実は……
「……我と妹は元は、2匹の姉妹竜だったのじゃが……」
「はい、そこストーップ!!」
何コイツさも当たり前であるかのように話を進めようとしてんだよ!?
皆もキョトンとするんじゃねぇよ!!
えっ、だってコイツ今すごいこと言ったのにそれをサラッと流しやがるんだよ!?
普通ツッコむでしょ!!
元々姉妹で『竜』だったとか言い出すんだよ!
これがツッコまずにいられようか、いやいられまい!!
「な、何じゃ!?まだ導入部分もいいところじゃぞ」
「あのな、普通にサラッと『私、昔、竜だったんだ』とか言われても信じられるか!」
「……とは言われてものう。事実なんじゃししょうがないじゃろう」
皆もなぜそこで止めるのだろう、といった表情を俺に向ける。
くそっ、ここは敵しかいないのか!?
……カエサルの気持ちが何となくだが分かった気がした。
「……そうか、悪かった、俺のことは気にしないで続けてくれ」
「うむ、了解した。それで、どこまで話したかの……」
おい、普通に導入部分だったろ、自分で言ってたじゃねえか!
何でそこで迷うんだよ!!
「……ああ、確か我と妹が『スキルキャンセル』に罹った、辺りじゃったか!?」
「嘘つけ!!んなこと一言も触れてなかっただろうが!何の前触れもなさ過ぎだ!!しかも妹さんまで『スキルキャンセル』に罹ってんのかい!?」
「ご、ご主人様、ど、どうかなさったのですか!?」
「マ、マスター、落ち着いて!」
「ご主人様がこんなに取り乱されるなんて、一体何がそこまでご主人様を……」
何だよ、俺がおかしいのかよ!?
3人だけじゃなくエンリさんやゼノさん達まで俺のことを大丈夫か、みたいな顔して見てくる!
……もう何が何だか。
「……その、続けてもよいか?」
「……ああ。もう、俺のことは放っといてくれ」
「うむ。では……」
真っ白な灰になった俺を置いてけぼりに、竜人女の話はどんどん進んで行った。
竜人女は話した通り、元は妹さんも含めて竜だったらしい。
自分たちが生まれて物心つく頃には親の竜はもういなかった。
それでも唯一の家族である妹さんと二人仲良く支え合いながら暮らしていた。
だが、突如何の前触れもなく二人の体がいきなり光だし、スキルが身に着いたのだとか。
そしてそのスキルを訳も分からず使っているといつの間にか人間に、この場合は竜人になっていた、と。
折角人間の姿になれたのだから人間としての生活を送って行こう、と妹さんと新たな生活を送っていた矢先に、二人で『スキルキャンセル』に罹患してしまった。
スキルを使えば竜に戻ることも可能だったのかもしれないのにこれでは戻れない。
そこで当面の目標を『スキルキャンセル』の治癒へと設定して頑張ること18年、今現在もそれは叶わず、また、姉がお金を稼ぎに出ていた時に妹さんが悪い奴等に捕まり、奴隷になってしまった。
苦楽を共に過ごした妹さんを何としてでも助けたい一心で姉は従いたくない命令に仕方なく従っていて、頑張っている。
……そして今の状況に至る、と言うわけだ。
俺はこのお涙ちょうだいもののお話にものすごーくツッコみたかった!
何の前触れも無く体が光ってスキルゲット、ってどういう経緯だよ!
しかも意図したわけじゃなくなんか適当にやってたら人間になれましたって!?
挙句の果てにはそれで頑張って行こうとしたら姉妹そろって「『スキルキャンセル』罹っちゃった!」、だと!?
本人はいたって真面目に話していたが、俺からしたら「どこまでが本当でどこからがネタなんだ!?」って感想しか出ないからな!?
……でも俺がそうやってツッコんだらまた俺だけ頭おかしい奴みたいな扱いされるんだろ!?
もう竜人女と関わったら碌なことにならねえ。
だから嫌だったんだよ!
