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では、遺跡調査と行きますか!

今回はちゃんと主人公回です。

俺達は今ナギラの街の南にある、クウガー遺跡へと向かっている。

道中も最近の異常のせいなのか、ほとんどモンスターと遭遇することがない。

……一体何が起きてるんだろう?


戦闘が無く楽できることはいいことだが、その裏に起こっていること次第では戦闘する方がまだマシなことも有り得る。

面倒事は避けたいのだが、何となく嫌な予感がする。

変なことにならなければいいが……


「……人様、ご主人様!」

「お、おう、ど、どうした!?」


エフィーに話しかけられていたようだ。


「……ご主人様、聴いていただけていましたか?」

「……ごめんなさい、考え事していて聴いていませんでした」


素直に謝罪する。


「もう、しっかりして下さい!もうすぐで遺跡に到着だとゼノが言っています」

「ああ、すまなかった。ちゃんと思考を切り替えるから安心してくれ」

「……ならいいですが」


エフィーは納得してくれたようだ。

……流石に考え事しながら歩くのは危ないから今は護衛に集中するか。

反省反省。




「着きました、クウガー遺跡です」


それから10分程歩くと目の前に巨大な建物と言っていいのか分からんが、それが見えた。

エンリさんが手で示して教えてくれる。


一度下見をしてはいるのだが、壮大だなぁくらいしか感想が出ない。

こういうところは世界史の教科書くらいでしか見たこと無かったし、実際自分が人生の中でお目にかかるなんて考えもしなかった。



ところどころ崩れた石柱や石段が見える。

こういうの雰囲気出るな。



進んで行くと、あからさまに「ここですよ」と言わんばかりの入り口が有る。

ここまでは下見できた。

……ここから先は未知の場所となる。


エンリさん達は異変が起こる前に何度か来たことが有るらしいが、色んな言い訳をして俺達が先行することにする。


ゼノさん達も説得に応じるフリをしてくれる。

エンリさんも特に怪しむ様子は無い。

大丈夫そうか。


「では行くか。……隊列は相談した通り俺、カノン、エフィー、シアで行く」

「了解、マスター!」

「かしこまりました」

「後ろはお任せください」

「よし!じゃあ入るぞ」



俺達は慎重に入り口をくぐって中に入って行った。



中は事前に聴いていた通り、全くモンスターがいない空洞。

そりゃ異変が無かったとしてもいきなりモンスターと戦闘するようなことは無いが視界に1匹位は入るのが

普通だろう。


そして何より入った時に感じたものすごい異様な空気。

これは……魔力か!?


「うっ」


カノンが思わず手で口を押える。


「大丈夫か、カノン!?」

「う、うん、でもこの濃度の魔力の中長時間いるのはきついかな、魔族とかモンスターはこういうの敏感だから」

「……なるほど、モンスター達がいないのは魔力の過多が原因か」


エフィーも俺の推測に賛同してくれる。


「恐らくそうでしょうね、これほど魔力が濃いとモンスターだけでなく人体にも影響するかもしれません。私達は魔力の操作に長けていますが、その分大気の魔力に呼応しやすい体質ともなってしまいます。ですからここでの魔法の発動には十分気を付けた方が良いかと」

