109.【武闘大会本選:個人戦(武器なし)の部】マジカル物理
勇者様があざといイキモノにノックアウトされかけます。
勇者様一人だけが危ない跳弾空間。
その終幕は、呆気なく訪れました。
「あいたーーー!?」
勇者様の後ろ頭に、炸裂するという形で。
背後から脳天に凄まじい勢いで光の矢がぶち当たり、勇者様は衝撃で前のめりに吹っ飛びました。
いや、普通の人だったら頭が弾け飛んでもおかしくないんですけどね?
だけど今回は、命中したのは勇者様です。
だからこそ余計に、別の意味でもおかしいんですけど。
「あれ?」
おかしいと、彼も思ったのでしょうか。
空から勇者様を見下ろしていた画伯も、不思議そうに首を傾げます。
うん、やっぱりおかしいですよね。
だって勇者様、光属性が強過ぎて。
確か光属性の攻撃は自動的に無効化される筈なんですから。
「あ、あいたたた……って、あれ? 怪我が、ない」
審判がカウントを取るよりも、早く。
後ろ頭を押さえながら、勇者様がむくりと起き上がります。
痛がっている、というのも不思議ですけど。
それ以上に勇者様自身が不思議そうに、自分の頭を触診しています。
勇者様……幾ら触って確かめても、怪我はないと思いますよ?
「まぁちゃん、あれってどういうこと?」
「あぁ? 勇者が痛がってることか?」
「そうそう。勇者様って光属性の攻撃無効じゃなかったっけ」
「そりゃ、『光』はな。けど今、物理属性が付与されてんだろ」
「うん? それがどうかしたの?」
「攻撃は無効化されてっけど、物理法則的な衝撃だけ頭に抜けたんだろ。というか勇者自身の「こうなる筈」、「痛い筈」っつう思い込みが過ぎて勝手に痛がってると見た」
「それはつまり……錯覚?」
「ま、錯覚だな」
「勇者様……なんて、残念な」
変に器用で、だけど不器用でもあって。
そんな勇者様だからこそ引き起こされた悲劇、ですね。
勇者様本人は、わかっていないみたいで物凄く不思議そうに自分の頭をぺたぺた触っていましたけど。
本当に自爆してどうするんですか、勇者様……。
勇者様自身の尊き犠牲によって、思いがけず安全が確保された結界の中。
ですが先程の結果を思うと、勇者様も迂闊に魔法は使えません。
本当に、どうして勇者様の魔法は『物理属性付与』なんていう謎の効果がついてしまうのでしょうか?
あまりにも謎すぎて、魔法使いな方々が分析したがっているような気がします。
安全が確保された、となれば。
そろそろ画伯も高みの見物(文字通りの意味で)を切り上げて攻撃に転じる頃合いでしょうか。
私達は期待を込めて、空にふよふよとハートの光を振り撒くヨシュアンさんを見上げました。
うーわー……この角度、モロにスカートの中が見えちゃいますねー。
別に嬉しくないパンチラというヤツですね。
しかし画伯、自分のスカートの中を万民に曝して平然としておられます。
対策はきっちり取っているとしても、ああまで堂々とした振舞いが他の人に出来るでしょうか?
いっそ逆に男らしいです、画伯。
勇者様だったらむしろもじもじと恥じらって、逆に男性の皆様を大喜びさせそうな気がします。恥じらいって、勇者様が言うには大事なことらしいですから。
きゅらきゅらきゅららららら★
そんな効果音が聞こえてきそうな華やかさで、翻る画伯のふわっふわスカート!
彼のスカートが揺れる度、零れ落ちるハート形の碧光。
そして風になびく碧の髪。
いつもは下しっぱなし流しっぱなしの髪の毛も、ツインテ―ルにされた上で丁寧に巻かれています。
あまりの可憐さに、私は思いました。
今、画伯はときめきときらめきを振り撒いている……!
アレが二十五歳成人男子の愛らしさで良いのでしょうか。
何となく複雑な心地で、画伯の一挙一動に注目してしまいます。
ヨシュアンさんは何処となく……いえ、精神的に草臥れた様子が、姿という表層にまで現れてしまっているのでしょう。何だかよろよろしたところが垣間見られる勇者様に対し、此方は元気にびしっと指を差して決めました。
「それじゃ行っくよー、勇s……クリスティーネちゃん☆ 今度こそは、俺のターン!」
ばちこーん★と片目を瞑って見せたかと思うと、画伯は高いところまで一気に昇って……翼の動きを止めました!