あれかな……やっぱりオークションの時からもう既にこの筋書きは用意されてたのかなぁ。
はぁ……それだったらもうため息しか出ないわ。
「……じゃから我は何としても妹を助けて二人でまた……」
竜人女が落ち込んだ様子で歩きながら話を続けている。
少し精神的に来るものがあったんだろう。
サルが反省した時のように石壁に手を置こうとする。
ガコン
竜人女が手を置いた部分だけが音を立てて凹む。
……そう、何かの隠しスイッチを起動させてしまったかのように。
「ん?何じゃ、ここだけ造りが脆いのかの!?」
「んな訳あるかぁーーーー!!」
俺は今まで溜まりに溜まったものを吐き出す。
「えっ!?ど、どういうことじゃ!?」
「このバカ野郎~!!あれだけ注意しただろう!不用意に変な行動取るなって!」
「で、でも、そ、その……」
ゴガガガガガガガガガガガガガガガ
竜人女が押してしまった壁の一つ横の壁が大きな音を立てて開いていく。
嘘!?隠し扉のタイプだったのか!?
おお!!ってことは竜人女御手柄じゃん!
怒っちゃって悪かったけど結果オーライ、かな?
まぁ今後気を付けるように注意させれば……
そんなことを考えていると、隠し扉が完全に開き切る。
そこには……
「んh;sUJえ……」
ワー!カッコいい『ゴーレム』さんだー!
意味わかんない言語しゃべってる!
やったね!隠し扉の中にはモンスターがいたんだ!
ふざけんなこの野郎ぉーーーーーー!!
やっぱりハズレじゃねえか!
くそっ、竜人女ステータスはいいはずなのに何でこんなに残念なんだ!?
厄介ごとばっかり持ってきやがって!!
「ゼノさん!」
「はい!」
俺は即座に事前の打ち合わせ通り緊急事態下での行動に移る。
ゼノさんにはとりあえずエンリさんを離れたところに誘導してもらう。
俺達はその間に……
「竜人女、一緒に……」
「ゴフッ」
「えっ!?」
ドーンッ
さっきまで横にいたはずの竜人女の体が後方にふっとび、壁に体をたたきつけられる。
そして俺の横にいるのはさっきまで俺の前方にいたはずのゴーレム。
嘘、だろ!?
今の一瞬であの距離を詰めたってのか!?
音聞こえなかったぞ!?
しかもあの竜人女を1発で吹っ飛ばしやがった!
竜人女も残念ではあるがステータスは高いし、戦闘ではめっぽう強いってことは戦ったことが有る俺が良く知っている。
それをたった1撃で……
このゴーレム、ただのハズレじゃねぇ!
間違いなく最悪な奴だ!
遺跡にゴーレムってのはある意味定番って言えば定番だがこれは本当に最悪だ。
こんな奴に勝てんのか!?
竜人女を殴り飛ばした後のゴーレムが振り返り、俺を見、そして……
「gfhべhら*jfgs……」
何か分からない言葉を放っている。
あ!『モンスター言語(会話)』!
俺は即座にカノンの『モンスター言語(会話)』を用いてゴーレムに話しかける。
「ま、待て!!俺達は敵じゃない!話せばわかる!!」
『……敵……倒す』
一応ゴーレムの言葉は理解できたものの、その内容は俺達にとっては全く好ましくないものだった。
「ち、違う!敵じゃない!ただ単に上から落ちてきてしまっただけだ!!」
『……皆、敵。ただ、倒す、だけ』
ヤバい、話が通じていない!
言語は理解できてるから物理的には何とかなってるはずなのに、違う方向で齟齬が生じてしまっている。
このままじゃコイツとの戦闘は不可避。
でもこのゴーレムの強さが半端ない。
まともにやりあって勝てるかどうか……
「ご主人様!!」
「マスター!!」
「ご主人様!!」
シア、カノン、エフィーが戦闘の準備に入る。
「3人とも、コイツはヤバい!勝てるかどうか分からんぞ!?」
「大丈夫です!」
「うん!そうだよ、マスター!!」
「何を根拠にそんなこと……」
「ご主人様、ここは上よりかは魔力が薄いようです。少しまだきついですが、さっきよりは全然マシです。ですから魔法を使ってガンガン戦えます!!」
エフィーの言葉にハッとする。
確かに、さっき狼人に回復魔法を使った時は上にいた時ほどの魔力の濃さは感じなかったし、魔法も普通に使えた。
……なら
「分かった!!カノン、召喚は無しだ!『影術』に集中して少しでも足止めしてくれ!エフィー、全員に『支援魔法』、攻撃、防御、スピード全部をかけてくれ!シア、俺と一緒にコイツを攻撃だ!俺に気にせずどんどん攻めろ!」
「了解!」
「かしこまりました!……」
「分かりました!!」
「よし、行くぞ!!」
俺とシアは同時に駆けだす。
エフィーは既に詠唱に入っている。
カノンが『影術』をさっそく使い、ゴーレムを捕えにかかる。
ゴーレムと同じくらいの大きさにまで膨らんだ影の手がゴーレムを握るようにして捕えようとする。
だが、ゴーレムはそれを、ゴーレムとは思えない俊敏さでかわし、その大きな手の形をした影を右ストレートでぶん殴る。
影の手は大きくのけ反り、カノンもそれに伴って衝撃を受けている。
カノン自身にHPとしてのダメージがあるわけではないが、影である以上は影が伸びれる限界範囲と言うものが存在する。
だからその範囲を出てしまわないよう影が吹っ飛ばされれば自ずとカノンの体も影に引っ張られてしまう。
カノンは転がりながらも、いつも懐にしまってある短剣を取りだし、それを突き刺し、踏みとどまる。
くっ、でもマズイ。カノンが俺達とは逆方向に!
