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……これは夢か何かか?

「アイリさん!!」


アイリさんは俺の声を聞いて、足を止める。


「……え?ア、アンタ……」


俺達の姿を捉えて再びその足を動かし、こちらに少しずつ近づいて来る。


「姉さん!!」


エンリさんはアイリさんの姿を確認して、堪らず駆けだした。


「……エンリ?エンリ、無事なのね!?」

「姉さん!姉さん!!」

「エンリ!エンリ!!」


そうして二人の距離はあっと言う間に縮まっていく……


「エンリ!」

「姉さん!」


アイリさんはその存在を確かめるかのようにエンリさんをしっかりと抱きしめ、涙をこぼしている。

エンリさんもそれにつられ、アイリさんの胸に顔を埋め泣いている。


「エンリ、……本当に、本当に、無事で、良かっ、た」

「姉さん、こそ、無事で、いてくれて、本当に、良かった」


……エンリさんを連れてきたのは間違ってなかったようだ。


「ア、アンタ、どうして、エ、エンリをここまで、連れてきちゃったのよ!」


あれ!?怒られちゃった!?

アイリさんが嗚咽を漏らしながら俺に向かって声を荒げる。

今もエンリさんを抱きしめているので顔はこちらを向いてはいない。


……アイリさんも難儀な性格をしてるな。



「……エンリさんが人質として狙われているのなら誰かから無事だ、とか聞かされるよりも実際に会っていただく方がアイリさんに安心していただけるかと思ってエンリさんをここまでお連れしようと判断しました」

「だからって!こんな、敵地の、ど真ん中に、連れて来たら、危険なこと位、分かるでしょう!!」

「私が付いています」

「……え?」

「まだ約束は果たせていません。このゴタゴタに決着がつくまで、敵地のど真ん中だろうがどこだろうが私がエンリさんを守って見せます!……約束、しましたからね。仮に私が頼りないとお思いならエンリさんが傍にいる方がアイリさんご自身が守ることもできます。……ですから今はエンリさんの無事を喜んで、後は私に任せて下さい」

「私は、でも、男、には……」


一度エンリさんの護衛を引き受けているのに……


「じゃあ、この後、アイリさんが約束を守るべき相手かどうかの参考にしていただくために私に任せてみてはどうでしょう?」

「…………」

「……とりあえず今は団長としてのアイリさんではなくエンリさんのお姉さんとしてのアイリさんで良いんじゃないでしょうか?」

「……ごめん、なさい、後、のこと、任せても、いいの?」

「はい。もちろんです」

「……ありがとう……カイト……」



ハッキリと聞こえる感謝の言葉はしっかりと俺の耳に届いた。


……ん?でもちょっと違和感が……ま、いっか。





「ファル、ファルよ、しっかりするんじゃ!!こんなところで死ぬなんて我が許さんぞ、起きろ、起きるんじゃ!!」


……竜人女(姉)が何か叫んでる。どうやら竜人女(妹)が怪我を負ったようだ。


「くそっ、こんな時、凄腕の治癒魔法を使える者がおれば!!」


……何故チラチラ俺の方を見て叫ぶ!


「……姉、じゃ」

「ファル!無事か、今、回復魔法を使える者を呼ぶからな、それまでしっかりと気を持つんじゃ!!……誰か、この中に医者か、回復魔法を使える者はおらんか!?」


……よく飛行機や乗り物なんかで聞くようなセリフだな。

しかもそれをチラチラと俺を見て言ってきやがる。


「……姉じゃ、私は、もう、長く、ないよう、です」

「そんなことを言うでない!これからも一緒に生きていくのであろう!?なのにそんな弱気でどうする!……医者か治癒術師はまだか!?(チラッ)」



……おい、「チラッ」、じゃねえよ!



「いいの、です、姉じゃ、それより、姉じゃ、しっかりご飯は食べる、です。ちゃんと、睡眠とる、です。それから……」

「もういい、それ以上しゃべるでない!!……くそー!!何故じゃ、何故誰一人回復魔法を使える者がおらんのじゃ!?(チラチラ)」

「私も、カイトさんがいなければ、あんな風に……姉さん!!」

「エンリ、本当に、無事で良かった!!……誰か、誰か、あの竜人の姉妹を助けてあげられないの!?」



……マジかよ、アイリさん達が冗談抜きの加勢をして来た!?