そのまま、まるで飛び込み台から水面へと吸い込まれていくかのように。
宙返り三回転捻りを加えて、結界に飛び込みました!
あ、よく見たら、またドアが開いています!
だけどあのドアは、ヨシュアンさん……つまりは成人男性一人が通り抜けられるだけの広さしかなく。
そこに引っ掛かりも枠にぶつかりもせず、綺麗に潜り抜けたヨシュアンさん。……何気に難易度の高いことを!
思わず拍手しちゃったじゃないですか!
私達の関心の声を受けて、再び安全地帯(笑)と化した結界の中に潜り込むヨシュアンさん。
今度は勇者様も呪文を用意する暇なんてありませんでしたからね。
迎え撃つ魔法はナシです。
空を、水を得た魚も同じに自由に飛び回るのがヨシュアンさんですが。
結界の中という狭い空で、彼はどんな空中戦を披露してくれるのでしょうか?
「これはこれで、やり様があるんだぜ☆」
わあ、私の声が聞こえたかのようなタイミング!
画伯は流石にサービス精神が旺盛です。
「それじゃあまずは……そうだね。ゆうs……クリスティーネちゃんの耐性チェックから行ってみよーか!」
「ヨシュアン殿……何をするつもりだ!?」
「それは今、これからの――お楽しみだって!」
画伯は、とっても元気に溌剌と。
ぶちぃっと豪快に自分の親指……その腹を噛み切りました。
空中に飛散する、赤くぬめる体液。
え? 画伯、何する気?
疑問符をどれだけ乱舞させようと、私達は見守るしかない訳で。
怪訝な面持ちで見ていると、ヨシュアンさんは血塗れの手で大きく……空中に、何の変哲もない円を描き出しました。
赤く浮き上がる、円の線。
仄かに光るそれの前で、画伯は親指から血ぃだらだら垂れ流しながらも更なる光を全身から振りまきました。画伯……今日、超キラキラしてますね。
そして叫ぶ、謎の言葉。
「パスカル……パスカル……るるるるる…………パスカぁぁル!」
いつもは男性にしては高めの、まるで鳥が囀るような声をしているヨシュアンさん。
そんな彼の唱える声は、今日は常にない重低音で重々しく響きます。
まるで地の底から響くような、呻き声めいた声音。
パスカルって、だれですか?
「まぁちゃんまぁちゃん、パスカルって? 画伯は何を言ってるのかな」
「ありゃ……いや、アレだ。何百年か前に魔境に迷い込んできて当時の勇者一行に加わった……魔女っ子っつったか? 異界の、魔法を生業とする女が唱えていた呪文の一つじゃなかったか?」
「へえ、呪文。……でも画伯が唱えても何の意味もないよね?」
「まあ、ねーな」
伝承によると、かつて魔境に現れた魔女っ子……あるいは魔法少女と呼ばれる彼女は「十八歳のおとなになる魔法」しか使えなかったと聞きます。
今年で御年二十五歳の画伯が使っても、何の意味もありません。
そして時間を操作するような無駄に高度な魔法の行使は、いくらヨシュアンさんといえども難しいんじゃないでしょーか。
此処は無駄に難易度高すぎる魔法を易々使いこなす人材がごろごろ現れる魔境なので、絶対に無理とは断言出来ませんけど。
「なんでここで、魔女っ子の呪文なんでしょーね」
「気分かなんかなんじゃねーの?」
「気分かー。画伯、とってもノリノリで見るからに楽しそうだもんね」
やがて気分が最高潮に達したのか、それとも準備が整ったのか。
今やごうごうと炎を上げて回転する、空中の円環。
それに向かって、画伯は明るい声を放ちました。
「待ちに待った出番が来たよ。お待たせ、ファイアロビン! さあ、骨が溶けるまで突っつき倒せ!」
きゅるるんっと可愛い仕草の割に、言ってる内容が大概えぐいですね、画伯も……
何を言っているのか、と。
此方が疑問を差し挟むまでもなく……間を置かずに。
炎の円環から、飛び出してくる小さな光がありました。
あれは……召喚の一種、みたいですね。
一体何を召喚したのかと、わくわく見てしまいます。
炎の円環から現れた小さな光は、光そのままに。
よく見ると白炎で形成された、小鳥へと姿を変えました。
その姿を目にして、せっちゃんが大喜びです。
ぴょんぴょこ跳ねて、私やまぁちゃんの服の裾を引っぱります!
