原因は一体……
俺達は奥へ奥へと進んで行った。
思っていた以上に遠い。
遺跡の中でのものだったから結構響いていたのかもしれない。
俺達が聞いたところからは距離があったらしい。
だが迷うことは無く、壁に左手をついて云々みたいな知識が活躍することも無い。
「グギィーーーーー」
20分位歩き続けると、また同じような声が響いてきた。
……さっきよりは大きくなっている。
またさっきと同じようにそのような奇声を聞きながら俺達は進むことになる。
……また大体3分程して同じように鳴き声が止む。
声のする方する方へと歩いて行ったが、どうやら今進んでいる道はエンリさん達も初めて進む道らしい。
戻れるようにマッピングしながら進んでいる。
「……遺跡内にこんな道があったなんて」
「ですね、私達もここは通ったことがありません」
後ろからゼノさんとエンリさんの会話が聞こえる。
……ふーむ、この先に何かしらあることは明白だが、このまま行っても大丈夫だろうか?
今ここでならまだ引き返せる。
さっき決めたばっかなんだが、やっぱり迷うよな。
うーん……
そんなこと考えてるうちに前方に大きな入り口が見えてきた。
……これは!?
「皆、止まって!!」
「えっ!?マスター、どう、したの!?」
俺の言葉に皆その場で静止する。
真後ろのカノンが代表して尋ねてくる。
「……一端引き返そう」
「えっ、でも……」
「お願いします。一端引き返しましょう」
皆に聞こえるように話す。
俺は感じ取ったことを1度引き返してから皆に伝えることにする。
5分ほど来た道を戻り、落ち着けるところにてようやく俺は話しを切り出す。
「皆、しんどいところ引き返させて申し訳ない」
「……マスター、何かあったの?いきなり戻ろうって言いだして」
「ですね、カイトさん、どうされたんですか?」
カノンとエンリさんが尋ねてくる。
「……さっきの大きな入り口あったでしょう?」
「うん、まあこの遺跡の入り口よりは小さかったけど」
「……その先に人がいた」
「え!?ってことは、前の調査隊なんじゃ?戻ってきちゃっていいの!?」
「そうです、カイトさん、助けに行かないんですか!?」
二人は救出に向かわず、俺が引き返すよう提案したことを疑問に思っているようだ。
そこにエフィーが待ったをかける。
「お二人とも、少し待ってください。……確か、前の調査隊の人数は5人パーティーと4人パーティーが1つずつ、合計9人、でしたよね?」
「う、うん」
「はい、確かにそうでした。ですが、それが何か?」
「……ご主人様、スキルで感知されたのは何人でしたか?」
『索敵』についてだけは事前にエンリさん達パーティーについても知らせてある。
だからこのスキルについての話に至るのは問題ない。
今問題なのは……
「……俺が感知できたのは『21人』だ」
「……そうですか。明らかに数が合いませんね」
エフィーも俺の意図に気づいてくれたようだ。
カノンとエンリさんは驚いて同じようなリアクションを取る。
ゼノさんとシアが代わりに俺に聴いてくる。
「カイト様、ということはその中の少なくとも『12人』は部外者、若しくは元からこの遺跡内に潜っていた可能性が!?」
「いえ、ゼノ、それはおかしいです。前の調査隊は『魔法使い達を外に待機させた』と紙に記述していたはずです。ですから『14人』は少なくとも部外者なはずです」
「あ、そうか、なるほどです……」
ゼノさんは納得している。
シアの推測は間違ってはいない。
やはりシアもただの体育会系でないことが証明されたようだ。
良かった良かった。
……とはいかないんだよな。
別にシアの推測は本当に間違っちゃいないんだ。
ただ、見落としが一つだけある。
恐らくエフィーはもう気づいている。
ほら、二人にヒントとして話し出した。
「ゼノは聴いてないでしょうし仕方ありませんが、シアさんはご主人様の『索敵』について詳しく伺っているはずです。今回、ご主人様が感知なさったのは確かに『21人』なんでしょうが、そもそも『索敵』とはいったい何を感知するものだったんでしょうか?」
「それは……確かご主人様の認識次第で『敵』を……あっ!!」
「そうです。今回ご主人様が何を『敵』として考えられたかによって感知できた『21人』が前の調査隊かどうかが見なくても分かるかもしれないんです。……ご主人様、今回はどういったご認識でスキルを?」
やっぱりエフィーは本当に賢い子だな。
シアもエフィーのヒントで直ぐに気付いた。
