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アイリさん、エンリさん……

今書き終わりました。

とてつもなく長くなってしまいました。

切ることも可能だったのですが、恐らく一気に行った方がいいかと思いましたので一つで行こうと判断しました。


今日はアイリさんとエンリさんのお母さんに会いに行く日だ。


皆が見送りに出てきてくれた。

俺はワイバーンに乗り、そしてベルも一緒に乗せてやる。


エフィーが前に進み出る。


「……ご主人様、どうかお気をつけて。王国の動きというのが少し気になります」

「ああ、分かってる。俺も面倒事は御免だからな、十分注意するよ。それにしても『イフリートの炎爪』は凄いよな、そんな情報を独自に入手するなんて」


これは今日アイリさん達の下を訪れるかどうかの回答をするためにエフィーがナギラの街に赴いた際、ゼノさんに教えてもらったのだ。


王国が国民や俺達冒険者の目を最近の異常現象等から逸らすために色んなことをしているらしい。

普段ならどうでもいいような犯罪、まあ元の世界でいったら浮浪罪みたいなもんを軒並み検挙させる、みたいなことがあるのだと。

それは確かに俺達も気を付けないとそれに巻き込まれかねない。


「うん、本当に凄いよね、ああいうのが組織の力って言うのかな」


カノンも同意している。


『俺は組織などどうでも。カノン様や皆さんさえいらっしゃれば』


ベルが俺の横から顔を出してカノンへの愛を……ってこんな言い方だとちょっと百合っぽいしやめとこう。


「わ、私だって、組織なんていらないもん!……マスターと、皆がいれば、それで……」


カノンが俺や皆を見ては顔を赤くし、そんなことを言う。

……カノン、いい子に育ってくれて、お父さん嬉しいぞ!


「カノンさん……えい!」

「ちょ、ちょっとエフィー、いきなりくっつかないでよ!」

「えへへへ、カノンさん、私もカノンさんと一緒にいれてとっても嬉しいですよ?」

「わ、分かったから!は、離れてよ、エフィー」

「離しませーん、えへへへ」

「も、もう……」


離れて、とか言いつつもカノンも満更でもなさそうだ。

エフィーはカノンと結構仲良しらしい。

まあ出会いの時から二人はそうだったからな。


それを少し離れたところからシアが見守っている。

……うーん、本当にシアは頼れるお姉さんって感じだな。


「わ、我もみなといれるだけで十分じゃ!!あっ、もちろん主殿もじゃぞ!?」

≪別にそこは言わなくても分かるかと≫

「そういうことは言葉にせぬと分からぬことも……」

「……リゼル、うるさーい」

「な!?うるさいとはどういうことじゃ!?クレイよ!!」

「……クレイ、眠たい」

「ええい、起きんか!今我がありがた―いことをじゃな……」

「……(ずぴー)……」

≪クレイさん、立ったまま寝ちゃった、です≫

「ぬわーーーー!」


リゼル(姉)とクレイも出会いこそ凄いものだったが、二人共、ともに大切な物のために戦っていたということを互いに理解しているし、今はちゃんとした俺の仲間だ。

……まあ姉はいつもオチ担当だが。


「……ほらっ、シーナもご主人様に」

「あ、はい、シアさん」



後ろで控えていたシーナにシアが話しかける。

まだ若干この雰囲気に慣れてないシーナをシアが……

うん、本当にシアは皆のお姉さんだな。



「カイト様、お気をつけて」

「ああ、今日は皆、留守番頼むぞ?」

「うん、ベル、マスターのこと、よろしくね?」

『はい、カイト殿のこと、お任せください』

「それじゃあ行ってくる……頼む、ワイバーン」

「グァーン」



ワイバーンは俺の声とともに、上昇を始める。

また、2時間前後の空の旅となる。

今回はベルもいるので話し相手には苦労しない、かな?



