夢じゃなかったんだ……
本当に遅くなってしまいました。
最近遅くなってばかりですね。
申し訳ありません。
目覚めてから、横を見てみる。
そこにはお母さんとエンリが幸せそうに眠っている。
……良かった、夢じゃなかった。
私は昨日起きたことについて、頭を働かせ考えてみる。
お母さんが元に戻ってくれた。
……いや、カイトが元に戻してくれた。
彼は最初からずっと私達姉妹を助けてくれた。
ずっと味方をしてくれていた。
そして今度はお母さんのことも……
彼には助けられてばっかりだ。
私も彼の力になりたい。
彼の後ろで座っている助けられるだけの存在じゃなく、彼の隣に立って助け合う存在に。
……エンリもこういう気持ちだったのかな?
……エンリの気持ちと言えば、エンリは恐らくカイトのことが好きなんだろう。
今まで女性だけのクランを保っていたのに男性である彼をクランに入れたいと言う位だ。
それ以外にもそう推測できる根拠は色々あるが、エンリがカイトのことを好きだというのは最早クラン内の共通認識位にまでなっている。
エンリが幸せになれるならそれが一番だ。
彼にならエンリのことを任せても……
二人が一緒になった姿を想像する。
とても嬉しそうな顔をして話す二人とそれを遠くから眺めている私。
心から祝福できる、そう思っていた。
……だが、不意に、心がズキッと痛む。
この気持ちは感じてはいけない。
考えてはダメだ。
そう思っても私の思いとは関係なく頭がそれを勝手に想像してしまう。
……もう、この思いが何なのかは自分でも分かっている。
彼の顔を思い浮かべると嬉しいはずなのに胸が苦しくなる。
私もカイトのことが……
私はもう一度まだ眠っているエンリの顔をのぞき見る。
……本当に幸せそうな顔をして……
それもそのはず。
自分の大好きな人が戻って来てくれて、それを何とかしてくれたのがこれまた自分の大好きな人なのだから。
この幸せそうな笑顔は私をいつでも助けてくれた。
この笑顔を曇らせるなんて、私には死んでもできない。
……うん、私はやっぱりエンリのためなら……
まだこうして一緒に眠っていたい気持ちもあったが、そう何日もクランの仕事を空けられるわけでは無い。
私は七大クランの団長なんだ。
私を頼ってくれるクランの団員達の生活のためにも私が頑張らなきゃ!!
別に一日中ずっと離れ離れというわけでは無い。
仕事をサクッと終わらせて帰ってくればいいのだ。
そうしてまた3人一緒にご飯を食べて、一緒にいろんな話をして、それから……
まだまだ3人でやりたいことなんて沢山ある。
でも焦って今すぐ全部しようなんて思う必要は無いんだ。
……これから3人で過ごす時間はいっぱいあるのだから。
私は二人を起こさないよう布団から抜け出たつもりだったのだが、今のでお母さんが起きてしまったようだ。
しまった、もう少しそっとすれば……
「……アイリ、おはよう。これからお仕事?」
「おはよう、お母さん。うん、これからクランに行ってくる。お母さんはゆっくりしててね。体力もまだ戻ってないだろうから」
「ゴメンね、またアイリに苦労かけて……」
「いいの、これは私が好きでやってることなんだから。……私、冒険者になったこと、後悔しないでもいいんだよね?」
「ええ……だってそのおかげでまた3人一緒に暮らせるんだもん。カイト君に出会えたのもそのおかげ。だから誇っていいことだよ、アイリ」
『カイト』、その名前を聴くと、嬉しい思いと寂しい気持ちが一度に私の心に流れ込んでくる。
「……うん」
「……ん?アイリ、今少し寂しそうな顔した。何か悩み事でもあるの?」
「え!?う、ううん、そんなことないよ?」
「フフフ、アイリ、昔っから嘘つくとき、前髪を1回触る癖、治ってないわね」
「そ、そんな癖、私にあったの!?……やっぱり敵わないな、お母さんには」
「うん、だってお母さん、アイリとエンリのお母さんだもん!……あっ、カイト君だ!おはよう、カイト君」
「え!?な、何で!?ど、どうして!?」
「……嘘です」
「う、嘘って、も、もう、お母さん!!」
「ごめんごめん、……アイリ、カイト君のこと、好きなんでしょ?」
……本当にお母さんには敵わないな。
何でもお見通しだ。
私のことをちゃんと見てくれているってことだし、とっても嬉しいんだけどこれについては当てて欲しくなかった、かなぁ。
「……私は、別にいいの」
「……エンリに遠慮しているの?」
ズバズバ当ててきちゃうお母さん。
「私は、エンリが幸せになってくれたら、それが一番だと思うから」
「お母さんは、二人が幸せになって欲しいな。……アイリがそれでちゃんと幸せだって言うんならお母さんは何も言わない。でも、アイリが我慢して苦しいって言うならそれはお母さんにとっても苦しい、かな」
……お母さんが言いたいことは痛いほどわかる。
でも、こればっかりは……
「……お母さん、私は大丈夫。だから、エンリのことを応援してあげて。……じゃあ私クランに行くね」
「……うん、分かった。……行ってらっしゃい、アイリ」
「うん、行ってきます」
「……んーー……」
どうやらエンリまで起こしてしまったようだ。
……まああれだけ話してしまったらうるさかっただろうし起きもする、か。
「ゴメンね、エンリ、エンリまで起こしちゃった」
「……いえ、気にしないで、姉さん。行ってらっしゃい」
「ありがとう、行ってきます」
私はそう言って部屋を出て行った。
「……アイリ、『大丈夫』って言うのは我慢しているってことじゃないの?それで辛くは無いの?……」
「……姉さん」
色々と身支度を済ませ、クランの本館に向った。
クランの皆がお母さんのことを自分のようにとても喜んでくれて、私もまた涙が出そうになった。
この道を、冒険者の道を進んできて、本当に良かった……
自分の執務室に入って色々な報告書を読む。
そう言えばあの日もお母さんに護衛が二人ついていてくれたのだが、報告書を読むとその時の記憶があまりないらしい。護衛の途中で気を失っていて、気が付いたら少し首にチクッとした痛みを覚えるも、お母さんの様子の変化にそれどころではなく、それから直ぐに私達に知らせた、という経緯らしい。
……どうやってかは分からないが、恐らくカイトが彼女たちを気絶させたのだろう。
私達の不安を察して、決して弱くない人達が護衛に名乗り出てくれていたのだから。
それを何の後遺症も無く伸してしまう彼が凄いだけだ。
怪我をしたとかならうーん、となるが、実際彼女たち二人はピンピンしている。
……本当に凄いなぁ。
そんな彼と今後、隣に立って歩けるよう、私も頑張らないと!!
