よっしゃ、昇格試験頑張るか!
次の日、俺達は昇格試験を受けるために朝からギルド会館を訪れた。
ギルド会館には既に試験官の男性がいたが、何か別の男と話しているようだ。
感じからするとちょっと揉めているっぽい。
「おい、どういうことだ!今日の試験は俺だけじゃないのか!?」
「申し訳ありません。ギルドの試験官の人数の都合上同時にBランクへの昇格試験を受けていただくことになります」
「他の奴と一緒など我慢できるか!俺様の足手まといになるだけだ!」
「それでしたらまた次回都合がつきました際にお受けすることをお勧めします。別に今回だけしかないというわけではありませんから」
「ふざけるな!何で俺が他の雑魚のためにそんな手間なことをしなければいけない。その雑魚を次回に回せばいいだろう!!」
「今回はそのもう一人の方が先に依頼達成状況が良好と判断されたんです。どうやったかは知りませんが、あなたは飛び入りなんですよね?ですからその方に次回に回っていただかなければならない言われはないのです」
「ちっ、くそっ」
男は試験官から離れていった。
なんとも荒れてる男だな。
太ってて、高圧的な態度、そして何より頭の真ん中にできた丸いハゲがかなり目立つ。
よくこれで依頼達成状況良好と判断されたな。
いや、別に体格とか頭のことを言ってるんじゃないぞ?
そんな人格じゃ護衛依頼とか頼まれ物とか絶対向いてないだろう。
討伐系ばっかやってたんじゃねぇの?
試験官が俺に気づいて近づいてくる。
「あなたがカイトさんですね?」
「はい。試験官の方ですよね?よろしくお願いします」
「今回の試験官を務めますモルと申します。こちらこそよろしくお願いしますね。……カイトさんには突然で申し訳ないのですが今回は2パーティー合同で試験を行わせていただくことになりました」
「さっきの男性がもう一つのパーティーの方ですよね?」
「ええ。……恐らく何か金銭的なやりとりでもあったんでしょう。今日出勤していきなりもう一つ昇格試験を担当しろと言われました。彼は魔物使いとしてはかなり有名な方です。クラン『破壊の御手』に所属していて噂は色々と入ってきますがいいものを私は聞いたことがありません。捕まえた魔物を虐げたり、大抵のことは金で解決する男だとか……おっと、失礼。試験官を務める以上は公平に判断させていただくつもりですからこういうことを話すのは良くないですね。これは聞かなかったことに」
と言ってお茶目に人差し指を立てて口に当てるモルさん。
「……わかりました。それで、試験はいったいどのようなもので?」
「今回の試験は今日を含めた3日間東の森の奥でサバイバルをしていただきます。2パーティーに対して試験官は私一人ですからやり方は私の指定する範囲内で過ごすということになります。緊急のことでもない限りその範囲から出ないでもらい、そこでのモンスターとの戦闘やサバイバル知識等を総合的に評価して昇格に適しているかどうか判断させていただきます」
「わかりました。出発はいつ頃に?」
「そうですね……1時間後に街の東門前に集合としましょう。それから出発という事に」
「了解しました」
「私は彼に伝えてきますのでこれで。では後程」
そう言ってモルさんは去っていった。
その後、俺達は荷物のチェックだけを済ませ集合場所に向かった。
試験内容については予め知らされていなかったのでどういったものでも対応できるように準備してきたからこういった急なものでも問題は無かった。
まあ大抵の物は俺のアイテムボックスに入っているから見られていないときなら取り出し可能だ。
そして、モルさんは集合時間の10分前に到着したのだが、例の男は集合時間を20分すぎてやってきた。
時間に厳しい環境で生活していた俺はかなりイライラしたが相手が人格破綻者ならしょうがないか、とあきらめた。
モルさんは男に注意したが、男は「俺のパーティーの奴らがのろかったんだ。俺のせいじゃない」と威張り倒していた。
その言う通り、男のパーティーメンバーは男より遅れてやってきたが、そのメンバーにびっくりした。
首輪をはめられた醜い顔をしたオークが3体と、こちらは対称的に美しい容姿をしたラミアが1体、というのはまあ男が魔物使いだからわからんでもないが、他の人間としてのメンバーが3人が3人とも美人な女性のエルフだったのだ。
しかも更に驚いたことにはその一人が以前エフィーを買うときに面談したあの子だったのだ。
名前はなんだったかな、……わからん、思い出せん。鑑定しよ。
……そうだ!『シーナ』だ!