ワイバーンが飛翔し始めて数分、いきなりベルが話しかけてくる。


『……カイト殿、一つ尋ねたいことが』

「ん?何だ?」

『カイト殿はカノン様のことをどう思っているのだ?』

「な、何だ、藪からスティックに!?」

『……カイト殿?』

「……スマン、ちょっと古かったか」

『いや、別にそういうことではないのだが』

「……どうしてそんなことを?」

『カノン様は毎夜俺に対して愚痴をこぼすのだ』

「なんて?」

『“マスターはどんな女の子が好きなんだろう……私ってシアと違ってがさつだし、エフィーみたいに賢くないし……はぁ”と』

「それをお前は毎夜聞かされているのか?」

『ああ。……カノン様はとても一途にカイト殿を思っている。だがそれと同時にご自分の容姿にあまり自信が無いのだ。だから、こういう風に俺からカイト殿に尋ねているわけなんだが』

「……んー、あんまり言葉が思いつかないが、俺はカノンは滅茶苦茶綺麗で可愛い女の子だと思ってるぞ?俺なんかにはもったいない位に」

『いやいや、俺から見てもカイト殿は中々な男だと思うぞ。……まあそうか、やはりただ単にカノン様の気にし過ぎか。変なことを聴いて済まなかったな、カイト殿。カノン様のこと、これからもよろしく頼む』

「頼まれるまでもなくちゃんとカノンのことは守る。だから安心しろ」

『うむ、それを聞いて安心した。これで、ようやく俺も、死に場所を……』

「いやいや、まだお前死ぬような年じゃないだろう!?何を訳の分からんことを……」

『いやなに、ボケる、というのか?こうすればカイト殿が喜ぶとリゼルが言っていたぞ?』

「……ちなみにどっちの方が?」

『あれは……恐らく姉だな。“主殿は我をツッコむ時生き生きとしておる!これからは主殿のためにボケる者が時代を制するのじゃ!!”と高々に言っていたからな』



……意味が分からん。

またアイツか!!

ボケる奴が時代を制するってなんだよ!?

別にボケようと意図してボケてるわけじゃないくせに偉そうなことを!!



「……そういうのはもうアイツだけで十分だから。お前は普通にしててくれ」

『そうなのか?良くは分からないがカイト殿がそう言うならそうしよう』

「ああ、そうしてくれ」




それからはしばらくまたどうでもいいようなことを一人と一匹で話して空の旅を満喫した。




そうして約2時間の飛行を終え、目的地のヴォルタルカが見えてきた。

俺はあまり目立たないよういつも少し離れたところにワイバーンを着陸させ、そこからヴォルタルカの街までは徒歩で向かうのが常となっていた。


今回もそうしてワイバーンを街からは離れた森の中まで近づけさせ、そこで降りる。


そこから俺とベルで街までの道程を消化していく。

……だが、



『カイト殿……』

「……ああ、ベルも気づいたか。……つけられてるな」


街まで本当にあと少しと言うところで、俺達は何者かに尾行されていることに気づく。

俺は『索敵』を使っていて、相手がそれに引っかかったということなのだが、ベルが気づけたのは恐らく臭いに敏感なんだろう。


『どうする?恐らく複数いる』

「ああ、……4人、いるな」

『正確な数まで分かるのか!?……流石はカイト殿、と言ったところか』

「まあそれはいい。とりあえず、こっちから仕掛けて……」

『……カイト殿、ちょっと待ってくれ!』

「ん!?どうした?」

『これは……街の方にも同じような臭いが複数……恐らくこっちの奴等よりも数が多い』

「街の中からか!?それも尾行している奴等よりも多い……」

『どうする、カイト殿?流石にこれは俺達だけでは……』

「いや、尾行をしている奴等は俺が何とかしよう。ベルは先に街の中に行って様子を見て来てくれ」

『一人で迎え撃つつもりか!?それは危険だ!どんな相手かも分からないのに、俺はカイト殿のことをカノン様や皆さんから任されているのだ!そんなこと……』

「ベル、もしかしたら街の中で何か起こっているかもしれない。だからできれば情報が欲しいんだ。何も無いならないで直ぐに戻って来てくれればいい。それに俺はアイツ等が尾行していることを知っている。逆にアイツ等は俺が待ち構えていることを知らない。これだけ俺に有利な条件が揃ってるんだ。俺だって死にたくはないから相手がヤバかったらクレイを召喚するなり逃げるなりするさ。……だから、ベル、頼めるか?」

