嘘だろ、どうしてなんだ!?
さて、竜人女の目的は!?
「どうしてお前がここにいる、竜人女!」
俺は再度俺達の前に立ち塞がる竜人女に問いかける。
竜人女は俺の問いかけに鼻で笑う。
「……フッ、潜んでいる我が姿をとらえられるのはいつ振りか。フフッ、血が湧きおるわ」
えー、もうなにこのしゃべり方!?
お前本当に女かよ!?
もう「竜人女」じゃなくて「竜人」だけでいいんじゃねえの!?
「……質問に答えたらどうなんだ、お前は確かオークションで冒険者に買われたんじゃ……」
「む?失礼な!買われたのは我の妹だ。我はリーゼ、妹はファルじゃ!あれとは全く似ておらんと言うのに間違えおって……」
悪夢だぁーーーーー!!
名前なんかどうでもいいんだよ!
似てないとか言うけどお前等瓜二つだからな!
それはそうとあれがこの世に二人も存在するのか!?
嘘だろ!?誰か嘘だと言ってくれ!!
こんなどこかの何とか神拳伝承してそうな怪物が、二人も……
神が言っていたのはこれか!?
神は俺に試練を与えたのか!?
こんな絶望的な試練を俺はどうやって乗り越えればいいんだ?
もう、ダメだ……
この世の終わりだ……
……ハッ、でも待てよ!?
こいつがあの買われた奴とは別人だというのならどうして俺の目の前にいるんだ!?
自称姉とは何の接点もないはず。
ならコイツの目的ももしかしたら……
「おい、お前、目的は何だ!俺は妹の方ならオークションで見かけたが自称姉のお前とは何の接点もないはずだ」
「……お主が決闘であのハゲを倒したという男であろう?」
「……そうだ、と言ったら?」
「……お主には何の恨みもないが妹のため、ここで消えてもらう!」
え!?嘘っ!?急展開!!
竜人女、自称リーゼは宣言通り俺を殺そうと襲い掛かってきた。
手にはナックル、脚にはレガースを装備していてそれで殴蹴してくる。
「え、ちょ、待て!」
「問答無用!」
俺は剣を出す暇もなく攻撃を受けるので精一杯となる。
防御する肘が痛い。
流石竜人だけあって力は相当なものだ。
スピードもシア程ではないが俺と同格かそれ以上はある。
シア達は事態を理解していても俺とリーゼの距離が近すぎて手が出せないらしい。
俺は防御をとりながらも声をかけ続ける。
「おい、ちょっと、待て!」
「ふっ、はぁ、待た、ぬ!」
「どう、して、俺を、狙う!?」
「答える、必要は、無い!」
「だったら、何で、直ぐに、殺さなかった!?」
「!?、くっ!」
反応があった。そうか、コイツ……
「やっぱり、そうだ、お前は、殺すって、言っても、何の恨みも、無い、俺を殺すことに、迷いが、あるんだ!」
「ち、違う!我、は、妹のために、主を、殺さねば……」
攻撃が鈍った。
今だ!
