……え?どう、したんだ?
「……人様、ぐすっ、どこにも、行かないで、下さい、ご主人、様……」
……んー、騒々しいな。
誰かが俺のことを何度も呼んでいる。
俺は目を開けて声の主を確認する。
すると、そこには……
「シ、シア、どうしたんだ!?何で泣いてるんだ!?」
「ぐすっ、ご主人、様……」
シアが俺にしがみ付きながら涙を流している。
何があったんだ!?
シアは最近里のこととも向き合い、精神面でとても強くなった。
二人で旅を始めた当初こそシアは良く泣いていたが今はそんなことはなく、とても頼り甲斐のある皆のお姉さんとして成長したんだな、と思っていた。その矢先に起こったことだっただけに俺も正直動揺を隠せないでいる。
「……シア、どうして泣いてるんだ?俺に話してくれるか?」
「ぐすっ、ご主人様、ぐすっ、どこにも、行かないで下さい……」
「ああ、俺はちゃんとシアの傍にいるから。だから安心してくれ」
「ご主、人様……」
それからもシアは中々泣き止むことは無く、「どこにも行かないでください」ということを言い続けていた。
俺も安心させるために「どこにも行かないから、ずっとシアの傍にいるから」と言い続けた。
数分してようやく落ち着きを取り戻し始めたシアは途切れ途切れになりながらも話し始めてくれた。
色々と飛び飛びになっていたのでどういうことか理解するのに少し時間を要した。
シアは寝ている時に、どうやら悪い夢を見てしまったようだ。
俺が一人でどこか遠く、シア達の手の届かないところに行ってしまった、という夢らしい。
目が覚めてそれが夢だったと確認できると思って俺の掛布団をとってみるとそこに俺の姿は無く。
それで夢が現実だったんじゃないかと思ってしまい、俺を夢中で探し……そして今に至る。
シアの中で俺の存在がそこまで大きいということはとても複雑な気持ちだった。
そりゃ誰かから必要としてもらえることは大抵の人間なら嬉しいことだろうし、俺もそれがシアからならもちろん嬉しい。
ただ、その人の存在が大きければ大きいほど、その人に何かあった時……この場合で言うと、もしも俺に何かあったら……
俺は未だ目を覚まさない親友のことを思い浮かべる。
あの時の町民達のほとんどがライルさんが心の支えとなっていた人達だ。
だからライルさんがああいう風になってしまって彼等の心も崩れてしまった。
アイリさん達のお母さんのように回復魔法で助けられたらどれだけいいことか。
……だがしかし、ライルさんは何一つ状態異常を負っていなかった。
それは俺が彼にしれあげられることが何も無いということを意味する。
ライルさん……
とりあえず今はシアの不安を取り去ってやらないといけない。
先ず他の皆を起こさないよう二人で外に出て海辺の砂浜に座る。
俺はシアが落ち着くまで座っている後ろからしっかりとシアを抱きしめてやる。
そうしてやるとシアも手を俺の腕に乗せ、少しホッとしたようで次第に落ち着いて行った。
頭も撫でてやるとより一層効果があるようだ。
……髪がサラサラだな。
「シア、大丈夫か?」
「はい、申し訳ありませんでした。ご主人様のことを考えると、もう何が何だか良く分からなくなってしまって……」
「……気にするな、シアに必要とされるのは俺としても嬉しいことだからな。……それにしても珍しいな、シアがあんなに取り乱すの。皆の前じゃあんまり見せないのに」
「……それはその、私は皆のお姉さんですし、ご主人様にいいところをお見せしないと、と思って……今はその、ご主人様と私だけ、ですので、それで……」
「そのー、何だ、それは俺に甘えてくれてるのか?」
「……はい、本来ならご主人様に甘えるなど奴隷として……えっ!?」
俺は全部言い終わる前にシアをもう一度強く今度は正面から抱きしめる。
シアは驚いて目を丸くしながらも顔を赤くして狼狽している。
シアは本当に可愛いなぁ……
「ご、ご主人様!?こ、これは……」
「シアがまだ不安そうだったからな」
「わ、私はもう大丈夫です、で、ですから……」
「そうか、シアは嫌か?俺とこうするの?」
「そ、そんなはず有りません!!とても……嬉しい……です」
「ならいいんじゃないか?いつもシアには苦労を掛けている分こうして甘えてくれるのは俺も嬉しいし、甘えたシアも可愛いと思うぞ?」
