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何だ、何が起こった!?

「大変だー!」

「おいどうした、何があった!?」


チャラ男が男を呼び止める。


「あ、あんたら冒険者か!?大変だ、北の平野からモンスターの大群が街に向かってきてる!」

「モンスターが!?どういうことだ?」

「俺も詳しくは知らねえ、討伐の依頼に出てた奴等が見つけたそうだ!少なくとも600はいるんだってよ」

「600!?またいきなりだな。最近のモンスターの異常行動もここまで来たか。……どうするよ、グレイスの旦那、それにアイリ!?」

「……仕方ない。討伐に向かうか。今から数をそろえてたんじゃ間に合わんかもしれん。アイリ、お前はどうする?」

「名前で呼ぶなって言ってるでしょ!いい加減にして!」

「わかった、わかったから、お前はどうするんだ!?」

「……討伐には向かう。でもあんた達男と一緒に戦闘なんてまっぴらよ。一人で行くわ」

「正気か!?いくらお前でも単独じゃ死ぬぞ!?」

「ふん、モンスターの軍勢ごときに遅れはとらないわ」

「しかし……」


アイリさんもクランの団長だし強くはあるんだろうが一人で行かせるのは流石に心配だ。

もしものことがあったらエンリさんが悲しむことになる。

よし……


「では私のパーティーのメンバーと共に戦っていただいてはどうでしょう?彼女達はもちろん女性ですし、実力もありますから足手まといにはならないと思います」

「え、ご主人様!?ではご主人様はどうなさるのですか!?」

「そうだよ、それじゃあマスターが一人になっちゃうじゃない!」

「……ではご主人様はそこのお二人と一緒に戦闘なさってはどうでしょう?そうすれば男と女のグループに見事別れることができます」


エフィーが提案する。

何だエフィー、お前俺と別れたいのか!?


いや、まぁアイリさんと俺を一人で戦わせないための案だろう……だよね!?


「いかがですか?」


俺はアイリさんに尋ねる。

前の二人から学んでいるので名前を呼ぶなんてバカなマネはしない。


「私は一人で十分よ。余計なおせっかいは止めてくれる?」


強情だな、この野郎!

本当にエンリさんと姉妹か疑いたくなる。


「あなたがクランの団長で十分お強いというのはわかります。ですが一人では何かあった時に対応しきれませんよ?あなたにも家族とか大切な人がいるでしょう。あなたにもしものことがあったら辛い思いをするのはその人達なんですよ?……私を含めた男が嫌いでも一向に構いませんがそれで判断を誤らないでください」


ボソッ「……ご主人様、ご自分のことは棚に上げて……」


……何かエフィーの声が聞こえたような気がするが気にしない。

いいじゃん、今重要なのは俺じゃなくてアイリさんだ!


アイリさんは『家族』という単語に反応して少し考え込む。

よし、イケる!


「男のくせに生意気なことを……でもいいわ。あなた達、私と一緒に戦ってくれるかしら?」


アイリさんはシア達に優しく微笑みかける。

……何だ、こんな顔もできるんだ。

まあ相手が女性だからだろ。

男の俺には絶対に向けられることはない表情だ。

良いもん見れたと思っとこう。


「ご主人様……」

「マスター……」


シアとカノンは俺の方を見てくる。


「シア、カノン、今はできるだけ急ぎたいからエフィーの案で行きたい。それで頼めるか?」

「……わかりました。……アイリ様、よろしくお願いします」

「マスターがそう言うんならそれでいいわ。……よろしく」

「ええ、こちらこそ」


こちらは何とかなりそうか。

俺は野郎二人に向き直る。


「……お二人もそれで構いませんか?私なんかと共に戦闘することになりますが」

「良いんじゃないの?アイリが一人で戦闘しないんなら安心だし、それに元々君の強さには問題ないと判断して勧誘したんだしね」

「俺も別に問題は無い。……纏まったところで急ごう。ぐずぐずしていると街がモンスターに襲われてしまう」


グレイスが仕切る。

……いいんだけどね。こういうのはイケメンがやった方が絵になる。

……ただそのメガネクイッとするのは止めろ、本当に腹立つから!




その後、俺達は二手にわかれてモンスターを討伐しに北の平野に向かった。



単純に考えると数を最小の600としてそれを二つのグループで担当、そして俺達のグループは俺とチャラ男とメガネイケメンの3人。つまり最低でも一人頭100体は担当しないといけない。

緊急事態だから力の出し惜しみはしないつもりなのだがクランの団長なんかにこれ以上目をつけられるのも嫌だし氷魔法とか雷魔法とかは使いたくない。


基本魔法位でなんとかできれば良いんだが……


俺達野郎グループはモンスターの左を担当することになった。

女性達は右。


どっちがキツイとかは無いだろう。どっちでも俺達は最低一人頭100体も担当することになんだからどっちだって変わらん。


それにしても面倒なことになった。

他の冒険者共は何やってんだ!?