カノンは……頑張りましょう。
「……俺は今回『敵』を俺達『調査隊に敵意を向ける者』として発動した。つまり……」
「その『21人』は全員……」
「文字通り『敵』ってこと、ですね」
やっとカノンとエンリさんが会話に戻ってきた。
「そういうことです。その中に調査隊の者はいないでしょう」
「どうしましょう……」
「そうだよね、敵、だもんね」
エンリさんとカノンも困惑しているようだ。
「まぁそいつらが前の調査隊と何かしら関係がある可能性というのも大いにありますが、さっきのモンスターの奇声も気になります。私が感知した『21人』が敵であることは確実ですが、そいつ等と調査隊、モンスターの間にどういった関連性があるのかは今のところ『21人』に聴いてみないと分からないというのが今の現状でしょうか?」
「……確認、した方がいいんですよね?」
エンリさんが答える。
「もしかしたらその『21人』が今回の原因だって可能性があるんですよね?」
「はい、ご主人様のおっしゃる通りですと、私達調査隊を敵として認識しているのです。……私達に調べられたくないことでもあるかのように」
エフィーが見解を述べる。
確かに怪しさMAXだよな。
こんな遺跡に、しかも異常が起きてる時に、だ。
普通俺達のような調査隊じゃないと来ようとは思わないだろう。
……とっちめて聞き出すか?
だがそれだと戦闘する危険が伴う。
普通に考えれば数が圧倒的に不利だ。
21対8。
それにこっちは魔法職の者が正常に機能していない。
戦えはするが体調が悪い状態で臨むことになる。
相手がどんな奴等かも分からん。
勝てるかどうか……
「……やりましょう、カイトさん!」
「エンリさん!?」
「大丈夫です。私達なら数の差も問題ないと思います」
気楽に言ってくれる!
勝ててもあなたが無事じゃなければお姉さんに怒られるの俺なんですからね!?
「ご主人様、私達だけ先行と言う手も……」
シアが提案してくれる。
そうだな、それもアリか。
「エンリさん、私達が先行します。ですから少し待っていて……」
「そんな!私達も一緒に戦います!!」
くそっ、食い下がって来ないでくれ!
「エンリ様、要は考えようです。私達が伏兵として後から突撃しれば相手の混乱を誘えます!」
ゼノさんが俺達の意図に気づいて援護してくれる。
「それは伏兵と言うのでしょうか?」
「細かいことはいいのです!」
「えっ、ここで細かいことを追求しないのですか!?」
「はい、今は迅速さが要求されます、エンリ様!!」
「はぁ……まぁゼノがそこまで言うなら」
よし!
ゼノさんナイス!!
強引だったけどいいんじゃないの!?
「……では私達が先行して戦闘しますので、エンリさん達は後から状況を見て突入してください。もちろん突入が不要なくらい弱かったら待っていていただいた方が余計な労力を省くことができますのでお待ちください」
「はい、分かりました。……カイトさん、お気をつけて」
「……はい。じゃあ、行ってきます!!」
そうして俺達は『21人』の敵を討伐に出発した。
……俺達だけで処理できればいいが。
===== ????視点 =====
「皆、準備はいい?」
「「「はい!!」」」
「そう。気合が入っているのはいいことだけどそれで空回りしたら意味ないから良く私の指示を聴いて、状況に応じて各自で判断して!いつも教えていることよ、皆ならできるわね!?」
「「「はい!!」」」
「……後、念のためクラン内の会議で話した緊急事態1,2,3,4を全部念頭に置いた上で各自作戦に臨んで。……私の予想ではこの作戦中どれかが起こると思う」
「「「アイリさん……」」」
「起こらないことが一番なんだけどね。でも用心するに越したことは無いわ。私は皆を信じてる。だから皆も私を信じて!」
「「「はい!!」」」
「よし、じゃあ皆、今日は頼んだわね!!」
「「「はい!!」」」
私はその後の指示を一時参謀達に預け、『ノームの土髭』の本館に向かう。
戦場になる場所は以前にも戦闘したあの平野辺りだが、彼らは囮としての役割も果たしている。
作戦の確認だと言って中に入れてもらう。
中に通されると、テリムが慌てて私の方に駆け寄ってきた。
「ア、アイリさん!?ど、どうされたんですか!?何か問題でも!?」
……こいつも悪気があるわけではないのだろうが私にとっては誰が言っても同じだ。
……と思っていたのだが、どうしてアイツの時はこうならなかったんだろう?
