さて、エンリさんに会いに行くか!
今回短めです。
その後、俺はアイリさんから計画の日程を聴こうかと思ったが、アイリさんがそのことを話してしまうというのは実質的にも形式的にも問題が出るかもしれないので、俺は「こちらで勝手に遺跡調査の日程を調べさせていただきます」とアイリさんに伝えた。
アイリさんもそれについては何も言わず、その後、「……ありがとう。妹のこと、よろしくお願いね」と
一言残して帰って行った。
……でもこれって考えれば結構危ういことだよな?
遺跡調査の日=計画の日なんだから、この関連性がバレれば俺のように遺跡調査の日を調べるだけで計画日程まである程度分かってしまうことになる。
まあだからこそあれだけ秘密にしたがってるんだろうな。
そう考えると、アイリさんは言葉では「信用できるとまではいかない」とは言っていたが、俺に話してくれたってことはある程度は信用してくれてるんじゃないだろうか?
……もしかしたら俺の自惚れかもしれんがそうだったら嬉しいな。
まぁそうじゃなくてそれだけ切羽詰ってたって考え方もできるが。
日程についてはエンリさんに聴けば分かるだろう。
遺跡調査についてもアイリさんのことを伏せて頼めば一緒に連れて行ってくれそうだ。
アイリさんの話によればエンリさん以外は計画のことを知っている。
エンリさん自身も何かしら大きな計画があるということは知っているがそれが何なのかとか詳細なことは知らない。
だったらゼノさん辺りに同行したい旨伝えれば何とかしてくれるだろう。
後はそのことをエンリさんに知られないよう注意してその日程中は彼女を守ればいい。
俺達はアイリさんが帰った後、予定していた通り、討伐依頼を受けて、モンスターを倒した。
計画や遺跡調査とは全く関係ないが、ベルの体が何だか急に大きくなっているような気がする。
この前までは普通の犬ころサイズだったと思うんだが、今はゴールデンレトリバーを少し上回る位の大きさとなった。
メスのくせしてこんなに大きくなりやがって。
……以前体調が優れないと言っていたがこれの前兆か何かだったのか?
体が大きくなったことに伴って、カノンの護衛としての働きぶりも格段に向上した。
うーん、でも成長するならもっと分かりやすい前兆か何かが欲しいものだ。
例えば、体が震えだすとか、体が不思議な光に包まれる、とか。
……それは流石にダメか。
そのおかげもあって戦闘の質自体はまた上がった。
カノンの軍団も着々と大きくなってるな。
……そろそろ俺も1体くらい契約したいんだけどなぁ。
中々いい奴が見つからん。
この際少し弱いやつでもいいんじゃないかみたいな妥協案すら俺の頭の中じゃ生まれてきてる。
だが、ここまで来て生半可な奴と契約っていうのも中途半端だしなぁ。
ま、今は契約のことはとりあえず後回しでエンリさんの護衛が終わってから考えよう。
俺達は次の日、朝はのんびりして昼食後、『イフリートの炎爪』の支部に赴いた。
もちろんエンリさんの護衛の件についてだ。
エンリさん達はちょうど何かの買い物から帰って来たところだったので応接室に通され、少し待ってから彼女とゼノさんが現れた。
「カイトさん、ようこそいらっしゃって下さいました!カイトさんのお顔を見れることができるなんて今日はとても良い日になりそうです!」
「ははは、大げさですよエンリさん。私の顔なんて大して面白味もないただの平凡なものですよ」
「そんなことありません!と、とても凛々しくて……カ、カッコいいお顔だと……」
そう言いながら頬に手をあて顔を赤らめるエンリさん。
……今のなんかの聞き間違いだよな?
能面とも例えられる俺の顔がカッコいいなんてそんな摩訶不思議なことはあり得ないよな、うん。
きっと鰹節かなんかと聞き間違えたんだよ。
きっとそうだ、うん、そうに違いない!……そうだよね!?
「マ、ス、ター?」
カノンが何故か怒った表情で俺を睨む。
ど、どうしたんだ、カノン!?
デレ期に入ったんじゃなかったのか!?
シアとエフィーもあまりいいとは言えない表情を浮かべている。
えっ、これ俺が悪いの!?