オークに関しては顔が顔だから良くわからんがエルフ達は皆一様に目が死んでいる。
シーナは俺とエフィーを見つけると、か細い声を放ったが、男に怒鳴られる。
「テメェ、俺の許可なしに声出してるんじゃねぇ!奴隷の分際で調子乗りやがって!……後でたっぷりお仕置きが必要だな、ゲへへ!……それにしても何だ、知ってる奴でもいたのか?」
男が気持ち悪い顔でシーナを睨む。
その後俺達の方を見やる。
俺は一応挨拶がてら自分から名乗り出ることにする。
「……それは恐らく私のことでしょう。今回ご一緒させていただくカイトです。彼女とは以前ミュタルの町の奴隷商館で顔を合わせているのです。……ところで彼女は確か戦闘を望んでいなかったと記憶しているのですが彼女も戦闘に参加させるのですか?」
「ふんっ、奴隷の事情など主人である俺様が知るか!奴隷をどうするかは買った俺の自由だ!」
そりゃそうなんだが……
まあここで『奴隷の待遇をどうすべきか?』みたいな命題について争っても仕方ない。
こんなアホみたいなハゲに使われてモンスター達もかわいそうだとは思うが今はどうしようもない。
何か助けてあげれるような機会があればそりゃ助けるが今こいつを殺しても何の解決にもならん。
相続されたりしたら意味ないしな。
匿ってやれる場所もない。
……だから今は機会を待つよりほかは無い。
「……まぁそう言うことに関しては今は互いに干渉しないようにしましょう。先当たっての試験が大事ですし」
「ふん、雑魚が偉そうに!」
ちっ、ハゲがいきりやがって!
シア達も男の発言にむっとしたようだが俺が抑えているために我慢してくれている。
その後、モルさんに今回の試験に関する簡単な説明を受け、出発した。
4時間位歩いただろうか、ようやく今回の試験を受ける場所に到着した。
途中モンスターと何度か遭遇したが、行きは男のパーティーが対応することになったので俺達は後ろで控えていた。そりゃ疲れてる帰りの方がしんどいもんな。
主に出てきたのはゴブリンばかりだった。
たまにオークが出てきたが、ゴブ:オーク=8:2位の割合だった。
で、戦闘を見ていたのだが、そのパーティーの戦闘は独特なものだった。
まず男は一切戦わない。一番後ろの安全なところでただ指示を出しているだけだ。
魔物使いだからそういう戦い方が普通なのかもしれんが俺にはどうも奇妙に感じる。
前衛がオーク3体。後衛がラミア。
このラミアは火属性の魔法だけでなく治癒魔法も使うようなので驚いた。
エルフ3人はというとそのラミアの後ろで男を護衛しながら魔法で攻撃していた。
俺達も人のこと言えんがよくあんな大所帯で戦えるな。
他のパーティーのことについてとやかく言うつもりは無いのだがこんな人任せな戦闘方法は初めて見た。
しかも自分は一番安全なところから指示を出すだけ。
別に悪いことだとは言わない。
そうするのがパーティーにとっていいんならそうした方がいいだろう。
ただ自分も一緒に戦闘に参加して戦っている俺としてはかなり違和感があった。
休憩中の暇な時男を鑑定してみたところ、
名前:ハーゲン
種族:人族
身分:冒険者
性別:男
職業:魔物使い
年齢:21歳
Lv.33
HP:116/116
MP:48/48
STR(筋力):42
DEF(防御力):45
INT(賢さ):22
AGI(素早さ):8
LUK(運):36
『調教』、『オーク魅了』、『ゴブリン魅了』
というステータスだった。
色々とツッコミ放題のステータスに俺は見た瞬間から堪えるのに必死だった。
ハーゲンってなんだよ、そのまんまじゃねぇか!ネーミングセンスおかしいだろこの世界!!
それに21歳であの円形ハゲってどうなのよ、遺伝なの、コイツだけなの!?
後、能力値の『素早さ:8』ってどう考えてもおかしいだろう!
何だよ、デブだから!?デブが影響してんの!?
最後のスキルに至っても絶対おかしいだろ!『~魅了』ってスキル確かに最初の特典見たときにもあったし今まで忘れてたけどそれにしても魅了する対象偏り過ぎだ!!
