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アイリさんの手紙って……

投稿遅れて申し訳ありません。



俺は恐る恐るその手紙を開封して中身を見てみる。


『……その、個人的に男に手紙を書いたことなんてないからどういう風にすればいいか分からないの。だから、手短に済ませるわ。カイト、アンタに色々と話したいことがあるの。これから書く日時・場所に一人で来てくれるかしら?………………………………待ってるから。   アイリより』



……何だこれは?

いや、手紙なんだが……

俺は一度手紙をしまう。


……うーん、普段のアイリさんからは何か考えられないような内容だったな。

思っていた以上に棘の無い中身っだったので逆にビックリした。

見方によってはラブレターに見えなくもなかったぞ。

差出人がアイリさんと知っているからこそ何も誤解しないで済んでいるが……

それにしてもちょっと違和感が……

いや、アイリさんがこんなしおらしい感じでってのも確かにおかしなことなんだが、それ以外に何か……


うん?『カイト』って書いてるけど、そう言えば……俺、いつ自己紹介、しただろう?

して、ないよな?ずっと名もなき風来坊で通していたはずなんだが……

あれ?おかしい……


「マスター、何が書いてあったの?」


不意にカノンがひょいと俺の後ろから顔をのぞかせる。


「ああ、これか?何でも話したいことがあるらしい。だから急なことだけど……」


そう言って話を打ち切ろうとしたのだが、カノンがそれを阻止してくる。


「……マスター、それ、詳しく聞きたいな」

「……ご主人様、不躾ながら私も詳しく知りたく思います!!」


シアまで加勢してきた。


「そんな大したことじゃないと思うんだが……」

「嘘だよ!女と二人きりで密会なんて!絶対マスターに色仕掛けしてくるつもりだよ!!」

「ご主人様、そうなのですか!?」

「いやいや、んな訳ないから」

「じゃあどうだって言うの!?」

「ご主人様!?」


……まあ仕方ない。あまり隠すようなことでもないし、隠し事が多いと心配させてしまうからな。


「とりあえず場所とか詳しいことはこれを書いたアイリさんのことも考えて話すことはできないが、とりあえず明日アイリさんと話をしてくる。お前達の心配するようなことは無いからそこは心配するな。文面からするに、色々と話すことがあるらしいから少し遅くなるかもしれないな。前みたいに待ってなくても今回は相手があのアイリさんだから。そこも心配するな」

「ですが……」


まだ少し心配らしい。うーん……


「じゃあこうしよう。最悪何かあったらクレイを召喚する。だからクレイがこっちに残ってる間は何事もないと思ってくれ。クレイが召喚されたらとりあえず緊急事態ってことで各自行動を始めてくれ、これでどうだ?」

「そういうことでは……まあ確かに……それなら分かりやすいですが」

「……うん、まあそれなら……」


ふぅ、妥協案が通ったようだ。

若干話をすり替えてしまったが、まあそこは大丈夫だろう。


「じゃあそう言うことで明日はとりあえず自由行動にしよう。お小遣いも渡しておくから自由にしてくれ。俺もできるだけ早く帰るようにするから」


納得してくれたようなので明日の予定も伝えておく。

皆そこは申し訳なさそうにしながらも一応喜んでくれてはいるようだ。



リゼルとクレイはお小遣いの制度が良く分からないらしい。

今エフィーが丁寧に教えている。

内容を理解した姉の方は歓喜している。

クレイはあまり欲しい物がないらしい。

まあ元々お金には困らない役職をしていたのだからそうなるのも当然か。



その日も寝泊りはクレイの作った簡易小屋で済ませることに。

1日2日ならまだ何とかなるが、流石にこの先もずっとここで寝食を続けるのは辛いだろう。

……ここで生活するならもっと衣食住の後ろ二つを何とかしないとな。


翌日、朝早く起床し、まだ寝ているクレイを起こさないよう朝食をとって、ワイバーンで出かける。

その時にはクレイも目を擦りながら皆と一緒に見送りしてくれた。


「……じゃあ、行ってくる。皆、留守番よろしく」

「はい、ご主人様、お気をつけて」

「マスター、ちゃんと生きて帰って来てね?」

「カノンさん、お話だけなんですから流石にそこまでは……」

「……主様、いってらっしゃいませ、です」

≪主殿ぉー、ちゃんと無事に戻って来るのじゃぞー≫

「…………」

「あ、クレイさん、立ったまま寝ちゃダメです!」



……皆大げさだな。

話だけだっていうのに。


俺はワイバーンに頼んで目的地へと飛び立ってもらう。

指定された時間までにはまだ結構あるが遅れるよりはいいだろう。

ゆっくり空の旅でも……って何かワイバーンに乗ってるときはあんまり高いところが怖いって感じはしないな。


何だろうな、怖いってよりもこっちはスリルがあって楽しいって感じの方が強いのかな?