『カイト殿……分かった!街の中の様子はしっかり俺が見て来てカイト殿に伝える』

「ああ、頼む。……離れてても俺の匂いは追えるか?」

『ああ、当たり前だ!伊達にいつも夜遅くに眠いのにカノン様に起こされて、カイト殿の衣服をクンカクンカしているのに付き合わされているわけではないからな!!』

「…………」

『…………』

「…………」

『……ん、んんん……スマン、いや、今のは何でもない、何でもないんだ。忘れてくれ』

「いやいや、忘れられないよ!?今とんでもないこと言ったよな、お前!?」

『さあて、しっかりと街の様子でも見てこようかな、うん!!』

「おい、何でも流せばいいと思ったら大間違いだぞ!!」

『よし、ではカイト殿、行ってくる!!俺もうまくやるから、そっちもミスんなよ!?』

「何爽やかに言って流そうとしてんだよ!!お前そんなキャラじゃねえだろ!!……はぁ、もういい、分かったからさっさと行け」

『ああ!では……』



ベルは街に向って走って行った。

ふぅ、カノンのことについては帰ってからにしよう。



さて……

……うん、しっかりとついてきてるな。



俺は足を速めて、近場の角を曲がる。

……おっ、焦って速くなった。



俺は土魔法を使って追いかけて来る奴等の目の前が壁になるようにしてやる。



「な!?ど、どこに行った!?」

「さ、探せ!!アイツもここを曲がったのだ!」

「そうだ、まだ近くにいるはずだ!」



壁の後ろから聞いていると声が聞こえる。

その後、全員がバラけるようにして俺を探そうとする。


あれは……うーん、服が真っ黒だ。

何者かは全然わからん。


取りあえず……一人ずつ仕留めるか。



俺は『隠密』を使って一番近くで一人キョロキョロと恐らく俺を探している奴の後ろを取る。


俺はいつものように雷魔法で気絶させる。


「ぐあぁ」


ちっ、くそっ、声を出しやがった。

しかも女の子の可愛い悲鳴でもなく、ただの野郎の野太い声。


「い、今のは何だ!?」


そして更にそれで集まってきやがる。

恐らくそれもまた野郎。

……何が楽しくてこんなことしなければ。



「な!?1番がやられている!?」

「くそっ、やはり何かアイツは知っているんだ!!」

「捕えるぞ!!」


ん?俺個人を特定して尾行していた……訳じゃない?

