どういうこと?
今回かなり短めです。
キリのいいところで終わらせるためにとは言え少し少なすぎたかな、と思ってます。
「……え?」
ソトの腹には剣が突き刺さっている。
ソト自身もいきなりのことで何が起こっているのか分からない様子。
たが間もなく……
「グフッ」
口から盛大に血を吐く。
「……何、だと?」
「……ようやく目障りな屑を掃除することができた。……今までご苦労だったな、俺の野望の礎となれたことを誇りに思って消えろ」
「お、まえ……アイツ、か」
「ふむ、アイツとはどいつのことを言っているのかは分からんが、お前が絶大なる信頼を置いていた人物、つまり覆面の男と言うのは、俺のことだろう」
「こ、の、クソ、がぁ」
「ふん、お前に言われる筋合いはない」
ブシュ
覆面の男とか自分で言っているくせに、今目の前のコイツがつけているのは仮面だ。
仮面の男は躊躇なく剣を引き抜く。
「……貴様には変なことをしゃべられる前に舞台からは退場してもらわねばな」
「ク、ソ、がぁーーーーー!」
男は私が止める間もなくソトの首を剣で刎ねた。
この瞬間、『破壊の御手』は事実上壊滅した。
「……これで邪魔者はいなくなった。……クラン『イフリートの炎爪』団長、アイリよ、共に『破壊の御手』の討伐……」
「これは何の茶番かしら?」
「…………」
「いきなり現れてそれでいきなりそこのゲスを殺してしまって。コイツから色々聴きださなきゃならないところだったのに」
「…………」
「ま、アンタが代わりに色々話してくれるんなら別に私はどっちでもいいわ」
私は剣を構える。
「…………」
何もしゃべらない。
「……何とか言ったらどうなの?それとも話したらマズイことばかりで何一つ話せないのかしら?」
「……フフ、フフフ、ハハハハ!流石は一人で女性だけのクランを七大クランにまで押し上げただけのことはある。女とは言えやはり肝が据わっているな。……俺のことはフォネリとでも……」
「……アンタ、その気持ち悪い話し方いつまで続けるつもりなの、『ヴィオラン』」
「…………何のことだ」
「いいえ、ただ言ってみただけよ。……それより今の間は何かしら?」
「…………」
「あきらめてその意味の分からない仮面を取りなさい」
「…………ハーッハハハハハハハ!」
「……とうとう頭が……いいえ元からだったわね」
「ひどいなぁ、俺は別に頭はおかしくないよ!……それにしてもやられたな。流石アイリだ」
男は仮面を取り、姿を現す。
そこにはいつもの軽薄そうな笑みを浮かべている、ヴィオランがいた。
「……別に。私が入る間もなくそこのゲスを殺せる位の使い手なんてそうはいないわ。メガネは竜人と対峙させてるし、そもそも『ノームの土髭』は層は厚くても個々人がクレイほど跳びぬけた実力を持っているというわけじゃない。それはあの団長代理と副団長の奴も同じ。……そうすると、自然容疑者はアンタしかいないのよ」
「……いやー、完敗だよ。本当に流石だ」
「で、アンタは何をしたいの?」
「『破壊の御手』を掃除したかったっていうのは本当なんだよ?ただアイツ等少し肥大し過ぎたからね。俺達だけじゃ心細かったんだ。だから皆に協力してもらったってわけ」
「……それだけじゃないでしょ」
「ああ、そうだね、普通黒幕がこんなペラペラと真相話したりしないもんね」
「…………」
「……アイリ、『イフリートの炎爪』共々俺の配下に入れ」
「……どういう、事かしら?」
「俺とアイリが組めば七大クランの天辺を狙える。『ルナの光杖』なんかも目じゃない!お前の野望ももっと早く達成できる」
「…………」
「悪い話じゃないと思うよ?そっちの団員も悪いようにはしない。だってそうじゃないと組む意味が無いもん……どうだい?」
「……お断りするわ」
「……理由を聞こうか」
「一つ、アンタはまだ話していないことが複数ある。『破壊の御手』と繋がって一体何をしていたのか、とか。要するに信用できない」
「……なるほどね」
「二つ、組むって言っといて立場が対等ではなく私達がアンタの傘下ってのが気に食わない。このことでも信用ならない」
