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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
40/122

38.予選1日目:癒されない強制アニマルセラピー

勇者様vs.半ズボンを卒業した水竜っ子……!

さあ、真面目にバトルシーンか……と、いうところからの!?





 さて、飛び蹴りで連れ攫われた挙句、地面に釘打ちの如く叩きつけられた勇者様。

 現在進行形で、上半身は土の中。

 勇者様、息出来てる?

「まぁちゃん、勇者様って本当に頑丈だよね」

「おー……頑丈だな。んで、リアンカ?」

「ん? なぁに、まぁちゃん」

「あの竜……お前、心当たりあんだろ」

「わぁ、まぁちゃんったら御慧眼ー」

 凄いなぁ、まぁちゃん。

 私だって、最初はちょっとわからなかったのに。

 判断に迷ったこと、あの子に知られてないと良いけれど。

 うん、知ったらショックを受けるかも知れないから黙っておきましょう。

「しかし、育ったな……」

「うん、いきなり育ったよね」

 画面の中央、下半身を地面から生やした勇者様を前に対峙する青年(・・)

 蒼い髪、青い瞳の水の竜。

 私の使役。


「ロロイ」




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「――ぶはっ」

 両肩まで埋まった時はどうしようかと思ったが……

 何とか自力で土中を脱する。

 

 瞬間。


「ていっ」

「!?」

 狙い澄ましたようにその瞬間を狙って攻撃――って本気か!

 何の躊躇もなく、頭を蹴り飛ばそうとしてきたぞ!?

 殺気に気付いて、咄嗟に頭を土中に戻すことで何とか避ける。

 難を逃れたのか、更なる難に飛び込んだのかわからない……!

「いきなり何をするんだ!?」

 風圧を纏った襲撃者の足が、頭上を(よぎ)って行った。

 その機に今度こそ土中を脱したが……今の蹴り、絶対に殺す気だったよな!?

 頭上を通り過ぎた時の、風を切る音。

 それはむしろ風を切るというよりも斬るといった鋭さで。

 空気の引き裂ける感覚は危険というレベルを通り越していたような気がする。

 即座に襲撃者から距離を取り、俺は抗議を込めて相手を見据えた……ん、だが。

 この手の悪ノリなのか本気なのか判断に困る襲撃は、魔境では知り合いがやらかすものと相場が決まっている。

 ……ということを、最近学習した訳なんだが。

「………………?」

 今までのパターンからいって、絶対に誰か知人の犯行だと思ったんだが。

「君は、誰だ……?」

 目の前にいるのは、予想に反して見知らぬ相手だった。

 どこかで見た覚えがあるような気もするが……いや、やっぱり知らないな。

 ただ、印象の重なる相手は知っている気がする。

 知っているようで、絶対に知らないと断言できる相手。

 襲撃者は涼しげな表情で、俺を見ていた。

 ……こんな何の感情も籠っていなさそうな顔で、本気で殺しにかかられても反応に困る。

 見知らぬ相手に殺されるような心当たりは、この魔境においてはないと思うんだけど。

「俺のこと、わからないのか?」

「どうしてどことなく楽しげなんだ……俺と君は初対面、だよな?」

「相変わらず鈍い奴。リャン姉は俺のこと、一目でわかったのにな」

「…………………………リャン、姉?」


 ……………………。

 …………。

 …………待て。


「待て! ちょーっと待てぇぇえええっ!!」

「誰が待つんだ。ばーか」


 ちょ、本気で待ておいぃぃぃいいいいいっ!!


 目の前にいるのは、青年(・・)

 俺と同年代くらいで、身長は悠に170を超えて180近い。

 少し細身だがまだ成長の余地が残る体つき。

 人間には有り得ない、金属質な光沢を持つ蒼髪。

 大人になる一歩手前の、だが子供の時期は脱した肉体。

 ああ、どこからどう見ても青年だ。

 どうしたって少年には見えない。

 見えない、ん、だが……っ


 蒼い髪に、蒼い目。

 そしてリャン姉という呼び方。


「きみっロロイか!?」

「正解。景品に一発喰らえ(プレゼントフォーユー)


 平然とした顔で、竜に特有の強力な魔力を操る。

 一つ瞬きする程度の時間が過ぎた後には、空に無数の氷の槍が……

 ……って、どう見ても俺を狙ってるな! 狙ってるよな!