俺は何とかゴーレムの攻撃をこちらに向けようと、まだ剣の射程距離外ではあるが、魔法で攻撃を試みる。
「アイスショット!!」
氷の弾丸を幾つも作り出し、ゴーレム目がけて放つ。
今回は速度重視だが、ゴーレムだし属性的に言えばダメージは見込めるはず。
そうしてこっちに気を向かせれば……
飛来した弾丸をゴーレムは片方の腕を使って防ぐ。
ダメージは……
『……攻撃、防ぐ。……問題……無い』
くそっ、ゴーレムだから氷属性なら行けると思ったんだが、コイツの防御力が半端ないのか!?
全く効いてる様子が無い。
ちっ、こんな化物どうやって……
「……速度を加速させよ、スピードライン!!」
エフィーの支援魔法が発動する。
これでアイツの速さを上回れれば……
「はぁっ!!」
シアは支援魔法と、自分の神速を生かしゴーレムに迫る。
そうだ!シアの武器、属性が火のまんまだ!
これ氷に変えた方がいいよな!?
ちなみに、以前氷と雷、さらには闇の属性をシアの魔法剣に吸収させて鑑定したことが有る。
すると、
魔法剣(氷):氷の魔法を吸い込んだ魔法剣。
氷の属性が付加される。
STR+16 DEF+4 INT+4 AGI-1 属性:氷
魔法剣(雷):雷の魔法を吸い込んだ魔法剣。
雷の属性が付加される。
STR+18 DEF+2 INT+2 AGI+5 属性:雷
魔法剣(闇):闇の魔法を吸い込んだ魔法剣。
闇の属性が付加される。
STR+16 DEF+1 INT+6 属性:闇
となっていた。
シアの攻撃力に氷属性を付与できればかなり有利に事を運べるはず。
よし!
「シア!剣の属性を変える!両方とも解放しろ!!」
「はい!!……はぁあ!!」
「よし、行け、アイスショット!!」
もう一度、今度はゴーレムではなく、魔法を解放した後のシアに向けてアイスショットを数発放つ。
今回も速度重視なので威力は見込めないが、それは今は別に問題ではない。
「やぁああ!!」
シアがアイスショットを剣で受け、そして魔力を吸収する。
剣の刀身は水色に輝き、目で分かる位に冷気が漂っている。
よし、成功だ!
ゴーレムは俺の魔法に気を取られていたようだが、シアの剣の変化を感じ取り、シアに攻撃の矛先を向ける。
コイツ、単なる脳筋のバカじゃない!?
誰を倒すべきかを本能で理解して瞬時にどうすべきかを判断してやがる。
コイツ本当にゴーレムかよ!?
攻撃の仕方なんかは人間の知能すら感じさせるものだ。
コイツは今まで戦ってきたどの人間・モンスターよりも強い!!
マジでボスっぽいな。
……これ死んだらコンティニューさせてくれんのかね?
そんなところでバカな現実逃避を止め、現実と向き合う。
シアは属性を変えた魔法剣でゴーレムの体に攻撃を入れていく。
ゴーレムは回避しようとするも、立ち直ったカノンがゴーレムの背後から影でゴーレムを捕える。
「よし!……今よ、シア!!」
「……力を増幅させよ、パワーオグメンテ!!」
ちょうどそこにエフィーの2つ目の支援魔法が加わる。
「はぁあーーー!!」
シアはカノンの影が捕えて動けないゴーレムを切りにかかる。
だが、
『……くっ……』
影に捕えられていたゴーレムは暴れて、何とか影から右腕だけを解放し、シアを迎撃しようとする。
「させるかよ!!」
俺はそれまでにゴーレムに向けて走り出していた。
後ろからゴーレムの右腕に飛び移り、魔法を展開する。
「おらぁっ!アイス、グラッセ!!」
ゴーレムの右腕を核として、ゴーレム全体を氷漬けにするイメージ。
もちろんコイツ相手にそこまでできるわけではない。
だが、右腕から凍り始めた後、どんどん凍る部分が増えて、遂には右腕の関節部分までを凍らせるに至った。
『……右腕、動か、ない……』
よし!