だからさっきからゴブリンとオークばっかりだったのか!?
あんなハゲでデブな奴のどこに魅かれるんだ!?
……ああ!醜い物だからか!!
……この世界って容姿や性格が醜ければ醜い程ステータスにも影響すんのかね!?
俺はそんな世界嫌だぞ!
俺はその後、ツッコみたい衝動を必死に抑えて、パーティー内でのご意見番であるエフィーに召喚士と魔物使いの違いについて尋ねた。
「……これエフィーさんや、召喚士と魔物使いの違いを教えてくれんかの?」
「どうされたんですか!?話し方が変です!ご主人様、頭でもお打ちになったのですか!?」
本気で心配された。
「……ごめん。自分でボケてこの欲求を消費しないとツッコんでしまいそうだったから」
「ん?……よくわかりませんが大丈夫なんですね?」
小首を傾げて確認するエフィー。
可愛いなぁ。
「ああ、大丈夫だ。すまなかった。……それでさっきの質問なんだが……」
「はい、召喚士と魔物使いの違いでしたね?」
「ああ」
「まず魔物使いは人族と獣人族固有のジョブです。ですからそれ以外の種族の方が魔物使いのジョブにつくことはできません。次に魔物使いは召喚士とは異なり、モンスターと会話することはできません。魔物使いにはそのスキルが無いのでしょうね」
ふむ、ということはカノンが魔物使いになるという選択肢は元々無かったんだな。
まずカノンは魔族だし、それにモンスターと会話することもできないらしい。
エフィーは俺の理解がちゃんと追い付いていることを確認して続きを話し出す。
「そしてここからが一番の違いかと思いますが、その使役できるモンスターの数が圧倒的に違います。カノンさんを思い浮かべていただくと早いと思いますが、召喚は契約という確固たる絆を持ってするものなので多くのモンスターを従えても十分対応できますが、魔物使いはモンスターを『調教』によって無理やり配下とするものですからモンスターの使役はとても難しく、1度にそう多くは使役できないのです。また、召喚は一定範囲内であればほとんど任意のところに呼び出せますので場所的制限はかなり少ないのに対して、魔物使いはモンスターを直接連れていなければ『調教』の効果が薄まるため色々な制限がかかってきます」
言われてみればその通りだな。カノンの召喚できる数はハゲの使役している数の比じゃない。
そりゃ力による抑圧より対等な関係で結ぶ契約の方が絆は強いだろう。
場所だっていちいち連れて歩かなくても召喚で呼び出せる。
圧倒的に召喚の方が優れているな。
「ありがとう、エフィー。おかげで色々わかったよ」
そう言って頭を撫でてやる。
エフィーはこうしてもらうのが好きらしい。
くすぐったそうにしながらもとても嬉しそうだ。
こういうところはまだまだ子供だな。
もちろんいい意味でだが。
「……エフィーうらやましいです」
シアが本当にうらやましそうな顔をして尻尾を振りながら俺達をじっと見てくる。
「後でシアにもやってやる。順番な」
それを聴いたシアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「はい、ありがとうございます、ご主人様」
「……カノン、カノンはどうする?して欲しいか?」
シアと同じようにこっちをじっと見つめていたカノンに尋ねる。
カノンは俺の言葉を聴いて即座に顔を横に向ける。
「ふ、ふん、べ、別に私はマスターに撫でられたくなんかないもん。そ、そういうの子供っぽいし!」
とは言いながらちらちらこっちを見てくる。
「そうか。ならシアとエフィーだけでいいか」
「ちょ、ちょっと!……そ、そのマ、マスターがどうしてもって言うなら奴隷だし、さ、させてあげなくもないけど」
「いや、そこまで撫でたいという欲求は無いんだが……」
「ふ、二人だけ撫でて、わ、私はダメなの!?」
「お前はどっちがいいんだ?」
「そ、それは……」
カノンは黙ってしまう。
そこへ、
「ご主人様、カノンも撫でてあげて下さいませんか?私たちは皆同じご主人様の奴隷です。カノンだけ仲間外れにしてあげたくないのです」
「シア……」
シアからお願いを言うのは珍しいな。