これで俺の高所恐怖症が克服できたら良いんだが……。





それからワイバーンの背中に寝転がって揺られること凡そ2時間、ようやくアイリさんが指定してきた街、ヴォルタルカに到着する。普通だったらこんなすぐにはつけないだろうから、ワイバーンのことも計算にいれての指定時間だろう。


ヴォルタルカはナギラの街からは北西に位置、つまりは孤島の転移場所とは真逆にあることになる。

人口約1万3千人。

この人口で、しかし、あまり産業等何か観光名所があるというわけではないらしい。

他の普通の街よりかは便利だというくらいで名産や優れているものはほとんど挙がらない。

ではどうしてそれだけの人口が集まるかというと偏に年中安定した住みやすい気候や通行の要所となっていて他の街から他の街へと移るためにここはよく利用されるためだ。

だったら宿や旅の必需品をそろえるために商業なんかが盛り上がりそうな気もするのだが、それは今力を入れているというだけで名所というにはまだまだ発展途上らしい。

何でもここ最近になって活気が出てきたところで、元々多かった定住者数もグングン伸びているとか。


全部昨日事前にエフィーに教えてもらっておいたことだ。

その時はシアとファル(竜人妹)も熱心に聞き入っていた。

二人は勉強熱心らしい。積極的に自分の知らないことを学ぼうとする。

まあその二人も確かに一生懸命学んでくれているようで感心なんだが、それを教えてくれているエフィーには俺も含めて皆頭が上がらない思いだろう。



ヴォルタルカに入っていく。

ナギラの街とは違って、人々に活気があるというよりは穏やかでゆったりとしているって感じだな。


俺は手紙をもう一度開き、指定された場所へ向かう。

とは言ってもヴォルタルカの街は結構広く、またここに来るのは初めてなので、右左が分からない状態だ。

……余裕をもって早めに出てよかった。


俺はとりあえずすれ違う人すれ違う人に道を尋ねていくことで目的の場所を目指すことに。


コミュ障の俺がこんなことをできるようになるとは……


一人で感慨に耽りつつも、道を尋ねていく。

皆いい人ばかりで親切に教えてくれたので、3人目で早くも目的の地にたどりつくことができた。


目の前にそびえたつは先日ナギラの街でも一度見たようなドーム状の大きな建物。

ただ、建物のモチーフにしている色は異なり、真っ赤に染めてあってなんとも目に悪そうな印象を受ける。

……ここがアイリさんに指定された場所、『イフリートの炎爪』の本館か。


中に入ると、意外にも男性がいた。

……と思ったがただの来客らしい。


俺と入れ違いに出て行ってしまった。

となると、後この建物の中に男が俺一人となってしまってなんとも居心地が悪い。

まだチラチラと見られないだけでも有難いかもしれん。


俺は受付をしている女性に話しかける。

少し時間的には早い気もするが、まあいいだろう。


「あの、すいません、今日こちらのアイリさんに呼ばれてきたのですが……」

「はい、団長とお約束ですか。……失礼ですがお名前は?」

「ああ、すいません、失礼しました。私はカイトというものです」

「え!?あなたがあの『カイト』さん、ですか!?」


受付の女性が俺の名前を呼んだ瞬間、何だか空気が変わった気がした。


「……すいません、どの『カイト』かは存じ上げませんが、私は一応カイトですね。そんなに有名なカイトさんが他にもいらっしゃるのですか?」

「そんな!今日団長とお会いになる『カイト』という男の方はお一人しかいません!……やっぱりあなたが……」


うーん、何でこんなリアクションされるんだろう……

と考えていると周りにぞろぞろと他の女性達が集まってきた。


え!?なに!?なんかあったの!?


「さっき『カイト』って聞こえたんだけど、そこの男の人がそうなの!?」

「え!?嘘っ、あのエンリの王子様がいるの!?どれどれ?」

「ちょっと私にも見せてよ!……へー!!結構タイプかも!!」

「おおー!!あれがアイリさんをも籠絡したやり手の男か!……って割にはちょっと普通じゃない?」

「こらっ、そんなことアイリさんに聞かれたら怒られるわよ!?」

「大丈夫大丈夫!……」



何!?何が起こってんの!?