「はあぁ!」
「ぐぅ」
俺はリーゼの腹に蹴りをくれてやる。
リーゼは俺の蹴りを食らい、後ずさる。
くそっ、不意を突いたのにダメージがあんまりない。
防御力も並じゃないな。
だが今の言葉と蹴りは精神的には効いてるようだ。
「……できればどうして俺を狙うか教えてほしいんだが。あんたの口ぶりからすると、妹さんになんかあったのか?」
「っ!?……くっ!」
リーゼは俺の言葉に表情を歪める。
そして、
「……命拾いしたな、次はその命、必ず貰い受ける!」
そう言って、リーゼは懐から何かを取り出してたたきつける。
ボンッ
忍者なんかが使うような煙玉みたいなものだったらしい。
辺りに白煙が広がる。
俺はすぐさま風魔法で煙を吹き飛ばし『索敵』を使うも既に範囲外で探知することはできなかった。
後で『索敵』を使ってからの風魔法でも良かったと後悔したが今は敵を追い払えたんだ。良しとしとこう。
「ご主人様、ご無事ですか!?」
「マスター!、大丈夫!?」
「ご主人様、お怪我は!?」
3人が駆け寄ってくる。
「スマン、逃がしてしまった。とりあえず腕がジンジンする以外は何ともない。3人は大丈夫か?」
「はい、私達はなんとも。エフィー、ご主人様の治療を!」
「はい!……ご主人様、腕を」
「ああ、いや、大したことじゃないから心配するな。直ぐに良く……」
「ご主人様、腕を!」
「は、はい!」
俺はエフィーの剣幕にビビり……もとい驚き、腕を捲って見せる。
「……ああ、赤く腫れています。さぞ痛いでしょうに」
エフィーは俺の腕を大切なものに触れるかのように優しく撫でる。
……あぁ、エフィーの手、冷たくて気持ちいいなぁ。
その後、回復魔法を使ってもらい、治療してもらった腕をさすりながら状況を整理する。
「ふーむ、いきなり襲ってこられたな。急すぎて何が何だか」
「そうですね、ですが何か訳ありだった感じです」
「エフィー、訳がどうとか関係ないよ!あいつ、マスターの命を狙ったんだよ!?」
「カノン、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんかいられないよ、シアだってムカつかないの?マスターを殺そうとしたんだよ!?」
「確かに私もそのことについては憤っています。ですが……」
「まぁまぁ落ち着け、カノン」
「でも、マスター!」
「話すにしてもここじゃなんだ、一回宿に戻ろう、な?」
「……うん」
「よし、じゃあ戻ろうか」
「「はい」」
「……うん」
カノンも戻ることには納得してくれた。
そうして宿に戻っている途中だった。
今度は『索敵』に3人引っかかった。
くそっ、またか!?
今回は尾行してくる者に対象を絞り『索敵』していた。
3人ということは集団で俺を殺そうとしに来たのか?
「……スマン、3人とも、今度は3人引っかかった」
「えっ!?またですか!?」
「……グイグイ来ますね」
「今度はちゃんとマスターを守るから、安心してね?」
3人は俺を庇うように前に出る。
あんまり気にしない方がいいのかもしれんが女の子に守られるのも男としては、なぁ。
「まぁ今回は相手が3人だからいつも通りでいい。……こそこそとつけてきてないでさっさと出てきたらどうですか?バレバレですよ、そこの3人」
俺は3人の前に進み出ながら声を張って追跡者に聴かせる。
「……あんた達がドジだから気づかれたんだわ!だからあんた達と行動するのなんて嫌だったのよ!」
「……ふむ、あの竜人だけでなく俺達のことにも気づくか。」
「……すごいね、彼。やっぱり入ってもらった方がいいんじゃない?」
隠れていた3人はそう話しながら俺達の前に姿を現す。
男の1人は何だかチャラそうな雰囲気を出しながらも隙を窺わせない。顔はニヤニヤしていながらもこちらを見ている目は鋭い。これでイケメンなんだから腹が立つ。
もう一人の男はメガネをかけたいかにも秀才って感じのこれまたイケメン。でもよくいる勉強だけできますって感じじゃなく体つきもそこそこしっかりとしていて服の外からでもちゃんと鍛えていることが窺える。……俺が最も苦手とするタイプの一人だ。
そしてこの女性。とても見覚えがある容姿をしている。一目見て誰だか想像がついた。