くそっ、更に面倒くさくなってしまったじゃねえか!!



「姉じゃ、姉じゃと暮らせた日々、楽しかった、です。姉じゃ、だけでも生きて、下さい、です……(パタリ)」

「ファ、ファルーーーーーーー!」





……大げさな!ただ気絶しただけじゃねえか!



ああ、もう分かったよ、助けりゃいいんだろ!助けりゃ!!



俺は竜人女姉妹の下に近づいていき、回復魔法をかけてやる。



「ぬ、主よ妹を、助けてくれるのか!?」



お前等がそうするよう無言の圧力かけてきたんだろ!!


竜人女(妹)の傷は見る見る治って行く。

本当にスゴイな、治癒力が文字通り以前とは段違いだ。

それはいいんだけど、この後の展開って……


「……んん、あれ、私は……」

「ファル、分かるか、我のことが分かるか!?」

「姉、じゃ?私は……」

「お主は助かったのじゃ!!こちらの殿方が回復魔法でお主を助けて下さったのじゃ!!」

「そうですか……あなたが……」



そう言って、首をこちらに傾ける妹。

本当に姉と区別がつかんな。

コイツ等双子か!?



「それだけではないのじゃぞ!ファルよ、ステータスを見てみよ!」

「ステータス……です?分かりました……え……これは!?」

「そうじゃ、『スキルキャンセル』も治っておるじゃろ?」

「え、ええ……ですが、これは……」

「それもこちらの方のお力じゃ!我もそれで治してもらったのじゃ!」

「そうですか……命だけでなく、今まで私達を苦しめていた『スキルキャンセル』まで治していただいたなんて……なんとお礼を申しあげればいいか、です」

「ああ、ファルよ、お主も我と共にこちらの殿方に忠誠を誓って尽くそうではないか?」

「……そうですね、私が受けたとても大きなご恩に報いるため、姉じゃと一緒にこのお方にお仕えする、です……」

「ああ!!……さあ、主よ!!どうじゃ、我と妹セットで主にお仕えじゃ!これで文句あるまい!!」








文句しかねえわーーーーーーーーーーーー!!!!

やっぱりこうなった!!

だから助けたくなかったんだよ!!

別に俺が助けなくても妹さん死にはしなかったからな!!

重傷だったけど命に関わる怪我じゃなかったからな!!


もうどうやったって無理だったんだ……。

こういうものだとして諦めるしかないんだよ。

ごめん、シア、エフィー、カノン、俺、もう……




「よしファルよ、折角治してもらったんじゃ!!スキルを使うぞ!!」

「……はい、姉じゃ」



人の気も知らずに何か姉妹二人で盛り上がってやがる。


とは言っても基本スキルをたくさん持ってるのは姉の方だ。

さっき妹さんの方も鑑定したが、妹さんの方は『解除(竜)』『竜技』っていうスキルしか持ってなかった。

多分『解除(竜)』が竜から人になるためのスキルだったんだろう。

妹さんはだから恐らくスキルを使ってどうこうできるわけじゃないし、まして竜に戻れるわけでもない。

……スキルを得てしまったがためにこれまでの悲劇が起こってしまったのだろう。




姉の方がスキルを発動したようだ。

……ん?何か妹さんの体から小さな光が一杯出てきて、姉の体に吸い込まれていく。

あ!姉の『特性吸収(竜)』ってスキルか!?