まぁ今はそれはいい。
「これをあなたに」
私は紙を他の人物からの死角になるよう差し出す。
「……これは?」
テリムも私の意図に気づき、同じように死角を作って受け取ってくれる。
「……の時に一人で見て。いい?あなたのところの副団長にも見られないよう、一人でよ」
「え!?そんな!!……なことがあるんですか!?」
「声は抑えて。……私の予想では起こるかも、ってところよ。だから起こらなければ焼いて捨ててちょうだい」
「……はぁ。分かりました。確かに受け取らせていただきました」
「ええ。じゃあ私は前線に向かうから。後は作戦通りよろしくおねがいね」
「はい。どうかお気をつけて」
私はその後、平野の最前線へと向かい、『イフリートの炎爪』の団員達と合流した。
30分程すると、前方に大勢の人影が見えだした。
『破壊の御手』だ。
『ノームの土髭』の本館には団長代理もいる。
ニセ情報ではない。
奴等は本館を襲い、主要な人物を倒すつもりで強襲をかけに来た。
それを私達『イフリートの炎爪』が最前線で受け止める。
他クランは左右からの遊撃等私達の援護。
他クランの団長(団長代理)3人が『ノームの土髭』本館で総指揮を執る。
私が最前線で戦う以上は絶対に成功させてみせる。
その後は……
奴等が迫ってきた。
そろそろ私達に気付きだす距離だろう。
よし……
「只今より、クラン『破壊の御手』掃討作戦を開始します!全員突撃!!」
「はぁっ、やぁ、せいっ!」
「ぐあぁ」
「ふん!」
「あがぁ」
「このおんなぁ!」
「フレイムシールド!!」
「ぐぁぁー!熱い!熱い!」
「てやぁ!」
「がぁ」
破壊の御手の団員達を倒して行く。
最初私達から攻撃を受けることを予想していなかったコイツ等は狼狽し、時間が経つごとにどんどん崩れていく。
……所詮は烏合の衆。
個の力がどれだけ強くても私達が時間をかけて築き上げた連携の敵ではない。
それになんと言ってもコイツ等の個の強さも違法紛いやズルをして手に入れたものだって少なくないのだ。
自分達が攻撃されたり負けるってことを想像できない以上こんな緊急事態にも対応できない。
きっと普通に『ノームの土髭』を攻撃したら何事も無く自分たちが勝って終わりだ、位しか考えられないんだろう。
最早勝敗が決するのも時間の問題だ。
……本当に七大クランの内4つも必要だったのかどうかすら怪しいところだ。
まぁ油断は隙を生むだけ。
私が油断すればそれだけ団員達の命も危うくなる。
……折角皆私に命を預けてくれたのだからそんなバカなことにはしない。
「やぁ、たぁ!」
「ぐぁ」
「3番隊、そのまま前進!5番隊は3番隊の援護を!」
「「はい!」」
私は敵を切り伏せながら各隊員に指示を出す。
……最前線にいた方が指示が通るの早いわね。
今度からもこうしようかしら?