「きゃあ♪ 姉様、姉様! 見て下さいですの! 小鳥さんですの、可愛いですのー!」
「本当だね、せっちゃん! 今日の画伯は可愛い演出で満載ですねー」
「あの小鳥さん、ヨシュアンのところの子ですの? 後でなでなでさせてほしいですのー……」
「うぅん、燃え盛る炎の小鳥さんをなでなで、かー……せっちゃんなら出来そうだけど、私には難しいかなぁ」
「リャン姉様、せっちゃんにお任せですの! ちゃんと姉様もなでなで出来るよう、せっちゃんがお手伝いしますの」
「わあ、せっちゃん有難うー。じゃあ、お手伝いしてもらおうかなぁ」
「はいですの!」
もしかしてあれが、ファイアロビンでしょうか?
画伯の周囲をゆったりと飛び回ったのち、その指先で羽根を休める小さな小鳥。炎の小鳥。
火の鳥と呼ぶには小ぶりなそれは、確かにコマドリサイズですが。
でもなんんか、コマドリとは別の鳥にすっごく似てるんですけど。
「おや、ファイアロビンですか」
「久々に見んな、ヨシュアンの眷族」
「……出張と執筆ばかりで、最近はヨシュアンが戦う姿を側近くで見る機会も少ないですからね。あれを呼び出すのは前大会以来では?」
「あいつなんだかんだ器用で有能だかんな。難しい遠地の案件丸投げしやすいんだよ」
可愛い鳥さんの登場に大はしゃぎのせっちゃん。
一方、可愛いせっちゃんとは打って変わってまぁちゃん達は、鳥さんの唐突な登場に驚くこともなく。
むしろ何か知ってるような口ぶりで小鳥さんを眺めています。
……まあ直属上司のまぁちゃんが、ヨシュアンさんの能力の詳細を知っていても不思議はないですけど。
「りっちゃん、まぁちゃん、二人ともあの小鳥さん知ってるの?」
「知ってるも何も……ヨシュアンの眷族ですよ」
「けんぞく? え、画伯にあんな可愛い眷族が……?」
外見だけは、可憐で可愛い画伯です。
今日は試合だっていうのに場に不釣り合いな可愛い演出ばかり振り撒いていますけど……召喚するものまで可愛い尽しですか、と。
徹底するなぁってちょっと感心していたんですけど……あの鳥さん、今回に限って用意したネタじゃないんですか?
今まで見たこともなかったヨシュアンさんの『眷族』。
その存在に目を丸くしていると、りっちゃんが呆れたように肩をすくめました。
「飽きもせずに鳥ばかり、契約を結んで眷族として従えていますよ。ヨシュアンは。父方の家系は鳥の王なので、恐らくそちら由来の習性なのでしょう」
「ヨシュアンさんって可愛いもの趣味でしたっけ」
「あいつ、多種多様な鳥を眷族にしてやがるぜ? 申請書類偽ってなけりゃ全部で七十六も抱えてやがる。そんだけいりゃ、可愛いのから厳ついのまで一通り揃うんじゃねーの?」
何の接点も関わりもない一見さんの魔物を召喚する一般的な召喚魔法に比べて、契約を結んで眷族にした魔物を召喚する方が魔法的には難易度もコストも低く抑えられるそうですが。
だからって七十六とか眷属契約結び過ぎじゃないですかね。
魔法と深く関わる魔族さんは時に眷属を得ることがあるそうですが、人間の私達にとっては眷族とよくわからない意味不明の生物です。
だけど眷属を作るのって結構難しいって聞いた気がするんですけど。
「七十六……そんなに扶養家族が」
「……リアンカさん? 眷族は別に扶養する必要もありませんからね?」
「ヨシュアンは一族の適正で『鳥』って条件つけりゃ眷属作るにも補正が効くかんな。アイツの親父の一族の中には三桁・四桁の眷族作った猛者もいたはずだぜ?」
「『鳥の王』の異名は伊達じゃないんだね、ガルーダさん達」
