表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
全部門合同蹴り落とし障害レース
35/122

33.予選1日目:勇者様、危機連発☆そのさん




 勇者様をはじめ、多くの予選参加者達を混迷の渦に叩きこんだ罠。

 その名もベテルギウスご自慢の『♪パネルゾーン』。

 羞恥心を捨てきった者のみが勝利の鍵を得られるのか。

 それとも、精神力が強い者が試されるのか。

 勇者様は思い悩む様子を隠しもせず、眉間に皺を寄せている。



「そんで、ベテルギウス? あの白いパネルと黒いパネルは何なんだ?」

 まぁちゃんの問いかけに、呪われた武器マニアはにたりと笑う。

 愉快犯臭い性格をしていることは明らかだ。

 今のところどうやら、判明しているのは白パネルの効果。

 白いパネルを踏むと気色悪い声がするらしいことはわかっているが……?

「白パネル踏んだら、あはんうふんいやんばかんとか、そんな感じの声が聞こえてくるヨ!」

「なんでまた、んなことをしようなんて思ったんだ? こいつ」

 真面目な顔でキリッと言い切るベテルギウス。

 ちょっと発想がおかしい彼に、まぁちゃんは苦笑している。

 ベテルギウスの隣で遠い目をする、プロキオン。

 細く説明とばかり、白パネルに隠された秘密の一端を語る。

「ちなみに声は、この馬鹿が運営委員会の全員に頼み込んでサンプルを集めました」

「運営委員会、全員……?」

「この馬鹿が集めました。パネルの一つ一つに違う声が仕込まれてます」

「芸が細けぇな! よく協力したもんだ。っつかクウィルフリートも本当にやったのかよ」

「ああ、そういや何か変な嘆願きてたから適当に声吹きこんだ気が……」

「……あはんうふん、ってか?」

「いや、流石に微妙なお年頃の息子(ガキ)がいる身としちゃアレなんで、要求とは違う台詞吹き込んどいたけど」

「ムルグセストがお年頃じゃなかったらやったのか?」

「陛下、面白いは正義っすよ」

「それは確かにそうだけどな」

 まぁちゃんだって愉快犯が多く潜む魔族の王様だ。

 こういう笑える事態は当然ながら嫌いじゃない。

 そうだろうそうだろうと頷くベテルギウスには、何故か微妙な気分になるが。

「運営委員長のパネルは……1番ですね。ちょいと試しに聞いてみましょう」

 そう言ってプロキオンが遠隔操作用のボタンを押すと、


『オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン! オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン!』

『!?』


 何の前触れもなく、いきなり発生する『声』。

 くぅさんの声が込められていたのは、勇者様の背後にあるパネルだった。

 突如のこと。

 背後から気配も前振りもなく響いた声に、勇者様がびくっとなる。

 彼の身長が五cm位伸びたんじゃないかと錯覚するほど、勇者様の身体が跳ねた。

『!? !???』

 盛大に混乱した様子で、画面の中の勇者様はきょろきょろと周囲を見回している。

 困惑の広がった顔はいっそ不安そうでもあった。

 そんな勇者様に観覧席は微笑みが絶えない。

「おい、さっきの謎の呪文はなんだ?」

「むかーし昔にうちの爺さんが、山の中で遭遇した黒衣のおっさんに教わったっつうヤツ。呪文なのかなんなのか、意味は知ねえ」

「意味不明だな」

 まぁちゃん達的に謎の呪文の効果か、勇者様は挙動不審だ。

 やはり意味不明ぶりが不安を煽るのだろうか。

 そうこうする内に、動揺して足踏みしてしまったらしい。

 勇者様の足下から、再度声がした。


『いやぁ~ん えっちぃ★』


 勇者様は脱力した。

 へなへなと力を失い、崩れ落ちそうになる。

 しかしながらそれでも姿勢制御の技は見事。

 しゃがみ込みながらも足の位置は少しも動かさなかったのか、先程の奇怪な声は響かない。

 色々な意味で悩ましい事態は、相変わらず勇者様を逼迫させていたけれど。

 そんな勇者様を既に野生動物の行動観察のノリで楽しく拝見している魔王様達。

 取敢えず勇者様の反応が楽しい。

 挙動不審な勇者様を見守るのが楽し過ぎる。

 本当に楽しかったので、かなり素敵なプロキオンの仕事ぶりに拍手を送っている。


 まぁちゃん達が成り行きを見守っている画面の向こうでは、暫く周囲をうかがって何も起きないと見て取ったのか、勇者様が露骨に胸を撫で下ろしていた。

 すくっと膝を伸ばして立ち上がり、思案の顔だ。

 その考えの末に、そろりとゆっくり慎重に動き出す。

 このまま立ち往生している訳にはいかないとでも、考えているのだろうか……。


「――とりあえず、あの白パネルがどういったもんかはわかった。それで? もう一つ種類があっけど……あの黒パネルはなんなんだ?」

 まぁちゃん達が見守るスクリーンの中では、映像として写し取られた勇者様が恐る恐ると黒いパネルを試そうとしている。

 どうやらとうとう、次の行動を起こすべきと思いきったらしい。

 様子を窺うように、そろりと彼の右足が黒いパネルに……

 それを眺めながら、ベテルギウスは言った。

「黒いパネルは落とし穴ですね」

 瞬間、映像の中。


 ばっちりのタイミングで勇者様の姿が消えた。


 どうやら穴に落ちたらしい。

 絶妙のタイミングに、まぁちゃんを笑いの発作が襲う!