「…………」
「そして最後に、クラン『イフリートの炎爪』は女性だけのクランよ。男がいるクランとの併合なんて論外よ。どの観点から考えてもアンタと組むなんてあり得ないわ」
「……あーあ、まーた振られちゃった。俺って魅力ないのかね?」
「魅力云々の問題じゃないわ。まぁ仮にその問題だとしてもアンタは無いでしょうけど」
「ひどっ!……まぁそう言われちゃったら仕方ない、かな。……あんまり使いたくはなかったんだけど、奥の手を使いますか」
「……ご託はいいからさっさとしなさい」
もう一度剣を構えなおして奴に向ける。
「あーあー、ストップストップ、何でも力で解決しようとするのは良くないよ。穏便に、話し合いで行こうぜ?」
「……アンタに付き合う義理は無いわ」
「分かった分かった。……じゃあ、切り札を切らせてもらうぜ。……アイリよー、お前、今、大事な妹さんが何してるか、知ってんの?」
「!?……どういう、ことかしら?」
「ははっ、いくらお前でも計画から外す位大事な妹さんのことになると動揺を隠しきれない、ってことだな」
「……何が言いたいの?」
「……計画から外れている妹さんの下に刺客を放った。あの戦闘のエリートで有名な一族を20人。更には風来坊君が戦闘していた竜人も一緒に行動させている。……さて、アイリ、取引と行こうか。妹さんの命と引き換えだ、俺の配下に下れ」
そう言って私に手を差し伸べてくるヴィオラン。
その顔は既に結果が見えたように勝ち誇った笑みを浮かべている。
……まだよ。
まだ何も終わってなんかない。
「……ちなみにエンリがどこの調査に向かったか知っててそんなことを?」
ヴィオランはそれを聞いて拍子抜けしたような顔をした後、直ぐに大声を出して笑い出した。
「え!?……はは、ははははは!アイリ、それ本気で言ってる?お前が言ってたんだろ!?『エンリは東の森の調査に向かった』って!!」
「……そう言えばそうだったわね。……で、そこに本当にエンリはいたのかしら?」
「……は!?……どういうことだ、ちゃんと……」
「いるかいないかはとりあえず置いときましょう。……まずアンタ、人質を取って取引したいんなら人質を今ここに連れてきなさい」
「え、でも、ちゃんと、森に……」
「あのね、人質が本当にいるかもわからないのに取引に応じるバカがどこにいるのよ。エンリ達が返り討ちにしてるかもしれないのに……こんなこと真面目に言ってやるのもアホらしい」
「…………」
「アンタ本当に七大クランの団長なの?……あきれて言葉が出ないってこういうことを言うのかしら」
よし、イケる。
「だ、だが東の森に刺客を放ったのは事実だ!お前だってさっき動揺して……」
「ふぅ、アンタ、バカ?今までこんなこと何度もあったわ。いちいちそれに全部動揺するわけないでしょ。さっきのはわざわざフリをしてやったのよ」
「く、くっそぉ……」
奴は悔しそうな顔をしている。
……何なのかしら。
「もういいかしら?本当に茶番だったわね。……さあ、終わらせましょう」
私は今度こそはという意気込みで剣を構える。
「……こうなったら仕方ないな、実力行使、させてもらおうか」
「何でも力で解決しようとするのは良くないんじゃなかったかしら?」
「……申し訳ないけど前言撤回、だな、こりゃ。……行くぜ?」
ヴィオランがローブの下から1本の長剣を取りだし、構える。
普段と違う武器なのはその違いで自分だとバレないように、という配慮だろう。
……まぁ他の点でバレバレだったけど。
互いに相手の一挙手一投足を逃さないよう目を凝らす。
明確な始まりの合図など無い。
私はただ、全神経を尖らせ、どんな攻撃にも対応できるようにする。
どれ位そうしていただろう。
互いに動かないまま相手の挙動を観察する。
「……はぁっ!!」
ヴィオランが焦れてとうとう動き出した。
私はそれを迎え撃とうと体勢を低くする。
だが、
「そこまでだ!」
いきなりかかった静止に、私達は打ち合うことなくその声に否応無しに応じなければいけなくなった。