画伯の頬に、小さな頭を寄せて。
小声で命令を囁かれたのでしょうか。
じっと何かを聞き取るような仕草を見せた後、ファイアロビンは再び空へと飛びあがる。
ひらひら、ひらひら。
小さな体は風の中を踊る様に……勇者様を目掛けて接近していく。
勇者様は見慣れぬ小鳥に警戒しているらしく、焦りの滲んだ表情で何事か呪文を唱えておいでですが……
「リアンカさん、外見に惑わされてはいけませんよ」
「え?」
「ファイアロビンはヨシュアンの眷族ですよ。あの鳥は……」
何かに迷うように、一度言葉を区切って。
どことなく据わった目で、りっちゃんが言いました。
「あの鳥は、ヨシュアンに似て――凄く、あざとい鳥ですから」
かわいいかわいい、小鳥さん。
小さくって首なんかないような、卵体型の小鳥さん。
正面から見たら、ひよこと勘違いしそうな愛らしさ。
白い炎で出来ているのに、まるで見た目は鳥の雪人形みたい。
ぴょんっと長く伸びた尾羽の先だけが、青く変化した炎を帯びる。
その姿は、シマエナガという小鳥にそっくりです。
せっちゃんがはしゃぐのもわかる、納得の可愛さなのですが。
ぱたりぱたりと小さく羽根を動かして、小鳥は勇者様にいきなり突撃――する訳では、なく。
その前方一.五m程の位置にちょこんと降り立ちました。
警戒していた勇者様の雰囲気が、戸惑いに覆われます。
既に準備を終えたらしい魔力の光が、錫杖の先に集まっていて……このまま、いつでも狙いを付けて発射できる段階にまで至っているようなんですが。
その魔力で小鳥を焼きつくすとなったら、小鳥が愛らしいだけに勇者様に非難が殺到しそうですね。
炎で形成されているとはいえ、傍目にはとても無害そうな小鳥です。
自分に被害が及ぶ前に思いきろうとしたのか……勇者様が両手に握った錫杖を、高々と掲げるのですが。
「ぴぃ?」
きょとん、と。
勇者様の顔をまっすぐに見上げるつぶらで無垢な鳥の眼差し。
首なんてどこにあるのかも曖昧な卵体型の頭が、くりっと傾げられて。
その様にまた、私の隣でせっちゃんがぴょこぴょこ飛び跳ねて大喜びです。
……これで小鳥さんが重たげな錫杖に叩き潰されでもしたら…………勇者様、死ぬんじゃないかな。
せっちゃんを泣かせた罪で、まぁちゃんに裁かれる未来が見えました。
え? あれ? これ間接的な勇者様の抹殺計画か何かですか?
小鳥を差し向けた画伯の意図を疑ってしまいそうです。
何らかの意図があっての、攻撃……だとは思うのですが。
「く……っなんて、なんてっ……罪のなさそうな生き物なんだ!」
あ、勇者様が鳥の愛らしさの前に屈した。
ええ、ええ……見事に屈しましたね。
文字通り膝から崩れるように体が力を失い、地面に膝着いちゃってます。
がらん、と音を立てて。
魔法の準備をしていた錫杖が、勇者様の横の床に転がりました。
あの小鳥を殴れる人がいたら、それは悪人だと思います。
そして勇者様は悪人じゃありません。善人です。
そんな勇者様があの小鳥を殴れないのは当然だと思うよ!
だから勇者様、思いきれない自分を責める必要はないと思い、ま……
えっ。
「ぴぃ……ぎゃあああああああああああああああっ!!」
「ぐぉふっ!?」
いま、なんか……すっごいショッキングな衝撃映像を目にしちゃったような…………
え? 体をくの字に折って呻いている勇者様は……幻覚じゃ、ない、ですよね?
いま見ちゃった光景は、一体なんだったのでしょうか……
何が起きたのか、ちょっと私の目と脳が現実を否認しているようです。
状況整理の為にも、教えてまぁちゃん!
