人間を愛する女神が、ある人間を殺した動機
「女神様がその人間を殺した動機を調べるですか?」
天使は、神のその命令に戸惑う。
「もちろん、各女神には裁量権を与えているから、自分の担当区域の人間を殺すことは何の問題もない。しかし、あの子は、いつだって人間達を守ろうとしていた。愚かな人間が戦争を起こした時だって人間達をかばっていた。そんな子が自ら手を下して人を殺したのだ。しかも、提出された報告書には、あの人間は殺すしかないとだけ書かれていた。もしかしたら、あの子は人類全体に絶望したのかもしれない。その人間一人が邪悪で処分しただけなら問題ないが、もし人間自体に失望してしまったとするなら、担当を外すことも検討しなければなるまい」
天使は、殺された人間の調査を始めた。
報告書には、時空のゆがみで多発していた異世界から転移者と注意書きがされていた。
調査は長期戦になると覚悟をしていたが、動機はすぐに判明した。
その転移者の女は、他の転移者達から告発されていた。
はあっ?
パクリなんて言いがかりもいいところよ。
私の才能に嫉妬して、でっちあげの告発をしたんでしょう、その転移者のやつらは。
だから、やってません。
私が考えたオリジナルのミステリートリックです。
オリエント急行殺人事件?アクロイド殺人事件?
何ですか、それ?
はいはい。
じゃあ、もうミステリー小説は書きません。
それで、満足なんでしょう。
あーあ。かわいそうな私の読者。もう、私の考えた素晴らしいトリックが読めなくなったわ。あなた達のせいだからね。
以前のようにミステリー以外の小説を書くわ。
はい?
それは前にも言ったけど、そんな漫画家なんて私の転移前の世界にはいませんって。
手塚治虫でしたっけ?
いませんって。私を陥れるために、でっちあげただけです。
もちろん、やなせたかしなんてのもいませんでしたよ。
次に書く作品の構想はもうできているのよ。
あー、でもまたパクリだといいがかりつけられちゃうでしょうね。
人気作家ってやつは大変なのよ。
変なのにからまれて。
次回作は、名前を書いただけで人を殺せる死神のノートを拾った青年が、天才探偵と頭脳戦を繰り広げるってやつなんだけど。
「神様、あれは殺すしかないですよ」
おわり




