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私は私のやるべきことを……

=====  ????視点  =====


「くそぉー!どうなってるんだ!何故こんなことに!?おい、アイツはどこだ!?『ノームの土髭』など直ぐに崩壊させれるんじゃなかったのか!?」


ソトは感情的になって大声で何かを騒いでいる。

今は最早取り巻き達は全て戦闘に出払っている。

誰も奴の疑問に答えてくれるものはいない。


とは言っても奴の発言は考えるには値する内容のものだと思う。

どうやら予想とは大きく外れた結果となっているらしい。

……『ノームの土髭』への強襲は誰かの入れ知恵?


……まぁどっちでもいいわ。

今はコイツを倒す、ただそれだけ。

後ろに誰かいるならコイツから吐かせればいいんだから。


「……そろそろ幕引きにしましょうか。……これ以上アンタ達に苦しめられる人々を増やさないためにも」


そう言いながら私は剣を構える。


「調子に乗りおってぇ!……良いだろう、『破壊の御手』の団長であるこのソト様が直々に相手をしてやろう!ありがたく思え!この女めが!!」


『女』『女』って、うるさいわね。

今からアンタは自分が見下しているその『女』にやられんのよ。


「……ご託はいいからさっさとかかって来なさい。それとも、女相手でも怖くて戦えないのかしら?」

「ぐぬぬぬぅ!言わせておけば!死ねぇ!!」


奴はお飾りで腰に携えていた剣を抜き、私に襲い掛かってくる。

……自棄やけにでもなったか、それとも本気で私に勝てると思って……


本当にどうでもいいことね。

私は自分の力を信じてただ突き進むのみ。

守るべきものをただ守る。

……今までも、そしてこれからも。






私とエンリは貧しい家庭に生まれ育った。

記憶にあるのはいつも忙しそうに仕事に駆けまわっていた母の姿と、その母をいつも見下して酒屋に入り浸って、全く家に帰らなかった父であるあの男だった。


エンリはまだ小さく泣いてばかりいた。

私は少しでも母の助けになるよう家事の手伝いやエンリの世話を積極的に買って出た。

母から感謝されるのも嬉しかったし、エンリの世話をするのも好きだったから別段苦になることもなかった。


そうやって母とエンリと私、3人で貧しいながらも支え合って送る生活が私は好きだったし、母も多分同じ気持ちでいてくれたんじゃないかと思う。


私が10歳になって、お遣いを頼まれることが多くなった。

そのお遣いの帰り、ふと冒険者の稼ぎがいいという事を耳にした。

腕次第ではかなりの額を稼げる、と。


私はそれを知った日から母の手伝い、エンリの世話以外の時間は全て自分を鍛えることに費やした。

私が頑張れば母に楽をさせてあげられる、そうすればもっと3人でいられる時間も増える、その思いだけで黙々と鍛練を積んだ。

鍛えれば鍛える程私は強くなっていった。

魔法も使えるようになって1年で冒険者としての活動を始めるまでに成長した。


最初こそ慣れない仕事に戸惑ったが、どんどん私は冒険者としての仕事をこなしていき、お金を稼いでいった。


ある程度の額が貯まって母を驚かせようと冒険者になったことも含めて打ち明けたら、母に泣いて抱きしめられ、「アイリにそんな危ないことをさせていたことすらお母さん気づいてあげられなかった。ごめんね、ダメなお母さんで。……お母さん、それは受け取れないな。だってアイリが命を懸けて稼いだものだもの。……それはアイリが大きくなった時に使いなさい。……それと、大きくなるまでは冒険者の仕事は止めて、お願い。お母さん、今まで以上に頑張るから」と言われた。



