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えっ、まさかあのフラグが立ってしまったのか!?

俺は声のした方へ振り返る。


すると、そこにはあの竜人の女を買った奴……はいなかった。

なんだ、さっき俺と最後まで争ってたデブチンか。


よかったー!俺の知らない間に変なフラグが立っててあの竜人をもらわなきゃいけない流れになってしまったのかと思った。


それにしても何なんだ?さっきのいちゃもんか?


「何でしょう、私に用ですか?」


俺の言葉を聞いてデブチンはムっとした顔をする。


「用も何もないだろう、あのオークションの時貴様はズルをした。だからあの魔族は俺の物だ」


はぁー、やっぱりいちゃもんか。

いちゃもんつけるにしてももっとうまいやり方があるだろう。

コイツ、見た目だけじゃなくて脳味噌まで脂肪でできてんじゃねぇの?


「そうですか、私はズルをしましたか。なら私に言わず直接オークションの主催者側に申し立ててきてください」


本来なら主催者側が干渉してくるのは面倒なんだが素直に従ってくれたらその間にトンずらしてやる。


「な、な、何故俺がそんな面倒なことをしないといけないんだ!それは俺の物だから俺がもらう。当然だろう」


どこのジャ〇アンだ、テメェは!?


「……はぁ?本当にあなたの物ならいいじゃないですか。きっと皆があなたの味方をしてくれますよ?……本当にあなたの物なら、ね?」

「く、く、このぉ」


デブチンの顔に青筋が立った。

何で俺が逆ギレされないとならん。


「おい、お前ら、コイツをやってしまえ!」


デブチンの言葉に呼応するように後ろに控えていた男共が前に進み出てきた。

何だ、コイツ等?デブの用心棒か何かか?

ざっと10人ってとこか。

鑑定してみるがそこまで強くない。

俺一人でも十分勝てる。


そこでようやくシア達が騒ぎに気付いてこちらに駆けてきた。


「ご主人様、これは?」

「ああ、カノン欲しさに嫉妬してる醜い奴等だ」

「え、私……」

「カノンはモテモテだな。……スマンが今は渡せん。カノンは俺のもんだしな」

「な、な、何言ってるのよ!?バ、バ、バカじゃないの!?」


顔を真っ赤にして怒るカノン。

えっ、だってそうじゃないの?

違った!?何か間違ってた!?


「……ご主人様に刃を向ける不届きものですか。そんな奴等私一人で十分です。ご主人様はお下がりください」


シアが抜刀して奴等に向かおうとする。

背中から黒いオーラが出てるよ、シア!?

ヤバい、シアさん怒ってらっしゃる!?

……うわー、何かシアが今後ヤンデレになりそうで怖い!


「シア、大丈夫、大丈夫だから!落ち着いて」

「ご主人様、しかし……」

「いいから任せろって、たまにはご主人様にもカッコつけさせてくれよ」

「ご主人様はいつでも最高にカッコいいですよ!」


真顔でそう返してくるシア。


「そ、そうか、とりあえず俺に任せてくれ。シアには二人を守ってもらわないと。……シアは一番奴隷でお姉さんだからな」


そう言ってやると嬉しそうにシアは頬に手をあてて了承してくれる。


「は、はい、かしこまりました。……そ、そうですよね、私はご主人様の一番奴隷でお姉さん……」


ふう、よかった。


シアを説得して奴等に向き直ると、何だか奴等の様子がおかしい。

皆顔がトロンとしていて全員カノンの方を向いている。


カノンの方を向いてみると、エフィーは少し震えながらカノンの腰に抱き着いていて、そのカノンは赤い顔をしてぷいっと横を向いている。そして、


「……べ、別にあんたのためにやったわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね、あんたが死んだらエフィーとシアが困るから手伝ってやっただけなんだから!」