まぁカノンも素直に言えないだけかもしれんし、ここはシアの顔も立てて撫でてやるか。
「……あぁ、そのなんだ、カノン。さっきはああ言ったが俺は今無性に皆を撫でてやりたい。どうしてもだ。だからこっちへ来い」
「マスター……ありがとう」
「お礼は俺よりもシアに言うんだな」
「うん……。ありがとう、シア」
「いえ、私達は皆同じご主人様の奴隷です。協力するのが当たり前なんですから」
その後俺は宣言通り3人をたっぷり撫でてやった。
森の中の試験場所に着いた後、モルさんから概要を説明された。
この後それぞれパーティーごとに分かれてサバイバルに突入する。
2つのパーティーはそこまで離れたところではないが一応は距離をとるらしい。
モルさんは別のところから試験を監督すると言ってその後どこかへ消えていった。
とりあえず何も無ければ2日後にまた現れるらしい。
ハゲのパーティーはその場がスタート地点だったので離れ際どんな手際かチラッと見てみたが、ひどいものだった。
全くと言っていいほど素人の作業で誰一人テントの張り方を知らず、しかもハゲはただ見物でちゃんとできないエルフやモンスター達を叱っていただけだった。
俺は流石に耐え切れずスタート地点に行く前にハゲに話しかけた。
その時後で合流するのにパーティー機能だけじゃ少し不安だったのでベルを置いて行ってもらったのだが後でこれが失敗だったと思った。
「すいません、ハ……ハーゲンさん」
「ん?何だ、テメェ、雑魚が何の用だ!?」
雑魚雑魚うるさいな!
能力だけで言ったらお前が一番ヘボいだろ!
この『素早さ:8』が!!
俺が心の中で悪態をついているとベルが吠えだした。
『何だこのハゲは!偉そうに。脳味噌も髪の毛もついて無いんじゃないのか!?』
止めろ!笑えるようなこと言うんじゃねえ!
お前、こっちが必死に抑えてるってのに。
しかもお前よくその角度からハゲだってわかったな!?
「あん?その犬なんだ?ガウガウ吠えやがって」
ハゲにはベルが吠えているようにしか聞こえない。
なるほど、モンスターからしたら人間の言語は分かるのか。
じゃあ『モンスター言語(会話)』は人間側がモンスターの言語を理解して話せるようになる効果なのか……ってそうじゃない!
「ああ、すいません。うちのパーティーで飼っているモンスターです」
「あん?こんな弱そうなのがモンスター?はっ、飼い主が雑魚ならモンスターも雑魚ってか」
『俺のことを愚弄するのは構わんがカノン様を愚弄するのは許さんぞ、このハゲオークめ!』
ちょ、お前!
「この犬、また吠えやがって!躾くらいちゃんとしやがれ!」
『そういうことは自分の頭と腹をちゃんと躾してから言いやがれ!』
くそっ、お前、ベル、ワザとやってんのか!?
お前俺を笑かしにかかってるだろ!
『モンスター言語(会話)』をoffにすればいいのだが面白すぎて平静を装うのに必死で集中できん!
ああ、まだ目が死んでなかったラミアもクスクス後ろで笑ってやがる!
モンスターではあっても美人だし絵にはなるが今はそれどころじゃない。
どうしよう、腹いてぇー!
腹筋ピクピクしてきやがった。
それなのにここまで全く顔に出さない俺を誰か称賛して欲しい!
ここは退散しよう、全く話しかけた目的を達成できてないが致し方あるまい。
「ッ、……すい、ませんでした。後で、ちゃんと、よく、言っておきますので。これで失礼します」
『カイト殿!ここで逃げるのか!?こんなハゲ、俺とカイト殿なら直ぐにスキンヘッドにしてやれるのだぞ!?』
お前はもう黙ってろ!
「っち、その犬さっきからガウガウガウガウ吠えやがって!ぶっ殺してやろうか!?」
『はっ、その少ない髪と脳味噌でできるものならやってみろ!』
くそっ、もういいから!
「し、失礼しましたー!」
俺はベルを抱えてその場から即座に撤退した。
ちゃんと3人が待つ場所には戻れたのだが俺の腹筋は最早崩壊寸前だった。
3人とも様子のおかしい俺をかなり心配してくれたが原因を言うのも憚られたので「大丈夫だ、すぐに良くなる」の一点張りで通した。
ちゃんとその後納得いかなそうなベルにみっちりお説教してやった。
ちょっとだけベルに焦点をあててみました。