「ああ。じゃあ魔法だけでなく今回はカノンの召喚も避けた方がいいな」

「うん、ごめんマスター、多分モンスター達もこの中じゃ動くこともできないと思う。多分スケルトンは行けると思うけど……」

「分かった、でもカノンも無理する必要はないからな。今回は『影術』にだけ集中すればいい。シアとエフィーは大丈夫か?」

「はい、私は普段からあまり魔力を必要とはしませんので」


シアは大丈夫そうだ。

ただ他の二人と比べると、と言うレベルだ。

俺だってここにいてあんまりいい気分ではない。

それはシアも同じだろう。


「私は……すいません。いい状態、とは言えません。申し訳ありません」

「いや、気にするな。我慢されるより正確な体調を言ってくれた方がよっぽど対処しやすい。今後も体調がおかしくなったら皆直ぐに言ってくれ」

「はい」

「……了解、マスター」

「……かしこまりました」


カノンとエフィーは顔色が悪いな。

……これで戦闘となると結構ピンチだったかもしれない。

良かった、モンスターがいないのは本当に不幸中の幸いだな。

まぁ同じ影響を受けてるんだからそりゃそうか。


何で俺も魔法を使うのにエフィー達と症状の程度が異なるかは分からん。

色々推測できる要素はあるが、それでも推測の域を出ない。


その原因を調査するのが今回の目的でもあるんだが。


俺は3人に少し休むよう伝え、エンリさんのパーティーに状況を尋ねる。


「エンリさん、そちらの方々の体調の方はどうですか?」

「カイトさん、こちらも少し体調が優れない者がいます。私とゼノ、それに弓使いのエナは少し気分がと言ったところですが、魔法使いのメルはかなり顔色が……」


目をやると、確かに魔法使いのメルさんは青ざめた様子で、ゼノさんとエナさんに背中をさすってもらってる。

うーん、魔法使い系は結構影響が甚大だな。

ただ俺とエンリさんは魔法を使うが、同じような影響は受けていない。

もちろん気分がいいとは言えないが、他の魔法使い達よりかは大分マシじゃないかな?


「……そうですね、かなりしんどそうですね。まぁ恐らく戦闘することは無いでしょうから彼女達の体調を優先させてもいいかもしれませんね」

「はい。……以前来た際はこんなことには……まさかここまでの魔力濃度になっていたなんて」

「前回の調査隊は何をしてたんでしょうね、知らせてくれたら人選を替えるなり対応もできたんですが……確かまだ戻ってない、と。今もこの遺跡の中なんでしょうか?」

「ご主人様、そのことなんですが……」

「ん?シア、どうした?」


シアの声が後ろからかかる。

うちのパーティーで恐らく一番影響を受けていないためかテキパキと動いてくれる。


「そこにこれが落ちていました」

「これは……」


何かの紙……か?

開いて中を確認してみる。


『魔力が濃い。魔法使い達の体調も優れない。恐らくはこれがモンスターのいない原因だろう。ただそれが根本的な原因では無いはず。モンスターもいないことだし、魔法使い達は外で待機してもらうことにする。俺達は先に進んで原因の調査を続行する。帰り際に隠したこれを拾うことにする。……だからもし俺たち以外の人がこれを拾った時は俺達に何かあったという事になる。申し訳ないが、これをギルドに届けてくれないか?   第1回調査隊 ダリル    』



……色々これを見て分かることがあるが、良くシアも見つけたな。

『隠した』って書いてあんのに、シアは「落ちてました」って言ってるし。

もし隠した場所が相当難しいところだったら見つかんないぞ、これ!?


……それだけこれを拾って帰れる自信でもあったのかね?



まずこの紙が存在すること自体が一つの情報だ。

つまり1回目の調査隊に何かあったってことだ。


そして2つ目に、コイツ等は魔法使いを外に待機させたのにその魔法使い達の姿も確認されてない。

そもそも魔法使い達だけでも無事ならこの紙を拾ってギルドなりに報告しているはず。

ということは外にいた魔法使い達にも何らかのアクシデントがあったってことだ。



……何だかさっきよりも嫌な予感がする。

何の障害もない遺跡調査で終わってはくれそうにないな。


……どうしよう、これは1度帰って報告すべきか?

魔法使いを外した人選を提案すべきかもしれない。


エンリさんに相談してみて帰還を進言してみるか。


「エンリさん、これは1度帰って報告した方がいいかもしれません」

「うーん、そうですね、ですがまだ何もしてませんが大丈夫でしょうか?」

「何もしていないのにこういう話が出る位異常だという考え方もできます」

「確かにそうですね。……わかりました。では……」



「ギャイーーーー」



エンリさんが結論を述べようとした時に、いきなり何かの叫び声か何かが遺跡の奥から聞こえてきた。



「グギィーーーー」


まただ!

この先に何かいるのか!?



その後も3分程謎の奇声が聞こえてきたが、パタリと音が止む。

……何だ、この先で戦闘でもあったのか!?


もしかしたら1回目の調査隊か?