……まあとりあえず伸してしまえばいいか。



「うらぁ!!」

「せやぁ!」



真っ黒の服を着た野郎が二人手に小太刀を持って襲いかかってきた。

……ふむ、中々できるな、こやつ等。


俺は剣を抜いて応戦する。

何度か打ち合うことになるが、二人相手でも難なくいなせる。

……契約のおかげでスピードも大分上がってる。


3人目が後ろから魔法を使って攻撃してくる。

風の矢が数本打ち出される。

流石に二人を相手にしながら全部をかわすことはできなかった。


俺は剣を持っている腕とは逆の腕で防ぐ。

……だが、全く痛くない。

瞬時にステータスを見てみるもほとんどダメージが無い。


……これはクレイと契約した効果か。


「な!?全く効果が無い、だと!?」


厳密に言えばダメージはあるので効果はあるのだが、本当に1発につき1しかない。

……これは本当に契約様様だな。



……ふぅ、とりあえず戦闘での俺の能力アップも見れた。

俺は動揺した後ろの奴目がけて魔法を放つ。


「ライトニング!!」

「ぐわぁ!」


威力を調整してもかなりのものだったようだ。

一撃で気絶させるまでに。


「な、何だ!?今の技は!?」

「な、何かの魔法か!?」


初めて見る雷魔法に動揺してしまった二人の隙を見逃さず、俺はこの二人にも雷魔法をぶつけてやる。


「おらぁ!ライトニング!!」

「「ぐわぁ」」



ふぅ、全員これで片付いたか。

俺は土魔法で全員を拘束してから、一人に水魔法をぶつけて強引に目覚めさせる。


その後、俺自ら拷問して聞き出そうとしたのだが、中々口を割ろうとしなかった。



『大変だ!!カイト殿!!』



どうしようか迷っていると、ベルが街の中から駆けてきた。


「どうした、ベル!何があった!?」

『コイツ等、恐らく王国の騎士団の者だ!街の中にいたのは騎士団だった』

「な!?騎士団!?どうして騎士団がヴォルタルカに!?」

『詳しいことは走りながら話す!今は街の中に向った方がいいかもしれん』

「どういうことだ!?」

『とりあえず街に!このままではアイリ殿達の母上が危ない!』

「な!?」





俺はそれを聞いた途端に捕えた黒装束共は放って街へと走り出した。

ベルも俺についてくる。


「どういうことだ!?ベル!!」


走りながらも俺はさっきベルが言っていた通りに説明を求める。



そこで俺がベルから聞いたことは俺には衝撃的なことだった。




俺はその内容を聞いたうえで、アイリさん達の家に向った。


そこで見たものは……



「さあ、その女をこちらに引き渡せ!!」

「嫌よ!!どうしてアンタ達にお母さんを渡さないといけないのよ!!」

「そうです!!母さんがあなた達について行く意味が分かりません!!」


アイリさんとエンリさんがお母さんを背に庇いながら鎧を身にまとった多くの騎士たちと相対している。

他にも『イフリートの炎爪』の団員達が多く見受けられるも、それでも騎士たちの半分もいない位だろうか。

彼女達が少ないのではない。騎士が多過ぎるんだ。

ざっと見ても100は超えている。

実際に数えたら一体何人いるのか……


「ふん!貴様ら冒険者が私達騎士団に意見など偉そうに!私達騎士団の行為は王国の意思だ!!我々に刃向うこと即ち王国に楯突くことを意味するのだ!それが分かったらさっさとそこをどくんだな!!」

「くっ、こんのぉ……」

「ダ、ダメ、リクさん!!怒っちゃ!!」

「だって、アイツ等……」

「リク、大丈夫だから。……だから抑えて、ね?」

「アイリ……」


怒って前に出ようとしていたリクさんをアイリさんが手で制する。

その後彼女を下がらせて、アイリさんは前に進み出る。


「……アンタ達、ちゃんとした理由も話さないで人一人を連れて行くのが王国のやり方なの?」

「貴様らに話す必要は無い!後でその女本人に言ってやる!だからそこをどけ!!」

「あのね、どんな理由か分からないのに身柄を拘束されるなんておかしいに決まってるでしょ!?王国法第13条、アンタ知ってる?」

「な、何の話だ!?そんなもの、今は関係ない!!」

「はぁ、最近の騎士ってバカでもなれるのかしら?」

「な!?今のは騎士である我々に対する不敬……」

「……王国法第13条『何人も、その理由を直ちに告げられなければその場で身柄を拘束されることは無い』。騎士だったらこれ位、常識だと思うんだけど?……それともここで告げられないような理由で拘束でもするつもりなのかしら?」

「ぐぬぬぅ……」


流石アイリさんだ。

アイリさんが言った『王国法第13条』は元の世界の憲法か刑事訴訟法にあたるんだろう、まあ恐らく前者だろうが。

俺は流石にこの国の法律まで覚えてはいられなかったからこの国にもそんなものがあるのかと驚いている。


……アイリさんとあの騎士の様子からすると恐らくアイリさんが言った通りあの騎士は法律自体は知っているんだろうがそれを出したくなかったと見える。

だからもし彼女たちが何も知らなければそれで押し通すつもりだったんだろう。

……これが『騎士』なのか?


