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契約、俺にも使えないかなぁ……

修行パートではありますがちゃんとヒロインたちも出てきますのでご安心下さい。

俺達はその後、宿に戻って早々に寝ることにした。

今日は色んなことが有ったから疲れた。


部屋割りは俺が1人、シア、エフィー、カノンが前まで使っていた3人部屋、ということになっている。

4人部屋は今埋まってしまっていて、空き部屋待ちの状態となっている。


2人部屋を二つでもいいんじゃないかと提案してみたが、誰が俺と同じ部屋になるかで揉めるからダメだと言われた。


だから今俺は一人で部屋のベッドに寝転がっている。

この世界に来て一人で寝るってのも久しぶりかもしれん。

シアを迎え入れてからはいつも同じ部屋だったし、エフィーが仲間になっても3人部屋だったから1人になることはなかった。


別にいきなり一人になっても寂しいということはない。単に部屋が離れているだけだし同じ屋根の下に3人はいるんだからそう言った気持にはならない。


だが一人になると色々なことを思い出すということはある。

昔のこと、高校でのあの出来事、そしてライルさんのこと。

考えても結論が変わるわけではないのだが考えてしまう。


どれもこれも俺がいなければ……


いや、無駄な思考はよそう。

今更そんなことを考えてもどうしようもないのだ。

でもこんな一人問答をこれからもずっと繰り返してしまうんだろうな、という確信が俺の中のどこかにはあった。


……ふぅ、もう寝よう。


俺はそこで思考を止め、眠りについた。





翌日、朝の訓練を終え、朝食を食べている際、俺は3人に話しを振る。


「3人とも聴いてくれ。俺は今日色々と実験してみたいことができたから申し訳ないが一緒にいてあげられないんだ。そこで今日はお休みにしたい。ただカノンの服がまだ昨日あげたローブのままなんだ。だからお小遣いを大目に渡すから3人で服でも見に行ってくれないか?それ以外は自由でいいから」


シアとエフィーは嬉しそうな顔をするが、カノンの顔は晴れない。


「えっ、あの、マスター、私ただでさえローブを貰ってるんだしさらに服なんていらないよ?」


カノンは困惑した表情で俺の提案を断る。


「シアとエフィーにも同じように服を買ってるんだ、カノンだけ仲間外れにするのはよくない。それにカノンは女の子なんだから可愛い服とか着たいんじゃないのか?」

「……私は奴隷だから、そういうのは、いいよ」

「そうか?……でも残念だなぁ。カノンがお洒落したところ見たかったのに。カノンがこの先好きな人とかできたらその人はカノンの可愛い姿見たら絶対喜ぶと思うぞ?」

「バ、バ、バカ!そ、そんな人で、できないわよ!」


真っ赤にして顔をそむけるカノン。


「そうかなぁ。これからいろんな人と出会っていく中で一人くらいカノンがいいなぁと思える人が出てくるかもしれないぞ?」

「で、で、出てこないわよ、そんな人!……だ、だって、もう……」


チラッとこちらを見てくる。

最後の方は声が小さくて何を言っているか聞こえなかったが、本人がここまで否定しているんだからこれ以上はやめとこう。


「まぁそれは分かった。だが実際問題服装は大事だと思うぞ?服を着ることによって気持ちを落ち着けたり高揚させたりする効果なんかもあるしな。……何かなかったのか、今までに気に入った服装とかよくしていた服装とか」

「それなら前によくしていたのが有るけど……」

「ならそれと全く同じというわけにはいかないだろうが似たような服でも買って来いよ。この街の服屋なら色々あるだろうからな」

「マスター……」

「ちゃんと可愛いの買って来い。それで俺に見せてくれたらいいから」

「ふ、ふん、しょ、しょうがないから買ってくるわよ!……マ、マスターから貰うお金で買うんだからし、仕方なくマスターに1番に見せてあげる!」

「そ、そうか。まぁこういう時間も女の子には必要だろうから楽しんで来いよ?」

「……うん。ありがとう」


その言葉は消え入りそうな位小さなものであったがしかし、俺の耳にはしっかりと届いた。


「ああ。……シアとエフィーにもちゃんと大目に渡すから何か欲しい服とかあったら買って来いよ?使わないなら使わないで貯めておけばいいから」

「はい、ありがとうございます、ご主人様」

「わかりました。ありがとうございます」


ふむ。二人は素直に受け取ってくれるようだ。以前の経験が生きているんだな。


「じゃあそういうことだから。今日はこの後から解散な!」

「「はい」」

「うん」



その後、食事を終え、3人に500ピンスずつ渡した後、俺達はそれぞれのすることに向かうのだった。



俺は今、宿の庭にいる。

3人に言った実験をするためだ。

実験というのはつまり、カノンの『闇魔法』を『パーティ恩恵(リーダー)』を使って試してみること。闇魔法を使うのだからあまり人目に付きたくない。だからギルドの訓練場なんかを借りるってのは却下だ。