「アイリさん!敵の総大将への道が開けました!!」
「分かったわ!……1番隊、私のパーティーに続いて!総大将を討ちに行くわよ!7番隊は私達の援護を!!」
「「はい!!」」
私の合図とともに、人の波が割れて空いたスペースを駆けていく。
何人かの敵が阻もうとしたが、指示通り7番隊の団員達が見事な連携でそれをしのいでくれる。
……自分で指示出しといてなんだけど本当に絶妙ね。
5分程駆ける。
先には20人程の取り巻きを従えた『破壊の御手』の総大将が他の団員達に八つ当たりしている。
……よくこの状況でそんなことしていられるわね。
私に気付いて奴は私にそれをぶつけてくる。
「くそっ、女風情が!よくもこの『破壊の御手』の団長、ソト様に楯突いてくれたな!!許さん、許さんぞぉ!」
「そう、なら男だったらいいの?今から男を呼んできましょうか?」
もちろん私自身はそんなこと死んでもお断りだ。
今目の前にいるコイツとは何度か以前にもあったことが有るが、全く良い印象が無い。
コイツはいつも危険なところからは離れて自分だけは安全なところで高みの見物を決め込む。
それで良く団員がついてくるとも思えるが、団員も別にコイツの人格等に惹かれてついて行っているのでもない。
ただ単にコイツの資金力や違法紛いなことを行っても罰せられないというクランの方針に寄ってきたただの蛾なのだ。
「ぐぬぬぬぅ、減らず口を!……行け、お前たち!!『命令』だ!!」
ソトの声に反応して、周りにいた奴等が一斉に襲い掛かってくる。
……この人達全員奴隷なの!?
可愛そうに。主人が愚かなのは奴隷の罪ではないわ。
……一思いに、ってことでも行けるけど、主人を殺せば助かる道もあるいは……
「リク、1番隊と共にこの人達の相手をお願い!私はアイツを討つわ!!でもヤバかったらあなた達の命を優先して!!その範囲で時間稼ぎをお願い!!」
「分かった!!こっちは任せな!!……はぁー!」
「うん、お願い!!」
私は奴隷達の相手を任せて奴に向けて走り出す。
だが、
「ふん、甘いわ!!行け!!」
「……了解、です……ふん!」
「!?、くっ!!」
いきなり現れた女性に大きな武器で攻撃される。
これは……何!?
……確かどこか東方の国の武器だったと思うけど。
あっ!そう、『戟』って言ったかしら!?
それにしても記憶にあるものよりも一回り大きいし、刃の占める部分も多い。
……よくこんなものを振り回せるわね。
瞬時に防御したが、すごい力だ、腕が痺れそうになる。
「あなた……あの時の竜人の……」
「……私はあなたとは初対面、です」
「でも、あの時アイツと……」
「……恐らくそれは姉のことをおっしゃっているのでしょう。私はあなたとは一切面識がない、です」
「お姉さん!?……そう言えば体の造りと顔が少し違うわね」
「……もういい、ですか?私はあなたを殺さなければ、です」
「……そうね。会っていようがそうでなかろうが今は関係ないわね。……行くわよ、はぁ!!」
「はい。……やぁ!」
ガンッ
キン
ガキン
くぅ、すごい力!
数度打ち合っただけでも腕が持って行かれそうになる。
かと言ってスピードが鈍いわけでもない。
この竜人……できる!!
身体能力の点で劣っているとは言わないけれどもそれで勝負に持って行けるかと言われると分からない。
なら……
「くらいなさい、フレイムランス!!」
「!?、くっ、無詠唱、魔法!?」
「いいえ、正確には違うけど……まぁ教える義理も無いわね」
剣から3本の炎の槍を創出し、打ち出す。
威力は本来の詠唱の魔法よりかは劣化するがこう言った近接戦闘中にも用いれるのは大きな利点だ。
竜人は大きな戟を回転させ、盾にし、炎の槍をしのぐ。
あれをそうやって防ぐの!?
……まあいいわ。
私は直ぐに駆け出し、懐に潜り込む。
「くっ!!」
「はぁ!!」
下からの切り上げにも竜人は対応するが、私の方が少し速い。
「やぁ、たぁ、せやぁ!」
少しずつ竜人の対応が遅れて来ている。
このまま押し切る!
「くっ、っ、はっ、……あっ!」
今よ!!
何とか防いでいた竜人が体勢を崩したところに私は切りかかる。
……だが、それが竜人の体を切り裂くことは無かった。
「アイリ!!」




