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クレイさん、お願いします!!

投稿が少々遅れてしまいまして申し訳ありませんでした。


「……へ?……クレ、イ?」


おお、珍しい。

アイリさんからあんな間の抜けた声が出るなんて……

突如ここにクレイが現れたことがよっぽど衝撃的だったらしいな。



「……え!?どういう、こと!?何で、ここにクレイの姐さんが!?」

「行方、不明、じゃ、なかった、のか!?」


チャラ男とメガネもかなり動揺している様子。

フフフ、狼狽えろ狼狽えろ!!


「……あー、アイリ、いるー」

「……本当に、クレイ、なの?」

「……うん。……アイリ、泣いてる。どうしたの?」

「……クレイ、3匹のお世話で忙しいだろうに突然呼び出して悪かったな。……あの二人の団長、実は悪い奴等で、アイリさんを虐めようとしてるんだ。だからあいつ等の魔の手からアイリさん達を守るために、クレイの力を貸して欲しい。……どうだ、頼めるか?」


呼び出したのはもちろん俺だし、形式上も俺が主人ではあるのだが、ここはちゃんとお願いする形で、クレイに尋ねてみる。


主人としての貫録云々なんかは俺は別に気にしない。

むしろそんな物の保身のために折角得た信頼を失う方が明らかな損失だというのが俺なりの考えだからだ。

まぁ確かに時にはそう言ったことが必要な場合もあるという事を俺も一応分かってはいるつもりだ。……でも今はその時ではない、ということは流石に分かる。


クレイはそこらへんのことをどう思ってるんだろうか……いや、何とも思ってないかもな。


クレイは俺の言葉を聴き終えた後、エンリさんと支え合いながら立って、驚きながらもこちらの様子を見守っているアイリさんを、そしてクレイの登場に今もなお動揺を隠せないでいるチャラ男・メガネを見て、俺に向き直る。



「……分かった、マスター」

「クレイ……久しぶりに顔を見れて色々と言いたいことがたくさんあるのだけれど一先ず……ありがとう。それとあなたが無事に帰ってきてくれて本当に良かったわ」

「……うん、困ってたらマスターが……カイトが助けてくれた」

「……そう。……また、カイトが……」

「……アイリとエンリ、マスターとクレイが守る。……二人とも、クレイの大事な友達……友達を虐める奴、許さない。……クレイ、友達のためにも、戦う」


構えながらもそう言い放った今目の前にいるクレイからは、あの、のんびり・ゆっくりとした雰囲気は一切感じられない。

この中で戦闘経験が比較的少ない俺からしてもはっきりと分かる位の見えない殺気、凄みのようなオーラがクレイから放たれている。


さっきの魔王に立ち向かった云々の話でも思ったんだが……

クレイ、お前、本当にスゴイ奴なんだな。

不覚にもちょっとカッコいいと思ってしまった。


事件の背景や奴等の事情・理屈云々なんて恐らくクレイは全く考えていないだろう。


俺の言ったことがもしかしたらチャラ男とメガネを陥れるための嘘かもしれない、アイリさんも実際には何も困ってなどいないのかもしれない、そんな嘘・本当の判断すらも全部含めてクレイは自分の感覚・直感だけで判断しているんだ。


一歩間違えればそれはとても危ういことなのだが、クレイにそんなことは関係ない。

恐らく今まで全てにおいてクレイは野生の勘・自分の直感ただそれだけで判断してきて、それだけで正しい道を選んできて、そしてその方法しか知らない。


……俺には絶対マネできないな。

まあマネする必要も無い。

俺には俺の、クレイにはクレイのやり方があるってだけだ。

以前にも虐げられていた友達のために魔王と戦ったと言っていた。

見方を変えればそれを何の躊躇いも無く、『友達のため』ただそれだけでできてしまうのがクレイのスゴイところなんだろう。


……よし、切り替え切り替え!!