闇魔法がどんな感じなのか自分で使ってみて感触を確かめたいし、あわよくば自分のものにしたい。

最悪習得できなくてもカノンのものを使えば闇魔法自体を使うことは可能だが、自分の魔法とした方が色々と他の魔法にも転用できることがあるかもしれない。


それは偏に契約・召喚を使えないかな、と言う思いから来る。

実際にカノンが使ったところも見たし、やっぱり自分でも使えた方が便利だ。

何しろ、俺の説が正しければ俺が習得した際契約できるモンスターの範囲はかなり広い。

闇魔法を習得できなかったとしてもそっちはカノンが補ってくれる。

もしかしたらエフィーにだって使えるようになるかもしれない。

そうなれば戦力的にも大いに貢献できることになるだろう。



俺は実験を始めることにする。


『パーティ恩恵(リーダー)』を使ってカノンの『闇魔法』を選択する。

瞬間、俺の中に何かドス黒いものが入り込んだように感じた。

気分はあまり良くないがこれが闇魔法を使うために必要なものなんだと思うと仕方ない。


感覚的にどうすれば闇魔法を使えるかが分かる。


先ず魔力を手の平に集め、目に見える黒い気体のようなものに変換する。

黒いもやのようなものが集まり、炎のような形になるようイメージする。

すると、黒い魔力は手の上で炎のように形を保とうとゆらめく。

だがその周りからは熱さなどはもちろん感じられず、ただ不気味に蠢いている異物としか感じられなかった。


これが闇魔法……




めっちゃカッコいいじゃん!!


何これ!?その内火魔法と合成して黒炎とかできんじゃねえの!?

うわやっべぇ、興奮する!邪王炎殺黒〇波を使える日が来るかもしれないとは!!



……ふぅ、落ち着いた。

でも今作った闇魔法はそこまでの威力じゃない。

まぁカノンの闇魔法の本名は『影』の技だからな。

やっぱり自分で使えるようにして応用できるようにしたい。


それだけじゃなく契約についても何とかできんものか?

……うん、契約についても一回試してみるか。


俺はその場で昨日見た契約の魔法を展開してみる。

俺自身が契約したわけではないが、今使っているのはカノンの魔法。

だからだろう、スケルトンを召喚することができた。

もちろん詠唱は必要なかった。


召喚する際、体内で一つの形ある魔力を感じ取ったが、それが恐らくは昨日の契約で見た黒い魔力だろう。


この魔力に意識を集中してみると、すごいことが分かった。

魔力を契約内容や文言等に変換し、それを魔力の塊にして契約成立の楔としているのだ。

これは言葉や説明を受けて分かるようなものじゃない。

こうやって一度それに触れ、経験してみて初めてどういうものかがわかるのだ。

……とすると、魔族はもしかしたらこれを生まれ持った感覚で使っているのかもしれん。

下手すると魔族の遺伝か何かが関わってるかも。

そりゃこんな技術魔族しか使えないわ!

感覚的にしか理解できないものなのにその感覚を知る方法が無い。


他人に乗り移ったり他人と感覚を共有できるなんてスキルがあったら話は別だが俺の持つ『パーティ恩恵(リーダー)』意外でとなるとそれは最早超能力、どこぞの不幸体質の青年がいる学園都市でもない限り無いんじゃねぇの?



……それにしても俺はかなりの幸運なんじゃないか?そんな普通なら魔族以外体験できない感覚を俺は体験し、本能的に理解できた。

やはり数値だけが全てではなかったんだ!!


