシュアンがほざいてた事なんだが……」

「ヨシュアン殿が言っていたという時点で、一般論じゃないんじゃないかソレ!? それをさも真面目な顔で押し付けようとするのは止めてくれっ」

「この矢の詳しい効果をですね、説明しますとー」

「き、聞きたくない! リアンカ、ストップスt……っ」

「矢が当たって三秒すると、口から白い糸が出始めまして、」

「え……っ?」

「みるみる白い糸が固まって、繭になります! 一時間もしたら蛹から蝶の如く……」

「ってそっちか! 『変態』ってそっちなのか! どちらにしても心底嫌だけれども!!」

「ちなみに羽化した後の最終的な変化は、背中から虫の羽根が生えます」

「それ既に人間じゃない!」

「ああ、それから体の大きさが大体三倍くらいに……」

「たった一時間そこらの変態で一体どんな劇的な変化があったって言うんだ!? 繭の中で何があった!」

「あと美しさが変態前に比べて当社比6.3倍になるそうですよ」

「その中途半端な数字はどこから出て来たんだ……!」

「勇者様、約六倍ほど美しくなってみますか?」

「御免被る……っ 間に合ってるから! 間に合ってるからっ!」

「六倍も美しくなったら、勇者様ったら名実ともに世界一の美貌になれるんじゃないですか? 神々も含めて他の追随を許しませんね☆」

「絶対に止めろ!! 今でさえ持余し気味なのに、これ以上身に余る顔になったら俺が死ぬだろう!? 今度こそ、間違いなく!」

「わあ勇者様、切実―……」

 ああ、うん……確かにそうですね。

 面白そうだと思ったんですが……【変態】の矢は止めておきましょうか。

 勇者様には(・・・・・)


 命の危機に差し障るでもなし。

 他の人にはやっちゃっても問題ありませんよね?


「さあ、勇者様! 魔族の悪ノリ大好きな皆さんが試行錯誤して作ってくれた新手の状態異常にかかりたくなければ、矢を避けるしかありませんよ!」

 矢の一本一本、アイディアに富んだ魔族の職人さん達が作って下さいました。紛れもなく一点モノですよ!

 そして矢にも自動追尾効果付きです。

「さりげなく難易度が高いよな、それ!? その両手に持ってるクロスボウ、魔族謹製の魔法道具だってさっき言ってなかったか!」

「ちなみに右手にあるのは手先の器用なりっちゃんの手作りです」

「終わった……! あの凝り性なリーヴィル殿手製……終わった!」

「左手にあるのは、まぁちゃんのお祖父ちゃんが作ったヤツです」

「それ先々代の魔王ってことだよな!?」

「そうとも言うかもしれません」

「それ以外に何があるんだよ!」

 何やら勇者様が往生際悪く喚いていらっしゃいますが。

 構うことはありません。

 やっちゃえ☆

「という訳で!」

「どんな訳だぁぁあああ!」

「こんな訳です! まぁちゃん、GO!!」

「よしきた、任せろ」


 まぁちゃん、発・進……!


 お願いした瞬間、まぁちゃんは動きだしました。

 よっこらしょ、と私の乗ったボートを担ぎあげて。

 ええ、完全手動ですよ?

 そのまま、勇者様達に狙い定めて……走り出します!

 勿論力の均衡を考えて抑え気味の速度で。

 ……というか、ボートに乗った私が酔わない速度で。

 うん……完全密着の抱っこや負んぶなら私も慣れてるし、酔わないけどさ。

 流石に担ぎあげられたボートの上となると……うん、速過ぎると酔う。

 そこは事前にわかっていたことです。

 むしろその辺を勇者様達へのハンデとして織り込み済みの予定調和。

 ほら、まぁちゃんって圧倒的過ぎるから。

 何の(ハンデ)もない状態だったら、あっさり蹂躙しちゃう。 

 だからこそ、私というただの人間村娘の軟弱な三半規管を枷にした訳です。

 それでもぐいぐい行けるので、不足はなしですよ……!


 あ、ちなみに捕獲した人は、まぁちゃんがボートの中に放り投げてくる予定です。

 その時の悪戯実行犯は私なのであしからず。


「き、きたぁぁああああっ!!」

「きゃぁぁあああああ☆」

「くそ……っ こんな時だっていうのにサルファの悲鳴が気色悪くて気分が悪い!」

「勇者の兄さん意外に余裕あんね!」


 勇者様はともかく、サルファも結構足が速いですね。

 すてててて……っとまぁちゃんが加減しながら走る最中、逃げ惑う男共。

 やっぱりロロイは賢いです。

 まぁちゃんが走り出したとなるや、さらなる速度を出してゴールに向けて全力疾走し始めましたから。

 うん、他の参加者の皆さんも、狙われる勇者様達を尻目に駆け出しました。

 もう他の参加者や勇者様に余計なちょっかいをかける余裕などないようで。

 自分がとばっちりを喰らわない内に、と。

 それはそれは渾身の速力を駆使して全力疾走。

 ふふふ……さて、そろそろ射ますか。

 

 りっちゃんとまぁちゃんのお祖父ちゃんが作ってくれた、クロスボウ。

 自動で照準から追尾までやってくれる優れモノ!

 更に言うなら、近くに矢が豊富にあれば次弾装填までやってくれるにくいヤツです。

「そぉーれ!」

「ほ、本当に撃ってきたーっ!!」

「大丈夫です、ご安心ください勇者様!」

「なにを!?」

「本気で矢がぶっ刺さって戦闘不能になったら危ないので、矢自体の攻撃力はクロスズメバチの針程度に抑えてありますから! 何しろこの矢の真骨頂は状態異常にありますし」

「安心できる要素なんて皆無じゃないかぁぁあああっ!!」

「ってかクロスズメバチって結構痛いよね~?」

「勇者様なら傷一つ付かないんじゃないかなぁって思いますよ?」

「痛い物は痛いんじゃないのか、それでも!」

「勇者様は強い子良い子、元気な子! 蜂に刺されるくらい、へっちゃらへっちゃら!」

「大体リアンカ、君、人の嫌がることをしちゃいけないって教わらなかったのか!?」

「え……」

 なんだか今更な感のとってもある言葉を耳にしたような気がします。

 ですがわかりきっているでしょうに、勇者様は何を仰っているんでしょうね?

「勇者様……」

 私は柔らかく、優しく勇者様を眺めました。

 頬笑みすら浮かべて、言って差し上げます。


「そんなことを言う聖人君子、魔境にいると思いますか?」


「半ば予想はしていたけどな!? それで良いのか魔境……っ!!」

「今更です。そーれ、喰らえ状態異常!」

「!!?」

「……って、ちょ!? 勇者の兄さん、俺の陰に隠れるのやめてくれる!?」

「済まない、サルファ」

「すまないって思うなら……」

「お前を盾にしても、驚くほど良心が痛まないんだ」

「え、そっち!?」

「…………あ」


 ぷすっ


 あ、サルファに刺さった。



 瞬間の変化は劇的で。

 サルファは、大胆に姿を変えてしまいました。

 愕然とする勇者様が呻きます。

「う、嘘だ……!」

 みるみる、サルファの姿は変わって……


 なんだか、予想外の姿になりました。




なんてこった!

さ、サルファが……!?

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