クレイが折角アイリさん達のために戦ってくれるんだ。

俺もあのメガネ野郎をきっちり倒さないと。


「よし、それでは、えーっと、リクさん。そこにいるクレイと一緒にあっちのチャラい方をお願いします。私があのメガネをやりますから」

「……あなた、本当に何者なの?男嫌いのアイリの目に留まっただけじゃなく『ノームの土髭』歴代最強とまで言われたこともあるクレイさんとも繋がりがあるなんて……アイリも凄い目であなたを睨んでるわよ」

「……まあいいじゃないですか、私のことは。今重要なのは目の前の敵を退けることだと私は思いますよ?」

「……まあそれもそうね……いいわ。あなたの言う通り先ずはあいつ等をなんとかしましょう。とりあえずクレイさんが一緒ならこっちは全然大丈夫よ。任せれくれていいわ」

「……うん……マスター……クレイに、任せて」


いつもの読み取り辛い表情かとも思ったが、「任せて」と言ったクレイの顔からは何かとても大きな物を背負っているかのような決意染みたものまで感じられる。


遺跡では向いてないんじゃ……とも思ったが、案外本当にしっかり七大クランの団長やってたのかもしれんな。


「……ああ、クレイ、任せたぞ!!」

「……うん、クレイに、お任せ」




「……グレイスの旦那、これでもまださっきの布陣通りで行くって言うの?マジで俺が風来坊君以外を受け持つの?相手はあの姐さんだよ!?」

「……くっ、どうして今頃になって、今まで行方不明だったクレイが、どういうことだ、どうなっているんだ!?」

「……旦那、グレイスの旦那」

「……くそっ、アイリが積極的に向かってこない今がチャンスだというのに、これでは戦力差が……」

「ダーメだこりゃ。完全に呑まれちまってる。……まあ確かに相手に本気の姐さんがいるってだけでもかなり絶望的なのに、風来坊君はまだ色々と隠してそうだしなぁ。こうしてる間にも旦那が連れてきたかなり多かったはずの団員達は風来坊君の奴隷と竜人(?)にどんどん倒されて行ってる。……さて、どうするか……」



どうやらあちらもどうするか決まったようだ……主にチャラ男が単独で動いていたようにも見えたが一体……


「……クレイ、友達、守るために、戦う」

「久しぶりに顔会わせたと思ったら第一声がそれかよ……クレイの姐さん」

「……相手、誰か、関係ない。アイリは友達。……友達を虐める奴、敵」

「……なるほどねぇ。そーりゃごもっともなことで」

「……『シルフの風羽』の団長さん、あなた、言い訳しないのね」

「いい訳も何も全部事実だからな。それなのに開き直んのもそれはそれで違うだろう……まあ旦那はどうか知らんが……」

「そう、じゃあ私とクレイさんの相手、してくれるのよね?」

「……ははは。そいつはわりーが無理な相談だな。……俺だってそうは言ってもまだ死にたくないからね」

「な!?ど、どういうこと!?」

「いや、別に今の言葉には裏も何もない、そのまんまの意味だよ。……ボソッ(本気の姐さん相手とか、今の状態の俺なら三分と持たない自信あるもん……)」

「はぁ!?あなた、何を言って……」


リクさんも意味が分からない様子。

チャラ男め、本当に何を……


「……だから、君と、姐さんの相手は属性的に有利な旦那に任せることにするよ!!エアロフロー!!」


な!?あの短時間で詠唱したのか!?

チャラ男の足元に魔力が、そこから風が集まっていく。


「魔法!?しまった……」


リクさんが急いで駆け出す。


「……させ、ない」


だがそんなリクさんを完全に置いてけぼりにして、足に集中しかけていた風をクレイが文字通り一蹴してしまっていた。


「な!?今の一瞬であの距離を!?」

「……ふん」

「嘘!?うわ、やっば……」


クレイはその後も間髪入れず攻撃を仕掛ける。

ひょいひょいと身軽に攻撃をかわすのがお得意のあのチャラ男でさえクレイの蹴りを避けきれずに両腕をクロスさせ、防御の姿勢を……って俺も良くあの動きを目で追えたな。

竜人女の時と似たような部分があるにはあるがそれだけで、数時間も経ってないのに格段に変わる、という事は無いだろう。


クレイの動きもさっきより速くなってる……様に俺には見えた。

俺が動きを追えるのも、クレイが速くなったのもどっちも恐らくは『契約』が大きく関係しているんだろう。


……本当に契約様様だな。




「……くっ、が、はっ、……マジで、やべえよ、利き腕逝ったんじゃね?……これ、本当に死ぬかも……本当勘弁してくれよ、相手の選択すらさせてくれないなんてこれどういう新手の虐め?……」