「今だ!!行け、シア!!」
「たぁ!!」
シアの2本の剣がゴーレムをとらえる。
剣は確かにゴーレムの体を切り裂き、目でも大きなダメージを与えたことが分かった。
スゴイな!!ゴーレムの岩の体を削ったぞ!!
『……ぐっ、……』
その言葉を最後に、ゴーレムは動かなくなった。
どうやらシアの攻撃が決めてとなったようだ。
まあ俺の魔法も結構効いたようだが実際の決定打はシアだろうな。
……シアは今後もうちのパーティーのエースだな!
「……ふぃ、皆お疲れさん、無事か?」
「はい!ご主人様の魔法凄かったです!!右腕全部凍ってしまいました!!」
「いや、シアの最後の攻撃の方が凄かったぞ!」
「どっちも凄かったよ!マスターも、シアも!」
「はい、ご主人様の魔法のタイミングも絶妙でしたし、シアさんの1撃の破壊力も凄まじかったです」
「カイトさーん!」
お、どうやら戦闘が済んで、エンリさん達が戻ってきたようだ。
竜人女の様子は……
「ぐ、ぐぅ……」
「おい、大丈夫か?」
「す、すまぬ。油断、した……」
「いや、あれは誰にも予測できん。だからあんま気にすんな。今後はちゃんと注意すればいいから。ほら、怪我見せてみ」
「か、かたじけない……」
くそっ、頬を赤く染めて腕を出してくんな!
何一つ萌えるところないんだから!!
……どうやら咄嗟に腕で防御したらしい。
こりゃ両腕折れてんな。
しかも粉々だ。
俺は回復魔法をかけてやる。
「う、うぅ」
「痛いだろうが我慢しろ。治って行っている証拠だ」
「う、うむ」
それから10数分、魔法をかけ続けたが、完全に元通りとまではいかなかった。
今治癒力が一番高いのは俺の回復魔法だから竜人女はここから出るまではしばらく不便を我慢してもらわねばいけなくなるがこれ以上はどうしようもない。
俺達はその後、一応念のため周りに他にモンスターがいないかを見回り、いないことを確認してからもう一度、元のゴーレムのいた場所に向かった。ゴーレムの奥に上に繋がる階段とかが無いかを調べるためだ。
ちゃんと倒せているとは思うのだが、立ったまま動かないというのは結構不気味なものだ。
そして、戻ってみると、
「……ご主人様、おかしくありませんか!?」
「……エフィーもそう思うか」
「え?どこが?別に倒した時とあんま変わんなくない?」
「カノン、良く見てみろ、氷の解けるペースがあまりにも早すぎる」
「えっ!?嘘、本当!?」
そうなのだ、ゴーレムの凍った右腕の解氷があまりにも早すぎる。
コイツ、もしかしてまだ!?
俺達は咄嗟にそれぞれの武器を取る。
恐る恐る俺がまた魔法を使って攻撃してみたが、反応は無い。
……だが、
「う!?」
「きゃ!?」
「うわ!?」
反応が無かったはずのゴーレムの体がいきなり輝きだした。
眩しい!!
俺達は目を開けてられず、顔を手で覆う事しかできない。
くっそ、マズイ!
この間にもし、ゴーレムが復活したのなら、俺達は終わりだ。
何の抵抗もできず全員殺される。
そんな絶望的な思考が脳をかすめている間に、眩い光が次第に収束していく。
ん!?どう、いう、ことだ?
復活、したわけじゃない、のか!?
俺達は皆、恐る恐る目を開ける。
そこには……
「……あなた、強い。……負けた」
何一つ衣装を纏わず、すっぽんぽんで地べたに座り込んでいる女性が一人。
その眼は少しポワーンとしていながらも俺をちゃんと捉えている。
………………はい!?
勘の良い方はこの女性が誰だかお分かりかもしれませんね。
答え合わせは次話に。




