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ふぅ、これで何とか……

「皆、無事か!?」


街の入り口付近まで来ると、シア達が奮闘しているのが見えた。


「ご主人様!よかった、ご無事で……ご、ご主人様!?何故ワイバーンにお乗りに!?」


シアがあまり見せないような驚き方をしている。

今2度見されたか?

……まあそりゃそうか。


「ああ、これか?大丈夫だ、ちゃんとした俺の従者だから。それより状況は!?」

「ご主人様はもう何でもアリなんですね。……今私とシアさんとクレイさんだけで倒したのは7体です。他の方々がどれだけ倒したかは把握していません。ですがやはり竜だけあってかなり苦戦を強いられているかと」


エフィーが何とも言えない顔をしながら答えてくれる。

……3人でもう7体倒してんのか。エフィーの言う通りワイバーンが弱いってわけじゃないだろう。

バランスを考えて二つに分けたんだが、やはりシアとクレイの近接戦闘組が半端ないんだろうな。

エフィーの魔法の威力も『MPチャージ』で強化されているからMP容量さえ気にしなかったらエフィーの攻撃力もそれなりのものだ。


とは言え確かに他の人たちがどれだけ倒せてるのか正確には分からない以上安心もできない。


よし、俺達も戦闘に参加するか。


「俺達も加わる。俺がワイバーンの溜り場に行って撹乱してくる。皆はそれでこっちに来る奴を集中的に倒してくれ」

「了解、マスター!」

「一人で行くのか!?誰か護衛をつけんと危ないのでは!?」

「大丈夫、混乱させたら直ぐに戻ってくる。最悪クレイを召喚するからそのつもりで」

「……うん、わかったー」

「……じゃあ頼むぞ、皆」


俺はカノンとリゼルをワイバーンから降ろし、一人でワイバーンの集まっている所に向って行った。


恐らく20匹程群がっていると思われる。


「ヴォルカニックショット!!……ちっ、どんだけいんのよ、こいつ等、虫じゃあるまいし」

「アイリ、あんまりイライラしないの。気持ちは分かるけど今は倒すことに集中しないと」

「リクさん!そっちに3体行きました!!」

「OK、エンリ。ゼノ、行くわよ……はぁあ!」

「了解です、リク様、……てやぁ!」


アイリさん達が率先してそいつ等を引き受けているようだ。


周りにはワイバーンに委縮して中々思うように動けない冒険者もいる中やはり流石だな、と思うばかりだ。


俺も助太刀しよう。


「ワイバーン、そのままの位置を保っといてくれ。……食らえ、ブラックダイス!!」



俺は次々とワイバーンを暗闇の牢獄に閉じ込めていく。

ダークミストだともしかしたら火力不足かもしれないからな。

一匹一匹っていうのは正直面倒だが急がば回れ、だな。


こういう時こそ冷静に、確実に。


3匹目を閉じ込めた辺りで1匹目の箱が壊されてしまった。


だが、中から出てきたワイバーンは見るからに疲弊していて、最早ヘロヘロな状態だった。


よし、効果はちゃんとあるようだ。


「……ワイバーンがここまで弱ってしまうなんて、アンタ何したの……それに何で敵であるはずのワイバーンに乗っかってんのよ!?」


アイリさんの鋭いご指摘が下方から飛んでくる。

一応前の時とは違って魔法を目前で見ているのだから何をしたか自体は分かるはずなんだが……まあ言いたいことは分かる。


「……まぁいいじゃないですか!細かいことは。今はとりあえず協力してワイバーンを退けましょう!!ね!?」


下に向って大きな声で叫ぶ。


「……ふーん、そう、またそうやって誤魔化すんだ。……いいわ、これが終わったらちゃんと全部聞き出してやるんだから……」


うん?アイリさんが何か言ったようだが、結構うるさいので声を張ってくれないと聞こえない。

だが何となくいいことを言っていないというのは雰囲気から分かる。

ジトーッとした目でこちらを見ているアイリさん。


……うん、今は考えないことにしよう!