「あの、その……」

「あなた達、一体何ごと!?」


困惑している俺に助け舟が出されたかのように、入り口からアイリさんの声が聞こえてきた。


「あ、アイリさん、お帰りなさい!」

「お疲れ様です、アイリさん!」

「アイリさん、例の『カイト』って男性、来てますよ!」


周りにいた女性たち皆がバラバラだがアイリさんに挨拶する。

その中の一人がアイリさんに俺がいることを嬉しそうに伝える。


「え!?ど、どういうこと!?だってまだ時間には……」


俺のことを聞くや否や、アイリさんは慌てて女性たちの波をかき分けて進んでくる。

彼女たちも道を空けるのだが、如何せん数が多い。


アイリさんが俺の下に辿り着くまでに直ぐとはいかなかった。

そしてアイリさんと目があう。


「……アンタ、何でもういんのよ。指定した時間は後1時間先だったと私は記憶してるんだけど」

「すいません、あまり女性を待たせるのは良くないと思いまして、それに(早く帰るために)早くアイリさんに会いたかったので」

「なっ!?ア、アン、アンタ、何言ってんのよ!?そ、それにしたって早過ぎよ!!……こっちは事後処理の指示に普段の依頼もこなして汗だくだし、汗ふいてちゃんとした服着てから会うつもりだったのに……」


周りの女性達も何だかキャーキャー騒いで最後の方は聞こえなかった。


「あのアイリさんを動揺させるなんて……やっぱりこの男、ただものじゃないわ!」

「キャー!!『早く会いたかった』ですって!!これは姉妹での奪い合いも……ブフッ、鼻、鼻血が……」

「もう、あなた達、ちょっと静かになさい!!」



何だか逆に怒らせてしまったようだ。

遅いよりはいいと思ったんだが……

『ちょうどいい』というのは中々難しいものだ。



「……お忙しいようでしたらまた改めて伺いましょうか?」

「……その必要はないわ。あなたを呼んだのは私なんだし、何度もそう手間取らせるのはあなたに悪いわ。……ついてきて」



アイリさんはそう言って俺についてくるように促す。

ちゃんと俺がついてきているか確認してから歩き出してくれていることもあるし、どうやらちゃんとした客として迎えてくれているようだ。



建物の3階、つまりここの最上階、一番奥、『団長室』と書かれたプレートが飾ってある部屋につく。


「入って」


簡潔にアイリさんに入室を促される。

俺はその言葉に従って中に入る。




中は赤を基調とした、だがあまり派手ではない作りとなっている。家具もほとんど無駄な物を置いていない。


と、仕事部屋とは言え部屋をあまりじろじろ見るのは良くないんだよな。


「それで、お話というのは?」


恐らくアイリさんの執務用の大きな机の前にあるソファーに座るよう勧められて、その通り座ってから尋ねる。


「……先ず、今回の件、つまり『破壊の御手』討伐計画について、あなたに感謝の意を表するわ。……妹を、エンリのことをちゃんと守ってくれてありがとう、それと、今までのあなたへの態度も謝罪するわ、カイト」

「アイリさん、頭を上げてください!私が個人的にやったことなんですから……」

「いいえ、あなたはちゃんと約束を守ってくれた。それに対して礼を尽くすのはクランの団長としてだけでなく、姉としても、そして一人の人間としても当たり前のことよ。だから素直に私の感謝と謝罪を受け取って欲しい」


真っすぐな眼差しで見つめてくるアイリさん。

その真っすぐで、綺麗な紅蓮の瞳に吸い込まれそうになる。


「……分かりました。では有難く、アイリさんのお言葉、お受けいたします」

「ええ。……それで、私もちゃんと約束を守ろうと思うの……」

「ああ、はい、そうですか……」

「何か淡白な返答ね、若しかして忘れたわけじゃないわよね?」

「も、もちろんですよ!それはもう私の脳裏にまで焼き付いているほどです、はい!」

「……まあいいわ。……それで、あなたも知っている通り、私は男が嫌い。これからもそれは多分完全には治らないと思うわ。……でも、あなたのようなまともな男もいるってことがちゃんと分かった。ただ……」


あれ?『ただ』?

