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エフィー!?

エフィーの声が聞こえ、振り返るとそこにはもうエフィーの姿は無く、エフィーは既に走り出していた。

その顔を見ることは叶わなかったが、さっき聞こえた声からすると恐らく……


俺は直ぐさま立ち上がり、追いかけることに。


「エフィー、待ってくれ!!」

「ご、ご主人様!?……っ!!」


エフィーは俺の声を聞いて一瞬振り返ったが、追いかけてきた俺を確認してその逃げる足を速める。


うそ!?何でスピード上げんの!?

俺よりシアやカノンが追いかけてきた方が良かったのか!?


くそっ!!


だがやはり能力的にエフィーが逃げ切れるという事は無く、直ぐに差は縮まり、俺はエフィーに追い付く。


「エフィー、どうしたんだ!?いきなり……」


俺はエフィーの肩を掴み、エフィーを振り向かせる。

その顔は涙で……


「えっぐ、ゴメン、なさい、ご主人、様、ゴメン、なさい……」


エフィーは両手で目からこぼれていく涙を拭う。

そうして嗚咽を漏らしながら俺に謝り続ける。

……本当に、どうしたんだ。


「……エフィー、一旦落ち着こう。な?」


そう言ってエフィーの頭を撫でながら声をかけ続けてやる。


「マスター、エフィーは!?」

「ご主人様!……エフィー」


カノンとシアも直ぐに追いついてエフィーの様子を心配する。


「ゴメン、なさい、ご主人、様、カノンさん、シアさん……」

「大丈夫だエフィー。誰もエフィーを怒る奴なんていない。だから一旦落ち着こう」

「そうだよ、エフィー。私達がいるから、大丈夫」

「エフィー、皆ついています。ですから大丈夫ですよ」


3人で声をかけ続けてやると、エフィーも安心したのか、段々泣き止んでいく。


「エフィー、俺もいるし、シアとカノンも、もちろん他の皆だっている。だから大丈夫だ」

「そうだよエフィー。皆いるんだから」

「エフィー、私達皆、エフィーの味方です」


俺はエフィーを安心させてやれるよう声をかけたり、頭を撫で続けた。

シアやカノンはエフィーを抱きしめて、そしてエフィーも次第に落ち着きを取り戻して行った。





「……申し訳ありませんでした。ご主人様、カノンさん、シアさん。取り乱してしまって」

「いいんだ、気にするな」

「そうだよ。それにしてもいきなりエフィーが逃げ出したからビックリしちゃった」

「確かにそうですね。……エフィー、説明してくれますか?」

「……はい」


エフィーには未だ暗い雰囲気が少し残っていたが、少しずつ話し始めてくれた。



エフィーはどうやらさっきの俺達の会話の一部を聞いて誤解してしまったらしい。

エフィーが聞き取った一部とは、「王国が敵になった」というところだ。

……つまりエフィーは、ハーフエルフである自分のせいで俺達が国と戦う羽目になった、と思ってしまったのだ。


