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そ、そんな!?

ちょっと短めです。

さて、声の主は!?

「アイリ!!」


私の名を呼ぶ声に手を止める。

剣は竜人の首筋直前で止まっている。


私は一端後ろに飛び退き、声の主を確認する。


「何かしら……グレイス」


そう、私を呼んだのは普通であればここにいるはずの無い人物だった。

このメガネは総大将の一人だ。

一応部下も結構連れてきているようだけども。

総大将が最前線に赴くなどよっぽどのことでもない限りあり得ない。

……私のことはいいの!


「ああ、いやなに、そろそろ勝敗がつきそうだったからな。こういうのはやはり総大将が前に出てきた方が士気も上がるだろう。終盤に一気に片を付けるんなら俺も参加した方がいいと思って加勢に来た」

「……そう。要するに手柄の横取りってことね?」

「ち、違う違う!勘違いするな!!今回の件で一番功績を挙げたのは間違いなくお前が率いている『イフリートの炎爪』だ。それは誰も疑わないことだろう。ここでお前たち以外が大将を討ち取ってもそれは変わらん。だからただ単にこの戦いを早く終わらせるための援軍と思ってくれればいい」

「……アンタが来なかったら今頃終わってたかもしれないんだけど」



……まぁコイツに竜人の相手をさせれば竜人も死ぬこと無く助けられる可能性も無くは無い、か。



「そうなのか!?……そ、それはすまないことをした。だがクラン団長の俺が来たんだ。直ぐに終わらせられる状況にしてやるさ!」

「……アンタは部下と一緒にその竜人の相手をしてなさい。いきなりきて戦況乱したんだから文句は無いわよね?」

「竜人!?……あの時のか!?」

「……私にいちいち聞かないで。本人に聞きなさい」

「……分かった。ではそっちは任せたぞ」

「…………」



私は返事をせず剣を構え直し、大将のソトに向けて走り出す。




=====  ????視点終了  =====


俺達はさっきの通りを戻っている。

隊列は変わらない。

ただやはりカノンとエフィーは戦闘に参加できるか怪しい。

無理をされても後で困ることになりかねない。


戦闘自体は俺とシアで何とかしなければいけなくなりそうだ。

カノンにはスケルトンの召喚だけしてもらった後は『影術』に専念してもらう。エフィーは召喚されたスケルトンの後ろで状況判断、そしてできる範囲で魔法を展開ってところか。



さっき引き返したところまでやってきた。


…………


やっぱり、さっきのは間違いじゃなかったな。

……ちゃんと『21人』いる。


「ご主人様、いかがですか?」


エフィーが確認してくる。


「ああ。しっかり『21人』いやがるな。」

「そう、ですか。……戦闘に、なるでしょうね」

「ああ。……カノン、エフィー、本当に無茶だけはしないでくれよ」

「うん。……ごめんね、マスター。役に立てなくて」

「はい。すいません。私もカノンさんに同じく、です」


二人ともとても落ち込んでいる。

……流石に魔法職の奴が魔法を正常に使えないってなるとこうなるか。


俺も元の世界でゲームなんかしたりしてて、魔法が使えないエリアとかでパーティーの一人が魔法使いだったら「他にメンバーいないのかよ!!」って怒鳴ってたけど、こっちではそんなこと言えないよなぁ……。


二人とも本当は俺の役に立ちたいのに役に立てない状況なんだ。

くやしいんだろう。

しんどそうな表情の中にもそう言った感情が窺える。

本当に皆……


俺は二人の頭に手をあて、少し激しめに撫でてやる。


「ちょ、ちょっと、マ、マスター!?」

「ご、ご主人様!?」

「二人とも、気にすんなって俺が言っても気にしちゃうんだろう?だからあえてそうは言わない。だが、今回は俺とシアに頼れ!!」

「えっ!?」

「そ、それは……」

「恐らくこういうことは今後何度も起こるだろう。今回は魔法がダメだっただけ。もし今度近接戦闘がダメだって時はシアが二人を頼らせてもらう。……それでいいんじゃないのか?」