何度も練習すれば恐らく完璧に感覚を体に覚えさせることも可能。

そうすれば別に闇魔法だけに限らず他の属性魔法でも契約できるようになる。

残念なこととしてはこれは完全に感覚で理解するものだから俺が習得してもエフィーに教えてやれないことだ。


覚えたことを教えるよりもエフィーに俺かカノンのスキルを使えるようにする方法を考えた方がいいだろうな。……まぁそんなに簡単にはいかないだろうなぁ、だってそれが簡単にできるなら今頃もっとこの方法は人間の間にも普及しているだろうし。



まっ、今すぐどうこうできることじゃないだろう。

とりあえず今は自分のことに集中しよう。


俺はそれから闇魔法自体の習得と契約の感覚をつかむことに分け、練習していった。

カノンの魔法を使っては自分の力だけでそれを再現しようとする、ということを何度も何度も繰り返した。


闇魔法については他の属性の魔法を習得していてコツがわかっていることや、どんなものかを使用して経験できているということもあり1時間程の練習で習得できた。カノンの影の技は独特ではあるが習得できないことはないと思った。しかし、かなり時間がかかりそうだったので今はあきらめることにした。別に俺がカノンと同じ技を使えなければいけないわけではないし、あまりカノンの技に固執するのも却って俺自身の闇魔法の個性を無くすことになる。だから今はそっちよりも契約を習得することを先にした方がいいのだ。


その後はずっと契約の感覚を掴むことに充てた。流石に直ぐに習得に至るということは無かった。

午前中には習得できなかったので休憩も兼ね昼食をとり、少し休んでからまた習得のための練習を始めた。


休憩中皆のステータスを確認して改めてびっくりしたことが有った。最初全く気付かなかったがよく考えたら他とは違うこと、それはカノンのスキルポイントだ。レベルが3に上がった、ということは2だけレベルアップしたということなのに『モンスター言語(会話)』を取る前スキルポイントは6あった。

ということは1上がるごとにスキルポイントが3上がっているのだ。


俺でも『レベルアップ時ボーナス』があって初めて3上昇するのにカノンは何も無く3上昇している。これも魔族補正なのかもしれん。


今日は魔族が強いとされる理由を色々と垣間見えたな。



夕方、どこか嬉しそうな顔をした3人が帰ってくる頃には魔力をある程度変換することは可能になったがまだ練習不足感は否めない。

直ぐに実践で試そうという気にはならず、今後の早朝は闇魔法とこれの練習に充てようと俺は考え、その日の練習を終えるのだった。




=====  シア視点  =====


今日はご主人様にお休みをいただき、3人でお買い物です。

そのこと自体はとてもうれしいのですがご主人様のことを思うと少し心配になります。


昨日、カノンがベルと話せるようになった時、ご主人様は意図していられなかったのでしょうがこうポツリとつぶやかれたのです。


「……やっぱり、大切な人とは話せる方がいいよなぁ」


と。その時のご主人様のお顔はやはりお辛そうでどこか寂し気なものでした。

やはりあの日のことを……


私はご主人様のお傍にいることも考えましたが何かお一人でなさるようでしたし、お邪魔になってはいけないと思って今日はエフィーとカノンと一緒にいることにしました。


……あの一件について二人にも話すいい機会ではないでしょうか?


ご主人様がどんなお辛い経験をなさっている上で私達を助けて下さっているのかを二人にも知ってもらうことは必要なことなのではないでしょうか?


ご主人様に言っていただいたことですが、このことを私たちの間で共有することでどんなことをご主人様がお悩みになっているのか、どんなお辛い思いをしていらっしゃるのか、皆で考えることができます。皆で悩むことができます。


きっと二人もご主人様のために一緒になって考えてくれるはずです。

よし!