光が収まっていく。


「よし!では、行くぞ!!ファルよ!!」

「……はい、姉じゃ」

「うむ!!スキル『竜技』発動じゃ!!……はぁああ!!」



そう言った姉の体がまた再び光り始めた。

今度は妹さんの体も同じように光り始め、そして二人は片手を伸ばして、掌を合わせる。


すると、二人の光が段々一つに重なって行き、そして……


光が収束していく。

そこにはさっきまで二つあった人影は見当たらない。

……いや、一人の人間が腰に手をあて、ピンと立っている。

振り返り、こちらを見てにっこりとほほ笑む。


女性は淡いピンク色をした、腰まで届く位の長い髪をしている。

瞳はパッチリと開いていて、恐らく少し濁った藍色。眉は薄いがキリッとしている。

ほっそりとしているようにも見えるが、やせ形と言うわけではなく鍛練などの賜と言った方がいいだろう。

露出した腕や太ももの部分からは美しいとも思えるほどしっかりとした身体つきだという事が窺える。

大きいというほどではないが、スタイルが良い分胸もそれなりにあるように見える。

身長も女性の中じゃかなり高い方だろう。


……なんというか、綺麗な人だな。



「……ふむ、ファルの特性は『融合』だったようじゃな」

≪そうみたい、です≫

「うーむ、身体つきが変わってしまったようじゃな。確かに力は漲ってくるようじゃが融合する前の方が動き易かったように思うのじゃが……」

≪まだ慣れてないだけでしょう≫

「ふむ、まあそうかもしれんな……だが、身体つきだけならまだしも、恐らく容姿まで変わってしもうたんじゃ……これで満足してもらえるじゃろうか?」

≪そればっかりは好みの問題、です。私にも姉じゃにもどうしようもないかと≫

「うむ。そうじゃの、仕方ない、か。……ではあるじ殿に直接聞いてみるとするか……おーい、主殿ぉー!」


そう言って女性はこちらに手を振りながら駆けてくる。

その姿はとても美しく、まるで待ち合わせをしていた可憐な彼女がこちらに駆けて来てくれるよう……












えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?





何だこれ!?

今何が起こったの!?

俺は今夢でも見てるのか!?



え!?『融合』!?何それ、おいしいの!?

おかしいでしょ、何で化け物+化け物で美人が出来るんだよ!!


美人+美人=美人←分かる

ブス+ブス=ブス←これも分かる

美人+美人=ブス←何か失敗しちゃったのかな?……まだ、何とか、分かる

竜人女姉(怪物)+竜人女妹(怪物)=美人←目の前の奴今これ



あり得ないだろ!?

どうやったらそうなんだよ!!

『成功』ってこと!?

『成功』でもこれはおかしいだろ!!

何でこんなこと起こるの!?

最早超常現象のレベルだよ、これ!!




……世の中には俺の知らないことがたくさんあるんだな。




「主殿。いかかじゃろうか、我等の融合後の姿は?」

「…………」

「主殿、いかがなされたか、主殿!?」

≪やはり、容姿がお気に召さなかった、です?≫

「……は!?ス、スマンスマン。ちょっと世界のことわりについてを考えていた。……うん、いいと思うよ」

「ほ、本当か!?」

「うん、っていうか俺としては今後融合を解かないでずっとそのままでいて欲しいんだが」

「我は別に全然構わんぞ!ファルはどうじゃ?」

≪私も主様がお気に召すのならこのままで全く問題ない、です≫



よっしゃぁーーーーーーーーーー!!

良かったぁ!!

一事はどうなることかと思ったぞ!!

ここまで嬉しかったのはいつぶりだろう。

ああ、くそ、目から青春の汗まで出てきやがるぜ!



名前:リゼル (リーゼ ファル)

人種:天竜族(竜人)

身分:奴隷 所有者:カイト・タニモト

職業:戦士 

性別:女

年齢:18歳


Lv30

HP:170/148(+22)

MP:70/55(+15)

STR(筋力):68(+18)

DEF(防御力):58(+17)

INT(賢さ):30(+15)

AGI(素早さ):58(+17)

LUK(運):21(+5)


『変身(竜)』、『解除(竜)』、『特性吸収(竜)』、『竜技』、『物理ダメージ小減少』、『水属性耐性』、『特性転用(1)』




あれ?俺が所有者になってる!?

ど、どういうこと?


元々の所有者であるソトが死んで、最初の発見者……

ってああ!融合後の最初の発見者ってこと!?それ俺になんの!?

しかも不覚にもコイツを所有したいと思っちゃったってこと!?

……融合前だったら死んでもお断りだったが、まあこの容姿なら……





「……ごめんね、風来坊君、俺達いつまで待てばいいの?」


不意に後ろからチャラ男の声がかかる。

おっと、完全に忘れてた。


「……あなた達が黒幕だったんですね!グレイスさん、ヴィオランさん!」



(え!?今までの間を無かったことにして進めるの!?それでいいの!?結構シリアス展開だったと思うんだけど!!)