「……こんな幸せなこと、いいんでしょうか?幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうです」
「まあ幸せってことならいいんじゃないか?」
「ご主人様……ありがとうございます。では……」
「えっ!?シ、シア、どうして俺を押し倒すんだ!?」
「こちらはやはりご主人様にお任せするわけには……ご主人様に気持ち良くなっていただきたいですから」
「さ、流石にビーチでやるのは……」
「……ご主人様、ここには誰もいません。私とご主人様二人だけです……では」
……その後、皆が起きる直前までシアと二人でビーチでの激しい運動をこなした。
いつになく積極的だったな。
シアが幸せそうだったのでまあ良しとしよう。
「……おはよー、……ん?何かシアがとっても幸せそうな顔してるんだけど、マスター何か知ってる?」
……カノンめ、鋭い。
「んー?シアにもそういう日があるんじゃないのか?俺には良く分からんが」
「そう。……マスター、何か疲れた顔してるけど、大丈夫?」
……本当に鋭いな。
その後他の皆が俺を気遣ってきて誤魔化すのに苦労した。
……でも他の皆を仲間外れにすんのも良くないからなぁ。
また何か考えた方がいいのかもしれない。
昨日まで皆建物造りを頑張ってくれたのでその日はゆっくりして、次の日から色々とまた行動を始めることに。
皆で朝食をとった後今日の予定について話し合う。
シーナは引き続きこの孤島の開拓、主に今話し合っている建物を個室にし切っていく。
シアとカノンは足りなくなった材料を街まで買いに。
俺とエフィーとリゼル(主に妹)はこの孤島の中を探索することにした。
……探索となるといろんな考え方からこの孤島についての意見が欲しいところだったので姉には裏に引っ込んでもらう。
……クレイは聖獣3体と遊んでいるのでまあ置いといてもいいだろう。
最悪召喚すればいい。
妹のファル、エフィーという常識人二人、そして俺というメンバーで探索していく。
≪我もいるのにどういうことじゃ、主殿!?≫
……姉はスルーで。
森の中を進んでいくも特筆すべきものは見当たらない。
モンスターはとりあえずいっぱい出てくる。
まあそこまで強くないから3人でも簡単に対応できた。
「モンスターにはあまり共通性は見当たらない、です」
「そうですね、陸を行く物もいれば空を飛ぶ物も。昆虫類や鳥類なんかも見当たります、本当にバラバラですね」
二人が見解を述べる。
リゼルは妹が表に出ることはあまりないのでこれはこれで新鮮だな。
いつもは気の強い姉がリゼルの表を担当しているが、妹がリゼルの表を担うと、少し控えめで気の弱そうな感じでこれがまたリゼルの外見とマッチしている。
まあ姉の方でも違和感はないがこっちの妹の大人しい性格の方がどっちかと言うと合っているように感じる。
……それにしてもこの孤島、どうなっているんだろう?
まあそれを調べているんだが。
生態系に一定の共通性位あるとは思うんだが……
「ご主人様、どう思われます?」
「うーん、こんなにバラバラだと仮説を立てるのも困難だな。いや、逆に共通性が無いっていうのもある意味ヒントかもしれん……人為的な何かが絡んでる、とかどうだろう?」
「……この孤島自体、です?」
「いや、そこまでとは言わないが……」
「ですがそういった観点からのアプローチは大事かと。ご主人様と一緒にいますと勉強になることばかりです」
「……主様、流石、です」
「……まだ何も解明したわけじゃないんだけどな」
「そうですね、とりあえずもう少し調べてみますか?」
「そうだな、もう少ししたらシアとカノンも帰ってくるだろうからそれまで探索を続けるか。リゼルは大丈夫か?」
「はい……体力的にも余裕、です」
「よし、それじゃあ行こうか」
そうしてまた再び探索を開始した。
その後1時間程続けて探索できたのは、大体森の20分の1位かな。
まあ今後も時間はある。
急いで皆を危険にさらす必要は無いんだからとりあえずはここらへんでいいだろう。
おっ、丁度シアとカノンも帰ってきたようだしな。
「お帰り、シア、カノン」