俺のイメージではもっと清廉・廉潔な物だと思っていたんだが。

……まあ国が国ならそれに仕える奴にも期待できないってのは世の常だと思うがこれは流石に……




俺がベルから聞いたのはまさに今目の前で起こっていることだった。

つまりはアイリさん達のお母さんがいきなり現れた騎士達に連れていかれようとしていたところをアイリさん達が抗議。

その現場をベルが見て俺に伝えてきたのだ。



……ここに出る前のエフィー達との会話を思い出す。



コイツ等王国は何か後ろめたいことがあって、それから俺達の目を逸らしたい。

その的としてアイリさん達のお母さんが選ばれてしまった。

……俺の推測からすると、アイリさんが七大クランの団長ってことに大きく関わっているんだと思う。


七大クランの団長の母親が何かしらの犯罪を犯していた、となったらそりゃ冒険者の間では大きな噂になるだろうし、国民の目もかなりそちらに向けることができるだろう。

……だから連れていかれたらやっていない罪を被せられる可能性も否定できない。


ここが日本よりも優れた刑事司法制度、殊取り調べの制度を持っているのなら話は変わってくるが、俺が今までこの世界で生きてきた中での感想としては、この世界の文明レベルはそこまで高くない。そこから推測したら、司法制度だって中世位の物じゃないのか?

さっきのやりとりからはそうは思えなかったが、アイリさんが言った法律ももしかしたらそこまで価値あるものじゃなく、実際は空文化しているのかもしれない。



……そして何より、あの姉妹からもう一度母親を奪うなんてこと、あっていいわけがない。

二人がどれだけ辛い思いをしてきて、それでやっとまたお母さんと一緒に暮らせるようになったのに、それを王国の都合の悪いことから目を背けさせるための贄とするなんて……見逃せるはずが無い。


……権力なんてあったって本当に碌なことにならないな。

権力があることのメリットはある程度は理解しているつもりだが、だからと言って罪のない人を不幸に陥れることが見逃されていい理由にはならない。



俺が意を決してアイリさん達の助太刀に向おうとした時だった。


……一人のこれまた鎧を纏った、しかし他の騎士達とは違う……一際派手な鎧を着ている。

後ろには何だかビラビラッとしたマントのような物までついている。



そこまで高くない身長に、気持ち悪いニタニタした笑み。

俺はそこで直ぐにコイツとは仲良くなれないと感じ取った。

……いや、確かに俺、元々ボッチだけどさぁ、そういうことじゃないんだよ。



「……ふぅ、やっぱり君達無能に任せたのは間違いだったね。わざわざボクが出向いてきて正解だったよ」


キモッ!!

あの顔で一人称『ボク』かよ!?


「た、隊長!?も、申し訳ありません!!い、今すぐ……」

「ボクは君達みたいな無能には何も期待していないから。もういいよ」

「で、ですが……」

「隊長のボクがいいって言ってんだよ!何度も同じこと言わせんな!!この無能が!!」

「し、失礼しました、オルゲール隊長」

「フン、手間をかけさせやがって、無能共が……」


キモ男はそう言いながらアイリさんに近づいていく。


「……ふぅ、うちのバカな騎士共がご無礼を。麗しい団長殿」


アイリさんの前でお手本みたいな礼をしてみせるキモ男。

テレビで見たことのある感じだ。貴族がするような。


「……なに、アンタ?」


アイリさんは目に見えて嫌そうな顔をする。

流石にあれは嫌だろう……


そう思ったが、そう言えばアイリさんは男嫌いだったな。

騎士でもそれは変わらないのか。


「これはこれは。ボクとしたことが、失礼をいたしました。……ボクは王国騎士団第4師団隊長オルゲールです。以後お見知りおきを」


うっわ、きっも!!

ウィンクしやがった!?

アイリさんももんの凄い嫌そうな顔してる。


「で、その隊長とやらが何をしにきたの?」

「ははは、そんなに熱烈な視線で見つめられたらいくらボクでも困っちゃうな」

「……どうでもいいからさっさとしなさいよ」

「ふぅ、クールなのもいいね、実にボク好みだよ」


……キモ過ぎてもう何が何だか。


「……アンタなんか、カイトの足元にも及ばないわよ……」

「うん?何か言ったかい?」

「ちっ、アンタには関係ないことよ。要件があんのならさっさとしなさい。もちろん、アンタ達にお母さんは絶対に渡さないわ」



ん?今二人で何を話したんだ?