「ナチュラルに殺傷能力高そうな攻撃してくるんじゃなーい!!」

 次の瞬間、冷や汗も凍るような冷気が襲い掛かってきた。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「2人ともあんなに楽しそうにはしゃいじゃって……」

「……勇者の方はちっと必死そうに見えねぇか?」

「え? 楽しそうに見えるけど」

「そうか、そりゃ良かったな」

「ロロイも真竜の試練を経て体が成長したばっかりだから、慣らしも兼ねてどれだけ強くなったか力試しがしたいって言ってたし」

「つまり勇者君がその為の贄に選ばれた……ってことかな☆」

「日頃の鬱憤も籠ってんじゃね?」

「日頃の? ロロったら勇者様に何か思うところでもあったのかな……?」

「そっとしといた方が良いよ、リアンカちゃん☆」

「???」

 画面の中では勇者様が必死にダンスを踊っています。

 右左右右左下上斜めと超絶技巧ステップも真っ青な複雑さ。

 あんなに一所懸命に踊る勇者様は、お国の舞踏会でも見られませんでした。

 それなのに何だか優雅に見えるのは、やっぱり体幹がしっかりしているからでしょうか。

「おお、上空に跳んだところを更に狙い撃ちやがった」

「頭頂部に目が付いてる訳でもないのに、頭上から自然落下してくる氷塊とかに良く気付けるよな……アレ、人間だったよな?」

「凄いね、ロロイ。ざっと目算しただけでも百三十くらいの氷を操ってない?」

「しかも大きさは画一じゃなく大小不揃い……規格を統一しないまま自在に操るって、結構難易度高いんだよリアンカちゃん」

 素直に感心した声を上げるヨシュアンさん。

 その様子を見るに、どうやらロロイは私の思っている以上に強くなって戻ってきたようです。

 男の子は一日で凄い変貌……じゃない、成長するモノだと耳にしたことがありますが、たった数日ほど目を離しただけでロロイも凄く成長したものです。物理的に。

 身長なんてこの間までせっちゃんより低いんじゃないかってくらいだったんですけどねー……今じゃ私のことを見下ろしてきますよ。

「しかしロロイも勇者も強くなったもんだ」

「前とは見違えるくらい? まぁちゃん」

「俺にしてみりゃ微々たる差だっての。まあ、微々だろうが何だろうが、差は差だろうがな。今の勇者と一年前の勇者が戦ったら、三十分くらいで今の勇者が勝つんじゃねぇの?」

「ああ、瞬殺は出来ない程度の差なんだね……」

「けど、ま……ガキとはいえ真竜相手に善戦が出来るのはまぁ……頑張った方なんじゃねーの?」

「まぁちゃん、ロロイの方は氷を操るばっかで勇者様の接近を許してすらいないけど」

 見ようによっては、勇者様がロロイに一方的に弄ばれているようにも見えます。

 勇者様も遠隔攻撃手段を身につけないと状況の打開は難しいんじゃ……

 そんな気持ちで、はらはら見守っていたんですが。

 勇者様はご自分の問題点など、とうに気付いていたのでしょう。


 状況を打開するため、勇者様が勝負に出ました。


 私はその光景を、油でジャガイモを揚げながら見守りました。

 ちなみに食材と調理器具の提供はまぁちゃんです。


 画面の向こう、勇者様が吠えます。

「でりゃぁぁああああああっ」

 振り上げた手には、剣。

 ハリセンはしまっちゃったんですね、勇者様。

 ……まぁ水を操るロロイが相手です。

 水を相手に『雷』を纏ったハリセンを使うのは危険極まりないと思いますけど。

 頭上から水ぶっかけられたら即座に終わりますよね。勇者様が。

 勇者様は剣で一際大きな氷槍を粉砕し……その欠片に足をかけ、反動をつけて……

「!」

「……接近したら、氷槍は飛ばせないだろう?」

 距離と、氷の位置を冷静に計算していたのでしょうか。

 全てを把握していたというのでしょうか。

 その瞬間、全てが動いた……そう感じました。

 まるで描かれた予定図をなぞるような滑らかさがありました。

 勇者様の砕いた氷槍の向こうには……真っ直ぐに伸びる何もない空間。

 導かれるように、ロロイへと一直線に続く空白があったのですから。

 勇者様は滑り込むように、手を伸ばせば届くほどロロイの近くに……


「危ない! 勇者の兄さん☆」

「……えっ!?」



 行った瞬間、どっかーんと吹っ飛ばされました。



 その攻撃は、唐突な事象でした。

 どのくらい唐突だったかというと、誰も反応できなかったくらい。

 勇者様も、ロロイも。

 そう、ロロイも。

 観覧席で見物していた私達も驚いて一瞬動きを止めました。

 それはもう面白いくらいの勢いで、吹っ飛ばされる勇者様。

 しかも至近距離にいたロロイまで巻き込まれ、二人諸共軽々と。

 突如横合いから突っ込んで来て、二人を撥ね飛ばしたのは……!


「な、なんて素敵にアイベックスー!!」



 立派な角の、山羊でした。



 二本の角の間に羽を休めた小鳥が、「ほーほけきょ」と鳴きました。


  →アイベックスがあらわれた!