「マスター……」

「ご主人様……」


うんうん。二人とも納得しかけている。

もうひと押しってところか。


「ご主人様、ご主人様」


シアに服をちょんちょんと引っ張られる。


「ん?何だ、シア?」

「そのお話で行きますと、ご主人様はいつ私達を頼っていただけるのでしょうか?」

「…………」

「マスター!?」

「ご主人様!?」

「い、いや、別に俺も考えてなかったわけじゃないぞ!?た、ただちょーっと話す順序を間違えたというかなんというか……」

「マスター絶対考えてなかったでしょう!!」

「そうです!いつご主人様は私達を頼って下さるんですか!?」

「ご主人様にはやっぱり私達は要らないのでしょうか……」

「あーあー、分かった分かった、俺が悪かった!!……その、なんだ、あれだ、場面に限らずちゃんとできる範囲で3人を頼るようにはするから。今回はシアに思いっきり頼ることになる。……だから、シア」

「は、はい!」

「頼りにしてるぞ」

「はい!!お任せ下さい、ご主人様!!」

「……まぁ、相手が雑魚だったらこんな話必要ないんだろうけどな」

「フフッ、そうですね」

「そろそろいいか、3人とも?」

「はい!」

「大丈夫です!」

「いいよ、マスター!」

「よし!……じゃあ行くぞ!!」



俺達はあの入り口に突入して行った。



……結構大きな声で話してたんだけど良く気づかれなかったな。





中に入ると、俺は開いた口が塞がらなかった。

俺だけではなく3人も、また『21人』の敵もいきなり現れた俺達を見て驚いていた。


そこにいた1人は確かに俺が驚くべき相手だったのだが、他の『20人』もまた別の意味で驚くことになる。


「……お前だったのか、竜人女!?」

「き、貴様、ど、どうしてここに!?」


奴も驚いているようだ。




くそー!

またか!

もういいんだよ、出てくんじゃねえよ!


でもこいつも驚いてるってことは俺目当てじゃないってことだよな?

目当てじゃないのに出会っちゃうってもうなんか竜人の呪いでもかかっちゃったのかな、俺!?

……おい、今『運命』とか『ディスティニー』とか思った奴ちょっと来い!!

……ごめん、俺だったわ。



……それはそうと、この竜人以外の奴等にもかなり驚くべきことが有る。

全員男だ。

実は他にも竜人の兄弟姉妹が、なんて地獄絵図にはなっていない。


ただ、コイツ等全員には俺達が見覚えのある特徴があった。

それは……


「皆、シアと同じ髪の色……」


カノンが声を漏らす。

そうなのだ。

竜人以外の『20人』の男全員がシアと同じ髪の色、耳、尻尾をしていたのだ。


……これはもしかして



「シア、あいつ等はもしかして……」

「あ、あ、い、いや……」

「シ、シア!?」


シアは軽いパニックになっている。

やっぱり……


「……『シア』?、お前、あのシア、か?」


相手の中の一人が話しかけてきた。

俺は前に出てシアを背中で庇う。


「すいません、あなた方はこの子と知り合いですか?」

「ああん!?何だ、テメェは?」


ちっ、チンピラの対応だな。


「申し訳ありません。私はこの子の主人をしている者です。ですのでまずは私を通していただければ。で、あなた方はこの子と知り合いですか?」

「ちっ……俺達はそいつと同じ里のもんだ。さっき名前が聞こえたが、そいつは『シア』だよな?」


くそ、聞かれてたか。


「……だったら?」

「いや、あの、里の疫病神とまさかこんなところで会うなんて、と思ってな」


疫病神、か。

勝手なもんだ。

原因を探ろうともせずただ他とは違っていたシアをのけ者にした挙句、こうやって再会してもただシアの傷口を抉ることしかしない。

……シアのためにも速やかに話を本題に移す必要がある。


だが、そんな中、一人の青年が進み出てきた。


「シア!俺だよ、俺!分かるか!?」

「ガイ、スト……」


どうやらシアにも面識のある人物らしい。

俺の後ろでポツリと呟く。


「ああ、そうだ、ガイストだ!……美人になったな、シア。見違えたよ。……シア、里に戻ってこないか?」


……は?コイツ何言ってんだ?


「……本当はシアのこと子供の頃からずっと好きだった。でも里の皆がシアを気味悪がっていたから言い出せなかったんだ。……俺は今、里の中で権力ある立場になった。だから、な?元々里の人間だったんだし。どうだ?俺と一緒に暮らそう?」


要は追い出した相手を元々好きだったから戻って来ないか、ってことか?

……ふざけてんのか?