だが記憶にある者とは異なり幼さが抜け、髪もより赤みがかっていて肩ぐらいまでありそうなものをポニーテールにしている。
そして何よりあの人とは全く違うものがある。それはとても不機嫌そうな表情だ。あの人は俺にいつも恥じらいや笑顔なんかを浮かべてくれるが今目の前の彼女は一切そんな顔をしない。
そんな顔も見ていて綺麗だなとは思うがやはり笑顔のあの人を見ている分彼女についてはただ怖いなとしか思えん。
俺は3人の観察を終え、さらに問いかける。
「すいません、あなた達は何者ですか?あなた達も私の命を狙って?」
俺の問いかけに一番軽薄そうなチャラ男が慌てて答える。
「いやいや、勘違いだよ!俺達は君の敵じゃない。むしろ共通の敵を持つ仲間と言った方がいいんじゃないのかな?」
メガネイケメンがそれに続く。
「……俺達は先のお前と竜人とのやりとりを最初から離れた場所で見ていたのだ。お前の力に興味が湧いた」
そして彼女が、
「……ふん、男なんて私はどうでもいい。けど、今回はできるだけ戦力が欲しい。それだけよ」
うーむ、3人の話を総合すると確かに敵ではないっぽい。
「……なるほど、敵意が無いのはわかりました。それで、あなた達は何者ですか、私に何の用です?」
再びチャラ男が話し出す。
「ああ、そうだね、やっぱり何者かわからないと警戒するよね。……うん、俺はヴィオラン。一応クラン『シルフの風羽』の団長やってます」
次にメガネイケメン。
「……俺はグレイス。クラン『ウンディーネの水涙』の団長だ」
メガネをクイッと持ち上げる。
腹立つからその動作止めろ!
そして最後に、
「…………」
あれ?自己紹介してくれないの!?
この流れだとあなたもしてくれないと!
チャラ男も慌てて彼女に促す。
「ちょ、ちょと、頼むよ、アイリ!君も自己紹介してくれないと!」
「気安く名前で呼ばないで!男に呼ばれただけで鳥肌が立つわ!」
「わ、わかった。わかったから頼むよ。君も使える戦力は少しでも欲しいだろう?」
「……ふん。……アイリ、クラン『イフリートの炎爪』の団長よ」
とても簡潔な自己紹介です。よくできました!
……じゃなくてだな!
やっぱりこの人がエンリさんのお姉さんだったのか!!
ほんと良く似てるからすぐ想像できたわ!
それに言葉の端々から感じられる男を憎んでますよオーラ!
噂には聞いていたけど本格的な男性嫌いですね!
……うーん、これ、俺の名前って出さない方がいいよね。
エンリさんから俺の名前くらい聞かされてるだろうしそれが俺だと分かったら即殺されるかもしれん。
俺だけに被害が及ぶのならまだしもまたエンリさんを悲しませるような結末になっても困る。
……よし、今から俺は名もなき風来坊で押し切る!
……ここでエンリさんが来て「あ、カイトさん!」とか呼んでバレるっていうオチは無いよね!?
「……そうですか、皆さんあの有名なクランの団長さんでしたか。その団長さん方が私みたいな名もなき風来坊になんの用ですか?」
「詳しいことは今は話せないんだけど今少しでも戦える人材が欲しいんだよ。そんな時君と、強い種族で有名な竜人とのやりとりを見た。それだけじゃなく君は尾行している俺達に気とられることなく尾行に気づいた。要は君の力を見込んで勧誘したいんだ!」
「お前の全ての力を見たわけではないがお前は俺達の役に立ってくれると確信した。だからお前を仲間として迎え入れたい」
「……なるほど、そう言うことですか。ですが気になる点が2つ程あります。まず一つ目に何を目的としているかもわからないのに協力を仰ぐというのはどうなんでしょう?」
「それは申し訳ないけど今は話せないんだよね。協力してくれるって約束してくれてからじゃないと」
「……わかりました。その点については今は保留としましょう。では2つ目、私と竜人とのやりとりを見ていたのなら私じゃなく強い竜人を勧誘した方がいいんじゃないですか?それとも彼女を勧誘できない理由でも?」
「ああ、それはねぇ……」
チャラ男が何かを言おうとした時だった。
「大変だーー!」
男が一人駆け込んできた。
キャラが一気に増えましたね。
アイリさんも初登場です。
後は『ノームの土髭』の団長が気になるところですね。
そう遠くないうちに登場していただけると思います。