それで自分を責めて、泣いて俺達から逃げてしまった、と。

……なるほど。


エフィーが賢いがために起きてしまった悲しい事件だ。

ただ単に何も考えずにいたのなら「王国を敵に……」と聞いただけでそういう風にはならない。

……きっと普段から少なからずエフィー自身で思うところがあったのだろう。

俺達に後ろめたいとも思っていたのかもしれない。


だが一方で、それだけ皆の事が大事だから、そういった発想も出てくるわけで……

どうでもいい相手なら国が敵になったって知ったことでは無い、として済ませられる。


だからエフィーが良い子に育っていることを純粋に嬉しいと思う気持ちもある反面うーん、と思うところも。


エフィーはいつでもその豊富な知識や冷静さで俺達を助けてくれるから忘れがちだが、まだ年齢的に成長しきっていないことに変わりはないのだ。


そんなエフィーに、あんまり思いつめるようなことはして欲しくないのだが……


俺の独りよがりだが、この子達には、純粋な穢れの無い大人に育って欲しい。

そう願うばかり……いや、俺がしっかりしてないからこんなことが起こるんだ。

……もっと、もっと強くなって、この子達を……



それは兎も角、エフィーがこうなってしまった根本の原因をそろそろちゃんと知った方がいいのかもしれない。

……つまり、『ハーフエルフが何故冷遇されているか』についてだ。


今迄はエフィーのことを考えて深くは聴かないことにしていたが、今後は逆に知っていないと対処出来ないことも出てくるかもしれない。


……そうだ。

エフィーを買うと決めた時からもう既に王国を敵に回す可能性だって十分にあったんだ。

今更敵が誰になったところで怖気づく必要は無い。

今迄も、そして、これからも……俺は俺のやり方で戦い続ける。


よし!!


「……エフィー、一つ聴きたいことがある。話し辛いかもしれないができれば話してほしい。……ハーフエルフがこの世界でどうして嫌われているのか」


俺はエフィーの誤解を解き、安心させた上で尋ねることにする。


「エフィー、辛いことでも、誰か大切な人とその辛い思い出や過去を共有する、ということは重要なことです。私達もエフィーと一緒に悩んだり考えたりしたいです。……ですよね、ご主人様?」

「そうだね、シアの言う通りだよエフィー。一緒に悲しんだり悩んでくれる人がいれば辛いのもそれだけ少なくなるよ!……ね、マスター?」


……どうして俺に確認する。

ああ、なるほど、俺のお墨付きが欲しいんだな。

権威づけみたいなものか。

そうだよな、シアにそのことを教えたのも俺だし。


……うん、そうに違いない。


「ああ。俺もエフィーの辛いことを知って、一緒に悩みたいし、一緒に考えたい。やっぱり皆でこういうことを共有するって言うのは中々に重要なことだ。もちろんエフィーの気持ちもあるだろうから無理にとは言わない。……だからエフィーが話したくなったら話してくれ」