「す、すいません、エンリさん。今日お伺いした要件を申し上げてもよろしいですか?」
「あっ!すいません、私ったら、つい。……で、ではお伺いいたします」
「はい。今日伺わせていただいたのはエンリさん達が今度遺跡調査の依頼をお受けするということを小耳に挟んだのですが」
「えっ、もしかして姉が言っていた一緒に依頼を受けてくれる人と言うのはカイトさんのことなんですか!?」
「あれ、お姉さんから伺っているんですか!?」
「はい、今朝早く私に会いに来た時はびっくりしました!今度の遺跡調査の依頼を一緒に受けてほしい人がいる、と言われました。それがカイトさんだったなんて……私とてもうれしいです。男性嫌いの姉がカイトさんのことを認めてくれるなんて」
「そうなんですか!?……ちなみに私のことはなんておっしゃっていました?」
「『結構頼りになるやつだと思うから安心して』と言っていました。でもそれがまさか男性であるカイトさんのことだったなんて……」
エンリさんはとても嬉しそうだ。
目には涙まで浮かべている。
よっぽど嬉しかったんだろう。
アイリさんがそこまで俺のことを買ってくれるなんてな。
……こりゃしくじれないな。ちゃんとエンリさんを守らないと!
でもそうか、アイリさんが話を通してくれているんなら手間をかけずに済むな。
当たり前だが護衛ということは伏せて一緒に調査の依頼を受けるという名目で伝えている。
となると、後はバレないようにするだけだ。
……ただエンリさんには申し訳ないが俺はまだアイリさんには名前を名乗っていない。
だからアイリさんが信用してくれているのはあのモンスター討伐で一緒に戦った俺であって、エンリさんがクランに入れるよう嘆願している「カイト」という男性ではない。
だから今回の件はアイリさんとの約束を守るという意味合いも多分に含まれる。
ま、遺跡調査は危険があるわけでもなく難しいものじゃないってアイリさんも言っていたし、油断しなければ何とかなるだろ。
「……エンリさん、では私達が遺跡調査の依頼に同行しても構いませんか?」
エンリさんは目から零れてしまった涙を指で拭い、
「……はい、もちろんです。だって姉さんも認めてくれたカイトさんなんですから」
その後、少し感情が溢れて泣いてしまったエンリさんは席を外し、ゼノさんと今回の話を詰めることにした。
「……カイト様、今回はエンリ様の護衛を引き受けて下さり、誠にありがとうございます。カイト様がお受けして下さるのでしたら、クランのメンバー一同安心して計画を遂行することができます」
「そんな畏まらなくても大丈夫ですよ、これは私達が私的にやろうと思って決めたことなんですから。それにクランのメンバーって言っても私のことを知らない方の方が多いんじゃないですか?」
「いえ、そんなことありませんよ!もうカイト様の噂は恐らく他の街にある『イフリートの炎爪』の支部だけじゃなく本部があるヴォルタルカまで行き渡っていますよ!エンリ様がずっとカイト様のことをお話なさるんですもの。『イフリートの炎爪』の団員はみんな女性ですからそういったお話は大好きなんですよ?」
「まあ女性はそういうお話は好きそうですよね。でもエンリさんは私以外にも男性の知り合い位たくさんいらっしゃると思うんですけどね。お綺麗ですし、それに清楚って感じがしますから」
「……マスター、エンリのことそこまで評価してたんだ」
「ん?ああ、だってそうじゃないのか?普通に綺麗だろ」
「ふん!もういい。マスターなんか知らない!」
そう言って膨れてしまうカノン。
あれっ!?なんか今日はカノンの機嫌がすこぶる悪いぞ!?
そんな素振り今までなかったのに。
……一体何が原因なんだろう?
「ふふっ、エンリ様がお聞きになったらさぞ喜ばれると思いますよ。……エンリ様はとてもお綺麗で周りからも求婚のお話など何度もございました。ですが男性嫌いのアイリ様を気遣って今まで男性のお知り合いを作ろうとなさらなかったのです。そのエンリ様がご自分から動かれて、さらにはお姉さまであるアイリ様まで説得なさろうとしたのです。ですから……」
……エンリさんやっぱりモテるんだな。求婚の話まで来るくらいなんだしな。
この世界が元の世界と価値観が全く同じというわけではないんだからそういうこともあるだろうがまぁエンリさんの容姿や性格ならそりゃ男はほっとかないだろう。
エンリさんからしたら俺は初めての異性の親しい知り合いってことになるのかな?