  アイベックス(脊椎動物哺乳綱鯨偶蹄目ウシ科ヤギ属)

  急峻な山腹を主な生息地とする。

  年々成長し、十kgを超える大きさに成長する角が特徴的。


「い、一瞬ラーラお姉ちゃんの親戚が現れたかと思っちゃいました!」

「つーか、なんでいきなり山羊が現れんだよ」

「ドカンと一発アイベックス?」

 ロロイを巻き込んで倒れ伏した勇者様も、状況が掴めていない様子。

 上半身をのそりと起こし掛けましたが、混乱しているのかきょろきょろしています。

 下敷きにされているロロイが、物凄く迷惑そうでした。


 そんな、二人を。

 ざし……っざし……っと。

 前足で土を蹴りながら、尚も突進準備の整いつつある体勢で。

 首を低く擡げ、鋭くロック☆オンしちゃっているアイベックス。


 何故に二人を執拗に狙っているのでしょうか。

 アイベックスの額に留った小鳥が、「ほーほけきょ」と鳴きました。

 わあ、随分気のはやい春の訪れー……。

「おい、解説(プロキオン)

「は、陛下に申し上げます。……どうやら、次のコーナーに差し掛かったようで」

「次のコーナーって?」

 それがコースの曲がり角とかそんな意味ではないことくらい、私にもわかります。

 それってつまり、新たな関門……ってことですよね?

 続きを待つ私達。

 今年の罠設置班に席を連ねているという魔族の軍人さんは、厳かな声音で告げました。

 勇者様達の差し掛かった、その難関(コーナー)の名称を。


「次の障害……その名は『わくわく☆動物(アニマル)ふれあいコーナー』」


「確かに触れ合ったな。接触事故的な触れ合い方だったけどよ」

 呆れ眼のまぁちゃんが、勇者様以外を映した画面にちらりと目をやります。

 良く見たら様々な動物がコーナーの中を我が物顔で闊歩しているようです。

 麒麟さんに、ナウマンゾウさん……そしてブッシュベイビー。

 よくぞここまでと、感心してしまう種類の豊富さ。

 よく掻き集めてきましたね?

 麒麟さんとか結構なレア度だと思うんですけど。

「このコーナーの最大の特徴は、動物(アニマル)とのふれあい体験にあります」

「ほう……?」

「コーナーの入り口すぐ脇にさりげなくこっそりボックスを用意しておりまして、挑戦者一人につき一回だけアイテムを取り出すことが出来ます。それを身に付けている限りは襲われることもありません。……が、身に付けていない挑戦者は次々物騒で手厚い動物達の歓迎を受けること間違いなし!」

「それ告知してんの?」

「ボックスの隣にさりげなく立て看板で」

「積極的な告知はしてねぇーんだな」

 まぁちゃんが指示を出して当のボックスとやらの光景を映させると……

 ああ、長机の上に十個くらいの箱が設置してありますね。

 一辺三十cmくらいでしょうか?

 軽く抱える程度の箱ですが……

 挑戦者の方々は既に存在に気付いているのか、そこそこの人数が列をなしているようです。

 ちなみに出てくるアイテムは完全ランダムだとか。

「ふれあい体験、かぁ……こんな場所があるって知ってたら、タナカさんにお願いして寄り道するんでした。存分に動物撫でまくったのに……」

「こんなデンジャラスな動物ふれあい体験、リアンカちゃんには危ないと思うんだけど! リアンカちゃんがアイベックスに襲われたら怪我するよ!」

「あらあら画伯ってば。勿論、あらかじめ襲われないように周辺一帯に痺れ薬を散布してから、動けないところを存分に撫で回すに決まってるじゃないですか」

「決まってんだー……わぁ、周りへの二次被害が凄そうだね☆」

「なんならリアンカが危なくねぇように、俺が獣どもを威圧してやっても良いしな」

「魔王の威圧を喰らったら、普通の動物泡吹いて死んじゃうって。魔境に動物愛護団体が存在していたら絶対に抗議喰らってますよ、陛下、リアンカちゃん!」

「魔王に真っ向から抗議出来る動物愛護団体なんてもんが存在すんなら、その度胸をいっぺん見てみてぇもんだな、おい」

「そんなことができる勇気がないから魔境には動物愛護団体なんて存在しないんだと思うな☆」

「そもそも保護される程度の生命力弱ぇ動植物なんざ魔境にゃ存在しねぇがな」

「そうとも言うね!」

 もうとっくにゴールしておいて何ですけど、惜しいことしました。

 あんなに多彩な動物さん達で遊ぶ機会……今度、まぁちゃんに用意してもらいましょう。

 うん、せっちゃんも誘って一緒に遊ぼうっと。






次回、ネタに走ります。

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