「ブラックダイス!!……」



その後、20体全部を弱体化してから俺は戻ることに。

その時にエンリさんを守ることもあり、アイリさん達と一緒に戻ることになった。




「あ!マスター!!お帰り!!」

「ご主人様、首尾は!?」


後衛のカノンとエフィーが俺に気づく。


「ああ、とりあえずは成功した。こっちは?」

「はい、あれから更に11匹が接近してきましたので、全部迎撃しました。……シアさんとクレイさん、それにリゼルさんの働きが凄いですね。3人だけでほとんど倒したようなものです」

「そうなんだよ、マスター!!クレイが殴ったらワイバーンの体凹むし、シアが切ったら鱗だけじゃなくて体そのものまで切っちゃうし、リゼルはリゼルであの槍みたいな武器でバッサバッサとなぎ倒していくし……あの3人一体どんな体してるんだろうね!?」


エフィーもカノンも若干あきれ気味に報告してくる。

前衛陣がしっかりし過ぎていたらしい。


……確かに、見ていて気持ちいいくらいにボッコボコだな。

他の冒険者達が苦労している以上はこっちがおかしいのか。

まあうれしい誤算っていえばそうなんだが……


「あ!またワイバーンが来ます!!」

「恐らく俺が攻撃した奴等だろう。精神を完全に破壊し切るまではいかなかったみたいだから、ここで全部潰すぞ!」

「はい!」

「了解!」


「アイリさん、そっちは……」

「言われなくても分かってるわよ!!エンリ、リク、ゼノ!!」

「はい、姉さん!!」

「了解!!」

「了解です!!」


アイリさん達もまだ十分戦えるようだ。


よし!!



「俺たちの戦いはまだまだこれからだぜ!!」



そして、俺達は残りのワイバーンを倒していくのだった。

…………

………

……




そして10年後……なんてことは無く、1時間程して、ワイバーン全部を倒し終えた。

疲弊したワイバーン達は呆気なく雷魔法と氷魔法どちらも一発で力尽きた。

いや、呆気なく、と言ってやるのは可哀想か。

他の冒険者達が担当していたワイバーンでさえもダークミストを使ったらかなりの割合で精神異常をきたしたのだ。

……少し慎重に行き過ぎたのかな?


恐らくは倒すより、他にもワイバーンや召喚士が残っていないかを確かめるために使った時間の方が多かっただろう。



結果的には負傷者は重軽傷含めて出たのだが、死者は0という数字に終わった。

……この結果も含めてチャラ男の計算通りだとすると本当にあいつは食えない奴だな。


その後、事後処理等をどうするかで『イフリートの炎爪』と『ノームの土髭』で話し合いをすることになったのだが、そこで一悶着起こってしまった。




「……マスター、これから、どうするー?」

「クレイの立ち位置からすると、クレイは参加した方がいいのかもしれんな」

「クレイ、その『マスター』ってのは何なの?……まさか、こいつに無理やりそう呼ばされてるんじゃ!」


俺にそんな趣味は無い!

変に勘ぐってくるアイリさん。

……でもまぁクレイ位の奴が俺みたいなどこの馬の骨とも分からない奴を『マスター』なんて呼んでたらそういう風に思ってしまうのも分からんでも……

でもだからと言って俺にそんな趣味があると思われるのはそれはそれで心外だ!