もっと数がいれば楽できるのに。

まあメガネが言っていた通り集めるだけの時間は確かに無さそうだ。


もうモンスター達の軍勢がかなり近づいている。

これ俺達のこと無視して突っ込んで行ったら街終わるんじゃねえの!?


……そこはモンスター達の知能の低さに賭けるか。


「すいません、俺が先行してモンスター達を混乱させてきます。お二人はここで少し待っていてください」

「おいおい、それじゃあ3人でいる意味ないんじゃないか!?」

「大丈夫です、混乱させたらすぐに戻ってきますから!」

「うーん、どうする、グレイスの旦那?」

「任せてみてはどうだ?コイツの力の一端を見れるいい機会だ」

「まぁ、旦那がそう言うんなら。……じゃあ任せるよ?」

「はい、では行ってきます」


俺はそう言ってモンスターの軍勢に突っ込んでいく。


2分ほど走って、衝突しそうな位にまで近づいた。

よし、ここらへんまでくれば何の技を使ったかはバレないだろう。


「今回は特大性だ!ダークミスト!」


MPのほとんどを消費して軍勢の周囲に黒い霧を出現させてやる。

うーん、これでも全体の3分の1位しか覆えてないな。

もう一発位かましとくか!


MPポーションを3本飲み、もう一発ダークミストをお見舞いしてやる。


「おらぁ、もう一発!ダークミストッ!!」


黒い霧がモンスター達を包み込む。

どうしよ、やっぱり3分の1位しか覆えてない。

あと1発か、面倒くさい。


しゃあないか。

もう一回同じ作業をする。

不味いMPポーションを6本も一気に使ったの初めてだわ。

……これほど飲むとしばらく飲みたくなくなるのにこれ使った後も別に倒したってわけじゃないからまだMPは必要になってくる。

最低でも後1本は飲まないと戦ってられない。


……はぁ、不味い。

何で俺こんなことしてるんだろう。



結局俺は全部のモンスターにダークミストを行き渡らせてから2本飲んで野郎二人の下に戻っていった。


チャラ男は驚いた表情で俺を迎える。


「……君、何したの!?あそこまでモンスター達が混乱するとは思ってなかったよ。何だか倒れてるモンスターもいるみたいだけど」


メガネも表情には出さないが驚いているようだ。

……無表情とか俺のマネすんな!


「あのモンスターの症状は……毒か何か!?いや、それにしては普通に呼吸しているようにも思える。しかし……」

「まぁ企業秘密です。でもこれで討伐はだいぶ楽になるでしょう」

「楽どころか、ほとんど仕事しなくても済むよ。良かったぁ、これで死ぬことはないかな」

「確かに討伐自体は楽になるが油断すると死ぬぞ、ヴィオラン」

「グレイスの旦那は固いな、こういう時はもっと気楽に行った方が肩の力が抜けてより実力でるぜ?」

「それはお前の理屈だ、俺にも当てはまるわけではない。……では行くぞ!」

「へいへい、了解です」


メガネは腰に下げていた剣を抜く。

結構大きい。よく抜けたな。


チャラ男も2本の短剣を構える。

短剣とはお前に似合っていいチャラさだ。


俺も抜刀し構える。


「はい」



俺達は戦闘に入っていった。






1時間は優に超えただろう。

だが疲労はそこまで溜まっていない。

野郎二人の働きがすごい。

伊達に七大クランの団長やってないな。


チャラ男は2本の短剣を生かして敵の攻撃をひらりとかわし、受け、敵を切っていく。

まるで蝶や蜂がダンスを踊っているかのように見える。

シアのようなスピードを生かして、と言うよりは柔軟性を使ってかわしている、と言う方がしっくりくる。


魔法も使うようだ。

詠唱スピードはかなり速い方だ。

風魔法の切れ味も鋭い。


……何かチャラい。


メガネは予想を裏切る前衛だった。

あの大きな剣を使い、モンスターをバッサバッサと切っていく。

あれも一種の魔法剣のようだ。

剣に水を通して切れ味を上げているらしい。


途中、巨躯を誇るサイクロプスなんかや鱗が硬いことで有名なストーンドレイクなんかも全く苦にせず倒していった。


……戦闘中にずれるのか知らんが、メガネをクイッとすんのマジで鬱陶しいから!



