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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
白昼堂々の勇者様拉致監禁事件
121/122

119.ジャイアントモアで竜を釣る

 リアンカちゃんとまぁちゃんが、女神様をただで行かせてくれようとしません……。

 勇者様の誘拐を阻止したいが為か、リアンカちゃんが他力本願ながらに足掻きまくります。他力本願ながらに。




 それは、かつての残像。

 目の前にいる青年は彼女の知る『あの男』とは似ても似つかぬのに……微かな面影と、共通する雰囲気。

 そして何より、魂に刻まれた『魔王』の称号が重なって。

 彼女に錯覚させる。

 目の前にいる青年を、『あの男』……あの戦闘狂いの鬼畜魔王と近しいものだと。


 女神の失敗。

 相手のことを良く知りもしないで侮り、傲り高ぶった振る舞いの意趣返しを受けた。

 下界の民と侮り、彼女の知る知的生命体……人間とは性質も能力も強度も全く異なる『魔族』を、そして『魔王』のことを見誤った。

 人間と同じ下界に生きるモノであろうと、それらは決して侮って良いものではなかったのに。

 人間と同じ地に住まう生物だからと、力量を知りもせずに軽んじ、まともに相対しようとせず。

 『魔王』の言葉を容れずに、聞こうともしなかったばかりに。

 酷薄な眼光で貫かれ、容赦のない仕打ちを受けた。


 憎々しい人間の娘。

 人の身でありながら、女神に匹敵する程美しいと讃えられた。

 人間如きと並べられ、同じ土俵で比べられ。

 そのような侮辱、そのような屈辱、美を司る女神として黙っていられるはずがない。

 特に女神よりも美しいに違いないと讃えられた太陽の黄金、娘の毛髪は……女神と同じ金髪であるのに、確かに女神が一瞬見惚れてしまうほどに、美しく。

 見惚れた事実を認めることなど出来ない。

 女神は人の娘を天界の牢獄に堕とし、女神に与えた屈辱の象徴……娘の髪を、斑の灰色に染め上げた。

 泣く娘の嘆きを心地よいと、自分を侮辱するからだと。

 上機嫌に娘を泣かせては酒杯を煽った。

 人の娘は、未だ年端のいかぬ少女であったのに。


 その頃、地上の民でありながら天界へと執拗に突撃・侵入しては騒乱を撒き散らしていた魔王とその配下。

 暴力と狂気を、強者との戦闘を好む彼らではあるが……彼らは闘争を愛するとともに、相反する性質も併せ持つ。

 弱者への慈愛、幼く弱き者への見返りを求めぬ無条件の庇護。

 そんな彼らが年端もいかぬ、虐げられた人間の娘を見て……見過ごすことも、黙っていることも出来ようはずもない。


 かつて手痛いしっぺ返しを喰らった、思い出したくもない過去。

 忌まわしい記憶は、鏡を見る度……短くなった髪を意識する度に、想起せずにはいられなかったが。

 それでも無理やり、記憶の底に封じ込めていた。

 

 それを、目の前の青年は。

 『魔王』という生き物は、強引に抉り出す。



   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 女神の様子を見ていて、まぁちゃんは何かを納得したように頷きました。

 そして。


 ――チャキッ


 いつどこから取り出したのか、まぁちゃんの両手に鋏とバリカンが。

『いぃやぁぁあああああああああああああああああああああああっ』

 女神様、涙目!

 神をも泣かす極悪非道な魔王様☆見参って感じですね!