「くそっ、アイリの言っていた護衛とはアイツだったのか!!ということは刺客は全員……」

「はい、20人全員私達のパーティーが返り討ちにしました」

「ちっ、役立たず共が!!……だが、アイリ、お前があそこまで泣きわめくとはな」

「自分の大切な人が無事だったことに安心して泣くことの何が悪いんですか!?アイリさんだって一人の女性なんです。不安なことや心配事だってあるんです!あなたがアイリさんを誤解して勝手な印象を押し付けてるだけでしょう!いい加減なことを言うのは止めていただきたい!」

「カイト……アンタ……」

「ぐっ、だがアイリよ、妹が無事でも、俺がエリクサーを持っていることは変わらんぞ!!」


(え!?旦那もアイリも乗っかんの!?……もう訳わかんないわ、俺も乗っかった方がいいの?これ……)



「エリクサーだって!?それをアイリさんとの交渉材料に……ですがそれが本物のエリクサーだと言う証拠が無い以上、取引はできないはず!!」

「何を言う!!これは正真正銘本物のエリクサーだ!瓶だって中身の液体だってちゃんと薬術書通りのものだ!!」

「本物のエリクサーを見たことのある人の方が圧倒的に少ない以上、薬術書を調べ、その通りに偽物を作り出すことは実質可能です!!ですから、あなたが手に持ってるそれが本物であると証明できない以上、交渉など端から成り立ちえません!!」

「で、でも確かにあれは私の記憶では……」


アイリさんが後ろから答える。


「……アイリさん、仮にあれが本物だとしても、あのメガネが約束を守る保証なんてどこにもありません。一度譲歩してしまえば一生ゆすり続けられることだってあり得ますよ?」

「……確かに、そうね……アンタが約束を守るなんてことなんて信じられないわね、グレイス」

「ク、クソ!!……お前は、お前は一体、何なんだ!?ことごとく俺の野望の邪魔をしおって!!」


メガネは喚き散らしてくる。

……はぁ、やっぱりメガネはこれだから……


「……言ったでしょう、私は名もなき風来坊です。まぁ仮に名があったとしてもあなたのような奴に名乗る訳ありませんけどね」

「……ふざ、けるなぁ!」

「ふざけてなんかいません。……ふぅ、ただ、一つだけ言えば……」


俺は一息溜めてから一気に吐き出すように次の言葉を放つ。


「……俺はなぁ、お前みたいにプライドだけ高いただのメガネ野郎が昔っから大っ嫌いなんだよ!!偉そうにメガネくいくいくいくいしやがって!!かかってこいや、このメガネ野郎!!」

「カイト、アンタ私と……」

「……ププ、くくくく、アイリと同じこと言ってる!ハハハハハ!!最高、最高だよ、風来坊君!!」



ブツッ


あ、キレやがった。




「……どうやら早々に死にたいようだな。良いだろう、俺が直々にお前の息の音を止めてやる。ありがたく思え」

「はんっ!!ご託はいいからさっさとかかって来いよ!このメガネ!」

「言われなくとも直ぐに殺してやる!!……おい、ヴィオラン!!お前は他の奴等を片づけろ!!」



あ!しまった!!

チャラ男もいたんだ!!

どうしよう……


「奴は私に任せて!!」


そう言って2本の剣を持った女性が進み出る。


「私はリク、アイリのパーティーメンバーよ。だからあなたは心配せず、あのメガネを何とかして!!」


アイリさんのパーティーメンバーなら腕は立つだろうが、相手は何と言っても七大クランの団長だ。

流石に七大クランの団長相手に一人で立ち向かわせるのは……

ん?七大クランの、団長……


ああ、そうだ!!


「もう一人頼りになる人を呼びますんで、アイツの相手はその人と一緒にお願いします」

「は!?あなた、何を言って……今から呼ぶってどういう……」

「まあ直ぐに分かります。……契約者の名において命ずる。出でよ、『クレイ』!!」



別に文言はいらないんだが、こうした方が箔がつく。



「……クレイのこと、呼んだー?」



クレイの召喚は成功したようだ。


クレイが現れた途端その場の空気が一変した。

すいません、シリアスな展開なはずだったのに、竜人女が絡んでしまったら何故か空気がぶち壊しに……



それはそうと竜人女がついに美人に!

その経緯は『融合』でした。

ご感想の中に答えを的中させたものをいただいた時愕然としました。

今後はもっと精進しなければと思うばかりです。



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