……思ったんだけどモンスターの強さが平野と以前行った森とで全く違う気がするんだが。

これも最近の異常な事態と何か関係するのだろうか?


俺も結構奮闘している。

ダークミストのおかげもあって辛くは無い狩りとなっている。

基本魔法や『索敵』、エフィーの『魔力操作』等を駆使してモンスターを倒していった。


結構片付いてきた。

今3人で処理しているグレスタイガーの群れを片づければ大体ひと段落つける。

グレスタイガーは見た目はトラを灰色にして少し大きくしたようなもので、スピードと攻撃力に特化したモンスターである。その分HPと防御力は低い。


俺が『索敵』で位置を把握し、2人に伝える。


「グレイスさん、右から3体来ます!……ヴィオランさん、左から4体の後、左斜め前から2体です!」

「わかった!……ふん!はぁ!」

「了解、風来坊!……はぁ、たっ、ほっ、せやぁ!」


ふぅ、二人とも俺の声を聞いて反応してくれる。

何とかなりそうだな。



「はぁぁああ!」


ん!?アイリさんの声!?

声の方に顔を向けると、アイリさんがこちらに近づいていたモンスターを追いかけて切り倒していた。


「アイリ様、少し出過ぎです。お戻りください!」


シアも少しこっちに近づいてアイリさんに向けて叫んでいる。


「大丈夫よ!こっちは任せなさい!」


あの人、危なっかしいな!


これじゃあこっちのモンスターがはみ出したら挟み撃ちになるぞ!?



……いや、そうさせなければいいだけだ。

こっちのモンスターを倒すのに集中すればあっちにモンスターが行くこともない。

よし、こっちはこっちでなんとかすればいいんだ!


「グレイスさん、前方から3体、ヴィオランさん、左からボス格の奴が1体来ます!気を付けて!」


俺も二人に注意を促しながら雑魚を切っていく。


「はぁ、おらぁ、でりゃぁ!」


自分の周りにいるやつを切り倒し、二人の様子を見る。

グレイスさんは順調に数を減らしているようだ。


ヴィオランさんは相手がボス格で一回り他よりデカブツなだけあって苦戦しているようだ。

そっちに助太刀するか……。


そう思って走り出した矢先、ヴィオランさんがいきなり膝をついた。

グレスタイガーの親玉はそのままヴィオランさんに攻撃するかと思いきや、彼を素通りして向こうで戦闘中のアイリさんの方に駆けだした。


えっ!?どういうことだ!?

何でいきなり膝をつく!?

疲労が溜まったのか、あるいは……

って今はそんな考察をしている暇はない!!


「ぐっ、すまん、風来坊、あっちに向かってしまった!」


ヴィオランさんが俺に叫ぶ。


「くそっ、私が行きます!こっちはその間任せました!」


俺は返事を聞く前に走り出す。


ヤバい、アイツかなり速い。

このままじゃ追い付かん。


俺は直ぐに『魔力操作』を使って魔力を足に集める。

少し距離は縮まったがこれでは間に合わん。

アイリさんがこのまま襲われてしまう。


「ウィンドライン!!」


後ろから押し出すように風を集めて俺に充てる。

ターボの要領で一瞬急激に加速する。


アイリさんもグレスタイガーが自分に向かってきていることは気づいているが自分の周りのモンスターを倒すので精一杯となっている。


間に合え!!


他のモンスターの横をすり抜け、アイリさんに爪を振り下ろす瞬間のグレスタイガーに割って入って、剣で弾く。


「えっ!?」


一瞬アイリさんと目が合い、アイリさんの声が漏れたのが聞こえた。


初撃はなんとか防げたが2撃目は防げそうにない。

俺は弾いたばかりの剣を強引にグレスタイガーにねじ込む。


「グルガァー」


悲鳴を上げると同時に弾かれていないもう一方の爪が俺の体を切り裂く。


「っが!」


痛ぇー!


声に出して叫んでしまいそうになる。

防具の上からでも奴の爪は肉体に傷を負わせる。


奴も俺の1撃でダメージを負ったがこっちもかなりの痛手だ。

速やかに決着をつけないとマズイことになる。

……最悪死ぬな。


俺は痛みに耐えながらも突き刺した剣を抜かず、今まで封印していた雷魔法を解禁して剣を伝い、奴に電撃を流し込む。


「うらぁー!」

「ギャウー」


傷口から流れ込む電撃を受け、グレスタイガーは徐々に体力を奪われていく。

だが奴が暴れて刺さっていた剣が抜けてしまった。


電撃でかなりダメージを受けていたらしい。

グレスタイガーはよろよろだが力を振り絞って俺にもう一撃入れようと飛びかかってくる。


剣を構えて防御の姿勢を取る。


しかしそんな俺の横を炎が通り過ぎた。


「フレイムショット!」


アイリさんの声が聞こえた。

詠唱は聞こえなかった。

とすると彼女の技か何かか!?