「わ、わた、私、は……」

「悪い話じゃないだろう。お前だって故郷には戻りたいんじゃないのか?俺が……」

「……加減にしろ」

「うん?何ですか?今俺とシアが話を……」

「いい加減にしろ!!」

「ご主人、様……」

「……何なんです、主人だからって里の話に口出ししないでくれますか?」

「里も何も関係ねえよ。お前等は自分たちの勝手な都合でシアを追い出しといてまた今度は自分たちの都合で戻って来い?ふざけんのも大概にしとけ!」

「あれは仕方がなかったんだ。原因が分からない以上気味悪がる人が大勢いた。だから……」

「どいつもこいつも『仕方ない』『仕方ない』って……そう言えば済むと思ったら大間違いだぞ!……シアがお前達から受けた言葉や行為でどれだけ傷ついたか、どれだけ悲しんだかを考えようともせず自分勝手な都合だけを押し付けて……」

「ご主人様……」

「権力ある立場?はっ、さっきの奴が放った言葉自体がお前等里の奴等の本音なんだろう?権力があったところでそいつ等の気持ち自体は変わんねえよ。そんなことを思ってる奴等の中にいたってシアがまた辛い思いをするのは目に見えてる」


~私はその一族の中で異物として扱われて育てられました~

~里の中でも呪いなんじゃないかとか悪魔が憑いてるんじゃないかとか色々言われました~

~一族の中で私はレベルも上がらず儀式でも強くなれない落ちこぼれの役立たずでした。ですから奴隷として売られたのです~


シアが俺に事情を打ち明けてくれた時のことを思い出す。


「本当に里に戻ってシアが幸せになんならそれも良いかも、なんて思ったけどそんなことを思った数秒前の俺を殴り飛ばしたいね。……俺は今確信したよ。……お前等みたいな屑にシアはやらねぇ!掛かって来いよ、屑ども。俺が纏めて相手してやるから!……エフィー、カノン、シアのことを頼む」

「ご主人様……はい。シアさんのことはお任せ下さい!」

「マスター……うん、安心して。シアは私とエフィーでちゃんと守るから!」


二人は俺を快く送り出してくれる。

二人ともしんどいだろうに……


「シア、勝手に話を進めてスマン。でもアイツ等の身勝手さに我慢できなかった。ごめんな?」

「……いいんですよ、ご主人様」

「えっ、シ、シア!?」


シアは俺の腰に手を回し、いきなり抱き着いてきた。


「……ご主人様、私もご主人様のお言葉を聴いて確信しました」


そう言って俺から離れ、腰に下げた2本の剣を抜き、それらを奴等に向ける。そして……


「えっ、シアさん!?」

「シ、シア!?」


エフィーとカノンも驚いている。


「私の居場所はガイスト、あなたでも、まして故郷である里でもありません。……私の居場所はご主人様のお傍ただ一つです!!……ご主人様の敵ならば例え元同郷の者だろうと容赦するつもりはありません。……かかって来なさい。私が纏めて相手をします!」


そう宣言したシアの姿は迷い一つ感じさせない、凛とした、それでいてとても美しいものだった。


「ははっ」


俺は堪らず笑ってしまった。


「シア、最後の、俺のマネか?全然似てないぞ!」

「えっ、そ、そうですか!?……やっぱりご主人様のカッコよさはご主人様だけが放つことのできるものなんですね」


そうか、カッコよかったからマネしてくれたのか。それなら悪い気はしないが……

照れながらそんなこと言われても俺が照れるわ。


「でもいいのか?俺一人でも大丈夫だぞ?」

「ご主人様、今回は私を頼っていただけるのですよね?」

「シア……ああ。なら二人でやっちまうか!!」

「はい!!二人でやってしまいましょう!!」

「そう言うわけでスマン、エフィー、カノン。二人で行ってくるわ。二人は自分達の身の安全だけを考えててくれ」

「はぁ、もうご主人様もシアさんも全く……分かりました。お気を付け下さい」

「マスターもシアもしょうがないんだから。……私達はゆっくり休ませてもらうよ」

「ああ」



「……竜人さん、あの男は殺してしまってもいいんですよね?」

「あ、ああ……」

「おい、お前達、あの男は俺が殺る!シアは生かして捕えろ!これは命令だ!」

「……ちっ、またガキの我儘につき合わされんのか。まぁシアの奴の戦闘能力はほぼ皆無。楽勝か……了解。おいお前等、やっちまえ!!」

「「「おおー!!」」


そうして、俺達はシアの元同郷の者達との戦闘に入った。





これは元々考えていたお話です。

「シアの影が……」と感想でおっしゃっていただいたから、と言うわけではありません。

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