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二人とも、どうしたんだ?

「……ん、んん……ん!?」


……何だ、い、息が、でき、ない。

このままじゃ……

ま、まさか、もう、国の追手が!?


……いや、冷静に考えろ。

俺を殺すよりも捕まえて祀り上げた方がアイツ等にとって都合がいいはず。

今直ぐに殺すメリットは無い。


じゃあ、この息苦しさは……


俺はそこでまだ重たい瞼を開ける。


「……え?」


俺の目の前に広がっていたのは真っ白なゲレンデ……

……いや、ただのリン(キリン)の腹か。

俺の顔に四肢を広げてのしかかってやがる。


俺は起こさないように気を付けながらリンを顔からどける。


そして、今の自分の状況を把握する。


……ああ、そうか、昨日は3匹と一緒に寝たのか。

それにしても、どうやったらこんなことに……


他の2匹もリンに負けず劣らず凄いところで寝てやがる。

ユーリ(ユニコーン)は俺の腹にしがみ付くようにして寝ている。

そして、フェリア(フェンリル)は……


「……何で俺のアソコに」


フェリアは俺の大事なところに顔を押し付けるようにしている。

……普段はあんなに恥ずかしがり屋なくせに。



整理すると、3匹は縦1列に並ぶようにして俺に乗っかって眠っていた。

……だから寝苦しかったのか。



俺は3匹を起こさないよう静かに起き上がり、考え込む。



今回はただの考え過ぎだったが、いつ王国側からの追手が来るか分からん。

『破壊の御手』から追手の規模が大きくなっただけと言えばそれまでだが、そんな楽観的にいられるというわけでもないだろう。


……相手は『国』だ。

一人で相手をするにはあまりにも敵が巨大すぎる。


……俺がしたことは、間違って……


いや、正解かどうかは別にどうでもいいさ。

あれでアイリさん達親子が離れ離れにならなかったんだ。

今はそれでいい。


後は聖獣達はもちろんだが、シア達皆の安全が確保されることだけ考えれば……


幸いこの孤島には入島制限をかけられるし、ワープできる場所自体もかなり見つけ辛いところにある。


孤島の場所それ自体なんかは俺達だって分かっていない。


だから一番手っ取り早い方法は、皆には、ここから出ずにいてもらって、俺が……



コンコン


「ご主人様、エフィーです。お目覚めですか?」


ノックの音の後、エフィーの声がして思考が中断される。


「ああ、起きてる。先に行っててくれ。直ぐ行くよ」

「かしこまりました。お待ちしています」


そう言って足音が部屋から離れていく。


……このことは後にするか。


俺は寝ている3匹を起こして、待っているだろう皆の下に向った。



「あ!主殿、遅いぞ、皆もう起きて待っていたのじゃぞ!?」

「悪かった。スマンな、待たせて」

≪まあまあ姉じゃ、主様もお疲れだったんでしょう。あまりそう急かさずとも≫

「うむー、ファルは主殿に甘いのじゃ!だがそうじゃの、主殿もやはり疲れというものは溜まるんじゃろう。……だ、だからそ、その、何じゃ、主殿」

「ん?どうした?」

「あ、主殿も、お、男、じゃからな、わ、我がその……」


いつもは見ない様なリゼルの表情。

……何だ、その乙女な感じは。


今の外見でそれをされるとかなりドキッとする。

リゼルも何だかんだ言って女の子ってことなのかもしれん。


≪姉じゃ、ファイト、です!!≫

「う、うむ!……その、主殿、疲れているなら、我が膝枕か、それか下の方……」

「……クレイ、お腹空いたー」

「そうですね、ご主人様もいらっしゃったんですし、朝食にしましょうか」

「な!?クレイ、エフィーよ!まだ我が……」

「あ、リゼルさん、お皿回してください」

「うむ……ほれ、シーナよ、受け取るのじゃ」

「あ、はい」

「よし、そっちには行き渡ったか……ってちが-う!!」

≪姉じゃ……≫


……うん、やっぱり今日も朝からリゼル(姉)は絶好調だったな。


「はい、シアさん、カノン」

「……ありがとうございます」

「……ありがとう、シーナ」


ん?どうしたんだろう、シアとカノンが何だか伏し目がちだ。

……二人からは笑顔が無い。

朝は確かに一般的にテンションが低いのも分かるが、シアとカノンは今迄そんなことは無かった。


……何かあったのだろうか?