 ですが魔王+鋏という視覚的精神的な暴力に耐えかねたのでしょう。

 女神様は強引にまぁちゃんから視線を逸らすと共に距離を取り、そして。


 この場に現れた本来の目的を思い出しました。


 いや、もっと早く思い出せよって思いますけど。

 何とかこの場を早急に離れる為に、さくさく用事を済ませる気になったようです。

 いくらまぁちゃんが超絶美青年でも魔王というだけで拒絶反応が出る。そんなに過剰に魔王を恐れているようですから。

 切羽詰った女神様は、余裕と共に容赦を忘れました。

 問答無用、そう体現するかのように。

『……せいっ』


 女神の手から延びた赤い光が、勇者様を豪快に一本釣りしました。


「う、うわぁぁあああああああああっ」

 身動きの取れないまま、抵抗も許されずに釣られる勇者様。

 響く絶叫、悲嘆の叫び。

 恐らくまぁちゃんの乱入からの一連の流れで、緊張も緩みかけていたのでしょう。

 その顔は……成す術もなく悲劇に見舞われた哀れな犠牲者を体現しています。

 もしも女神に金縛りにされていなければ、きっと決死の覚悟で抵抗していたことでしょう。たとえそれが無駄な足掻きであったとしても。

「てめえ! 俺の舎弟に勝手なことしてんじゃねえよ!」

「誰が舎弟だ、まぁ殿!? 俺はそんなものになった覚えは一つもないぞ!」

「ああ゛? 舎弟も弟分も似たようなもんだろーが!」

「俺はまぁ殿の弟分なのか!? 勇者なのに?」

「それこそ今更だろーが、否定したけりゃ俺の一人や二人倒してみやがれ」

「なんだその壮大な試練!? まぁ殿一人でも歯がたたないのに、二人に増殖されて俺に勝つ目があるとでも……?」

「俺が一人でも勝てねえじゃねーか、このへたれ姫様(ヒロイン)体質野郎が!」

「なんという暴言! 誰がお姫様だ!」

「言い得て妙だろ、実際お姫様っぽい窮地に陥ってんじゃねーか!」

「それを言われると反論できない!?」

 こんな時だって言うのに、ふとしたことで湧き上がる喧々囂々。

 神の力で金縛りから拉致というコンポに嵌められようとしているっていうのに、勇者様ってば実はまだ余裕がありますね?

 もう、そういう癖になっているのかもしれません。

 でもこういう時でもツッコミは健在なんですね、勇者様!

 ちょっと安心しました。そういうところ、尊敬します。

 だけど女神様の前で、ちょっと余裕過ぎましたね。

『ほぉ……魔王を相手に、豪胆なこと。頼もしいのね』

「しまった、好感度が上がった!?」

『それにそのように……神へと身を捧げる者の花婿衣装(ふく)を着ているなんて。いつでも妾の下に参じる準備は出来ていた、ということかしら? いじらしいわね』

「ちがっ……これはそういう衣装(あれ)じゃなくてだな!?」

 済みません、女神様。

 それ、仮装衣装(コスプレ)なんです。

 ですが私達もうっかりしていたということでしょうか。

 こんな事態を予測出来ていたわけではないので、不可効力というか。

 偶然の悲劇でしかないんですけど。

 私とヨシュアンさんがはしゃいで勇者様に着せたい衣装のモチーフに選んだ物が……その、古の聖職者の方の衣装で。

 しかも勇者様のご実家では由緒正し過ぎて既に廃れたとはいえ、かつては花婿衣装として正式に採用されていた衣装だったとか、ね?

 それで女神様が勘違いして上機嫌に喉を鳴らす姿が見られるとか、そんなん予測できる訳ないじゃないですか。私、人間ですよ? 女神様とか、想定の範疇を超えています。

 ……そんな想定外の方まで魅了する勇者様は、本当に罪作りだと思う。罪を犯すのは大概女性の方なので、知らぬ間に罪の外注でもしている感じでしょうか。

 

 でも、癪に触りますね。

 私がうきうきわくわく、楽しんでやったことが……あの女神様を喜ばせる結果に繋がるとか、業腹です。

 それに勇者様の災難を助長させた責任も感じます。

 感じます、し……勇者様を助けたい。


 あんな肉食系女神に渡してしまったら、勇者様の精神が崩壊しちゃいます!