それから母はそれまで以上に仕事を増やし、私達と過ごす時間も減って行った。

私は言われた通り冒険者の仕事は中断し、エンリと一緒にいてあげる時間を増やした。

それでもエンリは母といられる時間が少ないことを悲しみ、寂しがることが増えてしまった。

……こんなはずじゃなかったのに。



そんな生活を続けること約1年、事件は唐突に起こった。


エンリが眠るまで手をつないでいてあげるのが私の夜の日課だった。

エンリがうとうとし始めたので私はエンリをベッドまで運び、頭を撫でながらエンリが眠るまで手をつないであげていた。


ガン、ガン


何か音が聞こえる。

この時間は母は内職をしていてこんな大きな音を発てるようなことはないはずなのに。


私はエンリが眠りに入っていることを確かめてから、そおっと2階から降りて行った。



当時の私はそこで見たものを直ぐに認識することはできなかった。

見知らぬ男が3人、母を犯していた。

母は至る所から血を流し、いつもの明るい母からは想像もできないような死んだ目をしていた。


私は最初、怖くて何もできなかった。そんな縮こまっていた私を余所に、家の扉が突然開いて、そこにはあの男がいた。


「やぁ~、皆さん、お楽しみいただけてますか~?」

「おお、自分の妻を他の男に差し出す下種野郎じゃねえか~!」

「ははは、それで乗ってる皆さんも相当な下種野郎で~」

「違いねえ!」

「私の魔法は効いてるでしょう?」

「ああ、お前が編み出したんだってな、すげえぜ……」


私は意味が分からなかった。

今となっても全く理解できないし、したくも無いが、当時の私には最早別の世界の出来事なんじゃないかとさえ思えていただろう。


私の頭の中は纏まらないのに、アイツへの怒りだけはどんどん膨れ上がり、とうとう奴等の前に進み出た。


「……お、お母さんから、お母さんから離れろ!!」

「ん?……おおう、誰かと思ったらアイリじゃねえか、しばらく見ないうちに綺麗になったな、流石俺の子だ~」

「へ~、あれがアイリちゃんか、結構な金を持ってるっていう」

「ああ。何でも一時期冒険者になって金を貯めたらしい。……今回の仕事、分かってますよね、皆さん?」

「ああ、分かってるよ。おいしい思いさせてもらったんだから、金はしっかりと回収してやる……その後は……」

「ええ、アイリのことも好きにしてくださって結構ですよ~」

「へへへ……それを聞いて安心したぜ」


そこまでの会話を聞いて私は今回の事件の真相を理解した。

……あの男は私が冒険者として稼いだ金が目当てなんだ。

それを回収するために3人の男を引き連れ、ここに来た。

その対価としてお母さんや私までをも……



私が、私が冒険者になって稼ごうなんて思わなければこんなことには……


男3人は容赦なく私に襲い掛かってきた。

もし私が死んだらお金の隠し場所を知る方法はどうするんだ、そんなことを考える余裕などその時は無く、ただ無我夢中で冒険者時代に培ったものを用いて奴等を返り討ちにした。