 画面の向こうから、勇者様の声が響いた。


『自重しろ魔族ぅーっ!!……って、冗談じゃない!?

これを洒落で済ますつもりか滅べあいつ等ぁぁああああああああっ!!?』


 直後、穴の底から絹を裂くような悲痛な叫びが聞こえてきちゃった。

 穴の底で何があったの。


「おい……?」

 まぁちゃんの問いかける眼差しに、罠設置班の二人が設計図を取り出して覗き込む。

「あの位置は……えーと、三十六番か?」

「いや、十二番だ」

「ああ、十二…………おぅ」

「うわーお……」

 二人顔を突き付け合わせ、互いだけで何かを納得している。

 情報の共有は大切なのだが、その理解した何かを周囲にも分けてはくれないものか。

 まぁちゃんは与えられるのを待つのではなく、催促を決めて口を開く。

「てめぇらだけでわかり合ってんじゃねぇよ。その十二番? それがどうしたってんだ」

「……実はあの落とし穴も、一つ一つ中身が違っておりまして」

「一度でたくさん美味しいトラップコースを目指しました」

「無駄にバリエーション豊富です」

 そう言って二人は、見てもらった方が速いと門外不出の設計図を魔王の前に展開した。

 勇者様が落ちた穴は、果たしてどれだろうか?

 ぱっと数えるのが面倒になる黒パネルの表示。

 設計図と映像を見比べ、勇者様が落ちた穴を推定して書き込みを眺めると……

「……時空の穴?」

「あ、違いますよ陛下。それ三十六番です」

「ああ、えーと…………異次元ホール?」

「そっちは四十二番」

「じゃあこれか?」

 そう言ってピッとまぁちゃんが指さした場所を確認し、ようよう二人は頷いた。

「ええ、それが十二番。あの勇者が転落した穴っすね」

 肯定を意味する頷きをもって、まぁちゃんは改めて書き込みに目をやるが……


「………………『ピンクの壷(※淫魔の長からの貸借品:取扱注意)』……?」


 社会的な終わりが見えてきそうな文字列だった気がした。

 文字の意味を認識すると、まぁちゃんはそっと目線を逸らした。

 無意味に遠くの山を眺めてみたりなんかして、意識して目を休める。

 それから目を瞑り、ぐにぐにと瞼を両手の指で揉み(ほぐ)して。

 そこまでやってから、再度。

 罠設置班の二人に提供を受けた設計図の、十二番に目をやった。

 だけどそんなことをしてみても、文字が変わるはずなど無い。

「ピンクの壷ってなんだよ」

 物凄い地雷臭が漂っているのは気のせいだろうか……?


 まぁちゃんは魔王だ。

 だから当然、魔族の主だった族長達を知っている。

 顔を知っているばかりか魔族の族長達と言えば、年末年始の宴では無礼講を超越した魔王城の宴で酒を浴び、酒で泳いで酒に溺れるような始めから終わりまで一貫して酒尽くしの『THE 酒』全開過ぎる宴会で互いに全身酒浸しになりながらもじゃんじゃか酒を飲ませて酔い潰していく時間を共有している仲だ。←どれだけ酒尽くし

 だからまぁちゃんは、淫猥な淫魔の長のこともある程度知っている。

 少なくとも、咄嗟に顔と言動と異性の好みと下着のこだわりが思い出せる程度には。

 ちなみにまぁちゃんと淫魔の長の間に、やましい事実は一切ない。

 ただ淫魔の長が宴会の度に暴露全開の方向で口が止まらなくなるだけである。

 魔族でも許容量を超えて酔っ払うと、中々愉快なことになる。←酔うと饒舌になるタイプ

 その過程で宴会の最中、魔族の主だった実力者がいる中で若輩に当たる淫魔の長がいきなり自身の恋愛暴露話もとい相談を始め、意中の女性がいることを知った魔族の愉快犯達が面白がって焚きつけ、そそのかした結果、三年前に淫魔の長の恋愛プロジェクトが始動したのは良い思い出である。成果が出るのに二年以上かかり、昨年の初夏にようやっと淫魔の長が意中の女性を誘拐したことも含めて良い思い出といえるだろう。ええ、段階を踏んだ正規の恋愛手続きをすっ飛ばし、いきなり駆け落ちされても良い思い出だとも。

 そんな、ある意味で新婚真っただ中といえるだろう淫魔の長。

 その貸借品である、ピンクの壷。

 まぁちゃんの脳裏で、淫魔の長のキャラがキラリと光った。


「おいおい、碌でもねぇ代物じゃねーだろうな……? 中身なんだよ」

 十中八九碌でもない品だろうとわかっていながら、まぁちゃんが述べる。

 わかっているだろう、という目がくぅさんから向けられていた。

 聞きたいような、聞きたくないようなピンクの壷の効能。

 さて一体、その壷とはどんな壺なるや……?

「さて、問題です」

 答えを求められたベテルギウスが、一枚の札を立てた。

 そこに書かれていた選択肢(モノ)は……?


  a.触手

  b.マグマ

  c.濃硫酸

  d.大量の蜂蜜

  e.大蛸

  f.卑猥なナニか


「真の中身はこれらのうち、どれでしょう?」

「碌なもんがねぇ!!」

 ちょっと目を見張った、まぁちゃん。

 そのどれでも嫌だなぁと思う。

 そして勇者様に対しても、思った。


「――強く生きろよ、勇者」


 どんな姿になって出てきても、五分くらいは優しくしてやろう。

 そう思った、まぁちゃんだった。





さあ、穴に落ちた勇者様に待ち受けている運命はwww……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