「いやいや、そんなはずないでしょう、クレイが勝手にそう呼んでくるだけです……ちょっとクレイ、こっちに」

「……ウーーーー」


俺はそう言ってクレイを引っ張り、アイリさんと少し離れたところに行く。

そんな可愛い呻り声出されても困る。

……その時もアイリさんの目が少し怖いことになっていたが気にしないったら気にしない。


「クレイ、やっぱり『マスター』っていう呼び方は色々と問題があると思うんだ」

「……いやーーー。クレイ、従者、カイト、マスター」

「う、うん、そうだな、確かに形式上はそうだ。でもな、人前でそう言う呼び方すると、アイリさんみたいに変な誤解を生むこともある」

「……変な、ごかい?」

「ああ、そうだ。だからこうしないか?他の人がいる時は名前、つまり『カイト』って呼ぶこと。クレイは俺の名前を呼ぶことは嫌いか?」

「……クレイ、カイトの名前、すきー」

「ああ、ありがとう。だから二人っきりとかシア達みたいな身内しかいない時は『マスター』って呼んでくれればいい。それじゃあダメか?」


俺がそう言うと、クレイはしばらく考えるような素振りを見せ、そして……


「……分かったー、クレイ、そうする」


ほっ。どうやら納得してくれたらしい。

何となくだがクレイの説得の仕方がわかったような気がする。



「よし、じゃあ改めてよろしくな、クレイ。さてそれじゃあ……」

「ク、レイ、さん?……」


アイリさんの下に戻ろう、と言おうとした時、不意にクレイに声がかかった。


誰だろうと?と俺達が声のする方へと振り返ると、そこには俺の知らない、少し背の高めの見た目好青年な男が立っていた。


「……あ、テリムだ」


何の抑揚もなくそう言い放つクレイ。

……『テリム』って確か……クレイの代わりの団長代理、だったか?


そりゃクレイがいきなり現れたらそんな顔するよな……ってあれ!?泣き出したぞ!?


「クレイ、さん、ひっく、ご無事、だったんです、ね?良かった……本当に、良かった、です……」


ああ、どうやらクレイのことを心配だったからそれで安心したのか。


「……?……テリム、どうして、泣いてるの?」


クレイは泣いているテリムに近づいていき、首を傾げる。


「こ、これは、べ、別に、何でも、ありません。ただちょっと、目にゴミが……」


そう言ってクレイから顔を逸らすテリム。

クレイはそれでもテリムの顔を見ようと追いかけていく。

……クレイ、分かってやれ。



そうして数分待つと、テリムは泣き止み、涙を服の袖で拭いながらもクレイに向き直る。

その顔は何かを決心したかのような力強さを感じさせるものだった。


「……あの、クレイさん」

「……なに?テリム」

「僕……いや、俺は初めて会った時から……クレイさんのことがずっと好きでした!!今までこの思いを伝えず、ずっとクレイさんの傍にいるだけで満足だなんて思ってました。でも……クレイさんが居なくなって、俺、やっぱりそれじゃあダメだって……お願いします!クレイさんに見合う男になって見せます!!ですから、俺と付き合って下さい!!」



おおう!?いきなり告白現場に居合わせてしまった!!

テリムって奴も凄いな!!

そこそこ人もいる中で堂々と言っちまいやがった!

男としてなかなかカッコいいと思うぞ、そういうの。


クレイは確かに美人だし、スタイルもいい。

性格ものんびりした中にも確たるものを持っているっていうのは魅かれるものがある。



さて、クレイは……


「……?……クレイ、良く分かんない。どういうこと?」


そう言いながら俺の方に説明を求めに来る。

おい、何故俺に説明を求める、本人に聞け!


「……要するに、だ。あいつはクレイのことが好きだからずっと一緒にいたい、って言ってるんだ。あいつも勇気を出して真面目に言ったんだから、クレイも真面目に答えてやりなさい」


何でこんなこと俺が真面目に言わんとならんのだ。


「……うん、わかった」


トコトコとテリムの下に戻って行くクレイ。

さて、どうするんだろうか……



「……テリム、ごめんなさい」


あちゃー、断ったか。

まあそりゃ仕方ない。クレイにも好みとかの問題があったんだろう。

残念だったな。まあこれに懲りずうちのクレイと仲良くしてやってくれ……ってなんかちょっとクレイのお父さんになった気分だな。



「……その、理由を、聞いても、いいですか?」


テリムがクレイに尋ねる。

おお、めげないな!


「……テリム、クレイとずっと一緒したい、なの?」

「……はい。そうです」

「……クレイ、テリムとずっと一緒、できない。」

「それは何でなんですか!?俺が弱いからですか!?それとも俺に魅力がないからなんですか!?どうしてなんです!?」


少し興奮気味にクレイに食って掛かるテリム。

……まあ気持ちは分からんでもないが、少し必至過ぎやしないか?