ちょっと雲行きが怪しくなる言葉だな。


「ただ、どうしたんですか?」

「ただ、今回のことで、エンリにとっても怒られたの。『姉さんはいっつもいっつも自分だけで辛いことを背負い過ぎです!ちょっとは私や他の人達を頼ってください!』って」


あれ、アイリさんがシュンとしちゃった!?

そんなにエンリさんに怒られたのが悲しかったのか?

……まあアイリさんにとってエンリさんの存在がそれだけ大きいってことだろう。


「それで?」

「エンリ自身も今回のことで皆から仲間はずれにされたことを気にしたみたい。だからこれから強くなるために私に鍛えてって言ってきたの……」


ああ、まあ確かに、エンリさんの気持ちとしては今後自分だけ置いてけぼりにされないためには強くならなくちゃと思うだろう。

ただアイリさんとしてはあまり危険なことには手を出してほしくない、と。

まあその危険なことに手を出しても大丈夫なように鍛えてくれってことなんだろうが、まあどっちの気持ちも分からんでもない。



「だから、その……」


珍しいな、アイリさんが何か言い淀んでいる。

少し顔も赤い気がする。

言いづらいことなんだろうか?



俺は急かさず、アイリさんが話すのを待つことにする。

そして、アイリさんも腹をくくったようだ。

俺のことを真正面に捉えて……


「私には、男で頼れる人があなたしかいないの!情けない話だけどその、今後、他の男を頼れるようになる、自信が私には無いの……。だから!だから、その……」


また詰まってしまう。

だがここでも急かすべきではないことくらいいくら俺でも分かる。


「その、今後も、エンリのことや他のことでも、あなたを頼ってもいい?もちろん、あなたが困っている時は私が手を貸すわ!……その、ダメ、かしら?」


今まで見たことのないような弱弱しいアイリさんの表情。

アイリさん程の人が頼みごとを断られるのが怖い、のか?

……いや、俺が自分でメガネに言ってたじゃないか。

アイリさんだって一人の女性で、一人の人間なんだ。

強いと思っていてもそれは周りが勝手に決めつけて……いや、そう周りが思うからアイリさんもそれに応えようとして強くあろうとしているのかもしれない。


そうして周りの期待に応えようとする度にどんどん弱い自分を見せられる人がいなくなっていく。

エンリさんは本当なら数少ないその内の一人になるはずなのだが、アイリさんにとってエンリさんの存在は今現在、守るべき対象だから、エンリさんには弱音を吐き辛いんだろう。


……アイリさんにとって弱音を吐ける存在って本当にいるのだろうか?

仮にいたとしても、恐らく同性だろう。

俺が異性としてアイリさんの気の置けない存在となれるのなら……



「……アイリさん、こんな私でよろしければ、いつでも弱音を吐いて下さい。……いつでも頼ってください。私はいつでも、アイリさんの味方ですよ?」

「カイト……あり、がとう……本当に、ありがとう」


口に手を当てて涙を流し始めるアイリさん。

……うん、やらかした訳ではない、よな。

こうやって嬉し泣きしてくれてるんならいっか。



「……ごめんなさい、少し取り乱してしまって」

「いえ、お気になさらず。絵になって素敵だと思いましたよ?」

「……バ、バカ、調子に乗らないの!」


怒られちゃった。

……アイリさんの顔が少し赤いのは泣いていたせいだろうか?


「それで、話の続きをするけど、何か、違和感はないと思わない、カイト?」

「へ?違和感、ですか?……そうですね……」

「まだわからないかしら、カイト?」

「……ん?あっ、そう言えば、お聞きしたかったんですが、私ってアイリさんに自己紹介しましたっけ?」

「いいえ、してないわ、カイト」

「……ですよね?でしたらどうしてアイリさんはそう何度も当てつけのように私の名前を呼んでいるのでしょうか?」

「……私に何か言うことは無い?カイト」

「へ?と言われましても、私としましてはどうしてアイリさんが私の名前を……」

「私に、何か、言うことは、無い?カイト」


ヤバい、さっきまでとは違っていつものアイリさんが戻ってきてしまった!

しかも何かご立腹なようだ。

考えろ、考えるんだ!

俺は何をしてアイリさんを怒らせたんだ!?


……ん?何で名前を知ってるのかってのは確かに分からないが、そこは今は置いといていいんじゃ……っていうか、アイリさんが俺の名前を知っているってことが問題……あっ!!



