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3人に会うまでに気持ちを落ち着かせないと。

今回も少し短めです。

キリのいいところで終われましたので。


宿に戻ると、俺は部屋に入って気持ちを落ち着かせる。

3人と会うまでに何とかマシな状態にしなければまた心配させてしまう。


だが、俺のそんな思考を余所に、部屋の扉にノックの音が響く。


「ご主人様、いらっしゃいますか?」


シアの声だ。

なんでこんな絶妙なタイミングで!?


「ああ、いるよ。ただ直ぐにまた出かけることになった。エフィーとカノンを連れて先にギルドの訓練場に向かってくれないか?詳しいことは後で説明する」


扉越しに答える。


「かしこまりました。ではまた後程」

「ああ」


足音は部屋から離れていった。

よかった、「いえ、お待ちします」とか言われて食い下がられたらどうしようかと思った。


3人を騙すようで気が引けたが心配させるよりはずっとマシだ。

今の間に色々と整理しておこう。


まず俺はまた人を殺した。

以前殺したのはあの爺さんの時か。

爺さんの時はあの後倒れてしまったから何か考える余裕はなかった。

だから人を殺してからはそこそこ時間が空いているしこの感じは久しぶりだ。



やっぱり相手が誰でどんな奴であろうとこの感覚はいいものじゃない。

精神的に来るものがある。


まあ今は最初に盗賊を殺した時とは違って吐くまできついということはない。

フッ、人殺しに忌避感を持っていながらも人殺しに慣れていっている自分がいる。

……人間の心なんて曖昧なもんだ。

自分ですらその全てを把握しきれていない。


これから先もこの世界では人を殺すことは避け得ないだろう。

その度にこうやって曖昧な自分の心と向き合わなければならないのはかなりの負担だ。

でもそうしなければ人間が『理性』を持つ意味が無いように思える。


だったら俺はこれからも考え続けるし悩み続けるだろう。

それこそが人間が人間たる象徴だと信じて……




さて、次に考えなければならないことはハゲを殺したことから来る影響だろう。

今まではハゲの対応からも分かるようにゴリーのことについてはあまり重要視されていなかった。

だがあのハゲは魔物使いとしてそこそこ有名だったらしい。

そんな奴を殺してしまったんだ。

恐らく『破壊の御手』に完全に目をつけられただろう。


あの決闘を見ていた者は少なくはなかったんだからいつどこで殺そうが俺が殺したということは遅かれ早かれ知られることになっていた。

だったらあそこで始末してしまったのは俺としては特に問題ではない。

どうせ知られることなんだからな。


あの時のハゲの見苦しい言い訳なんかもモルさんや観客の口からギルド職員等には行き渡っているだろうしその点でも周りからは逆に同情的だったし、殺したことでこの街の人達から変に扱われるという事もないだろう。



となると当面の問題は『破壊の御手』の奴等が俺に報復にしろ接触にしろ何かしらのアプローチをとってくる可能性があるということだ。

今すぐということは流石にないだろうがこの先シア達を一人で出歩かせるのは控えた方がいいかもしれん。

最悪の場合この街から離れることも視野に入れんとならん。


どこか隠れ家的なところなんかが有ればいいんだが。

でもそんな簡単には見つからんだろうなぁ。


現実的な話としては3人にはできるだけ単独行動は控えてもらうこと、後は何か尾行とかの対策が欲しいな。


『索敵』は20ポイントか。

スキルポイントはこういう時のために貯めてあるんだし背に腹は代えられん。

取っとくか。


俺は20ポイントを消費して『索敵』を取得する。


……ふむ、今は特に変わったことは無いな。

ステータスを見てみたがちゃんと取得は出来ている。


一応鑑定してみた。


索敵:半径20m以内に入った敵を感知することができる。

感知できる距離は使用者の強さによって長くなる。


うーむ、なんとも微妙な表示だ。まず『敵』をどう判断するかで感知できる対象が変わってくる。

モンスターのみを『敵』だとしたら俺が感知したい尾行なんかには反応してくれないただの役立たずなスキルになってしまう。


後、『強さ』ってなんだよ!?

レベルのこと?それとも何か他の要素のことなの?


何に依存するかが分からないと曖昧なままでスキルを使っていかなくてはいけなくなる。

そんなもの信用できるのかって話だよ。


だからこれからはできるだけスキルの全体像を把握することが必須の課題となる。


今色々試してると時間がかかるな。

あんまり待たせると3人に変に勘ぐられてしまうかもしれん。

もうある程度の整理はついたし、そろそろ俺も訓練場に向かうか。



訓練場に向かうまでに俺は『索敵』の実験を少ししてみた。

するとかなり面白いことがわかった。


鑑定した中で出てきた文言の『敵』の意味は俺の認識次第で変更できるということだ。

例えば俺が「自分以外の者」を『敵』と認識すれば半径20m内にいるもの全ての位置を把握できた。

感覚的にこんなことが把握できるというのも新鮮で面白いのだがやはり一番の発見は認識次第で察知できる対象を替えられるということだろう。


これで尾行等についても対策を練ることができるな。

把握できる距離の長さについては何が『強さ』を意味するか分からなかったが何かしら今も影響していることは確かだった。


まだ使い始めて間もないから正確な距離が分からなかったので詳細に測ってみようとは思わなかったが、恐らく今の距離は20m以上ある。


まあ何が距離の長さに影響を与えているかわからんが最低の20mと思っていれば問題はないだろう。

それについてはおいおい考えればいい。

後思ったんだけど『隠密』つけてる相手にこれって有効なのかな?