とのこと。


何でシアを説得してる時に襲ってこなかったか不思議だったがこれはカノンの仕業なのか。


まぁいいか。


とりあえず俺はおかしくなった、(いや、元からおかしいが)男共を剣の柄を使ってのしていった。


最後に残ったデブを見下ろしながらカノンに向かって言う。


「カノン、もういいぞ」

「……わかったわ」


カノンの言葉と共にデブは正気に戻る。

ふむ、on/offの切り替えができるタイプの能力らしい。


正気に戻ったデブは周りに自分の用心棒が倒れているのを見て驚いている。

そこへ俺は一言。


「有り金全部置いていけ。そうしたら命だけは助けてやるよ」

「ひ、ひぇー」


デブは俺の言葉に慄き、本当に有り金全部を置いて鼻水垂らしながら逃げて行った。

今回のは完全にあっちからいちゃもんをつけてきたので、これは犯罪とは認識されないだろう。


俺は置いていった金を確認する。

ふんふんふん……、おっ、結構あるじゃん。


中には約50万ピンス入っていた。

でもカノンを落札できた場合どうするつもりだったんだろう。

これじゃあ足りないよな?

……見栄でも張ったか?



俺は3人の下へ戻る。


「お疲れ様です、ご主人様」


エフィーがカノンから離れ労ってくれる。


「ああ、でも今回のはほとんどカノンのおかげかな。……ありがとうな、カノン」


カノンに向き直って感謝の意を述べる。


「べ、べ、別にあんたのためにやったわけじゃないんだからお礼を言われる筋合いなんてないわ」


顔を赤くしながら横を向くカノン。

なんだ、照れてるのか?


「まぁ実際に助かったのは事実なんだ。お礼位素直に受けとっとけ」

「……ふん」


なんだかんだいいつつも照れている様子。


「ふぅ、カノンはすごいな。これで召喚も使えるんだから大したもんだ」


俺が素直に褒めてやるとカノンの様子が一変する。


「えっ?」

「うん?召喚がどうかしたのか?」

「やっぱり、あんたも召喚が……」

「どうしたんだ、カノン?」

「くっ!」


そう言ってカノンは泣きながらいきなり駆け出した。


「お、おい、どうしたんだ!?」


俺達は追いかける。


「どういうことなんだ?いきなり、駆け出したぞ!?」


俺は走りながら疑問を言葉にする。


「私にも、よく、わかりません」

「私も、です」


シアとエフィーもわからんらしい。



ちょっぴりエフィーが遅れ気味になるが、シアが先行して追い付き、カノンを引き留めてくれた。


俺達も追い付きカノンに向かい合う。


「はぁ、はぁ、カノン、どうしたんだ、いきなり」

「くっ」


カノンは顔を逸らし、俺を見ようとしない。

その瞳からは涙が溢れている。


「……よくはわからないが俺の言葉がお前を傷つけてしまったのなら謝る。だから何がいけなかったのか教えてくれないか?お前には辛いかもしれないが俺はなかなか察してやれん」

「…………」

「カノン、話してみませんか?誰かに話してスッキリすることもあると思いますいよ?」

「シア……、でも……」

「カノンさん、無理にとは言いませんが話してくださいませんか?……私も以前は魔法が使えず苦しんでいたんですがそれをご主人様に救っていただきました。もしかしたらカノンさんのお悩みを解決できる方法があるかもしれません。ですが何をお悩みになってるかわからなければどうしようもありません。ご主人様はとてもお優しい方です。ですからお話になってもきっと受け入れて下さると思いますよ?」