「ただいま、マスター!こっちは何もなかった?」
「ただいま帰りました、ご主人様」
「ああ、特に何も。ちゃんと買えたか?」
「うん……あっ、そうだ!エンリと会ったよ!」
「あっ、そうでした!ご主人様にこれを」
シアが懐から手紙を出して俺に渡してくる。
……今度はエンリさんか。
「ありがとう。どれどれ……」
俺は手紙を開けて、中身を拝見することに。
『カイトさん、いきなりお手紙を書かせていただくことお許しください。どうしても直ぐにカイトさんに伝えたいことがありまして……なんと、昔体や心を壊してしまった母が元気になったのです!!私が嬉しいこともそうなのですが、これで姉さんも少しは無理せずいてくれるかな、と思います。……本題に入らせていただきますと、姉さんと共に母にカイトさんのお話を色々しますと、是非カイトさんに会いたいと言っていて……大変失礼な申し出とは分かっているのですが、どうか母と会ってはいただけないでしょうか?会っていただけるのでしたら5日後、ヴォルタルカの私達の家までご足労いただけましたら精一杯おもてなしさせていただきます。お返事はナギラの街にゼノ達がいるので誰かにおっしゃっていただければ私に伝わることになっていますので。色々とお手数おかけしますが色好い返事を頂けることを祈っております エンリより』
……ふう、どうやらお母さんは元に戻ったらしい。
良かった……実際にエンリさんが言ってくれてるんだ、ちゃんと成功したんだろう。
俺自身がお母さんが回復したところを見たわけでは無かったので少し不安だったが、この手紙をもらってようやく一安心だな。
俺がやったってこともバレてない。
筋書き通りに進み過ぎて逆に不安な気もするが、今はお母さんの回復を素直に喜ぼうではないか。
もちろんこのお誘いはお受けしよう。
お母さんの体力の回復具合を見るいい機会でもある。
……とりあえずボロだけは出さないよう気を付ければいいか。
「マスター、今度は何だったの?」
今回もカノンが手紙の内容を知りたがる。
「うん、今回はアイリさんとエンリさんのお母さんが俺に会いたいって言ってるらしい」
「……今度は色気ムンムンの熟女……」
「おい」
「だってそうじゃない!マスター、今度は人妻にまで手を広げるの!?」
「こらこら、本当に人聞きの悪いことを言うな。……二人のお母さんはつい最近までご病気だったらしい。だからカノンが思うようなことは絶対ないから」
「……病弱か、か弱い感じがいいんだ。じゃあうちで言うとエフィーとファルか……うらやましい」
何でそうなる。
「(ポッ)」
「ご主人様……」
おいおい、リゼル(妹)とエフィーが嬉しそうに頬を染めちゃったじゃねえか。
エフィーはともかくリゼルはただ単に性格上の話だろう!
身体能力だけならうちでも上位だろうが!
「……クレイも、か弱い、するー」
「あのな、クレイ、『か弱い』って言うのはしようと思ってするもんじゃないんだ。クレイは今のクレイのままでも十分魅力的だから。そのままでいていいと思うぞ?」
「……んーー。分かったー。クレイ、クレイのままでいるー」
「うん、素直でよろしい」
そう言って頭を撫でてやる。
「……クレイ、褒められた」
一応喜んでくれているようだ。
「ああ、クレイだけズルい!!マスター、私も!!」
「ご、ご主人様、私もお願いします!」
カノンとシアが頭を前に出して主張してくる。
「な、なら私も!」
「……主様」
エフィー、リゼルまでもが……
シーナは遠慮して後ろで控えている。
ここまで来ると、シーナも仲間外れにするわけにはいかないだろう。
「分かった、順番な。ちゃんと皆撫でてやるから心配すんな」
その後皆の頭を順番に撫でてやった。
皆、特にエフィーは嬉しそうにしてくれたのでやってよかったのだろう。
その後機嫌が良くなった皆からなら快く送り出してくれると思ったのだが流石に諸手を上げてと言うわけにはいかなかった。
妥協案としてカノンが召喚するベルをお供に付ける、ということで今回は了承してくれた。
何かあったときは俺がクレイを召喚し、クレイがいなくなったらカノンがベルを召喚してベルから何が起こったかを聴く、というものだ。
……皆心配し過ぎじゃないかな?