「ご主人様……」

「マスター……」

「ご主人様……」



……うんうん、きっと皆うっとりした目で俺を見ているんだろうな。

たまには、普段あまり見せない主としてのカッコよさを見せてやらんと。

さあ、皆、遠慮せず俺の胸に飛び込んで……



ヒソヒソ「ご主人様、ご自分のことは思いっ切り棚に上げられてます」

ヒソヒソ「マスター、自分は一人で全部背負おうとして、私達には何にも話してくれなかったのにね」

ヒソヒソ「こ、こら、エフィー、カノン、ご主人様に聞こえちゃいます」

ヒソヒソ「シアさん、でも、ご主人様に頼っていただけないのは私達も悲しいですし」

ヒソヒソ「そうだよ、シア!シアもマスターに一杯頼って欲しいんでしょ?」

ヒソヒソ「そ、それは……そうですけど……」



ヒソヒソ「「よし!!」」



ヒソヒソ「『シア、シアだけが頼りなんだ!俺にはお前が必要なんだ!!……俺について、来てくれるか?』」

「ご、ご主人様!?は、はい!!もちろんです!!いつでも、どこまでも……」

ヒソヒソ「『シアさん、俺はシアさんと一つになりたいです!!……一つになりましょう、シアさん?』」

「ご主人様、いつになく積極的です!!もちろんいつでも私は準備……あれ?ご主人様、口調が何だか……」

ヒソヒソ「『些細なことはどうでもいいじゃないか。俺がシアを心から愛している。……重要なのはただそれだけだ。だろう、シア?』」

「ご、ご主人様、そこまで……」

ヒソヒソ「『さあ、シアさん、一緒に……』」

「は、はい!!ご主人様……」









…………うん、何だかとっても楽しそうだね。

いいんだよ?別に。3人が仲良くしてくれてるんなら。


……主なのに、3人に放っとかれてるからって、全く、全然、これっぽっちも、寂しくなんか!寂しくなんか…………グスッ。



俺は屈んで地面に人差し指で『の』の字を書く。


「あれ?どうされたのですか、ご主人様。そんなに落ち込まれて……って!?」


シアが俺を視界の端にでも捉えてくれたのだろうか、俺が64個目の『の』を書いた時点でようやく正気に。


ヒソヒソ「あ!マズイ!!」

ヒソヒソ「シアさんが妄想の彼方から……」

「こらーー!!二人とも、からかいましたね!!!」

「ゴ、ゴメン、シア」

「シアさん、決してからかったわけでは……」

「問答無用です!!全く……」



怒ったシアを見れるって言うのも珍しいな。

とは言っても本気で怒っているわけではなさそうだし、エフィーはエフィーでちょっとは元気になってくれたようだ。


重い話をするからと少し身構えていたのだが、まだその準備は早かったのかもしれん。


正座して聴いている二人とその説教をしているシア。

3人の様子を眺めていると、自然と気分も安らいでいた。


……大丈夫、今の状況は元の世界の時なんかとは全く違う。

うつむくようなレベルじゃない。


だったら、俺は前を向いて、降りかかる火の粉を……いや、降ってくるものは何だって払いのけてやるさ……この子達を守るためにも……




その後、説教の終わった3人から、ハーフエルフ迫害の出自について聴いた。




約300年前に起こった人魔戦争。人間側約80万人。対する魔族側はモンスターも合わせて総数約7万。状況は途中まで人間側有利に進められていた。王国は一気に片をつけようと、報酬を多めに設定して更なる人員を募集。約5万人が各地から名乗りを上げ、援軍として送り出されることに。

……そこで件の『ハーフエルフ』が登場する。


ここからの話は、シア・エフィー・カノンの3つの言い分に分かれる。

シアとカノンとしてはエフィーの言う事を信じるだろうが、見解がそれぞれ分かれるなら、いろんな方向からの情報が欲しい。

だからシアとカノンにはきちんと知っていることを話してもらった。



シアから話されたのは、この国で生きている多くの人間の共通理解らしい。

その援軍として出撃した5万人を魔族側と通じて、寝返ったハーフエルフが嵌め、全滅させた。

人数的には援軍が無くなっただけなので最初と変わりなかったが、その件で人間側は大混乱に陥り、士気も大きく減少。戦況は一気にひっくり返される。

その時代は勇者が1人だったはずなのだが、幸いどこからかもう1人の勇者が現れまた持ち直し、辛くも人間側の勝利に収める。


大戦の際のその裏切り行為を王国が咎め、そのために今も尚彼等に対する冷遇は続いているのだと。



カノンもシアの言った話は大体知っていたが、そこにハーフエルフの裏切りという事は抜けていて、それ以外では魔族側の言い分にも幾らかは通じていたようだ。

途中まではシアの言ったことと大差ない。

大きく異なってきたのは、その勇者の数だ。

当時、1人しかいなかった魔王の下に、2人の勇者が。魔王の腹心はその時何故かその場にいなかったという。

実力が拮抗して小康状態でいると、いきなり何者かが現れ、その者の加勢によって魔王は討たれた。

……つまり魔族では、3人の勇者によって当時の魔王が倒されたと言い伝えられている。


魔族側としてはそのことの方が大事だったようで、ハーフエルフについては特に目新しい情報は無い。



最後にエフィーの話を聴いた。

大戦についてはシアの知識と大差ない。

今迄数人の同族……つまりハーフエルフの者と出会って話を聴く機会があったらしいが、それらの者達は口を揃えて「ハーフエルフは大戦において何もしていない。ハーフエルフは無実だ」と言ったという。