幾数回の攻防の後、チャラ男は起き上がって自分の体の様子を確認している。

……確かに無事とは言い難い感じに見えるな。

腕も結構な痛手を……



カシャン



……どうやら観戦はここまでらしい。

メガネが武器を手にしたようだ。

あの大きな剣を肩に下げ、こちらへと歩いてくる。


七大クランの団長相手にワンサイドゲームしてんだから、あっちはクレイに任せとけば何とかなるだろう。

俺も自分の仕事をしっかりとこなしますか。


「……俺には、七大クランの頂点に立つという野望がある……だからこんなところで足踏みしている暇など無いのだ!!」

「……今回の件はそのためのものか」

「ああ、そうだ」

「……目的のためなら何をしてもいいってのか!?はっ、よくある屑の思考回路と一緒だな。よかったなぁ、お前も晴れてただのメガネではなく屑メガネの仲間入りだ、おめでとう」

「……おのれぇ、貴様、どこまでも俺のことを馬鹿にしおって……」


このメガネ、安い挑発にぽんぽん引っかかりやがる。

そんなんで七大クランの団長なんて良く務まったな。


「……ふぅ、お前のバカげた話に付き合うのはもううんざりだ。……さっさと来い、そのメガネ、お前と一緒にきっちり全部ぶっ壊してやるから」

「……俺の前に跪かなかったことをあの世で後悔しろ!!死ね!!」


俺に向かってそう言いながらメガネは大剣を構えて走ってくる。

最早ここまで来たら最初の頃と別人みたいじゃ……まあ、ほとんどが俺のせいか。


「はぁあ!!」


あれだけ大きなサイズをした剣なのに振り上げる動作が、俺達が使うような普通の剣の時の動作とほとんど変わらない。

だが以前の時よりも遅くなったよう……ああ、俺の能力値が強化されたからそう感じるのか。


「ぅらあ!!」

「くっ、せい!!」


上昇した能力値のおかげか、剣を受けても少し重い程度にしか感じない。

STR(筋力)は契約では上がってないはずなんだがな……



一般的に考えればその破壊力は剣の大きさからも容易に想像できるが、今の俺にはそこまで脅威には感じられない。

コイツの攻撃はそれだけじゃないのだが、どれも近接戦闘に特化したものばかりで、魔法のような応用性が欠けている。

今の状況としては、力ではやや押され気味だがスピードはさして変わらないと言ったところか。


どれだけ挑発に乗ったと言っても奴がかなり腕が立つという事はこの前の一件でも良く理解している。

何が引き金となってメガネが冷静さを取り戻すか分からん以上、今回、コイツを倒すのに妥協は一切しない。

以前の時には先行して分からないようにした『闇魔法』も、出し惜しみして使わなかった『氷魔法』・

『雷魔法』も、さっき改めて得た『パーティ恩恵(リーダー)+α』も今回は全部解禁だ!


しかも今は『氷魔法』と『雷魔法』の威力が一段階上がっているらしい。

水使いのメガネにはもってこいの組み合わせだな。



どれだけ威力が上がったかとかの実験は今回は無しだ。

一気に片づけてやる!



「うるっあ!らあ!うぉりゃあ!!」


ただ力任せに大剣を振り回しているように見えるが、結構的確なところを突いてくる。

……こういうところが腐っても七大クランの団長、ということなのだろう。

それ相応の鍛練くらいはこなしていて、それを体が覚えている。

今俺に向かってまともな剣を振れているのは恐らくそのおかげなんじゃないだろうか。

……まあよくは知らんからあまり大きなことは言えんが。


「この、野郎!……そろ、そろ、くたば、れ!!」



……疲れているというわけではないと思うが段々動きが鈍くなってきている。

それに伴って剣筋も徐々に甘くなってきた。

これなら……


「ええ、い、くそ、こ、の……」


奴が一呼吸置いた!!