流石に離れているから声が大きくないと聞こえない。



「ボクが来たのはあなたのお母さんがこの国で禁忌とされている魔力が放たれている疑いがあるからなんだ。その真偽を確かめるため、ということなんだよ」

「お母さんから禁忌の魔力?はっ、何を根拠に」

「だろうね、そういわれると思って予め持ってきておいたよ。流石天才のボクだ」


そう言うと後ろに控えていた部下が何かをキモ男に渡す。


「これは王国でもちゃんと禁忌登録されている魔力を感知するための正式な魔道具だ。これの巨大版が王国にあってそれからここを割り出したんだよ。じゃあ使ってみるね」


キモ男はそう言って手に持った円盤状の道具のスイッチのようなものを押す。

それからそれをアイリさんのお母さんに向けてみる。



ビィービィー



すると、お母さんから緑色の光が出て行って、道具に入っていく。


……道具の真ん中の光が点滅して、無色だったのが赤色に変わっていった。


「……やっぱりあなたのお母さんは禁忌の魔法に……」

「ち、違うわ、お母さんは……」

「七大クランの団長はどの方も聡明だと伺っています。あなたもその一人でしたらこの魔道具が本物で、この色に光ったということがどういうことか分かるんじゃないんですか?」

「お母さんが使ったわけじゃないわ!!その魔法を編み出した奴の攻撃を受けただけ!だから……」

「まあこれは任意だから。別にボク達も君のお母さんを疑っているわけじゃないよ。十中八九術者は別にいると思っている。だって今回のものは禁忌の魔法の中でも今まで術者が一人しか確認されていないものだもん。そんなものを一人の何の取り柄もない女が使えるとは思っていないよ」



……何てことだ。

恐らくこれはまだお母さんに残っている状態異常、『特呪2』が原因だ。

あれは単なるHP回復無効化なだけじゃなかったんだ。

これが残ってる限りそれが禁忌の魔法類似の魔力を放つ。

そしてそれを感知した王国は動いてお母さんを連れて行く……


ここまでがあの屑野郎の呪いだったんだ。

こうして、どこまでもアイリさん達のお母さんを追いかけて、誰にも……アイリさんとエンリさんにさえも渡さない。


……こんなことって……


「な!?か、母さんは私達の大切な人です!!取り柄なんて……」

「まあそれはどうでもいいよ。だから今回お母さんにご足労いただくのは任意だよ。しかも目的はただ単に技をかけた術者についてを聴くってだけ。ボク達が裁きたいのは禁忌に手を出した奴だ。だから安心してくれていい」