「……だって、クレイ、マスターの従者。クレイ、マスターとずっと一緒」


ちょ!?お前!


「マスター?クレイさんが、従者!?どういうこと、なんです!?」


テリムも混乱しているようだ。

……俺に飛び火するとは。

今のうちにとん面した方が……


「……マスター」


……遅かったようだ。

クレイが俺を指さしそう呼ぶ。


テリムもそれに反応してジロリという効果音が付きそうな目で俺を睨む。


……嫌な予感しかしない。


「……あなたがクレイさんの、マスター、ですか。どういうことか説明していただけますか?」


口調は丁寧ながらも決して心中穏やかでないことは声音から窺える。

……言葉を選び間違えたらエライことになるな。


「そのですね、それには色々と訳がありまして……な、クレイ!?」

「……あ、ゴメン、クレイ、間違えた」

「え?それは、どういう……」

「『マスター』って呼ぶの、二人きりの時だけ。……今は、カイト」

「……ふたりっ、きりぃ!?」


おおう!そうだよ、一人でよく気付いてくれたな!!偉いぞ、クレイ!!

ただそれを今ここで言わなければ100点満点だったんだが!!


「……あのですね、色々と私たちの認識の間に齟齬が生じてしまっているかと……」

「何を間違っているんでしょうか?クレイさんの純粋な心に付け込んで、自分のことをマスターなんて呼ばせて……しかもそれを二人っきりの時とか注文まで付けて!!何なんです!?クレイさんと主従プレイですか!!うらやま……けしからん!!」


おい、お前、今本音が見えたぞ!!


「あのですね、私は別にそんなやましいことは……」

「……テリム、カイトのこと、苛めちゃ、いやー!」


クレイが両手を広げて俺を庇ってくれる。

クレイ……

って言ってもお前がそもそもの発端なんだが……


「ク、クレイさん、俺は苛めるどころか、そいつの魔の手からクレイさんを助け出そうと……」

「……カイト、クレイのこと、助けてくれた。……カイト苛める、テリム、嫌い!!」

「ぐはっ!」


クレイ本人から『嫌い』と宣言されたテリムは盛大なダメージを負ったようだ。


「……っく、クレイさんの心をそこまで……」


ダメージを負ってようやく少し頭が冷えたようだ。

これでようやく……


「……カイト、攻撃、とっても激しかった。クレイ、その後、カイトに、貰った。カイト、いい匂い。カイト、強いし、とっても優しい」


おいーーーーーー!!

何一つ嘘は言ってないがどうしてそう説明不足感満開になるんだ!?


「……激しかった……いい匂い……強いし、優しい……やっぱり貴様はクレイさんの純情を弄んだんだろう!!」


やっぱり誤解されたーー!?


「ち、違うんです、いや、クレイの言ったことは何一つ間違いじゃないんですが、誤解なんです!」

「くそーー。おいお前、必ずお前の魔の手からクレイさんを救い出して見せるからな!!……おい、ギリム!!ちょっと来い!!」

「な、なんです!テリムさん、私を呼び捨てにして……」

「んなことはどうでもいいんだよ!!俺は今から正式に『ノームの土髭』の団長になるよう動く。なんか文句あるか!?俺は今から強くならなくちゃいけないんだ、テメェに構ってる暇はねえんだよ!!分かったらさっさとしろ!!」

「は、はい、す、すいませんでした、で、ですが団長になるには色々と準備が……」

「いいから急げ!!」

「は、はい!!」

「……クレイさん、待っててくださいね、俺が『ノームの土髭』を今以上に大きくして必ずクレイさんを救い出して見せますから!!」


そう言って去っていくテリム。


……また面倒くさいことになってしまった。


「……テリム、なんか様子、おかしかった。……どうしたんだろ?」


……9割9分9厘お前のせいだ、クレイ。


クレイがカイトを呼ぶときの呼び方をこういう風にしてみました。

これでしばらく行ってみようかと思いますが、まだこれでもカノンとの区別がハッキリしないようでしたらまた新たに考えるかもしれません。


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