だったら確認した方がいいが……


「カイト様、どうしましょう?」


ゼノさんが耳打ちしてくる。


「ええ、確認しに行きたいのはやまやまなんですが、何があるか全く想像できません。この先にエンリさんを連れて行くのは少々憚られますね……」


俺も手で口元を隠し、同じように返すが……


「あ、あっ、く、くすぐったいです、カイト様」

「あ、す、すいません」


色っぽい声を出されてしまった。


「ちょ、ちょっと、何してるんですかゼノ!?うらやまし……コホン、ではなくてですね、こそこそ話さなくてもよろしいでしょうに!」

「す、すいません、エンリ様。ですが……」

「エンリさん、ただ単にゼノさんのご意見を伺っていただけですよ。それでエンリさんはどう思われます?」

「そ、そうですか。カイトさんがそうおっしゃるなら……。そうですねぇ、確認した方が良いとは思いますが、今の声からするに、恐らくモンスターだというのは間違いないと思います。どうして1匹も見当たらなかったモンスターがいるのかというのを確認するためにも私は進んだ方がいいと思います」


うーむ、エンリさんは確認しに行きたい、と。

どうしよう、エンリさんを連れて行っても大丈夫だろうか?


「ご主人様」


エフィーに呼ばれる。


「うん?どうした?」

「自分の体調を棚に上げて申しますが、エンリ様をお連れしても大丈夫じゃないかと。私達魔法職の者より影響が少なそうですし、私達よりは断然動きはいいはずです。いざとなったらご自分で逃げていただいても問題ないかと」

「……なるほど。そう言う考えもアリか」

「はい。こんなことを申すのもなんですが、私達が先行して逃げるかどうかの判断をご主人様がなさった後、私達のパーティーが囮になるということもできます」

「ふむ、そうだな、確かにその選択もある。……ありがとう。エフィーの切り口はいつも斬新で助かるよ」

「いえ。今回は体調の面でも足を引っ張ってしまいますしこれ位は。それにこんな考えを奴隷の私が申し上げるのも大変失礼だと思うのですが……」

「いや、それでいいと思うぞ、俺は。選択肢は多いに越したことは無い。だから色んな観点から物事を言ってくれるのは助かるよ。それに3人が俺のことを大切に思ってくれてるのを知ってるから、そういうこは言い辛いだろうに、そう言う面でもエフィーにはいつも助けられてるよ。ありがとう」


エフィーの大好きな頭撫で撫でをしてやる。


「……ありがとうございます」


エフィーもこの時だけは顔色が良さそうになるな。



「……ゼノさん、何かあったらエンリさん達を連れて逃げて下さい。打ち合わせ通り隊列は私達が先行しますので。ここであからさまにエンリさんだけを逃がそうとするのも却ってバレるかもしれません」


また耳打ちする。

今はエンリさんには魔法職組の相手をしてもらってる。


「よろしいのですか!?ここは一端引いても……」

「まぁその選択肢も無くは無いですが、今確認できることは確認しておくに越したことはありません。もしこの先に1回目の調査隊がいるのなら助け出せるかもしれませんし。……本当に危ない場合は即逃げていただいて一向に構いません。私が何とかしますから」

「それではカイト様が……」

「こんなところで死にはしませんよ。それに私だって命は惜しいです。これでもかなりの臆病者ですから」

「……はい、わかりました」

「よし!そうと決まったら急いだ方がいい。……エンリさん、では向かいましょう」

「あっ、はい!」


エンリさんは振り返り答える。

魔法職組もそれを見て立ち上がる、

少し休んでいたからか、皆顔色はちょっと良くなっている。


「……じゃあ、先に進むぞ?3人とも、大丈夫か?」

「はい、私は全く問題ありません」


シアは元気に答える。

……何だかさっきよりも元気になってるな。

だが実際はシアはちゃんと頭を使って物事を考えれるし、根本的には体育会系ではない……と思う。


「私も今は少しだけさっきよりはマシです。問題ありません」


エフィーも頭を撫でてやったからか、それとも慣れたのか、顔色はマシだ。


「……問題、無いよ、マスター」


カノンが一番重症か。

まぁ魔族だし魔力には影響されやすいのかもしれん。


「カノン、無理するな。ヤバいんだったら外で待ってても……」


そこまで言ってから俺はさっきの紙の内容を思い返す。

……外にももしかしたら何かしらの異常があるかもしれない。

それだったらきつくてもついて来てもらう方が俺も対処できるし、そっちの方がいいかもしれん。

カノンには辛い思いをさせるが、身近にいてくれた方が安心できる。


「大丈夫、本当に無理だったらちゃんと、言うから」

「……ああ、わかった。もう少しだけ我慢してくれ。これを確認して問題無かったら帰れると思うから」

「うん。がん、ばる」




カノンの返事を聴いてから、俺達は声の原因を確認するべく遺跡の奥に進んで行った。

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