「えっいま何が起こったの!?」
「リアンカ……認めたくねぇ気持ちはわかる。だが、現実を受け入れろ。アレはヨシュアンの眷族なんだ、ってな……」
まぁちゃんが涙目の私やせっちゃんから、そっと目を逸らしました。
「あ、あにさまぁ……小鳥さんが! 小鳥さんがぎゃああって言いましたのー!」
「よーしよしよし。驚いたんだな、せっちゃん」
「びっくりしましたのー。心臓がびょくんって跳ねましたの! もう……ヨシュアンの小鳥さんも、びっくりさせちゃめっですの」
「そっかそっか、んじゃ後でヨシュアンの奴はしめとくか」
「あに様、それよりせっちゃん……後であの小鳥さんと遊びたいですの! でもびっくりしちゃうのは嫌ですの。ぎゃあって叫ぶ前には前振りがほしいですのー」
せっちゃん……君は、本当に驚いただけなのかい?
まだ遊びたいと主張しているあたり、本当の意味でいま起きた衝撃の映像にショックを受けている訳ではなさそうです。
小鳥のいきなりアタックに心臓が潰れそうな思いをしたのは、私だけなのでしょうか……いやもう本当に驚きもしましたけど!
いま、目の前で起きたこと。
私がちょっと受け入れるのに時間のかかっている衝撃映像。
それは……うん、りっちゃんの言う通りでした。
あの鳥、あざとい。
ファイアロビンと呼ばれた鳥が、小首を傾げて勇者様を見上げていました。
まるで慟哭するような絶望しきった顔で、膝を屈した勇者様。
この時、両者の距離はとても近く……
そして、勇者様が両手から錫杖を手放していました。
勇者様の懐はガラ空き、とても無防備に晒されていた訳ですが。
そこに、勇者様の胸の真ん中……心臓直撃コースで。
いきなり小鳥が地面よさらばとtake off……。
一瞬でした。
円錐形の残像を残し、小さな嘴を突き出した小鳥の頭突きが突っ込んだのです。
まるで怪獣みたいな、甲高くも奇怪な奇声を上げながら。
あの声一体何ですか。鬨の声ってヤツですか。
勇者様の胸を突き破らんばかりの凄い勢いでしたよ。
勇者様は大丈夫なのでしょうか。
見る限り……息が詰まったらしく、胸を押さえて床に転がってごふごふ言ってるんですけど。
勇者様の苦しみの元凶であるファイアロビンは、何食わぬ顔でまぁた可愛らしく……勇者様の頭上を陣取って、小首を傾げています。
いやいや勇者様がごふごふ言ってるの、君のせいだから。
「もー……ファイアロビンってば。久々の出番だからって張り切り過ぎちゃったかなー。手加減しろって言ったのに!」
「ぴーちちち! ぴぴ!」
「うぅ~ん、やっぱり炎熱や光による火傷その他魔力的な影響は一切ナシかー。ファイアロビンの頭突きによる物理衝撃だけがゆうs……クリスティーネちゃんの防御力を突き抜けたっぽいね! それでも衝撃喰らっただけで怪我がなさそうなとこ、流石って言うしかないかなー。普通の人間だったら胸に風穴空いてそうなもんなのに」
ファイアロビンのあまりの暴挙に、小鳥の愛らしさに騙されていた全観客が唖然とする中。
小鳥の主であるヨシュアンさんだけが冷静です。
冷静な目で、結果を観察中……。
「これはやっぱり、風か水の魔法で一気に攻めるしかないかな。それか幻惑か……」
一方勇者様は時間を置いたことで胸の苦しいのがやっと納まってきたのか(……相変わらず回復力凄いですね!)、涙目を拭いながらむくっと……いえ、ゆらりと立ち上がります。
「ヨシュアン殿……」
「ん? なになにー」
……おや?
なにやら、勇者様の様子が……
妙に据わった目に、微妙に荒んだ色が見えた気がします。
いっそ静けさを増した声が、ヨシュアンさんに向けて滔々と。
「その羽根、全部毟る……!!」
「え、こわっ」
あれ? 勇者様?
もしかして、お怒りだったりします……?
どうやら画伯も遊び過ぎちゃったようです。
次回の勇者様(女装)vs.画伯(女装)はどうなることでしょう?
a.インベーダーゲーム化
b.勇者様が悪鬼羅刹化
c.衣装が弾け飛ぶ(全裸/ミロのヴィーナス)
d.巨大化
e.画伯が亀さん縛りを実体験
f.画伯が氷上の妖精と化す