一緒に歩いている二人に私は提案します。


「……エフィー、カノン、聴いてくれますか?二人に話しておきたいことが有るのです」

「唐突ですね。……シアさん、それは大事なことですか?」

「それなら場所を変えた方がいいんじゃない?どこか落ち着いて話せるところに……一回宿に戻る?」

「それはダメです!……ご主人様のお耳には、入れられない内容なのです」


ご主人様がお聞きになっても私達にはそのことをお話して下さらず、ただお辛いことを思い出させてしまうだけになってしまうかもしれません。


「……わかりました。この先にある茶屋にしましょう。あそこなら人も少ないですし、奴隷である私達でも入れますから」

「はい」



私達は茶屋に入り、注文した飲み物を口に含んでから話に入ります。


「で、シア、話っていうのは?」

「……はい。エフィーとカノンが私達と出会う前、つまり私とご主人様だけの時にあったある事件の話です」

「……事件、ですか」

「はい。その事件を語る前に私がご主人様とお会いしたところから話します。……全て、二人にも知っていて欲しいのです」

「……わかりました。どんなお話なのか正直想像もつきませんが、シアさんがおっしゃることです。しっかりと拝聴させていただきます」

「……私も、マスターのことは一つでも多く知りたい。だからシア、全部話して」

「はい。では……」



私はご主人様とお会いしてから今に至るまで全てのことを話しました。


盗賊に捕まって絶望していたこと、それをご主人様に助けていただいたこと、

ライル様のこと、そして、あの事件のこと。


その後の旅でご主人様にレベルを上げていただいたことも私にとっては筆舌し難い程嬉しい、またありがたいことでしたが今二人に知って欲しいのは主にライル様の存在とあの事件のことです。


私はそこを1番伝わるよう工夫し、熱弁しました。




二人はこの話を聴いて同じようにふさぎ込みます。


「ご主人様はそのようなお辛い経験を……それを知らず今まで過ごしてきた自分が情けないです」

「そんなに辛いことがあったのに私達を助けてくれるなんて……マスター……」


落ち込んでいる二人に私は話しかけます。


「これで二人にもご主人様がどんな思いをなさっているのか、どんなお辛い思いをなさっていながら私達を助けて下さったのかわかってもらえたと思います。……このことを話したのは私がご主人様に言っていただいた言葉があるんですが、私達が過去のことを話としてだけでも共有することでいっしょに悩むことができます。一緒に考えることができます。ですから二人に知ってもらって一緒にご主人様のために色んなことを考えたいのです。……二人とも、力を貸してくれますか?」

「当たり前です!私はご主人様が大好きです!この話を聴いてもうどうしようもない位ご主人様がもっと大好きになりました。私はご主人様のためでしたら何でもするつもりです。魔法や知識物については任せてください!」

「エフィー……。ありがとうございます」


エフィーがうれしそうに頷いてくれます。


「私も……マスターのことが大好き!マスターのために私も何かしたい!……でも私、マスターを前にするとどうしてもきつく当たっちゃって。こんな自分が嫌になる……」

「……カノン、私もエフィーもカノンがご主人様のことをすごく大切に思っていることはわかってますからそんなに自分を責めることは無いですよ?」

「でも!……私、マスターに何もしてあげられてない。私……」


カノンがまた落ち込みそうになると、エフィーが話し出します。


「では、今日素敵な服を買って、ご主人様にお見せしましょう!ご主人様もカノンさんの綺麗な姿をご覧になったらきっと喜んでくださいます」

「えっ!?……マスターにああは言ったけど、やっぱり恥ずかしいし……」

「カノンはご主人様の前では恥ずかしがり屋さんですものね」

「う~。しょうがないじゃない、マスターを前にすると緊張して頭が真っ白になっちゃうんだもん」

「でしたらこういうのはいかがでしょう?お二人とも、耳を貸してください。ごにょごにょ……」


エフィーが提案したものはとても驚く内容でしたが、恥ずかしがり屋のカノンにはいいんじゃないかと思いました。


「えっ!?そ、そ、そん、そんなこと、わ、私がす、する、するの!?」

「ええ、カノンさん独自の特徴を生かした作戦だと思います。ご主人様のためにも、です!」

「でも、いいのかな、私、魔族だし、シアやエフィーみたいに可愛くないし……」

「大丈夫です、カノンはとっても綺麗で可愛い素敵な女の子です。きっとご主人様も受け入れて下さいます」

「……うん、わかったわ。私、マスターのためにやる!」

「その意気です!……では決行は今晩です。頑張って下さいね、カノンさん!」

「うん、マスターのためだもん、マスターのため、マスターの……」

「その作戦のためにもちゃんとカノンに似合う服を買わないといけません。では行きましょう、二人とも」

「はい、シアさん!」

「うん、……マスターのため、マスターのため……」



その後私達はカノンに似合う服を求めて街中を歩き回り、とてもカノンに似合う衣装を見つけ買い終わった時にはもう夕方になっていました。


私達はその足でご主人様のいらっしゃる宿へと帰ったのでした。



=====  シア視点終了  =====





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