ベルが心配してカノンに尋ねている。



『カノン様、どうかなさったのですか?お機嫌が優れないようですが……』

「……ううん、何でもない。気にしないで、ベル」

『はぁ、ですが……』

「何でもないから。本当に気にしないで」


うーん、何でもない、って言う割には表情が晴れない。

本当にどうしたんだろう。


……あ!もしかして、女性特有のあれの日……

それなら俺が一々聴いたら藪蛇になるな。


取りあえずおかしなことがあったらさり気なく助けてやればいいか。

今日もゆっくりさせてやるべき、かな。

……色々と考えなければならないこともあるし。



その後、皆で朝食を取り、今日の予定を告げて、解散となった。

一日の間、気を使ってシアとカノンの様子を見ていたのだが、二人は終始何か思いつめたような感じだった。


本人達に聴くのはやはり躊躇われたので、エフィーにこっそりと聴いてみたのだが、エフィーもさっぱり分からないらしい。

女の子特有の日か、というのも遠回しに聴いたがどうやらそうでもない、と。


そうなると本当に何が原因で二人があんな様子でいるのか……


……聖獣のことか?

昨日いきなり聖獣の担当にしたからか……

……いや、何だかんだ言ってフェリアとリンはシアとカノンとは相性良さそうだったし、実際二人もちゃんと仲良くなれるよう今日も動いてくれていた。


じゃあ、一体……




夜、皆で食事した後、これからどうしていくか、という事と共に二人のことも考えていると、まさにその二人本人が話しかけてきた。


「……マスター、今、大丈夫?」

「……ご主人様、その、お話が……」

「ああ、大丈夫だ」


何か思いつめたような顔をしてはいるものの、話してくれるんなら一緒に考えてやれる。

さて……



俺は二人の後について、建物の外に……ってあれ?


「ベル、お前も一緒か?」

『お!?カイト殿もカノン様とシアさんに呼ばれたのか?』

「ああ、そうらしいな。……で、シア、カノン、話というのは?」


俺が語りかけると、二人は顔を上げ、俺の目を見て話し始める。


「……ご主人様、お話というのは、昨日のことなんです」


『昨日』。

俺はその単語にドキリとする。

……だが直ぐに心を静め、二人にとぼけた顔をして見せる。


「昨日?……もしかして聖獣達と何かあったのか?」

「……いいえ、フェリア達とは仲良くやれています。彼女たちも私達の言うことを聴いてくれますし」

「じゃあ、一体……」

「……マスター、やっぱり私達には何も話してくれないの?」


カノンがいきなりそんなことを話し出す。

……その目は普段見ない、とても悲しそうなものだった。


「……何の、話だ」

「マスター、もう私も!シアも!全部分かってるんだよ!?……ここに、マスターと、ベルの二人がいるってことが、どういうことか……二人なら、分かるよね?」


俺はチラッとベルの方を見やる。

ベルはとても焦っている。


……どういうことだ。


「ご主人様、昨日、アイリ様のお母様に会いに行かれた際、何か……あったのですよね?」

「…………」

「マスター、私達はそんなに頼りない!?」


カノンはもう既に目に涙まで浮かべている。

……俺は少なからず動揺するも、直ぐに立て直す。


「シア、カノン、だから何の話をしているのか……」

『カイト殿、もう、いい』


ベルがいきなり俺達の前に進み出て話し出す。


ベル、お前……


「ベル?」

「ベルがマスターに、『もういい』って」


シアはベルの言葉が分からないので、カノンがベルの言葉を補う。


『カイト殿、もういいのだ』

「ベル、お前、どういうことだ!?」

『もうカノン様もシアさんも薄々分かっていらっしゃるのだ。……隠しても、無駄だろう』

「ベル、お前!!……」

「ベル、続けて」

『……おっしゃる通り、俺とカイト殿はヴォルタルカで王国の騎士団と、戦闘になったのです』

「騎士団と戦闘……」

『はい、俺達が到着した際、騎士団に難癖をつけられていた街の人間が。それを助けるために、戦闘に……』




……事前に話していた通りに、ベルは自白してくれているようだ。



~そんなこと、全然気にすることは無いんだが……いつまでも隠し通せるものじゃないぞ?~

~ああ、それは分かってる。だから……バレかけたら、真実の中に少しの嘘を交えて話す。俺の経験上、この方法が一番バレずに済む。……これで行こう~



あまり具体的にどうしろとはベルに言っていなかったが、ベルは本当にうまく語ってくれている。

これなら……



「……ベル、その難癖をつけられていた街の人って……誰?」

『!?……いえ、その、ですね……』


ど、どういうことだ!?