これで5日後ヴォルタルカに向かうことは決まった。
ナギラの街にいるゼノさん達の誰かにこれを知らせれば後は当日向かうだけだ。
……何も無ければいいが。
===== ????視点 =====
4日後は二人の隠し事が何か分かる日だ。
二人が楽しそうにしているのだから余計なことは詮索せずに私は『一生のお願い』で何をすればいいか待ち構えていればいい、そう思っていた。
……ゼノからの連絡を私が聴くまでは。
今私はテーブルでお母さんとエンリの二人を前にどういうことか尋ねている。
二人ともばつの悪い顔をしているが反省していないようだ。
……どっちも舌を出して茶目っ気たっぷりに見せる。
「……二人とも、どういうこと?4日後にカイトが来るっていうのは?」
「……姉さん、どうして私の連絡勝手に……」
「ゼノがエンリに早く伝えないと、って焦ってたから私が代わりに伝えると言って聞いたの。……で、どういうこと?」
「アイリ、そんなに怒らなくても」
「怒ってない!どういうことか聞いてるだけ」
「……怒ってるくせに」
「お母さん?」
「いえ、何にも」
「……て、姉さんにも……」
「エンリ?」
「だって、姉さんにもちゃんと幸せになって欲しかったんだもん!!」
「え!?……どういう、こと?」
「姉さんだって、カイトさんのこと、好きなんでしょ?昨日の朝、母さんと話してたじゃない!!」
「エンリ、聞いてたの!?」
「今はそれはいいでしょ。……姉さんも分かってると思うけど、私はカイトさんが好き。ずっと一緒にいたいと思ってる。カイトさんはとっても素敵な人だから、いろんな人から好かれてる。ゼノだってその一人。……だから姉さんがカイトさんのことを好きになったっておかしくないと思う」
「エンリ……」
「でも、私のために姉さんが遠慮して苦しい思いをするのは嫌なの!」
「わ、私は別に、遠慮なんて……」
「ううん、姉さんは私の気持ちを知ってくれて……私のために身を引こうとしてくれてる。今までずっと一緒に暮らしてきた姉妹なんだよ?それ位分かるもん」
「わ、私は……」
「……だから母さんと相談してどうすべきか二人で考えたの。それで4日後、カイトさんに来てもらって……カイトさんにこの思いを告げようと思ってたの」
「……じゃあ、その日に私がする『一生のお願い』って……」
「……姉さん、自分の気持ちに正直になって。私のこととか関係なく、一人の女性としての気持ちに」
「エンリ……」
「……アイリ、やっぱりお母さん、アイリにも幸せになって欲しい。別にアイリがカイト君に好きって言ってもそれでエンリがダメってことになるわけじゃないんだよ?」
「お母さん……」
「そうだよ、姉さん、二人で受け入れてもらえばいいんだよ!私、ゼノとも話してこのことについては主従の関係は無しで皆が幸せになる道を探そうって決めてるんだ。……だからカイトさんに皆受け入れてもらえれば……」
「でも、カイトが私達のことを好きかどうか……」
「その時はその時!カイトさんに好きになってもらえるようにまた頑張ればいいの!!……だから姉さんが姉さん自身の気持ちを押し殺す必要は無いんだよ?」
「エンリ……」
「そうだよ、アイリ。まずは気持ちを伝えてみないことには何も始まらないよ?エンリと一緒にその気持ち、伝えてみたら?」
「お母さん……私、カイトのこと、好きなままで、いいの、かな?」
「うん、一緒にカイトさんに好きになってもらえるよう、頑張ろう。でも、カイトさんの一番はいくら姉さんでも渡さないよ?」
「フフフ、姉妹で男性一人を取り合いなんて。……お父さんが帰ったらどう報告しようかしら?お母さんも参加した方が……」
「お、お母さん!?」
「冗談よ、冗談。……アイリ」
「……うん、エンリ、お母さん、ありがとう。私も自分の気持ちに素直になってみる」
「うん!」
「ええ」
二人はとても嬉しそうだ。
……よし、私も頑張ってみよう!
===== ????視点終了 =====
恐らく次話でこの章は終わりとなります。
……まとめきれなければもう1話使うかもしれませんが。
次のお話は恐らく賛否両論分かれる内容となるでしょう。
どのような反応をいただけるのか不安ですが……まああまり期待はしないで下さい。
私の独断と偏見・好みやストーリーとの兼ね合いも考えて進めていますので。