まあこれも今すぐ分かることでもないし保留だな。





訓練場に到着する。

一応『敵』を「俺を尾行する者」と認識して発動していたが一人も引っかからなかった。

流石にまだ行動に移っている程ではないらしい。


ちょっと安心だな。



シア達はラミアと向かい合って何かしゃべっている。

と言っても実際に会話できるのはカノンだからカノンが二人に翻訳してやっているようだ。


……心の整理は一応つけた。

大丈夫だ、俺!

……よし!



「……スマン、遅くなったか!?」

「あっ、ご主人様!」


シアが俺の声に反応し、ぱたぱたと一番に駆け寄ってくる。

エフィーとカノンもそれに続くように俺の下に走ってくる。


「マスター、もう、遅い!マスターが説明しないから最初ラミア達が近寄ってきたときは何なのかと思っちゃったじゃない!」

「そうですよ、ご主人様、説明不足です!もうあのハゲから救い出していたんならそうおっしゃって下さらないと」


カノンとエフィーが腰に手をあてて頬を膨らませながら俺に抗議してくる。


二人がそんなことをしても怒っているように見えない。

美女と可愛い女の子が更に可愛らしくなるだけだ。


「ハハハッ、スマンスマン。でももう状況はラミア達から聴いたんだろう?カノンにはラミアと契約してもらいたいんだが、何か問題はあるのか?」

「それは……無いけど」

「ご主人様、話をすり替えないでください!どうして私達には決闘のことを話して下さらなかったんですか!?」


くそっ、エフィーめ、手強い!


「まあそう焦るな、エフィー。俺も説明したかったんだがモルさんとの話の後とんとん拍子に物事が進んでしまって俺にも余裕が無かったんだ。勝手に全財産を賭けて3人のことも対象に入れてしまったのはすまないと思っている。でも今回は相談する余裕が無かったしエルフやモンスターを救い出すまたとないチャンスだったんだ。決闘のルールからしてもあのハゲに勝てる自信もあった。だから今回は俺一人で決断したんだ。……今後はちゃんと相談できる時間を取れるように善処するから、今回は勘弁してくれ」


俺はエフィーに頭を下げる。


「ご、ご主人様頭をお上げ下さい!私は……私はただご主人様が大変なことをなさっている時に何もできなかった自分が悔しくて少しイライラしてしまっただけです。それに私はご主人様の奴隷なのです。ですからご主人様が謝られる必要は全くないのです」

「エフィー……」

「……願わくば今後はちゃんと私達にもご主人様のお力になれる機会を与えて下されば……いえ、そうではいけませんよね、ご主人様からどんどん頼っていただけるようこれからも精進いたします」

「……ああ。これからもよろしく頼む、シアとカノンも頼むな?」

「「はい」」

「うん」

「……よし、いい感じでまとまったところでカノンに契約してもらうか」

「了解、マスター!」



それからカノンとラミアとの契約は一応済んだ。

契約内容は最初、俺に恩を返すのだから何もいらないとラミア達は主張したが、流石に餌や住む場所は何とかしなければならないという事でトランバットと同じ内容のものとなった。


ラミアも契約した後試してみたが基本異空間に待機してもらっても問題ないらしい。

なら実質的に必要なのは餌のみとなる。

モンスターが増えてくとやっぱり出費はかさむがハゲから全財産ぶんどってやったのでまだこの位なら痛くもかゆくもない。



契約を済ませてからはまずオークとミノタウロスの餌を買ってやり、それから巣に帰るのを見届けてやった。もちろん巣まで同行はしなかったが途中までは一緒について行ってやった。



帰ったらもう結構遅い時間になっていたので夕食を食べて床に就いた。




それから4日が過ぎた。

想定していた『破壊の御手』の接触も未だ無く、『イフリートの炎爪』の支部にいるエルフ達の様子を聴きに行ったり討伐系の依頼をこなすことでそれらの日々を過ごした。


エルフ達はまだ新しい生活に慣れない様子だったが俺が訪問すると、皆出迎えてくれてお礼を言ってくれた。


立ち直るのには時間がかかるだろうが気長に待ってほしいと俺はエンリさんに頼んでおいた。

エンリさんも快く引き受けてくれたので今後も何事も無ければ彼女に任せても大丈夫だろう。


エルフ達に、解放するかどうかについて聴くのはもう少し元気を取り戻してくれてからでも遅くはないだろう。




今日もその様子見を終えて、宿に戻ろうとしていた時だった。

不意に、『索敵』に一人引っかかった。


3人にだけ聞こえるような声で注意を促す。


「……3人とも、敵だ。油断するな」

「……はい」

「……かしこまりました」

「どこのバカか知らないけど返り討ちにしてやる」


俺は引っかかった奴がいるであろう方に向かって声を上げる。


「おい、そこにいるやつ、隠れているのは分かってる。さっさと出て来い」



数秒待つと、一人の人影が路地の角から姿を現した。


現れたのは一人の女性だった。




……なん、だと!?



なぜ、なぜお前がここにいるんだ!?



俺は『敵』をそのまま「俺にとって良くないと思える者」と定義していた。



それに引っかかるってことはそういうことなんだよな!?



嫌だ、信じたくない!!



どうしてだ!何故なんだ!?



いつだ、いつから俺は見過ごしていた!?



何か、何か無かったのか!?



俺が気づけるような前兆が!?



……くそっ、もう、ダメかもしれない……



……ごめん、3人とも。



今まで楽しかったよ。



今まで3人で俺を支えてくれてありがとう。



恐らくその日々も今日、今、この瞬間に終わりを告げる。




だが、確かめずに終わりになんて出来るか!



そうだ、どうしてお前がこんなところに、



どうして、どうして、





「どうしてお前がこんなところにいるんだ、竜人女ぁーーーーー!!」






この先の展開を予測できた方は大変すばらしい想像力をお持ちだと思います。

別に予測できなくてもおかしいという意味ではありませんからご心配なく。




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