「エフィー……」

「俺もさっきは話してくれと言ったし、二人はこう言ってくれたが無理に話そうとすることはない。話したいと思ったら話してくれればいいんだ。俺達はそれまで待つから」

「私……」


カノンは涙を拭いながらどうするか迷っている。


シアとエフィーの顔を見る。

最後に俺を見、そして意を決して話し出した。



「……私、召喚ができないの!」



その告白は俺達を驚かせるのには十分過ぎるものだった。



その後、俺達は宿へ場所を移して話を聴くことにした。

宿に1人分追加をお願いする際、カノンに言われ、カノンにローブを着せた。

そして、一応念のため『パーティ恩恵(リーダー)』と『偽装』を使った。

エフィーの時点で気にされなかったんだから大丈夫だろう、と言ったが自分が魔族だということをあまり知られたくはないらしい。



部屋に戻ると、まず俺は先ほどの告白の真意について尋ねた。

「カノン、召喚ができないってどういうことだ?さっきオークションの会場で黒い犬を召喚していたがあれは召喚じゃないのか?」

「……あれは確かに召喚よ」

「じゃあどういうことだ?」

「……正確にはあの仔以外の召喚ができないの」

「……ふむ、制約か何かでもあるのか?」

「制約は無いわ。魔族は契約さえできれば召喚はいくらでも可能よ」

「……その言い方からするとカノンができないのは契約、か?」

「……ええ」


なるほど、召喚する前提が契約の完了しているモンスターがいることで、その契約ができない。

そりゃ召喚ができないってことになるか。

あれ?じゃあなんで1匹だけは契約できたんだ?


「カノン、契約できないっていうのは何が原因が分かってるのか?それとも先天的に無理なのか?」

「魔族がモンスターと契約する際、洗脳や脅迫なんかの強引な手段を取ることも偶に見受けられるけれども、基本的にはモンスター達と話し合ってお互い納得いく内容を持って契約するの。衣食住を提供する代わりに力を貸す、っていうのが普通かな?」

「……ふむ、それで?」

「…………」


話を促すもカノンは黙っている。

ここから先の話がカノンにとって辛いところにあたるのだろう。


俺達は辛抱強く待つことにする。


そして待つこと数分、カノンは重い口を開く。


「……私は、モンスターと会話ができないの」

「……会話ができない、か。一つ質問いいか?」

「……ええ」

「ならあの黒い犬とはどうやって契約したんだ?」

「……私が12歳の時にベルが他のモンスターに襲われているところを助けたの。そしたらなんだか懐いちゃって。何故かその後話し合いも無く契約できちゃったの」

「……本当は会話して契約内容を決める必要は無く、ただ時の運で契約が左右されるってことではないのか?」

「ええ。他の魔族は皆モンスターと話して契約内容を決めて契約している、って言ってたわ」

「そのベル以外のモンスターで試してみたことは?」

「ええ。もしかしたらと思って一番弱いスライムにも試してみたし私がよく狩っていたリザードマンなんかも試した。私が住んでいたところの近辺にいるモンスターは大抵試した。……結果は今の通りよ」

「そのベルと同じ種族の奴は?」

「ベルは珍しい種のモンスターで探しても中々見つかるようなものじゃないわ。私が助けたのも偶然だったし」


うーむ、対照実験はできそうにない、か。

だがこれで何となくだがわかってきた。


カノンの言う通り基本は契約内容を話し合って決めないと契約に至れないんだろう。

スライムでさえ無理だったんだから強さは恐らく関係ない。

ベルと契約できたのは『助けた』ってことが何かしら契約内容を定めることの代わりを果たしたんだろう。それが信頼関係なのか恩義なのかはわからんが、それに近しいものが代替となったのは恐らく間違いない。


しかし闇魔法でもそういった決まり事がついて回るんだな。

闇魔法だからって何でもアリってわけじゃないんだ。


闇魔法と言えば『影』のやつは何か関係あんのかな?