今だ!!


「おらぁ!!」


カキン


「な!?しまっ……」


俺はエフィーの『魔力操作』を用い、瞬時に大きな力を込め、大剣を弾き返した。

俺だけの力じゃどれだけタイミングが良くてもメガネをのけ反らせる程までは無理だったと思う。

メガネ自身も自己の隙に気付けず招いたミスだとようやく分かったようだ。

……まあもう手遅れだろうが。




今奴は、自分の力とは関係なく、俺に弾き返され、のけ反った状態にいる。

ここから立て直すのはどれだけ力自慢だろうと今すぐ、ということは難しいだろう。



完璧なタイミングだ。

今なら何を放っても直撃コースだろう。

だが手を抜けばもしかしたら……なんてこともあり得るかもしれん。

容赦は無用、ここは一思いに本気で魔法をぶちかましてやればいい。


……あばよ、屑メガネ。


「ライトニング……」





「ごふぁ!」

「ごっふ!」




ヒューーー……ヅサァァァァ




……………………え!?


今、目の前を、吹っ飛んできたチャラ男が通ったような……

そしてそのチャラ男と一緒にメガネまでもが巻き添え食らって吹っ飛んでっいったような……



俺は二人が吹っ飛んだであろう方向に首を向ける。

すると、地面には擦れた跡がはっきりとついていて、折り重なるかのようにして地に伏している野郎が二人。

俺は今度はチャラ男が飛んできたであろう方向に目をやる。


そこには、今まさに殴り飛ばし終えた後であるかのように、腕を突きだして固まったままのクレイが。……その拳からは白い煙のようなものが出ている。

……そしてその横には口をこれでもかと言うぐらい開けて呆然と立ちつくしているリクさん。






……うん、とりあえず状況は分かった。

クレイ、お前、スゴイな!!




「…………だか、ら、嫌、だったんだ、よ、マジ、の姐、さんと、やろう、なんて」


おおぅ、チャラ男の奴、滅茶苦茶タフだな!!

クレイの一撃をまともに食らったであろうはずなのにまだしゃべれるのか!?

……え、嘘!?更には立ち上がろうとまでしているぞ!?


クレイの一撃ではなく、飛んできたチャラ男との衝突が原因であるはずなのに、メガネの方はダウンしている。

……確かに不意の一撃ではあったがそれでダウンって団長としてかなりカッコ悪いな。



「……ヴィオランさん、どうやら決着が着いたようですね」


まだ完全には立ち上がってないチャラ男にそう話しかける。


「……あ、あ、流石、だよ、風、来坊、君。俺が、見込ん、だだけのことは、あるね」

「まあ確かに見込んではいただいたようですが……」

「は、はは、あの勧誘、のことじゃ、ないよ、もっとちゃんとした、意味での、こと、さ」

「それは、どういうことですか?」

「ははは、答えて、あげられたら、お互い、楽、なんだけど、ね」

「……そうですか。……ではこれで、終わりにしましょう」

「……ふ、ふふ、そう、簡単には、終わってあげない、んだなぁ、これが」


チャラ男は痛みに耐えながらもいつもの不敵な笑みを浮かべてみせる。


「……何のことを言っているんですか?」

「そろそろ、わかる、んじゃあ、ないかな?」

「何を言って……」



「うわーー!皆、大変だ、ワイバーンだ!!ワイバーンの大群が出現したぞ!!」


突如として男の叫ぶ声が戦場に広がった。


な!?いきなりワイバーンの大群!?


誰が騒いでいるかは分からないが、今問題なのはその内容だ。


どういうことだ、これも最近の異常現象と関係……いや、そうじゃない!


俺はチャラ男に向き直る。


な!?


メガネの懐から抜き取ったのであろう『エリクサー(メガネ自称)』を飲んでいるチャラ男がそこにはいた。



「……ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……ふぅ。……さあて、それじゃあ最終ラウンドと行こうか、風来坊君」 



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