幾つもの炎の弾丸がグレスタイガーに命中する。

親玉はその攻撃でやっと力尽きたようだ。


俺はそれを見て安心し、アイリさんの方を向く。

まだモンスターは残っているが余裕ができたようだ。


俺は彼女の方に走って行って、最小限の助太刀をすることにする。


「そちらは無事ですか!?」


アイリさんはそれに気づいてモンスターに対応しながらも答えてくれた。


「ふん、……礼は言わないわよ、あんたが、勝手にやったことなんだから。私一人でも対応できたんだから」

「……別にお礼なんていりません。あなたのおっしゃる通り私が勝手にやったことですから。……ただ、お一人で行動するのは避けて下さい。シアが注意を促した時に戻れたはずです。……同じようなことになった際、私がまた勝手なことをできるかどうか分かりませんよ?」

「…………」

「まぁとりあえず無事でよかったです。……コイツ等をさっさと片づけてしまいましょう」

「ふん、男のくせして偉そうに。……あ、あんた、名前は?」


うっわー、ヤバイ!

その話題はマズイ!

ここで言っちゃったら折角戦闘の間だけでも穏便にしてくれそうなのに襲う相手が俺になってしまいかねない。


何とか話を逸らさないと……

そう考えていると不意に傷口が痛んできた。

こっちもヤバい、忘れてた!


「くっ」


一瞬だが痛みに表情を歪めてしまう。


「あ、あんた、大丈夫なの!?」


アイリさんに今のを見られていたらしい。


「だ、大丈夫です。直ぐに治療しますから」


俺は回復魔法を自分にかけ、戦闘しながら答える。

クレリックになってから回復速度や質がかなり上がった。

職業が1つランクアップしただけでこんなにも違うものかと思ったがその分普通の奴が支援魔法を覚えるためにはジョブを替えるしかないのだからこれくらいのうま味があってもいいだろう。

ま、俺はそんなことしなくても覚えられるけどな。


「……あんた、回復魔法も使えるの!?」

「え、ええ。まぁ嗜む程度には」


何だこの返しは!?

「嗜む程度」ってお見合いか何かかよ!


「嗜むって程の回復力には見えないけれど」


アイリさんが追及してくる。

くそっ、名前の話から逸れてはくれたけど、また面倒な話題に!


「たまたま今日は回復魔法の調子がいいようです。あるんですよ、たまにこういう日が」


これはちょっと苦しいか?


「……ふーん、そう」


……ちょっとジト目だ。

ごまかしてるのバレてるな、こりゃ。


「……まぁいいわ。今はあんたの言う通りコイツ等を何とかする方が重要ね。さっさとその傷治しなさい」


あきらめてくれたらしい。

なんだかんだ言いながら今は男の俺と共闘してくれている。

さっきのことでちょっとは認めてくれたのかな?

そうだといいが……




その後、回復魔法で傷を治した俺はアイリさんと近くのモンスターを一掃し、それからそれぞれのグループに戻り、モンスター達を倒して行った。



戻ってからまた20分程して、モンスターを倒していくと、ほとんど片付いて、残ったモンスター達も状況を見て敗北を悟ったのか、撤退していった。




俺達はその後、女性陣と合流し、街に戻って行った。

女性陣は俺のような重傷者はおらず、野郎二人も特に目立った外傷はなかった。

……チャラ男のあのいきなりのダウンは何だったんだ?



街に戻ると、多くの冒険者が控えていた。

最初にモンスターの集団を見つけた奴等が戻ってきてかき集めてきたらしい。

……もう遅いわ!!


その後は緊急ではあっても街の防衛に貢献したことに対しての報酬が支払われることになった。

流石に皆疲れていたのでその日は受けらずに後日受け取りの手続きを踏むことにした。


後始末等色々面倒なことは他の冒険者たちに任せ、俺達は宿に直帰することにした。


団長3人はエンリさんの言っていた大きなことについての『ノームの土髭』の最終意思確認をしに来たらしい。


クランの総意が纏まらなければその計画からは外すんだと。

何か大きなことをするという事については事前に知っていたのでそれ位なら、とチャラ男がこっそり教えてくれた。


お前他の二人の前だと真面目なくせして……


やっぱりチャラいな。


シア達3人も疲れたらしい。

すぐに自分たちの部屋に向かっていった。


俺もその例に漏れず、ベッドに飛び込むとすぐに眠りの淵に誘われた。

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