「な!?そんなの、要はアイリ達のお母さんを餌に術者をおびき出すってことじゃないか!ふざけるな!!」

「リクさん!!ダメです」

「……これだから王国なんて信用できないんだ、アイリ、止めないで、もう我慢の限界……」

「リク!!」



パシッ



「な!?なにを、するの、アイリ!?」

「……リク、今あなたが怒りに任せて行動すればそれがクランの他の団員達を危険にさらすことになるのよ?」

「じゃあこのままアイリ達のお母さんをみすみす渡すのか!?」

「そんなはずないでしょ!?私だってそんなつもり一切ないわ!!」



その頬には一筋の涙が。

ここからでもアイリさんの気持ちが分かる位その顔は悔しいという思いでいっぱいだった。

アイリさん……



「アイリ」

「お母、さん?」

「アイリ、もういいの」

「……何、言ってるの?お母さん、まだ何か方法はあるはずだよ、絶対お母さんをあんな奴等に渡したりしないから!」

「そうだよ、母さん、また3人で一緒に暮らすんだよね!?これからはもう2度と離れないんだよね!?もっと母さんと話したいこと、いっぱいあるんだから!!だから……」

「……エンリ、いいの、もういいの」

「何がいいの!?良くない、全然良くないよ!!」

「お母さん、あきらめたらダメだよ!!また、お母さんと、離れるなんて、もう……」

「母さん、もう私達を置いていかないで!!」

「お母さん!!どこにも行っちゃいやだ!!」



エンリさんとアイリさんは子供のように泣いて、お母さんに抱き着く。

……二人の言葉が先日のシアの言葉と重なった。

全く同じなんてことはもちろん言えないが、二人にとってお母さんはそれだけ大きな存在なんだ。


今まで回復するかもわからない中信じ続けてようやく元に戻って3人で一緒に暮らせると思っていた矢先に起きた……いや、これは偶発的と呼ぶのはいかがなものだろうか。


あの屑野郎の思惑、そして王国の本当にどうでもいい裏事情。

どっちも人間の愚かな心から生み出されたものだ。


……本当に、人間なんて、醜い。



「……アイリ、エンリ、二人とも本当にゴメンね、最後まで二人に迷惑ばっかりかけて。お母さん、本当にダメなお母さんだった。二人に何にもしてあげられなかった」

「そんなこと、ない!母さんは、母さんは……」

「迷惑なんて、そんなこと、一度も思ったこと、なかった!だから、これからも……」

「……それはダメなの。お母さんここにいたら、アイリやエンリに迷惑かけて、その結果クランの人達にまで迷惑がかかることになる。だからお母さん、行くね?」

「ダメ、行っちゃいや!」

「お母さん、行かないで!」

「あらあら、二人ともこういうところはまだまだ子供なんだから……」

「私、子供だもん!だから、母さんがいないと!」

「私も、エンリも、お母さんがいないと……」

「二人には今日、やることがあるんでしょ?こんな泣いた顔じゃ、好きになってもらえないよ?」


そう言って二人の目から溢れ出るような涙を服の袖で拭っていく。


「……二人とも、お母さんの娘なのよ?笑ったら、とっても可愛いんだから、ほらっ、笑った顔、お母さんに見せて?」

「……ぐすっ、こ、こう?」

「……私達、ちゃんと、笑えてる?」

「……当たり、前、よ!お母さんの、娘なん、ですもの!!とっても、素敵な、笑顔、よ?」


今まで我慢していたんだろう、お母さんも泣きながら二人に笑いかける。

……人間なんて本当に矛盾に満ちている生き物だ。

あんなに醜い奴等もいればこんなに美しいと思える人たちもいるんだ。



「……そろそろいいかい?ボクも時間の無い中来ているんだ。急いでくれるとありがたいんだけど」


キモ男がそう言って急かす。


「二人とも……ちゃんとお母さん、戻ってくるから。だから心配しないで」

「ははは、いつになるかは保証できないけどね」

「このっ!」

「お前なんか……」

「おおっと、ボクにそんな熱い視線を送られても困るよ、一応仕事でやってるんだから……さあ、行こうか」


そう言って歩き出すキモ男。

お母さんもそれについて行く。


「いや、お母さん!!」

「母さん、行かないで!!」


二人が悲痛な声で叫んで呼び止めようとする。










……もう、無理だ。

これ以上はここで第3者きどって見学、なんてことは俺には無理だ。

この状況を覆すためになら、俺は……







           神様、ゴメン、また約束、守れなかった。








「……ベル、スマン。何も言わずついて来てくれ」

『カイト殿……分かった』


俺は黙ってついて来てくれるベルと共に進行していた奴等の前に姿を現す。





「……いやー、まさか王国の騎士団が出張ってくるとは」

「誰だ、貴様!?」


キモ男が俺のあからさまな大きな声に反応して、予想通りの受け応えをしてくれる。