 だから、ここは躊躇わず。

 やってしまおう魔境魂、ここで黙って見過ごしたらハテノ村村民の名折れです。

 混沌をこそ増長させ、回転率を上げて。

 隙あらば騒動を招くのが、魔境のお家芸。

 とはいっても、ただの人間の村娘である私に打てる手なんて幾つもないけど。

 その中でも既にまぁちゃん……最強の手札(カード)は切ってしまった後ではありますが。

 ここでへこたれては、魔境で強く激しく逞しく生き抜いた御先祖様達の子孫として胸を張れません。


 魔王(まぁちゃん)で駄目だったら、私の伝手コネの中でもう一つ。

 更なる理不尽と混沌と、非常識の権化をお呼びするだけです!

 ……あのひと、私にも全然制御できませんけどね!


 ――という訳で、いくぞー!


 私は大きく口を開け、声を限りにお呼びしました。

 きっと(いら)えがある、そんな根拠のない確信を感じながら。


「 たーなーかーさぁぁぁああああん!! 」


 出て来い、おとぼけ巨竜(ドラゴン)

 

 引っ掻き回す気満々で、竜の名を呼ぶ私。

 そうしたら、何故か。

「リアンカ、りーあーんーかー!? 君、一体何を!」

 勇者様が反応しました。

「勇者様……非才にして非力な私のことを許して下さい。お詫びは……素敵なナニかをご用意しますから」

「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて! あとリアンカ、君が非才なんてそんなことはないからな!?」

「ですが……無力な私に出来ることは、混沌(タナカさん)を呼んで場の収拾をつかなくさせることくらいです。それがなんかの助けにもならない可能性も無きにしも非ずですけれど!」

「殊勝な態度で言ってるけど、それ支援に見せかけた別のナニかだろ!? 一体何に対して援護射撃しているつもりなんだ!」

「ごめんなさい、勇者様! 実はお祭り好きの血が騒いじゃったんです!」

「開き直った!?」

「タナカさん、たーなーかーさぁん! 今ならなんとジャイアントモアのまるっと照り焼き幾らでも付けちゃいますよー! 物資調達するのはまぁちゃんですけどー! 美味しい鳥さん奢るので、出てきてくださーい」

「この期に及んで更に呼ぶのか! しかもまぁ殿の了承なく何か重労働さらっと課せた!?」

「ジャイアントモアか……タナカの腹を腹いっぱい、はち切れんばかりに膨らませてやるんだろ? 三百羽くらい……いや、それじゃ足りねーな。徹夜で狩るか?」

「まぁ殿まさかの乗り気!? まぁ殿本当にリアンカに尽し過ぎじゃないか!?」

「馬鹿野郎、妹と妹分可愛がらなくって誰を可愛がれってんだ。お前か? お前が可愛がってほしいのか? あ?」

「済まないお気持ちだけ有難くいただくので許してくれ!」

 どうしましょう。

 滑るように、なめらかに。

 勇者様やまぁちゃんとお喋りすると、言葉が出てきて止まりません。

「陛下とリアンカちゃんってホントさあ……勇者君が会話に加わると怒濤の如く掛け合いが続くよね」

「それが勇者さんの勇者たる由縁なのでしょう。得難い資質(ツッコミ)です」

 何だか隣でぼそっと、ヨシュアンさん達が何か言った気がしましたが。

 今はそんなことに構う時でもなく。

 勇者様があまりにも私の援護射撃を拒むので、ちょっとむきになってしまいました。

「うーと、うーと……もう! タナカさん、早く出てきてください! そんで勇者様を黙らせて下さい」

「呼び出す趣旨が変わってる!? 出てこない可能性は微塵も考えないのか?」

「だって食べ放題を餌に釣ろうっていうんですよ? あの食いしん坊タナカさんが来ない筈がありません……さあ、それを証明する時です」

 勇者様が本当に来るのか、と疑念に満ちた顔をされるので。

 さあ、これはいよいよ本気で呼び出すべきでしょう。

 これは以前……この大会の予選で障害レースを突破した時、足代わりにタナカさんのご協力をいただいた時にも使った手ですが。

 既に効果の程が実証された、呼び出し方法をご覧にいれて差し上げましょう!