……そうだったらいいなぁ。
「……ゼノさん。今回の件、絶対成功させます。全力で皆さんのことを守ります」
「カイト様!?今回はエンリ様をお守りするというのがクランの総意です。ですからカイト様にはエンリ様のことだけを気にしていただければ……」
「……私達は今回誰の依頼を受けたわけでもありません。ですから私がエンリさんだけでなく皆さんのことをお守りしても問題は無いはずです」
「ですが……」
「心配しないでください。油断するわけではありませんが今回の依頼は遺跡調査なんでしょう?それならば1人守るのも4人守るのも同じです。それに、エンリさんだけを執拗に守ろうとしたら勘付かれるかもしれませんよ?」
「カイト様……」
「ここでエフィーのことを出すのは卑怯かもしれませんが、ゼノさんに何かあったらエフィーも悲しみます。もちろん私だって。他の方々にも何事もなくいていただいた方がいいに決まってるんですから、ね?」
エフィーもゼノさんに諭すように話し出す。
「……ゼノ、ご主人様だけではありません。私もいるのです。ですからそこまで気負う必要はありませんよ?いつも言ってるじゃないですか。困ったときはお互い様です。私が以前ご主人様のことで悩んでいた時に力になってくれたでしょう?ですから今度は私がゼノの力になる番です。……でしょう?」
「エフィー……うん、ありがとう。ごめんね、いつもいつも助けてもらってばっかりで」
「いいんですよ。ゼノはハーフエルフの私と友達になってくれた初めての人です。友達を大切にするのは当たり前のことですよ、ですよね、ご主人様?」
「うん?あ、ああ。そうだな。うん、友達を大切にすることは大事だ。だからゼノさん、一緒に頑張ろう?」
「カイト様……はい、ありがとうございます」
その後、直ぐにゼノさんは泣き止んで今回の遺跡調査の依頼についてを話してくれた。
今回調査する『クウガー遺跡』はこの街に来て直ぐに説明してもらった通り、この街の有名所の一つである。
その昔、この世界の勇者が魔王を討伐する際、自分の魔力を増幅させるために潜ったという逸話があるらしい。
そのお話からも分かる通り、遺跡の中にはかなり膨大な魔力が蓄積されているんだと。
その魔力に引き寄せられてモンスターも集まってくる。
だから定期的に冒険者が依頼を受け討伐するのだが、ここ最近、遺跡内部の様子がおかしいらしい。
モンスターが全く寄り付かなくなっていて中は空洞みたいに空っぽだ、と。
今回はその調査を担当することになるのか。
異変が起きているというと何だか嫌な予感がしないでもないがモンスター自体が寄り付かなくなっているからそう言う面での危険は無いはずだ。
まあ今回だけで全部調べる必要はないらしい。
何回かに分けて調査隊を派遣する。
今回俺達が向かうのは全部で4回ある内の2回目だ。
二日間かけて行う。
だから俺達が原因を突き止められなくても別に問題ではない。
最悪は撤退しても大丈夫だろう。
調査は2週間後に行う。
つまりは2週間後が計画実行日となる。
そう考えると結構急だな。
いや、俺達は別に大丈夫だが計画を実行する人達にとってはそこまで時間が無いんじゃないか?
『イフリートの炎爪』、『ウンディーネの水涙』、『シルフの風羽』は事前にしっかりと準備していると思うからともかく、『ノームの土髭』は本当に最近参加が決まったわけだし。
チャラ男は「層が厚いし、一枚岩じゃないから何とかなる」って言ってたが、期間の問題はどうしようもないんじゃないか?
……それにしても『ノームの土髭』の団長はどうしてこんな大事な時期に限って失踪してんだろう?
エンリさんやチャラ男の話からすると相当強いってイメージだ。
『ノームの土髭』ってことから勝手にゴリマッチョのオッサンみたいな奴なんじゃないか、って想像してんだが、まぁそれは置いといても、そんな強い人が何か危険に巻き込まれて帰って来れないってのは可能性としては薄そうだ。……推測でしかないが。
だとすると、やっぱり何か事情があって自分からいなくなったって方が何となくしっくりくるな。
まぁどっちにしても今回の計画中にはどうしようもないことだろう。
俺はただ彼女達をその期間中しっかりと守りきることに集中した方がいい。
その後、話を終えた際にちょうどエンリさんが戻ってきて、皆で世間話等色んなことを話してその日の時間は過ぎていった。
それからみんなで夕食をご馳走になり、また依頼のことについて話すために訪れることを約束して俺達は宿に戻って行った。