「カイト、さん?」

「カイト?」

「カイト、君?どう、して……」


アイリさんとエンリさん、それにお母さんもいきなり現れた俺に動揺しているようだ。



「本来ならもう少し研究してから処分したかったのですが、騎士団の足がつくと後々厄介ですからね……もうあなたは用済みです。お疲れ様でした」


俺は回復魔法を使ってお母さんを治癒する。

その際、闇魔法、ダークミストを外観だけ纏わせてそれが回復魔法だと分からないようにすることも怠らない。


「……うっ、カイト、君、ダ、メ……」


……お母さんはどうやら俺の意図に気づいてしまったようだ。

どうして一目で俺だと気付いたかは今は考えなくてもいいだろう。

だが最後の『特呪』を解いてまた体力が減ってしまったために、膝をついてしまう。



……まだちゃんと体力が回復しきっていなかったから、恐らくかなり辛いだろうなぁ。

……すいません、お母さん。


でもその辛そうにしている状態、そして禁忌の魔法を解呪した、という状況がより信憑性を増してくれたようだ。


「……エリクサーを使わず、あの禁忌魔法を解呪……そうか、君が術者か!!」


俺に都合のいい方に解釈してくれたようだ。


「……カイト、さん?何を、なさってるんです?」

「カイト、あなた一体、何を……」


二人が俺を見て何かを呟いているも俺は無視して続ける。

……ゴメン、エンリさん、アイリさん。


「まあそうですね、そこの女に魔法を使ったのは私です。いい研究対象だったので重宝していたのですが……まあ騎士団に捕まって魔法から私に辿り着かれても面倒でしたんで解呪させていただきました」


「な、何を言ってるの!?カイト、ねえカイト、カイトったら!!答えてよ!!」

「カイトさん、どうしてそんなことしてるんです!?カイトさんがそんなことするはずないじゃないですか!!カイトさん、カイトさん!!」


二人の悲痛な叫びをしかし、俺はできるだけ聞かないようにする。


「ハハハ、やっぱりボクは運がいいし天才だ!!こうも早く本命が出て来てくれるなんて!……これでボクが騎士団長に……それにしてもバカな奴だね、そこの見目麗しい七大クランの団長さんでさえも王国騎士団には逆らわなかったのに」

「申し訳ありません。相手が町人だろうが国の騎士団だろうが、自分の目の前で気に入らないことが起こっていたら見過ごせない人間でして」

「ハハハ、その相手は国だよ?君は国を相手にするって言うのかい!?」

「何度も同じこと言わせんな。……俺が一人でお前ら全員と戦ってやるよ。国だろうが何だろうが」

「ハーッハハハハ、バカげた研究のために、国を相手にするなんて……まあ研究者なんて皆頭がイカれているもんか」

「お前よりはマシだと思うんだけどな。……ああそうか、まあ騎士団なんて皆頭が狂ってるもんか」


ブツッ


「……いい度胸だ、このオルゲール様に楯突いたこと、後悔させてやる!」

「いやいや、私はあなた個人みたいな小者に楯突くつもりなんて一切ありませんよ。国相手としてくれないと、あなたみたいな小者じゃ、私まで小者扱いされる」

「……このクソがぁー、おい、お前達、アイツを捕えろ!!絶対に逃がすなよ!?」


最後は他人頼りかよ。


「ベル!来い!」

『了解した!!』


ベルが俺の足元に駆けよる。


それを見てから俺はワイバーンを召喚し、ベルと共にその背に。


「な!?ワイバーンを召喚した、だと!?奴は詠唱など……まさか、あの変人の技術を!?」


キモ男を筆頭に俺に襲いかかろうとした騎士達はワイバーンの突如の出現に慌てふためいている。


「いや!カイトさん、行かないでください!!」

「待って、行かないで、カイト!私、あなたに……」


エンリさんとアイリさんが涙を流しながらこちらに駆け寄ってきた。


「……お二人とも、こんな私と今まで接して下さってありがとうございました。もうお母さんは大丈夫です。これからは3人で仲良く暮らして下さい。……さようなら」

「いやー!!カイトさん!!」

「カイト!!ダメー!行かないでー!!」

「……行け、ワイバーン!」




俺はワイバーンに指示を出し、ヴォルタルカを後にする。

ずっと二人が俺の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。

……その際、後ろは一度も振り返らなかった。


これにて第3章終了です。

前話の後書きでも申しました通り、このお話は好き嫌い・賛否両論大きく別れる内容だと思います。

ですのでご意見ご感想をいただいても変更することは恐らくできないかと。



お話が長くなった分ミスも多いかと思います。

私自身でも見直しは行いますが、発見された際は是非お教えいただければと思います。

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