 私は肺いっぱいに空気を吸い込み……今までになく大きな声で叫びました。


「ジャイアントモアが――腹いっぱい食いたいかぁぁあああああっ」


 私の声は、すり鉢状になった会場の中で反響し……

 空に届いた。


 そして彗星が突っ込んできたかと思うほどの衝撃を伴い、大きなクレーターを作って。


 タナカさんが、土の下から発生した。


「――って下からかよ! 地中から来るのかよ! お前はモグラか!!」

 試合リンクのど真ん中、その真下から。

 分厚い土をふっ飛ばし、土中から顔をつきあげてきたタナカさん。

 タナカさん……貴方は一体どこで何をしていたの。

『呼んだか、フラン・アルディーク!』

「タナカさん、リアンカです」

『ジャイアントモアが食べ放題とは真であろうな、フラン・アルディーク!』

「リアンカ・アルディークです、タナカさん」

『この腹をくちくすると言うのであれば……相応の量を用意する心積もりは出来ているのであろうな、フラン・アルディーク!』

「相変わらず人の話聞かねー、このドラゴン!」

 これでわざとじゃないんですよ? 天然ものなんですよ、この竜。

 ドラゴンとして見ても規格を超えた大きさの、御長寿ドラゴン。

 ですが長く生きれば生きた分だけ……あの竜が持つ力は侮れない、はずです!

「タナカさん……食べ放題と言っておいて何ですが」

『む?』

「ジャイアントモアよりも先に――あそこでピカピカ光りながら浮いている、熟女(おばさん)を先にパックンして下さい! あの熟女おばさんをパックンするまでジャイアントモアはお預けですよ!」

『誰がおばさんよ、この小娘――!!』

『メインの前のお通しであるな、フラン・アルディーク!』

「リアンカです、タナカさん!」

「ああもう何だこの混乱!? リアンカ、本気で収拾つかなくしてどうするんだー!?」

熟女(おばさん)をぶん回すだけ振り回しまくって……疲労困憊であらゆる意欲を喪失するまでジリジリやります!」

「え? そういうつもりだったのか!?」

「……後付け理由ですけど!」

「本来はどういう意図だったのか言ってみろぉぉお!!」

 勇者様の言った通り、場は混乱。いいえ、混沌。

 混沌の化身が降臨してもおかしくないくらいの、近年稀に見る混沌を招致中です。

 きゃあきゃあ甲高い声で騒ぎながら……空中を飛び回って逃げる女神。

 大きなお口をぱっくんぱっくんさせながら、女神に喰らいつかんと踊り出る巨大な竜。

 女神の相手を完全にタナカさんに投げ、勇者様の動かない身体を女神の魔手から取り戻そうと……しているはずですが、何故か縄の用意を始めるまぁちゃん。

 あ、縄で輪を作ってぐるぐる回し始めましたね。

 女神が手元から離さない勇者様に向かって、投げ縄を試みようとしているようです。

 そして憔悴する勇者様。

 ……気のせいでしょうか?

 何故かこの場で一番ダメージ喰らっているの、勇者様に見えるんですが。

 気のせいですかね?


 やがてこの状況に真っ先に耐えられなくなったのは、案の定……この場で最も混沌への耐性が低そうな女神様でした。

『ああ、もう……っやっていられないわ! 神の威厳が台無しではないの!』

「元々この場じゃ神の権威なんざ、端っから存在しねぇがな」

『不信心者共め……!』

 忌々しげに、それでもまぁちゃんからは一定距離を保って安全圏を確保しようとする女神様。

 場慣れしていないから高をくくっているようですが……その程度の距離、まぁちゃんを相手にしてはあって無いようなものですよ?