その後も、どうやってかは覚えていないがあの男も追い詰め、首筋にナイフを突きつけた。


「……は、はは、はははは!スゴイな、スゴイな、アイリ、流石は俺の子だな!」

「……私はお母さんの子よ、アンタなんか知らないわ」

「俺を殺すのか~、後悔すんぜ、アイリ~?」

「……気安く私の名前を呼ばないで。気色悪い」

「ははは~……本当に後悔すんなよ、……アイリ?」



その後私は躊躇なくアイツを殺した。

全員を始末した後、直ぐにお母さんを背負い、医者に見せに行った。

私はそこでアイツの言う通り、死ぬほど後悔することになった。


母は特殊な魔法にかけられ、精神がおかしくなっていると言われた。

起きていても私達を自分の子供だと認識してくれない。

かけた本人じゃないとこれは解呪できない、とも。


~私の魔法は効いてるでしょう?~

~ああ、お前が編み出したんだってな、すげえぜ……~


私は自分の行動全てを恨んだ。

自分の行動全てが裏目に出てしまった。

良かれと思ってやったことが全部私達を不幸な結末へと導いている。


……全部知った時、私は死のうと思った。

お母さんをあんな状態にしたのは私だ。

私が生きていればそれだけで迷惑がかかる。



死ぬ覚悟を決めて家に帰った時、泣きながらエンリが私に抱き着いてきた。


「姉さんもお母さんもいないから怖かった!私一人にしないで!姉さん、もうどこにもいかないで!!」

「エンリ……」


私の胸に顔を埋め泣き続けるエンリを見て私も一緒に泣いた。

なんて私は自分勝手なんだ、自分のせいで家族を不幸な目に追いやっておいて、挙句の果てにはエンリを一人残して死のう、だなんて。

それにお母さんもまだ死んだわけじゃない。

それを全て放って私は死のうとしていたんだ……


「……エンリ、ごめんね、お姉ちゃん、どこにもいかないから、泣き止んで」

「……姉さん、泣いてるの?」

「ごめんね、エンリ、寂しい思いばっかりさせて……」

「……姉さん、笑って」

「……え?」

「姉さんは泣いてるより笑ってる方が全然似合ってる。だから、ね?」

「で、でも」

「じゃあ、私のマネして。……こう、ニー」

「ニ、ニー」

「そうそう、フフフ」

「フ、フフ……」


私はエンリのその笑顔に救われた。

私を無理にでも笑わせようと必死に頑張ってくれるエンリを見て私は改めて決意した。

……この子を守って行こう。




エンリにはお母さんは仕事のし過ぎで体や精神を壊してしまったと伝えた。

エンリには何の穢れも無く純粋な子に育ってほしい。

……あんな面白くもなんともないことは私一人が知っていればいい。



私はその後、お母さんの治療費や私達自身の生活費を稼ぐために冒険者の仕事を再開した。

……お母さんとの約束を破る形になってしまったが、今は生きることが一番の至上命題だ。

……ごめんね、お母さん。



冒険者の仕事の傍ら、自分を磨くことも忘れず続けた。

ブランクなどものともせず私は女性では異例の1年でAランクまで駆け上がり、その後クランを立ち上げた。


同じように苦しんでいる女性がいるのを見ると放っておけないと思った。

エンリも賛成してくれた。


私はあの日以来、男性嫌いになってしまっていた。


私は寝ている時も更には起きている時でさえも、不意に、アイツの言葉が蘇ってくる。

男に名前を呼ばれると、アイツに最後、名前を呼ばれた時を思い出してしまう。

その度に自分が責められているように感じた。


だが、そんな辛い気持ちもエンリの笑顔を見れば自然と安らいでいった。


クランを大きくしていくと、『エリクサー』の存在を知った。

とても高く普通なら手が出ない品でもお母さんを治せる可能性が出てきたことには変わりなかった。

実際に使っても治るかどうかは分からなくてもその存在があることだけで私にとっては希望が出てきた。

私は困っている女性の救済とお母さんを治せることを両方叶えることができる道、つまりはクランの勢力拡大、最終的には七大クランにまで私達のクランを育て上げることを目標として頑張ることにした。

そこで問題となったのは私の男嫌いや女という性別、それに年齢からくる幼さだった。


この先、クランを大きくしていくなら男と接することは避け得ないこと。

そこで私はふと考え付いた。

自分の男嫌い等を利用すれば……

私は冒険者としての実力も単純な戦闘能力も全部備わっていると思っていたが、周りからはただの女あるいは子供にしか見えないだろう。


クランやお母さん、それにエンリのためなら男嫌いを我慢することなんて何の苦でもない。


それにいつでも笑顔でいてくれるエンリの存在が私をいつも励ましてくれた。

その眩しい笑顔でエンリは私だけでなく直ぐにクランの皆の支えにもなって行った。


~姉さん、いつもありがとう。体に気を付けてね~

~姉さん、こんなところで寝ないでください!風邪ひきますよ?~

~姉さん、クランの皆が姉さんの味方です、もちろん私も、ですよ?……ですから姉さんは姉さんの思うままに進めばいいんです~

~姉さん……~

~姉さん~

……



……私はもう大丈夫。エンリ、あなたがいるから……


私はクランを七大クランの1つに引っ張り上げるまでは男嫌いなのを前には出さずに我慢し、その後、自分の男嫌いも含めた、女であることや、まだ年齢が若いこと等私を舐めてかかる要素を最大限利用し、私をちゃんと実力等で判断する奴、他のしょうも無い理由で判断する奴とに分けることができるようふるいにかけてやった。


そしたら続々と引っかかる奴が出てきて、私自身もこんなにうまくいくものかと驚いた。私もストレスを溜めることなくバカを炙り出せるので楽でいい。

逆にちゃんと私と向かい合って接してくれた人もいた。

クレイもその一人だっただけに今回のことは残念だったが……





そうして今、私はここにいる。

七大クランの一つにまでしてもまだまだ『エリクサー』を買うなんて雲を掴むような話なのは変わらなかった。でも今はクランの皆のためにも、そしてエンリのためにも、私は戦う。

とりあえず今は目の前にいるソトを倒すことが目下私のやるべきことだが、カイトアイツについてはこれが終わった後じっくり時間をかけて全部聞き出してやることにする。……私の大事なエンリに手を出していたら容赦しないんだから!



「うらぁー!!」


奴が襲い掛かってくる。


「ふん!」


それを一振りで薙ぎ払う。

奴の剣は宙を舞い、はるか後方に突き刺さる。


「……正真正銘これで終わりね」


剣を目の前に突き付けそう言い放つ。

実にあっけない。


「くそう、くそう、くそう!!」

「アンタには聴きたいことがまだあるから。死なないように……」


グサッ


「……えっ?」



アイリさん回でした。

主人公達をお待ちの方は申し訳ありません。

次話も恐らくはこれの続きです。

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