「すいませんでしたー!!最初あった時エンリさんのお姉さんと気づいていて黙ってました!!申し訳ありません!!」


俺は即座に土下座した。


「え!?ちょ、ちょっとカイト、あなた何してんのよ!?」

「いや、これは私の謝罪の意を……」

「だ、だからってそんな意味の分からない格好しなくても」


え!?あ、そうか、こっちでは『土下座』は無いのか!!

そりゃ頭のおかしいやつと思われるわ。


「す、すいません、これは私の住んでいた故郷では男がする、最上の謝罪の方法でして……」

「そ、そうなの?やっぱりあまり男と関わらないとそこら辺は分からないものね……」

「い、いえ、これは私の故郷独特の謝罪方法ですから他の男性も同じとは思われない方がいいかと」

「そう……まあいいわ。それで、やっと私が何を言いたいか分かってくれて嬉しいわ。……とりあえず、あなたの言い分を聴きましょうか」

「そのですね、事前にですね、アイリさんがとても男性がお嫌いだと伺っていたものでして、あそこで『カイト』と名乗り出てしまいますと色々とごたごたしたのではないかと思いまして、『名もなき風来坊』と申し上げた次第です、はい」

「……そう、分かったわ。今後はこんな隠し事無しにして頂戴。いい?」


あれ?案外スルリと許してくれた。

ただ隠し事をするなというのは中々無茶な注文だ。

今ですら結構隠してることあるんじゃないか?

……それなのに嘘をついてこの場だけ頷くのもちょっと……

ここは……


「……善処します」

「……まあ今はそれでいいわ。今後おいおい話す気になったら今隠してることも話してくれれば。……信頼してもらうにはやっぱり私から歩み寄らないと、ね……」

「アイリさん?」

「ううん、何でもないわ。後二つカイトに話しておくことがあるの。時間はまだ大丈夫?」

「ええ、もちろん」

「そう、じゃあ一つ目、あなたが保護したエルフ達のことよ。……彼女達、今回の作戦時、『イフリートの炎爪』の団員達の活躍を見て、少し生気を取り戻したみたいなの。『イフリートの炎爪』の団員になって働いてみたいって言ってる。もちろんあなたが所有者だから決めるのはあなた次第なんだけど」

「なるほどそれならもちろん私も大賛成ですよ、『イフリートの炎爪』は彼女達が生き生きとできる職場だと私も思います。直ぐに解放の準備をしますよ」

「そう、魔法を使えるエルフ達は貴重だから彼女たちも直ぐに活躍してくれると思うわ。ただ……確か、そう、『シーナ』って言ったかしら、その子だけ、あなたの下で働きたいって言ってるわ」



シーナか……エフィーと初めて出会った時、彼女とも初めて出会った。

ただその時は戦いを好まないと言われ、彼女も俺が冒険者だということを知っているからそんなことを言い出すとは少し意外だな。

んー。どういう心境の変化だろう?

まあ気持ちが変わったとしてもあまり戦わせることは避けさせたい、かな。

シア達と区別するようで何だか気が引けるが、そこはまだどちらにしても皆と話してみないと。


「分かりました。では彼女以外の解放の手続きを帰りにでも行っておきます」

「そうしてくれると助かる。『シーナ』って子はこの街にいるから連絡して待たせるようにするわ。帰りに連れて行ってあげて」

「はい。分かりました」

「じゃあ、これでその話はお終い。……もう一つのお話はちょっと場所を変えたいの。悪いけどついてきてくれるかしら?」

「はい?もちろん構いませんよ」

「ありがとう。……じゃあついてきて」


そう言ってまたアイリさんが先に歩いて行って俺はそれについて行く。

アイリさんは何もしゃべらない。

……どこに行くんだろう?

場所を変えるってことは今迄以上に秘密を守らないといけないようなことなのかな?


黙々と歩き続ける。


途中アイリさんを見て挨拶をしてくる街の人にもちゃんと笑顔で挨拶を返すのだが、その顔はどこか強張っているようにも見えた。


俺の感覚だが、街の人との関係は良好だと思える以上、これからの話の方でアイリさんは少し緊張しているのかな?



そうして街の中を歩くこと10数分。

辿り着いたのは一つの2階建てと思われる特にこれと言って取り上げることのない家。

挙げるとしても少し建物としては古い、くらいか。

ここは……


「ここは、私とエンリ、それに、私達のお母さんの家よ」



ご指摘いただいて『感謝の意を述べる』→『感謝の意を表する』と修正しました。

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