 ちょっと距離を置いただけで安心してしまったのか、先頃の取り乱しようが嘘のように……不遜な態度を装備し直した、女神様。

 信仰の及ばぬ地にあって、神の権威も何もないと思うんですけどね?

 彼女は今更ですが自分の醜態を繕おうとしているようで、殊更勿体ぶった態度でまぁちゃんを睥睨します。

 物理的にまぁちゃんより高所を取っているので、その心理的安心感も手伝っているのかもしれません。

 ちなみにこうして女神っぽく振舞っていますが、現時点で既に一回タナカさんにパックンされた後だったりします。

 残念ながらタナカさんの身体も擦り抜けてしまったので、物理的なダメージは与えることが出来ませんでしたが……心理的・精神的ダメージは充分に蓄積されてくれたようです。

 体が擦り抜けるといっても、タナカさんのあの巨体。

 お口でパックンされたら、見える景色はタナカさんの口の中一色になってしまいます。

 触れる心配がなくっても、タナカさんに呑みこまれる仮想体験くらいの効果はあった筈です。

 なので、もう、ぐだぐだで。

 実はこの場に女神の威光を恐れる者は……もう一人もいないんですけど(監修の人間さん達含む)。

 それに気付いているのか、気付かないふりをしているのか。

 いつまでも目を逸らしていられない事実から、女神は形振り構わず逃走を選ぶことにしたようです。戦略的撤退ってヤツですね。


 ただし勇者様を道連れに。


 ……って、ちょっと、それは許容なんて出来ませんよ!

『このようなくだらぬ場所……尊い女神がいつまでも身を置くような地ではないわ。そもそも魔王のいる場所に長居など出来た物ではないのよ! 妾も本来の目的を、達したことだし』

「……っ! は、離せ! 俺ごと連れて逃げる気か!? 自分だけでお帰り下さい、一緒に行くなんて俺は御免だ!」

『口の減らないところも、若さを思えば可愛いもの……ただし、妾への侮辱は許さぬ。覚えておいで、愛しい人』

 女神が色気たっぷりな仕草で、勇者様の頬を指の背でつっと撫でます。

 濃厚な女の色気に晒されながらも、勇者様がそれに蕩けることはなく。

 むしろ顔面蒼白に恐怖で見開かれた目をして、声にならない悲鳴を上げています。

 その反応が、女神様としては不満だったらしく。

 不機嫌そうに眉宇をひそめながら、より一層勇者様をきつく拘束する。

 その、両の(かいな)で。

 まるで背後から熊式鯖折り(ベアハッグ)でもするかの様ですね。

 勇者様が今にも泡を吹きそうになっているところとか、見た目的に特にそれっぽい。

「てめえ、うちの勇者は里子にゃ出さないっつってんだろ!」

「まぁ殿、俺の扱いがまるで猫の子!」

「大差ねえ!」

「酷いこと言ったぞ、この魔王ー!」

「魔王は酷くてなんぼだろうが!」

 まぁちゃんが、顔に焦りの表情を浮かべます。

 物理的に接触する術を持たない私達に、打つ手がない?

 このまま見送るしかない?

「認めねえ……俺が、リアンカの頼みを叶えてやれねぇとか、そんなの認めねえ!」

「そっちか! まぁ殿が不服そうなのはそっちなのか!」

 ああ、私達だけでは、どうにも出来ないのでしょうか。

 そんなことありませんよね。

 そんなこと、ありませんよね……?

 祈る思いでまぁちゃんを見つめますが……まぁちゃんは、今までに見た事のない焦燥に満ちた顔をしていて。

 私は、心臓がひび割れるような気持ちを味わいました。


 その日、女神が降臨した決勝戦の日。


 試合は決着がつかないまま、混乱の中に幕を閉じた。

 勇者様が、女神に誘拐されるという……地上の誰にとっても、不本意な結末で。


 



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