「……なあカノン、あの影を使った技は闇魔法なのか?」

「そうよ、普通上級魔族は多くの配下を従えながら戦うんだけど、私はこの通りベル以外召喚できないからこの影を使って戦う以外戦闘方法が無かったの。だから練習に練習を重ね経験に経験を積んだらこれだけ詠唱無しで使えるようになったの」


ふーむ、影の無詠唱はそういうことだったのか。

……召喚とはあんまり関係無さそうだな。


「そうか。でもすごいじゃないか。無詠唱ってのは魔族の中でもあんまりいないんだろう?」

「……この力があっても魔族のなかじゃあ私はただの厄介者だったわ。上級魔族のくせに契約も碌にできない。私はそれが理由で人間との戦闘中に囮にされて捕まり奴隷になったの」


うっわー、しまった、地雷踏んじゃった!?

くそっ、これじゃあ何を話せばいいかわからんじゃないか!

何なの、俺の奴隷になる子は皆壮絶な過去を持ってるのが当たり前なの!?

でも聴かないと完全に解決してやることはできんだろうし。

シアやエフィーに任せるわけにもいかん。

恨まれるのは俺でいい。優しくしてやるのは二人に任せて俺は心を鬼にしてでも情報を引き出そう。


後はそうだなぁ……


「カノン、ベルを召喚しているのも契約したのも闇魔法で代替してるんだよな?」

「代替?かどうかは知らないけど確かに契約や召喚は闇魔法で行ってるわよ」


ん?代替しているというわけではないのか?


「じゃあ召喚士の召喚と自分たちの召喚の何が違うかって知ってるか?」

「えっ、何か違うの?ずっと同じものだと思ってたけど」


マジか!?知らないのか!?俺も知らんが。

うー、違いを聴いて俺でも召喚ができないか試したかったんだが。


となると違いについては俺達自身で考察して結論に至らなければならんのか。



召喚士と魔族の召喚の違い……


カノンには比較できるモンスターが1体しかいないってのが厳しいところだ。

こんなんで答え出んのかな?



……爺さんは確かかなりの種類のモンスターを使っていた。

最後に出てきたオークを除いて恐らく全部爺さん自身で契約したんだろう。

あれ?爺さんってモンスターとコミュニケーションとれたの?

契約した後ならともかく契約する前はコミュニケーションとれないとまず契約すらできん。



「エフィー、召喚士がモンスターとコミュニケーションを取るのってどうやるんだ?最初から会話できたわけじゃあないよな?」

「そうですね、私の記憶によれば召喚士になって数か月修行を積めばいつの間にかコミュニケーションが取れていたという感じだったはずです。稀に召喚士になった最初から話せるという例もあるのだとか」

「……そうか、ありがとう」

「いえ」


ふーむ、修行を積んで話せるようになるもんか?

いつの間にか、か。


爺さんはどうして最後のオークは自分で契約せずに買ったんだろう?

確かに召喚自体は爺さんが行ったがあの無詠唱は爺さん自身のものじゃない。

オークを買った時の付随か何かは知らんが今はそこは問題じゃない。

どうして高い金払ってまでモンスターを買ったんだ?

オークの無詠唱召喚と普通よりも強いオーク、ということならまだわからなくもないが自分で契約できるんならそっちの方が圧倒的に安上がりだし数もそろえれる。

盗賊なんてするんだから金に余裕があったわけではないはず。



……いや、ちょっと待てよ?

逆に考えてみろ、もし爺さんが「契約せずにわざわざ買った」のではなく「契約できないから買うしかなかった」のだとしたら?


そしてその契約できない理由がカノンと同じなら!?

……後もう一つ、確認しないと。


「カノン、ベルは元々モンスターでは何の種類にあたる?」

「ベルは『ケルベロス』の下位種よ。今は私のせいでレベルが低いから小さいけれど強くなって上位になればもっと大きくなるもの」


とするともう一つ……


「じゃあカノンが契約しようとした他のモンスターの中にゾンビとかベルみたいな黒とか闇を連想できるモンスターはいたか?」

「……いいえ、私が試したのは森の中や海の近くに生息するモンスターだけよ」

「……わかった。ありがとう」


……今、俺の中で一つの有力な仮説が立った。


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