報告書を読み始めて20分程した。
大体読み終えて、一息つく。
お母さんの件についてはもちろん気になっていたが、報告書の中で他に気になったことと言えばやはり最近の王国の動きだろうか。
何でも最近のモンスターの異常行動や各所の異常現象について、何か心当たりがあるらしく、しかももしかしたら王国側に非があるみたいなのだ。
普段ならしょっ引かない様などうでも良さそうな犯罪を検挙させたり、国民受けのいい政策を打ち出したりと、私達や国民の目を逸らすために必死らしい。
これは私達『イフリートの炎爪』の諜報部隊の腕がいいから入手できた情報なのであって、普通ならこのことを知るのは容易いことではないだろう。
なのにこんなあからさまなことをしていたらまるで私達は皆さんに都合の悪いことをしてしまいました、と自分達から吹聴しているようなものだ。
王国の動きは今後も慎重に追っていく必要はあるが、私達も他人事ではいられない。
気を付けないと……
いつもより2時間も早く仕事を全て片付け終えた。
家に待ってくれている人が増えるっていうのはとても嬉しいことだ。
いっぱい頑張ろうと思える。
今日はエンリも家にいるはず。
フフ、何だか家に帰るのが楽しみになってきたな。
「ただいま」
私は家に入ってただいまを言う。
いつもよりも何だか声が大きくなってしまったような気がする。
……それに何だか奥からいい匂いがしてくる。
これは……
「お帰りなさい、アイリ」
「お帰りなさい、姉さん」
奥の台所に向かうと声が返ってくる。
二人が顔をのぞかせる。
「お、お母さん、立ってて大丈夫なの!?」
「私もそう言ったのに母さん聴いてくれなくて」
「まだ立ってお料理するくらいがやっとだけど、それでも二人にばっかり苦労かけてられないもん。お母さんも何か頑張らないと、と思って」
「お料理だって体力使うんだから、そんなに焦って何かしようとしなくても、ゆっくりでいいんだよ?」
「大丈夫、エンリも手伝ってくれてるし」
「当たり前です!今の母さんを一人にするのは心配ですもの!」
「フフフ、心配されちゃった」
「当たり前よ……それにしても二人とも何だか嬉しそうね、何かあったの?」
「あら、気づいちゃった?」
「姉さん、気づいちゃいました?フフフ」
「何なの、二人とも、私だけ仲間はずれ?教えてよ」
「フフフ、アイリには教えなーい」
「姉さんには教えなーい、です」
「もう、二人とも隠し事なんて……まあいいわ」
「フフフ。……ところで姉さん、5日後って何か予定ある?」
「5日後?……確か午前は依頼を受けて後は報告書を片付けるだけだったと思うから午後は空くと思うけど……」
「そう!?じゃあ絶対その日は空けといてね!!」
「お母さんまで何!?……それが何か隠し事と関係あるの?」
「フフフ、ひみつ~♪ね、エンリー?」
「ひみつ~♪ね、母さーん?」
「二人して……分かった、ちゃんと空けとく」
「あ、姉さん、その時……『一生のお願い』、使ってもいい?」
「え!?とうとう使う気になったの!?『一生のお願い』」
この『一生のお願い』は3年前、エンリの誕生日の時、私が依頼で出かけていて、一緒にいて祝ってあげることができなかったことから生まれたもので、1度だけ私にできることなら何でもするというものだ。
エンリも最初は喜んでいたが、今まで1度も頼まれたことは無い。
相当無茶な物でも私はエンリのためならする覚悟だっただけにこれを約束した当初は肩透かしを食らったような感じだったが、エンリはエンリであまり無茶を言うと私を困らせてしまうと私を気遣ってくれていたんだろう。
それがとうとう5日後、使われることになるのか……
「私は何をすればいいの?」
「それはその日のお楽しみ!……それじゃあご飯にしよ、姉さん、母さん」
「そうね、アイリもおなか減ってるでしょうし、ご飯にしましょうか」
「うん……お母さんの作った料理、久しぶりね!」
「ええ、エンリに手伝ってもらったけど、ちゃんとお母さん、腕を振るったから。期待してね?」
「うん、今から楽しみ」
「私も!」
その後、3人でテーブルを囲んでお母さんとエンリの合作料理に舌鼓を打った。
お母さんの懐かしい味の中にもエンリの手が加わった新しいおいしさが混じってとてもおいしかった。
食事の後、3人でいろんな話をして、あっという間に時間は過ぎて行き、お母さんの体力を考えて、その日はお話会はお開きに。
こんな楽しい日が来るなんて……
……本当にありがとう、カイト……
===== ????視点終了 =====
恐らく後2~3話でこの章が終わると思います。
予定ですので一応そうなのか位に留めておいていただければ。