何故そこまでピンポイントな質問を……

そんなの、昨日のことを知っていないと……

でもこの狼狽振りからすると、ベルがバラしたわけではないだろう。

……くそっ!



「カノン、誰が難癖をつけられていたのかって言うのは問題じゃないと思うんだが……」

「ご主人様、問題でなければお教えいただいても大丈夫なのでは?」

「そうだよね。……ベル、教えて。マスターは誰を助けたの?」

『そ、それは……』


ベルは俺とカノン、シアを交互に見てどうすればいいかとても迷っているようだ。

どういうことかは分からん。

だが、これ以上は無理、か……


「……ベル、辛い役目をさせて悪かったな。もう完全にバレているようだ。……二人とも、隠していて済まなかった」

『カイト殿……』

「二人が言うように、俺達がヴォルタルカで戦ったのは騎士団で、その前に騎士団に連れていかれようとしていたのが……アイリさんとエンリさんのお母さんだったんだ」

「……ご主人様」

「……マスター」

「隠しといてこんなこと聴くのもなんだが、どうして二人はそれを知っているんだ?ベルが話したわけでは無い……んだよな?」

「うん……昨日マスターが聖獣3体に話しかけた時、少し辛そうな感じだったから、これはおかしい、と思って」

「あの時か……そんなこと、よく分かったな。俺自身でも今振り返って気づいた位だったのに」

「当たり前です!!……お慕いする、ご主人様の事なんですもの」

「そうだよ!!……自分の大好きな人の事なんだから、それ位、分かるよ……」


何だかゴニョゴニョと言われたが、恥ずかしいことを言われたのはなんとなく分かった。


「……でも、それだけで全部分かったってわけじゃないんだろう?」

「はい。……ですので、何か知っていそうなワイバーンに話しかけて、カノンに通訳してもらったんです」


な!?出所はアイツか!!

……抜かった。

アイツも上空では俺とベルの会話の中にいたし、シリアスな雰囲気でしていたからちゃんと黙っていてくれるもんだと勝手に思い込んでいた。


……今回の件では頑張ってくれたから労ってやらないと、と思っていたが、何だが微妙な心境だ。



うーん……ってうお!?


考え込んでいると、いきなり二人が泣きながら俺に抱き着いてきた。


「ど、どうしたんだ!?二人とも……」

「ご主人様、私達を置いて行かないでください!!私達も、一緒に、戦います、から」

「マスター、どこにも行かないで!!誰が敵になっても、私達がずっと、味方で、いるから」

「え!?俺が、ど、どこに……」

「だって、王国を、敵に、まわしちゃったんでしょ!?」

「ご主人様は、とてもお優しい方、です。ですから、お一人で、王国と戦うつもりじゃ……」


俺はそこでかなり驚かされた。

俺が、考えていた最終手段を……


「ご主人様、どこにも行かないで、下さい。私も、戦いますから」


シアがまた以前のような言葉を繰り返している。

シア……


「……俺はどこにも行かないよ。むしろどこにも行けないんじゃないのか?……国が敵になってしまったんだ。……だから、これからもずっとシア、カノン、お前達の傍にいるから」

「……本当、ですか?」


今回シアは以前のようにずっと取り乱す、という事は無く、直ぐに反応してくれる。


「ああ、本当だ」

「……ずっと、私達と一緒にいて、マスター」

「ああ……誰が敵になっても、皆がずっと味方でいてくれるんだろ?」

「……うん」

「……私もです」

「なら大丈夫だ。ずっと、傍にいる。約束だ」



その後、二人は落ち着いてくれたが、しばらくそのまま胸を貸した状態が続いた。



……ベルもちゃっかり俺の脚に顔をすりすりしてる。

……まあいいが。




「……お前達にはこれから、苦労をかけるかも……」


俺達は座って話していた。

そしてそう言おうとした時、フッと両端から人差し指が伸びて来て、その先を止められる。


「……マスター、それは言わない約束だよ」

「そうです。私達がご主人様と、一緒にいたいんです」

「二人とも……だが実際問題、相手はそんじょそこらの雑魚とは勝手が違う。……王国そのものが相手……」



俺がそれを言い終わる前に、思いもよらぬことが……



「王国が、相手……っ!!」

「え!?エフィー!?」


もう少しでゴールデンウィークですね。

恐らくその際には一つ多めに投稿できるかと。

……あ、それは活動報告で申し上げた閑話とは別の、ちゃんとした本編ですのでご安心を。

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