エフィーの両親、つまり人族のお父さんとエルフのお母さんからも「ハーフエルフは何も悪くない」と聴かされて育ったのだと。


それらを語るエフィーは特に熱弁したという事も無く、淡々とただ事実を語っていたように見えた。

感情的になっている様子も無く、これが裁判での証言とかなら、かなり信用して貰えるのではないだろうか。




3人の話を聴き終え、一人で考え込むも……結論は出ない。

まあそりゃ300年も前のことだ。

今俺が一所懸命に考えて答えが出るならハーフエルフ達は苦労しない。



俺は……



「……俺は3人の話を聴いて、今までエフィーを見て来たことも踏まえての判断をするとだな……」


俺の言葉に、3人が固唾を飲む音が聞き取れた。


「……ハッキリ言ってどっちでもいい。やってようがやっていまいが、それでエフィーがエフィーでなくなるなんてことは無いんだ。中途半端な答えで悪いが俺はエフィーその人を信用している。だからどっちだろうが俺がエフィーを見る目を変えるという事は無い」

「ご主人様……そうです!!エフィーはエフィーです。ずっと私達の大切な仲間ですよね」

「そうだよ!エフィーが悪いことをしたわけじゃないのに、エフィーが責められることは無いんだよ!!」

「ご主人様、シアさん、カノンさん……」

「まあ仮の話をするとだな、たとえ同じ種族だろうと、エフィーが生まれる前のことなんかをエフィーに帰責するなんて筋違いもいいところだ。そんなことを言ったら俺達の先祖だって過去にいっぱい過ちを犯している。それをその時どうしようもなかった俺達の責任にされても、な。……だから、今迄も、そしてこれからも俺がエフィーのことを守っていくことに何の変りも無い。他のハーフエルフに出会ったら、その時にどう接するかは決めればいいさ」

「ご主人様……っ!!」

「お、おおう!?」


いきなり俺に飛び込んできたエフィーをしっかりと受けとめる。


「……ご主人様、ありがとう、ございます。ご主人様に、えっぐ、お会いできたこと、本当に私の人生で、一番の……宝物です」

「……そう言ってくれるのはうれしいが……エフィーには申し訳ないことになってしまったと思っている。誤解させてしまったこともそうだが……何より、今後ゼノさんと……」

「……お気に、えっぐ、なさらないで、ください。生きてさえいれば、いつか、きっとまた、会えますから。……今は、ご主人様と、一緒にいれることが、本当に、嬉しくて…」

「……エフィー、エフィーのこともちゃんと守るから。相手が誰であろうと。必ず」


そう言ってエフィーをしっかりと抱きしめる。

……今感じているこの子の温もりを、絶対に守って……


「……エフィーだけじゃありません。ご主人様のことも絶対お守りして見せますから。……皆のお姉さんとして、私が、必ず」

「シアさん……」


シアが近づいてきて、それに加わる。


「それじゃあシアを守る人がいなくなっちゃうよ……しょうがない。私がシアもエフィーもマスターもみーんな守っちゃう」

「カノン、さん……」


カノンもシアに習い、俺達の下に。


「ぐすっ、えへへ、へ。……ご主人様も、シアさんも、カノンさんも、私だってちゃんと戦えますよ。ですから、皆で戦うんです。……ご主人様に刃向って来る者は、振り払うのみです」

「エフィー……」


エフィーの目は涙で濡れていながらも力強さを感じさせた。


「ご主人様」

「マスター」

「……分かった、分かったよ。……でも、無理だけは、しないでくれよ?」

「ご主人様がそれをおっしゃるのですか」

「全くだよ、マスター」

「……申し訳ありませんが、ここだけは二人に同意です」


手厳しい意見が3人から言い渡される。

……むむぅ、無理をしているつもりは全く無いのだが。





その日は久しぶりに4人で、一緒の部屋で眠った。

……エフィーはもう大丈夫そうだ。

シアとカノンの間に挟まれて気持ちよさそうな顔をして眠っている。



……俺は今後も、この子達のこの笑顔を守っていくんだ。






……たとえまた、経験することになったとしても……


もしかしたら今日の夜にもう一話上げることができるかもしれません。

とりあえず体と相談しながら頑張らせていただきます。

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